日々雑感

心に浮かんだこと何でも書いていく。

ご同輩5-50

2018年05月19日 | Weblog
     ご同輩

鏡を見ては、まるで敵討ちでもするかのような憎しみを込めて、一本、また一本と抜いていた白髪も、こう多くなると手の施しようもなく、後は白髪染めを使うことしか方法がないようだ。
暦年齢からすると、人生の折り返し地点を少し過ぎたくらいだが、白髪の数に反して僕は自分の人生にたいして、まだ充実感を味わっていない。
 天下取りのような、だいそれた野望など持ち合わせていないのだが、名もなき庶民の身にも、それなりの夢というものがある。毎日それを追いかけながら、齢を重ね て行くのが、大半の人間の実相というものであろう。
僕もささやかな夢を追い求めつつ、今日まで生きてきた。心の渇きは満たされないままに夜を迎え、朝に希望をつないで、日を送っている。
四十代というと、社会的にも、家庭的にも責任が重くのしかかる世代である。会社ではいやが応でも、責任ある立場に立たされ、家に帰るとローンの支払いやら、子供の教育やら、早いところでは、娘の結婚問題にも神経を使わなければならない。重い責任が二重にも三重にも、のしかかってきて、考えようによっては、大変な世代である。
これら物心両面の重責に耐え兼ねて、時々この世代の人達が蒸発する事件を新聞紙上で見かけるが、身につまされる思いがする。
しかし我々40代の誰もが背負っているこの宿命みたいなものを、投げ出す訳にはいかないから、つらいけれども、歯を食いしばり、明日に向かって頑張っているのである。

俳優の柳生博氏は僕と同い年であ・ R鬘近ごろ彼が新聞紙上で、ある眼鏡会社の宣伝をしているのを見つけた。腰の辺りまで水につかり、魚を釣っている彼の写真が大きく載っていた。よく見ると彼も白髪交じりである。我々みな同じなんだなーと僕は一人で苦笑した。
恐らく彼も仕事上の、あるいは家庭上の責任の重圧にあえぎながら毎日頑張っているのに違いないと思うと、遠い存在であった彼に、急に親しみを覚えるようになった。
新聞紙上の彼は我々同年配の世代に向かって“御同輩"と呼びかけているが、この御同輩と言う言葉の響きがいやに耳に付いて頭から離れなかった。御同輩か。眼鏡も、白髪もか。
フトンの上に寝っ転がって、この新聞の中の彼を見ていたら、ある詞が思い浮かんで来た。それは彼を反射鏡にして映した僕の心境でもあった。
        
ご同輩
          

(一)
長い時の流れの中にいて、いつの間にか白髪交じり
果てない夢を追い続け 幾春秋を 当てなくさまよう
・だけど、ご同輩 今こそ人生の 一番華やかな 潤いの時
地上に 花あり 天上に星あり
           (二)
いつの日か 大空を駆け巡る わずかな望みを 追い求め
昨日の憂いを 心に残し 今日も見果てぬ 夢を追う
だけどご同輩 今こそ人生の一番すばらしい、潤いの時
あせるな、あわてるな、道は まだはるか
     (三)
流れ去り行く 無言の時 静かに響く 鐘の音
短い年月、果てない悩み 昨日も 今日も また明日も
だけど ご同輩 今こそ人生の 一番楽しい 潤いの時
外には 友あり 内には 女房あり。

もともと僕の心情を詞にしたものだから、これに曲をつけることはたやすいことである。
 我々世代に向けての応援歌を作るつもりで作曲してみた。
詞の内容からすると、当然我々男性、40代の世代に共感を得ると思いきや、この作品はもっと若い世代にも共感を呼ぶら ネしい。特に三十代後半のミセスに受けたのには驚いた。きっとそろそろ倦怠期を迎えつつある奥さんがたの、ハートをゆさぶるような甘い声の歌い手がこれを歌っているから、うけているのであって、作品の内容からすると詞も、曲も若奥さんに受ける要素は何もないように思う。
 作曲するに当たってはいくつか注意したことはあった。
四十男の人生の悲哀を前半で歌い上げ、ご同輩、という行(くだり)から短調を長調に転調して、曲想を明るくして希望の感じを出してみた。
ごく最近の事であるが、ある長寿者に
「あなたは自分の人生のなかで、何歳くらいの時が、最も充実して楽しかったか」 というアンケートの集計をしたら、四十代から五十代も最もすばらしい、という答えが圧倒的に多かったと新聞は報じている。


 人生の甘いも酸っぱいも、解りかけてくるのは、やはり四、五十年生きて ネみて、というところなんだろう。実態としては存在しても、表面に浮かんで来ない、人生の本質的な部分まで見えてくるのは、人の親になって少なくとも、20年はかかるというのであろうか。苦も多いが、今まで見えなかったものが見え出すということでは、確かに人生においては一番すばらしい時であり、かつ一番潤いのある時節なんだ。
  見果てない夢を追い求め、幾春秋を当てなくさまよい、いつの日が大空を駆け巡ろう。
悩みは果てなく尽きぬとも、ご同輩よ、地上には花が、そして天上には星があるではないか。 酒酌み交わし人生を語れる友もいるし、家では女房と子供があなたをの帰りを待っているではないか。
さあ、元気を出して、声高らかに、明日に向かって突っ走ろう。
きっとお主の人生が琥珀色に輝くときがくることを信じて。
 また明日も頑張ろうじゃないか。 御同輩。