A Rider's Viewpoint

とあるライダーのものの見方

オートバイの魅力を語る

2006-10-26 22:09:44 | 所感
 オートバイの魅力を語ること。それは僕にとって尽きないテーマだ。いつもいつもオートバイのことを考える。
 何で僕はこいつに惹かれるのだろう、と。

 古来オートバイはよく馬にたとえられてきた。でもそれは本質的に違うものではないかと僕は思う。
 なぜなら馬は自立した一つの生き物であり、乗り手の有無とは関係なしに存在する。
 だまっていても立っているし一人で(一頭で)勝手にどこかに行くこともできる。
 しかし、オートバイは違う。そもそも生き物ではないし(←これを言っては身も蓋もないが)、自立はしない。(今は本質的なことを話している。スタンドという補助具には言及しない)
 また、これがもし四輪車ならば、アクセルが戻らない仕組みを施しハンドルさえ固定すれば、乗り手がいなくとも走り続けることは可能だ。壁にぶつかったり、ギャップに落ち込んだりすることさえなければ、いつまでも走り続けることは可能かもしれない。
 だが、オートバイは同じような仕組みを施したにしても走り続けることはできない。必ずバランスを崩して倒れてしまうことだろう。このことは自転車に乗った経験があれば、誰でも容易に想像がつくものと思う。

 ここにオートバイの魅力のひとつがある。

 オートバイとライダーは相互補完的、かつ必要不可欠な関係だ。
 ライダーはオートバイに乗ることによって無意識のうちにバランスをとり倒れることを防ぐ。言い換えればライダーは、オートバイという機械に「いつまでも倒れない」という性能を加える。
 オートバイが人間に与えるもの、それは人力では成し遂げることはできないスピードと持続性だ。
「もっと速く、もっと遠くへ」
 ライダーの望むままその力は発揮される。オートバイとライダー、このどちらが欠けても長時間走り続けることはできない。
 このかけがえのない一体感は紛れもないオートバイの魅力のひとつといえる。

 次の魅力は、やはり「危険である」ということかもしれない。
 端的に言ってオートバイは「危険」であろう。
 (僕の場合)1300ccのエンジンを持つおよそ280kgの金属と合成樹脂の固まりは、人間も合わせて350kg近くにもなる質量を、時速150km以上のスピードで高速移動させるエネルギーを持つ。

 しかも前述のようにオートバイは何もしなければ倒れてしまうようなしろものだ。ライダーが操作するとはいえ、ほんの少しのアクシデントで転倒事故が起こる可能性は否定できない。
 ヘルメットやグローブ、ブーツやジャケットで装備を固めたにせよ、その「ほんの少しのアクシデント」で自らの生命が危険にさらされることをライダーは知っている。
 その危険と隣り合わせの緊張感。これこそが生きているという充実感と、オートバイを操っているという満足感をライダーに与えるのだ。
 
 精神が高揚しているとき、時間が遅く進むような感じがすることはないだろうか?
 エンジンの力を振り絞り思い切り加速をしているとき、高速で移動しながら迫り来る乗用車を交わし左右に進路変更をするとき、僕はときおり時間が遅く進んでいるような気がすることがある。

 色彩の感覚が鈍り風景が色あせ視界も狭まる。エンジン音と風切り音以外の音が聞こえにくくなり、逆に体内の心臓の鼓動や唾を飲み込む音が聞こえる。どこかで聴いたようなフレーズを鼻歌で歌いながら、かつそのフレーズは知らぬ間にリフレインしている。

 目の前の速度計と回転計。道路の曲折と勾配の具合。路面のコンディションと前後左右に迫りくる車。それらからもたらされる情報を瞬時に、あるいは本能的に取捨選択して、スロットルを開け閉めしたり、ギアを上下したり、ブレーキをかけたり弛めたりしている。
 それはまるで音楽を聴きながら体が動くような、映画を見ながらつい手を握りしめるような、スポーツような、夢の中のような、陶酔のような……。

 オートバイ。その形、本質、走ることへの渇望、危険な匂い、体が置いていかれそうな加速感。
 五感をフルに使って走っているその狭まった視界。

 走り抜けた先にある新しい土地の匂い~潮の香りだったり、森の香りだったり、埃っぽい匂いだったり、雨の前兆の飽和する直前の水の匂いだったり。

 エンジンの鼓動とハンドルの振動として伝わってくる路面の状況、吹き抜ける風の熱さや冷たさや痛さ。
 引き剥がそうとする風に抵抗してオートバイを支える脚、膝、腰。そして手、腕、首。
 エンジンを止めた直後の静寂間、ヘルメットを脱いだ瞬間の空気の匂い、旅先で手を、のどを潤す水の冷たさと旨さ。

 そのすべてが、僕にとって興奮の瞬間であり、また走り出したくなる衝動の根元であったり、かけがえのない魅力であったりする。

 この魅力を知ってしまった今、もう知らなかった昔には戻れない。
 これからも続く、この目の前の長い道を、こいつと一緒にいつまでも走り続けて行きたいと思っている。