カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カケコミ ウッタエ

2020-12-21 | ダザイ オサム
 カケコミ ウッタエ

 ダザイ オサム

 もうしあげます。 もうしあげます。 ダンナサマ。 あの ヒト は、 ひどい。 ひどい。 はい。 いや な ヤツ です。 わるい ヒト です。 ああ。 ガマン ならない。 いかして おけねえ。
 はい、 はい。 おちついて もうしあげます。 あの ヒト を、 いかして おいて は なりません。 ヨノナカ の カタキ です。 はい、 なにもかも、 すっかり、 ゼンブ、 もうしあげます。 ワタシ は、 あの ヒト の イドコロ を しって います。 すぐに ゴアンナイ もうします。 ずたずた に きりさいなんで、 ころして ください。 あの ヒト は、 ワタシ の シ です。 シュ です。 けれども ワタシ と おなじ トシ です。 34 で あります。 ワタシ は、 あの ヒト より たった フタツキ おそく うまれた だけ なの です。 たいした チガイ が ない はず だ。 ヒト と ヒト との アイダ に、 そんな に ひどい サベツ は ない はず だ。 それなのに ワタシ は キョウ まで あの ヒト に、 どれほど いじわるく こきつかわれて きた こと か。 どんな に チョウロウ されて きた こと か。 ああ、 もう、 いや だ。 たえられる ところ まで は、 たえて きた の だ。 おこる とき に おこらなければ、 ニンゲン の カイ が ありません。 ワタシ は イマ まで あの ヒト を、 どんな に こっそり かばって あげた か。 ダレ も、 ゴゾンジ ない の です。 あの ヒト ゴジシン だって、 それ に キ が ついて いない の だ。 いや、 あの ヒト は しって いる の だ。 ちゃんと しって います。 しって いる から こそ、 なおさら あの ヒト は ワタシ を いじわるく ケイベツ する の だ。 あの ヒト は ゴウマン だ。 ワタシ から おおきに セワ を うけて いる ので、 それ が ゴジシン に くやしい の だ。 あの ヒト は、 アホウ な くらい に ウヌボレヤ だ。 ワタシ など から セワ を うけて いる、 と いう こと を、 ナニ か ゴジシン の、 ひどい ヒケメ で でも ある か の よう に おもいこんで いなさる の です。 あの ヒト は、 なんでも ゴジシン で できる か の よう に、 ヒト から みられたくて たまらない の だ。 バカ な ハナシ だ。 ヨノナカ は そんな もの じゃ ない ん だ。 コノヨ に くらして いく から には、 どうしても ダレ か に、 ぺこぺこ アタマ を さげなければ いけない の だし、 そうして ホイッポ、 クロウ して ヒト を おさえて ゆく より ホカ に シヨウ が ない の だ。 あの ヒト に いったい、 ナニ が できましょう。 なんにも でき や しない の です。 ワタシ から みれば アオニサイ だ。 ワタシ が もし おらなかったら あの ヒト は、 もう、 とうの ムカシ、 あの ムノウ で トンマ の デシ たち と、 どこ か の ノハラ で ノタレジニ して いた に ちがいない。 「キツネ には アナ あり、 トリ には ネグラ、 されども ヒト の コ には まくらする ところ なし」 それ、 それ、 それ だ。 ちゃんと ハクジョウ して いやがる の だ。 ペテロ に ナニ が できます か。 ヤコブ、 ヨハネ、 アンデレ、 トマス、 コケ の アツマリ、 ぞろぞろ あの ヒト に ついて あるいて、 セスジ が さむく なる よう な、 あまったるい オセジ を もうし、 テンゴク だ なんて ばかげた こと を ムチュウ で しんじて ネッキョウ し、 その テンゴク が ちかづいた なら、 アイツラ ミンナ ウダイジン、 サダイジン に でも なる つもり なの か、 バカ な ヤツラ だ。 その ヒ の パン にも こまって いて、 ワタシ が ヤリクリ して あげない こと には、 ミンナ ウエジニ して しまう だけ じゃ ない の か。 ワタシ は あの ヒト に セッキョウ させ、 グンシュウ から こっそり サイセン を まきあげ、 また、 ムラ の モノモチ から クモツ を とりたて、 シュクシャ の セワ から ニチジョウ イショク の コウキュウ まで、 ハン を いとわず、 して あげて いた のに、 あの ヒト は もとより デシ の バカ ども まで、 ワタシ に ヒトコト の オレイ も いわない。 オレイ を いわぬ どころ か、 あの ヒト は、 ワタシ の こんな かくれた ヒビ の クロウ をも しらぬ フリ して、 いつでも タイヘン な ゼイタク を いい、 イツツ の パン と サカナ が フタツ ある きり の とき で さえ、 モクゼン の ダイグンシュウ ミナ に タベモノ を あたえよ、 など と ムリ ナンダイ を いいつけなさって、 ワタシ は カゲ で じつに くるしい ヤリクリ を して、 どうやら、 その めいじられた クイモノ を、 まあ、 かいととのえる こと が できる の です。 いわば、 ワタシ は あの ヒト の キセキ の テツダイ を、 あやうい テジナ の ジョシュ を、 これまで イクド と なく つとめて きた の だ。 ワタシ は こう みえて も、 けっして リンショク の オトコ じゃ ない。 それ どころ か ワタシ は、 よっぽど たかい シュミカ なの です。 ワタシ は あの ヒト を、 うつくしい ヒト だ と おもって いる。 ワタシ から みれば、 コドモ の よう に ヨク が なく、 ワタシ が ヒビ の パン を える ため に、 オカネ を せっせと ためたって も、 すぐに それ を 1 リン のこさず、 ムダ な こと に つかわせて しまって。 けれども ワタシ は、 それ を ウラミ に おもいません。 あの ヒト は うつくしい ヒト なの だ。 ワタシ は、 もともと まずしい ショウニン では あります が、 それでも セイシンカ と いう もの を リカイ して いる と おもって います。 だから、 あの ヒト が、 ワタシ の シンク して ためて おいた リュウリュウ の コガネ を、 どんな に ばからしく ムダヅカイ して も、 ワタシ は、 なんとも おもいません。 おもいません けれども、 それならば、 たまに は ワタシ にも、 やさしい コトバ の ヒトツ ぐらい は かけて くれて も よさそう なのに、 あの ヒト は、 いつでも ワタシ に いじわるく しむける の です。 イチド、 あの ヒト が、 ハル の ウミベ を ぶらぶら あるきながら、 ふと、 ワタシ の ナ を よび、 「オマエ にも、 オセワ に なる ね。 オマエ の サビシサ は、 わかって いる。 けれども、 そんな に いつも フキゲン な カオ を して いて は、 いけない。 さびしい とき に、 さびしそう な オモモチ を する の は、 それ は ギゼンシャ の する こと なの だ。 サビシサ を ヒト に わかって もらおう と して、 ことさら に カオイロ を かえて みせて いる だけ なの だ。 まことに カミ を しんじて いる ならば、 オマエ は、 さびしい とき でも そしらぬ フリ して カオ を きれい に あらい、 アタマ に アブラ を ぬり、 ほほえんで いなさる が よい。 わからない かね。 サビシサ を、 ヒト に わかって もらわなくて も、 どこ か メ に みえない ところ に いる オマエ の マコト の チチ だけ が、 わかって いて くださった なら、 それ で よい では ない か。 そう では ない かね。 サビシサ は、 ダレ に だって ある の だよ」 そう おっしゃって くれて、 ワタシ は それ を きいて なぜ だ か コエ だして なきたく なり、 いいえ、 ワタシ は テン の チチ に わかって いただかなくて も、 また セケン の モノ に しられなくて も、 ただ、 アナタ オヒトリ さえ、 おわかり に なって いて くださったら、 それ で もう、 よい の です。 ワタシ は アナタ を あいして います。 ホカ の デシ たち が、 どんな に ふかく アナタ を あいして いたって、 それ とは クラベモノ に ならない ほど に あいして います。 ダレ より も あいして います。 ペテロ や ヤコブ たち は、 ただ、 アナタ に ついて あるいて、 ナニ か いい こと も ある か と、 それ ばかり を かんがえて いる の です。 けれども、 ワタシ だけ は しって います。 アナタ に ついて あるいたって、 なんの とくする ところ も ない と いう こと を しって います。 それ で いながら、 ワタシ は アナタ から はなれる こと が できません。 どうした の でしょう。 アナタ が コノヨ に いなく なったら、 ワタシ も すぐに しにます。 いきて いる こと が できません。 ワタシ には、 いつでも ヒトリ で こっそり かんがえて いる こと が ある ん です。 それ は アナタ が、 くだらない デシ たち ゼンブ から はなれて、 また テン の チチ の オオシエ と やら を とかれる こと も およし に なり、 つつましい タミ の ヒトリ と して、 オハハ の マリヤ サマ と、 ワタシ と、 それ だけ で しずか な イッショウ を、 ながく くらして いく こと で あります。 ワタシ の ムラ には、 まだ ワタシ の ちいさい イエ が のこって あります。 としおいた チチ も ハハ も おります。 ずいぶん ひろい モモバタケ も あります。 ハル、 イマゴロ は、 モモ の ハナ が さいて みごと で あります。 イッショウ、 アンラク に おくらし できます。 ワタシ が いつでも オソバ に ついて、 ゴホウコウ もうしあげたく おもいます。 よい オクサマ を おもらい なさいまし。 そう ワタシ が いったら、 あの ヒト は、 うすく おわらい に なり、 「ペテロ や シモン は スナドリ だ。 うつくしい モモ の ハタケ も ない。 ヤコブ も ヨハネ も セキヒン の スナドリ だ。 あの ヒトタチ には、 そんな、 イッショウ を アンラク に くらせる よう な トチ が、 どこ にも ない の だ」 と ひくく ヒトリゴト の よう に つぶやいて、 また ウミベ を しずか に あるきつづけた の でした が、 アト にも サキ にも、 あの ヒト と、 しんみり おはなし できた の は、 その とき イチド だけ で、 アト は、 けっして ワタシ に うちとけて くださった こと が なかった。 ワタシ は あの ヒト を あいして いる。 あの ヒト が しねば、 ワタシ も イッショ に しぬ の だ。 あの ヒト は、 ダレ の もの でも ない。 ワタシ の もの だ。 あの ヒト を タニン に てわたす くらい なら、 てわたす マエ に、 ワタシ は あの ヒト を ころして あげる。 チチ を すて、 ハハ を すて、 うまれた トチ を すてて、 ワタシ は キョウ まで、 あの ヒト に ついて あるいて きた の だ。 ワタシ は テンゴク を しんじない。 カミ も しんじない。 あの ヒト の フッカツ も しんじない。 なんで あの ヒト が、 イスラエル の オウ な もの か。 バカ な デシ ども は、 あの ヒト を カミ の ミコ だ と しんじて いて、 そうして カミ の クニ の フクイン とか いう もの を、 あの ヒト から つたえきいて は、 あさましく も、 キンキ ジャクヤク して いる。 いまに がっかり する の が、 ワタシ には わかって います。 オノレ を たこう する モノ は ひくう せられ、 オノレ を ひくう する モノ は たこう せられる と、 あの ヒト は ヤクソク なさった が、 ヨノナカ、 そんな に あまく いって たまる もの か。 あの ヒト は ウソツキ だ。 いう こと いう こと、 イチ から ジュウ まで デタラメ だ。 ワタシ は てんで しんじて いない。 けれども ワタシ は、 あの ヒト の ウツクシサ だけ は しんじて いる。 あんな うつくしい ヒト は コノヨ に ない。 ワタシ は あの ヒト の ウツクシサ を、 ジュンスイ に あいして いる。 それ だけ だ。 ワタシ は、 なんの ホウシュウ も かんがえて いない。 あの ヒト に ついて あるいて、 やがて テンゴク が ちかづき、 その とき こそ は、 あっぱれ ウダイジン、 サダイジン に なって やろう など と、 そんな さもしい コンジョウ は もって いない。 ワタシ は、 ただ、 あの ヒト から はなれたく ない の だ。 ただ、 あの ヒト の ソバ に いて、 あの ヒト の コエ を きき、 あの ヒト の スガタ を ながめて おれば それ で よい の だ。 そうして、 できれば あの ヒト に セッキョウ など を よして もらい、 ワタシ と たった フタリ きり で イッショウ ながく いきて いて もらいたい の だ。 あああ、 そう なったら! ワタシ は どんな に シアワセ だろう。 ワタシ は イマ の、 この、 ゲンセ の ヨロコビ だけ を しんじる。 ツギ の ヨ の シンパン など、 ワタシ は すこしも おそれて いない。 あの ヒト は、 ワタシ の この ムホウシュウ の、 ジュンスイ の アイジョウ を、 どうして うけとって くださらぬ の か。 ああ、 あの ヒト を ころして ください。 ダンナサマ。 ワタシ は あの ヒト の イドコロ を しって おります。 ゴアンナイ もうしあげます。 あの ヒト は ワタシ を いやしめ、 ゾウオ して おります。 ワタシ は、 きらわれて おります。 ワタシ は あの ヒト や、 デシ たち の パン の オセワ を もうし、 ヒビ の キカツ から すくって あげて いる のに、 どうして ワタシ を、 あんな に いじわるく ケイベツ する の でしょう。 おきき ください。 ムイカ マエ の こと でした。 あの ヒト は ベタニヤ の シモン の イエ で ショクジ を なさって いた とき、 あの ムラ の マルタ め の イモウト の マリヤ が、 ナルド の コウユ を いっぱい みたして ある セッコウ の ツボ を かかえて キョウエン の ヘヤ に こっそり はいって きて、 だしぬけ に、 その アブラ を あの ヒト の アタマ に ざぶと そそいで ミアシ まで ぬらして しまって、 それでも、 その シツレイ を わびる どころ か、 おちついて しゃがみ、 マリヤ ジシン の カミノケ で、 あの ヒト の ぬれた リョウアシ を テイネイ に ぬぐって あげて、 コウユ の ニオイ が ヘヤ に たちこもり、 まことに イヨウ な フウケイ で ありました ので、 ワタシ は、 なんだか むしょうに ハラ が たって きて、 シツレイ な こと を するな! と、 その イモウトムスメ に どなって やりました。 これ、 このよう に オキモノ が ぬれて しまった では ない か、 それに、 こんな コウカ な アブラ を ぶちまけて しまって、 もったいない と おもわない か、 なんと いう オマエ は バカ な ヤツ だ。 これ だけ の アブラ だったら、 300 デナリ も する では ない か、 この アブラ を うって、 300 デナリ もうけて、 その カネ をば ビンボウニン に ほどこして やったら、 どんな に ビンボウニン が よろこぶ か しれない。 ムダ な こと を して は こまる ね、 と ワタシ は、 さんざ しかって やりました。 すると、 あの ヒト は、 ワタシ の ほう を きっと みて、 「この オンナ を しかって は いけない。 この オンナ の ヒト は、 たいへん いい こと を して くれた の だ。 まずしい ヒト に オカネ を ほどこす の は、 オマエタチ には、 これから あとあと、 いくらでも できる こと では ない か。 ワタシ には、 もう ホドコシ が できなく なって いる の だ。 その ワケ は いうまい。 この オンナ の ヒト だけ は しって いる。 この オンナ が ワタシ の カラダ に コウユ を そそいだ の は、 ワタシ の トムライ の ソナエ を して くれた の だ。 オマエタチ も おぼえて おく が よい。 ゼンセカイ、 どこ の トチ でも、 ワタシ の みじかい イッショウ を いいつたえられる ところ には、 かならず、 この オンナ の キョウ の シグサ も キネン と して かたりつたえられる で あろう」 そう いいむすんだ とき に、 あの ヒト の あおじろい ホオ は いくぶん、 ジョウキ して あかく なって いました。 ワタシ は、 あの ヒト の コトバ を しんじません。 レイ に よって おおげさ な オシバイ で ある と おもい、 ヘイキ で ききながす こと が できました が、 それ より も、 その とき、 あの ヒト の コエ に、 また、 あの ヒト の ヒトミ の イロ に、 イマ まで かつて なかった ほど の イヨウ な もの が かんじられ、 ワタシ は シュンジ トマドイ して、 さらに あの ヒト の かすか に あからんだ ホオ と、 うすく ナミダ に うるんで いる ヒトミ と を、 つくづく みなおし、 はっと おもいあたる こと が ありました。 ああ、 いまわしい、 クチ に だす さえ ムネン シゴク の こと で あります。 あの ヒト は、 こんな まずしい ヒャクショウ オンナ に コイ、 では ない が、 まさか、 そんな こと は ゼッタイ に ない の です が、 でも、 あやうい、 それ に にた あやしい カンジョウ を いだいた の では ない か? あの ヒト とも あろう モノ が。 あんな ムチ な ヒャクショウ オンナ フゼイ に、 そよ と でも トクシュ な アイ を かんじた と あれば、 それ は、 なんと いう シッタイ。 トリカエシ の できぬ ダイシュウブン。 ワタシ は、 ヒト の チジョク と なる よう な カンジョウ を かぎわける の が、 うまれつき たくみ な オトコ で あります。 ジブン でも それ を ゲヒン な キュウカク だ と おもい、 いや で あります が、 ちらと ヒトメ みた だけ で、 ヒト の ジャクテン を、 あやまたず みとどけて しまう エイビン の サイノウ を もって おります。 あの ヒト が、 たとえ ビジャク に でも、 あの ムガク の ヒャクショウ オンナ に、 トクベツ の カンジョウ を うごかした と いう こと は、 やっぱり マチガイ ありません。 ワタシ の メ には クルイ が ない はず だ。 たしか に そう だ。 ああ、 ガマン ならない。 カンニン ならない。 ワタシ は、 あの ヒト も、 こんな テイタラク では、 もはや ダメ だ と おもいました。 シュウタイ の キワミ だ と おもいました。 あの ヒト は これまで、 どんな に オンナ に すかれて も、 いつでも うつくしく、 ミズ の よう に しずか で あった。 いささかも とりみだす こと が なかった の だ。 ヤキ が まわった。 ダラシ が ねえ。 あの ヒト だって まだ わかい の だし、 それ は ムリ も ない と いえる かも しれぬ けれど、 そんなら ワタシ だって おなじ トシ だ。 しかも、 あの ヒト より フタツキ おそく うまれて いる の だ。 ワカサ に カワリ は ない はず だ。 それでも ワタシ は たえて いる。 あの ヒト ヒトリ に ココロ を ささげ、 これまで どんな オンナ にも ココロ を うごかした こと は ない の だ。 マルタ の イモウト の マリヤ は、 アネ の マルタ が ホネグミ ガンジョウ で ウシ の よう に おおきく、 キショウ も あらく、 どたばた たちはたらく の だけ が トリエ で、 なんの ミドコロ も ない ヒャクショウ オンナ で あります が、 あれ は ちがって ホネ も ほそく、 ヒフ は すきとおる ほど の アオジロサ で、 テアシ も ふっくら して ちいさく、 コスイ の よう に ふかく すんだ おおきい メ が、 いつも ゆめみる よう に、 うっとり トオク を ながめて いて、 あの ムラ では ミナ、 フシギ-がって いる ほど の けだかい ムスメ で ありました。 ワタシ だって おもって いた の だ。 マチ へ でた とき、 ナニ か シラギヌ でも、 こっそり かって きて やろう と おもって いた の だ。 ああ、 もう、 わからなく なりました。 ワタシ は ナニ を いって いる の だ。 そう だ、 ワタシ は くやしい の です。 なんの ワケ だ か、 わからない。 ジダンダ ふむ ほど ムネン なの です。 あの ヒト が わかい なら、 ワタシ だって わかい。 ワタシ は サイノウ ある、 イエ も ハタケ も ある リッパ な セイネン です。 それでも ワタシ は、 あの ヒト の ため に ワタシ の トッケン ゼンブ を すてて きた の です。 だまされた。 あの ヒト は、 ウソツキ だ。 ダンナサマ。 あの ヒト は、 ワタシ の オンナ を とった の だ。 いや、 ちがった! あの オンナ が、 ワタシ から あの ヒト を うばった の だ。 ああ、 それ も ちがう。 ワタシ の いう こと は、 みんな デタラメ だ。 ヒトコト も しんじない で ください。 わからなく なりました。 ごめん くださいまし。 ついつい ネ も ハ も ない こと を もうしました。 そんな あさはか な ジジツ なぞ、 ミジン も ない の です。 みにくい こと を くちばしりました。 だけれども、 ワタシ は、 くやしい の です。 ムネ を かきむしりたい ほど、 くやしかった の です。 なんの ワケ だ か、 わかりませぬ。 ああ、 ジェラシー と いう の は、 なんて やりきれない アクトク だ。 ワタシ が こんな に、 イノチ を すてる ほど の オモイ で あの ヒト を したい、 キョウ まで つきしたがって きた のに、 ワタシ には ヒトツ の やさしい コトバ も くださらず、 かえって あんな いやしい ヒャクショウ オンナ の ミノウエ を、 オホホ を そめて まで かばって おやり なさった。 ああ、 やっぱり、 あの ヒト は だらしない。 ヤキ が まわった。 もう、 あの ヒト には ミコミ が ない。 ボンプ だ。 タダ の ヒト だ。 しんだって おしく は ない。 そう おもったら ワタシ は、 ふいと おそろしい こと を かんがえる よう に なりました。 アクマ に みこまれた の かも しれませぬ。 その とき イライ、 あの ヒト を、 いっそ ワタシ の テ で ころして あげよう と おもいました。 いずれ は ころされる オカタ に ちがいない。 また あの ヒト だって、 ムリ に ジブン を ころさせる よう に しむけて いる みたい な ヨウス が、 ちらちら みえる。 ワタシ の テ で ころして あげる。 タニン の テ で ころさせたく は ない。 あの ヒト を ころして ワタシ も しぬ。 ダンナサマ、 ないたり して おはずかしゅう おもいます。 はい、 もう なきませぬ。 はい、 はい。 おちついて もうしあげます。 その あくる ヒ、 ワタシタチ は いよいよ アコガレ の エルサレム に むかい、 シュッパツ いたしました。 ダイグンシュウ、 オイ も ワカキ も、 あの ヒト の アト に つきしたがい、 やがて、 エルサレム の ミヤ が マヂカ に なった コロ、 あの ヒト は、 1 ピキ の おいぼれた ロバ を ミチバタ で みつけて、 ビショウ して それ に うちのり、 これ こそ は、 「シオン の ムスメ よ、 おそるな、 みよ、 ナンジ の オウ は ロバ の コ に のりて きたりたもう」 と ヨゲン されて ある とおり の カタチ なの だ と、 デシ たち に はれがましい カオ を して おしえました が、 ワタシ ヒトリ は、 なんだか うかぬ キモチ で ありました。 なんと いう、 あわれ な スガタ で あった でしょう。 まち に まった スギコシ の マツリ、 エルサレム-キュウ に のりこむ、 これ が、 あの ダビデ の ミコ の スガタ で あった の か。 あの ヒト の イッショウ の ネンガン と した ハレ の スガタ は、 この おいぼれた ロバ に またがり、 とぼとぼ すすむ あわれ な ケイカン で あった の か。 ワタシ には、 もはや、 レンビン イガイ の もの は かんじられなく なりました。 じつに ヒサン な、 おろかしい チャバン キョウゲン を みて いる よう な キ が して、 ああ、 もう、 この ヒト も オチメ だ。 1 ニチ いきのびれば、 いきのびた だけ、 あさはか な シュウタイ を さらす だけ だ。 ハナ は、 しぼまぬ うち こそ、 ハナ で ある。 うつくしい アイダ に、 きらなければ ならぬ。 あの ヒト を、 いちばん あいして いる の は ワタシ だ。 どのよう に ヒト から にくまれて も いい。 1 ニチ も はやく あの ヒト を ころして あげなければ ならぬ と、 ワタシ は、 いよいよ この つらい ケッシン を かためる だけ で ありました。 グンシュウ は、 こくいっこく と その カズ を まし、 あの ヒト の とおる ミチミチ に、 アカ、 アオ、 キ、 イロトリドリ の カレラ の キモノ を ほうりなげ、 あるいは シュロ の エダ を きって、 その いく ミチ に しきつめて あげて、 カンコ に どよめきむかえる の でした。 かつ マエ に ゆき、 アト に したがい、 ミギ から、 ヒダリ から、 まつわりつく よう に して ハテ は オオナミ の ごとく、 ロバ と あの ヒト を ゆさぶり、 ゆさぶり、 「ダビデ の コ に ホサナ、 ほむ べき かな、 シュ の ミナ に よりて きたる モノ、 いと たかき ところ にて、 ホサナ」 と ネッキョウ して クチグチ に うたう の でした。 ペテロ や ヨハネ や バルトロマイ、 その ホカ ゼンブ の デシ ども は、 バカ な ヤツ、 すでに テンゴク を メノマエ に みた か の よう に、 まるで ガイセン の ショウグン に つきしたがって いる か の よう に、 ウチョウテン の カンキ で たがいに だきあい、 ナミダ に ぬれた セップン を かわし、 イッテツモノ の ペテロ など、 ヨハネ を だきかかえた まま、 わあわあ オオゴエ で ウレシナキ に なきくずれて いました。 その アリサマ を みて いる うち に、 さすが に ワタシ も、 この デシ たち と イッショ に カンナン を おかして フキョウ に あるいて きた、 その ニンク コンキュウ の ヒビ を おもいだし、 フカク にも、 メガシラ が あつく なって きました。 かくして あの ヒト は ミヤ に はいり、 ロバ から おりて、 ナニ おもった か、 ナワ を ひろい これ を ふりまわし、 ミヤ の ケイダイ の、 リョウガエ する モノ の ダイ やら、 ハト うる モノ の コシカケ やら を うちたおし、 また、 ウリモノ に でて いる ウシ、 ヒツジ をも、 その ナワ の ムチ で もって ゼンブ、 ミヤ から おいだして、 ケイダイ に いる オオゼイ の ショウニン たち に むかい、 「オマエタチ、 ミナ でて うせろ、 ワタシ の チチ の イエ を、 アキナイ の イエ に して は ならぬ」 と かんだかい コエ で どなる の でした。 あの やさしい オカタ が、 こんな ヨッパライ の よう な、 つまらぬ ランボウ を はたらく とは、 どうしても すこし キ が ふれて いる と しか、 ワタシ には おもわれません でした。 ソバ の ヒト も ミナ おどろいて、 これ は どうした こと です か、 と あの ヒト に たずねる と、 あの ヒト の いきせききって こたえる には、 「オマエタチ、 この ミヤ を こわして しまえ、 ワタシ は ミッカ の アイダ に、 また たてなおして あげる から」 と いう こと だった ので、 さすが グチョク の デシ たち も、 あまり に ムテッポウ な その コトバ には、 しんじかねて、 ぽかん と して しまいました。 けれども ワタシ は しって いました。 しょせん は あの ヒト の、 おさない ツヨガリ に ちがいない。 あの ヒト の シンコウ と やら で もって、 バンジ ならざる は なし と いう キガイ の ホド を、 ヒトビト に みせたかった の に ちがいない の です。 それにしても、 ナワ の ムチ を ふりあげて、 ムリョク な ショウニン を おいまわしたり なんか して、 なんて、 まあ、 ケチ な ツヨガリ なん でしょう。 アナタ に できる せいいっぱい の ハンコウ は、 たった それ だけ なの です か、 ハトウリ の コシカケ を けちらす だけ の こと なの です か、 と ワタシ は ビンショウ して おたずね して みたい と さえ おもいました。 もはや この ヒト は ダメ なの です。 やぶれかぶれ なの です。 ジチョウ ジアイ を わすれて しまった。 ジブン の チカラ では、 このうえ もう なにも できぬ と いう こと を コノゴロ そろそろ しりはじめた ヨウス ゆえ、 あまり ボロ の でぬ うち に、 わざと サイシチョウ に とらえられ、 コノヨ から オサラバ したく なって きた の で ありましょう。 ワタシ は、 それ を おもった とき、 はっきり あの ヒト を あきらめる こと が できました。 そうして、 あんな キドリヤ の ボッチャン を、 これまで イチズ に あいして きた ワタシ ジシン の オロカサ をも、 ヨウイ に わらう こと が できました。 やがて あの ヒト は ミヤ に あつまる タイグン の タミ を マエ に して、 これまで のべた コトバ の ウチ で いちばん ひどい、 ブレイ ゴウマン の ボウゲン を、 めちゃくちゃ に、 わめきちらして しまった の です。 さよう、 たしか に、 ヤケクソ です。 ワタシ は その スガタ を うすぎたなく さえ おもいました。 ころされたがって、 うずうず して いやがる。 「ワザワイ なる かな、 ギゼン なる ガクシャ、 パリサイビト よ、 ナンジラ は サカズキ と サラ との ソト を きよく す、 しかれども ウチ は ドンヨク と ホウジュウ と にて みつる なり。 ワザワイ なる かな、 ギゼン なる ガクシャ、 パリサイビト よ、 ナンジラ は しろく ぬりたる ハカ に にたり、 ソト は うつくしく みゆれど も、 ウチ は シニン の ホネ と サマザマ の ケガレ と に みつ。 かく の ごとく ナンジラ も ソト は ただしく みゆれど も、 ウチ は ギゼン と フホウ と にて みつる なり。 ヘビ よ、 マムシ の スエ よ、 ナンジラ いかで、 ゲヘナ の ケイバツ を さけえん や。 ああ エルサレム、 エルサレム、 ヨゲンシャ たち を ころし、 つかわされたる ヒトビト を イシ にて うつ モノ よ、 メンドリ の その ヒナ を ツバサ の シタ に あつむる ごとく、 ワレ ナンジ の コ ら を あつめん と せし こと イクタビ ぞや、 されど、 ナンジラ は このまざりき」 バカ な こと です。 フンパンモノ だ。 クチマネ する の さえ、 いまわしい。 タイヘン な こと を いう ヤツ だ。 あの ヒト は、 くるった の です。 まだ その ホカ に、 キキン が ある の、 ジシン が おこる の、 ホシ は ソラ より おち、 ツキ は ヒカリ を はなたず、 チ に みつ ヒト の シガイ の マワリ に、 それ を ついばむ ワシ が あつまる の、 ヒト は その とき なげき、 ハガミ する こと が あろう だの、 じつに、 とんでもない ボウゲン を クチ から デマカセ に いいはなった の です。 なんと いう シリョ の ない こと を、 いう の でしょう。 オモイアガリ も はなはだしい。 バカ だ。 ミノホド しらぬ。 イイキ な もの だ。 もはや、 あの ヒト の ツミ は、 まぬかれぬ。 かならず ジュウジカ。 それ に きまった。
 サイシチョウ や タミ の チョウロウ たち が、 ダイサイシ カヤパ の ナカニワ に こっそり あつまって、 あの ヒト を ころす こと を ケツギ した とか、 ワタシ は それ を、 キノウ マチ の モノウリ から ききました。 もし グンシュウ の モクゼン で あの ヒト を とらえた ならば、 あるいは グンシュウ が ボウドウ を おこす かも しれない から、 あの ヒト と デシ たち と だけ の いる ところ を みつけて ヤクショ に しらせて くれた モノ には ギン 30 を あたえる と いう こと をも、 ミミ に しました。 もはや ユウヨ の とき では ない。 あの ヒト は、 どうせ しぬ の だ。 ホカ の ヒト の テ で、 シタヤク たち に ひきわたす より は、 ワタシ が、 それ を なそう。 キョウ まで ワタシ の、 あの ヒト に ささげた ヒトスジ なる アイジョウ の、 これ が サイゴ の アイサツ だ。 ワタシ の ギム です。 ワタシ が あの ヒト を うって やる。 つらい タチバ だ。 ダレ が この ワタシ の ひたむき の アイ の コウイ を、 セイトウ に リカイ して くれる こと か。 いや、 ダレ に リカイ されなくて も いい の だ。 ワタシ の アイ は ジュンスイ の アイ だ。 ヒト に リカイ して もらう ため の アイ では ない。 そんな さもしい アイ では ない の だ。 ワタシ は エイエン に、 ヒト の ニクシミ を かう だろう。 けれども、 この ジュンスイ の アイ の ドンヨク の マエ には、 どんな ケイバツ も、 どんな ジゴク の ゴウカ も モンダイ で ない。 ワタシ は ワタシ の イキカタ を いきぬく。 ミブルイ する ほど に かたく ケツイ しました。 ワタシ は、 ひそか に よき オリ を、 うかがって いた の で あります。 いよいよ、 オマツリ の トウジツ に なりました。 ワタシタチ シテイ 13 ニン は オカ の ウエ の ふるい リョウリヤ の、 うすぐらい ニカイ ザシキ を かりて オマツリ の エンカイ を ひらく こと に いたしました。 ミンナ ショクタク に ついて、 いざ オマツリ の ユウゲ を はじめよう と した とき、 あの ヒト は、 つと たちあがり、 だまって ウワギ を ぬいだ ので、 ワタシタチ は いったい ナニ を おはじめ なさる の だろう と フシン に おもって みて いる うち に、 あの ヒト は タク の ウエ の ミズガメ を テ に とり、 その ミズガメ の ミズ を、 ヘヤ の スミ に あった ちいさい タライ に そそぎいれ、 それから ジュンパク の シュキン を ゴジシン の コシ に まとい、 タライ の ミズ で デシ たち の アシ を じゅんじゅん に あらって くださった の で あります。 デシ たち には、 その リユウ が わからず、 ド を うしなって、 うろうろ する ばかり で ありました けれど、 ワタシ には なにやら、 あの ヒト の ひめた オモイ が わかる よう な キモチ で ありました。 あの ヒト は、 さびしい の だ。 キョクド に キ が よわって、 イマ は、 ムチ な ガンメイ の デシ たち に さえ すがりつきたい キモチ に なって いる の に ちがいない。 かわいそう に。 あの ヒト は ジブン の のがれがたい ウンメイ を しって いた の だ。 その アリサマ を みて いる うち に、 ワタシ は、 とつぜん、 キョウリョク な オエツ が ノド に つきあげて くる の を おぼえた。 やにわに あの ヒト を だきしめ、 ともに なきたく おもいました。 おう かわいそう に、 アナタ を つみして なる もの か。 アナタ は、 いつでも やさしかった。 アナタ は、 いつでも ただしかった。 アナタ は、 いつでも まずしい モノ の ミカタ だった。 そうして アナタ は、 いつでも ひかる ばかり に うつくしかった。 アナタ は、 まさしく カミ の ミコ だ。 ワタシ は それ を しって います。 おゆるし ください。 ワタシ は アナタ を うろう と して この 2~3 ニチ、 キカイ を ねらって いた の です。 もう イマ は いや だ。 アナタ を うる なんて、 なんと いう ワタシ は ムホウ な こと を かんがえて いた の でしょう。 ゴアンシン なさいまし。 もう イマ から は、 500 の ヤクニン、 1000 の ヘイタイ が きた とて も、 アナタ の オカラダ に ユビ イッポン ふれさせる こと は ない。 アナタ は、 イマ、 つけねらわれて いる の です。 あぶない。 イマ すぐ、 ここ から にげましょう。 ペテロ も こい、 ヤコブ も こい、 ヨハネ も こい、 ミンナ こい。 ワレラ の やさしい シュ を まもり、 イッショウ ながく くらして いこう、 と ココロ の ソコ から の アイ の コトバ が、 クチ に だして は いえなかった けれど、 ムネ に わきかえって おりました。 キョウ まで かんじた こと の なかった イッシュ スウコウ な レイカン に うたれ、 あつい オワビ の ナミダ が キモチ よく ホオ を つたって ながれて、 やがて あの ヒト は ワタシ の アシ をも しずか に、 テイネイ に あらって くだされ、 コシ に まとって あった シュキン で やわらかく ふいて、 ああ、 その とき の カンショク は。 そう だ、 ワタシ は あの とき、 テンゴク を みた の かも しれない。 ワタシ の ツギ には、 ピリポ の アシ を、 その ツギ には アンデレ の アシ を、 そうして、 ツギ に、 ペテロ の アシ を あらって くださる ジュンバン に なった の です が、 ペテロ は、 あのよう に おろか な ショウジキモノ で あります から、 フシン の キモチ を かくして おく こと が できず、 シュ よ、 アナタ は どうして ワタシ の アシ など おあらい に なる の です。 と たしょう フマンゲ に クチ を とがらして たずねました。 あの ヒト は、 「ああ、 ワタシ の する こと は、 オマエ には、 わかるまい。 アト で、 おもいあたる こと も ある だろう」 と おだやか に いいさとし、 ペテロ の アシモト に しゃがんだ の だ が、 ペテロ は なおも ガンキョウ に それ を こばんで、 いいえ、 いけません。 エイエン に ワタシ の アシ など おあらい に なって は なりませぬ。 もったいない、 と その アシ を ひっこめて いいはりました。 すると、 あの ヒト は すこし コエ を はりあげて、 「ワタシ が もし、 オマエ の アシ を あらわない なら、 オマエ と ワタシ とは、 もう なんの カンケイ も ない こと に なる の だ」 と ずいぶん、 おもいきった つよい こと を いいました ので、 ペテロ は オオアワテ に あわて、 ああ、 ごめんなさい、 それならば、 ワタシ の アシ だけ で なく、 テ も アタマ も おもうぞんぶん に あらって ください、 と ヘイシン テイトウ して たのみいりました ので、 ワタシ は おもわず ふきだして しまい、 ホカ の デシ たち も、 そっと ほほえみ、 なんだか ヘヤ が あかるく なった よう でした。 あの ヒト も すこし わらいながら、 「ペテロ よ、 アシ だけ あらえば、 もう それ で、 オマエ の ゼンシン は きよい の だ、 ああ、 オマエ だけ で なく、 ヤコブ も、 ヨハネ も、 ミンナ ヨゴレ の ない、 きよい カラダ に なった の だ。 けれども」 と いいかけて すっと コシ を のばし、 シュンジ、 クツウ に たえかねる よう な、 とても かなしい メツキ を なされ、 すぐに その メ を ぎゅっと かたく つぶり、 つぶった まま で いいました。 「ミンナ が きよければ いい の だ が」 はっと おもった。 やられた! ワタシ の こと を いって いる の だ。 ワタシ が あの ヒト を うろう と たくらんで いた スンコク イゼン まで の くらい キモチ を みぬいて いた の だ。 けれども、 その とき は、 ちがって いた の だ。 だんぜん、 ワタシ は、 ちがって いた の だ! ワタシ は きよく なって いた の だ。 ワタシ の ココロ は かわって いた の だ。 ああ、 あの ヒト は それ を しらない。 それ を しらない。 ちがう! ちがいます、 と ノド まで でかかった ゼッキョウ を、 ワタシ の よわい ヒクツ な ココロ が、 ツバ を のみこむ よう に、 のみくだして しまった。 いえない。 なにも いえない。 あの ヒト から そう いわれて みれば、 ワタシ は やはり きよく なって いない の かも しれない と きよわく コウテイ する ひがんだ キモチ が アタマ を もたげ、 と みるみる その ヒクツ の ハンセイ が、 みにくく、 くろく ふくれあがり、 ワタシ の ゴゾウ ロップ を かけめぐって、 ギャク に むらむら フンヌ の ネン が ホノオ を あげて フンシュツ した の だ。 ええっ、 ダメ だ。 ワタシ は、 ダメ だ。 あの ヒト に ココロ の ソコ から、 きらわれて いる。 うろう。 うろう。 あの ヒト を、 ころそう。 そうして ワタシ も ともに しぬ の だ、 と マエ から の ケツイ に ふたたび めざめ、 ワタシ は イマ は カンゼン に、 フクシュウ の オニ に なりました。 あの ヒト は、 ワタシ の ナイシン の、 ふたたび ミタビ、 どんでんがえして ヘンカ した ダイドウラン には、 おきづき なさる こと の なかった ヨウス で、 やがて ウワギ を まとい フクソウ を ただし、 ゆったり と セキ に すわり、 じつに あおざめた カオ を して、 「ワタシ が オマエタチ の アシ を あらって やった ワケ を しって いる か。 オマエタチ は ワタシ を シュ と たたえ、 また シ と たたえて いる よう だ が、 それ は マチガイ ない こと だ。 ワタシ は オマエタチ の シュ、 または シ なのに、 それでも なお、 オマエタチ の アシ を あらって やった の だ から、 オマエタチ も これから は たがいに なかよく アシ を あらいあって やる よう に こころがけなければ なるまい。 ワタシ は、 オマエタチ と、 いつまでも イッショ に いる こと が できない かも しれぬ から、 イマ、 この キカイ に、 オマエタチ に モハン を しめして やった の だ。 ワタシ の やった とおり に、 オマエタチ も おこなう よう に こころがけなければ ならぬ。 シ は かならず デシ より すぐれた もの なの だ から、 よく ワタシ の いう こと を きいて わすれぬ よう に なさい」 ひどく ものうそう な クチョウ で いって、 おとなしく ショクジ を はじめ、 ふっと、 「オマエタチ の ウチ の、 ヒトリ が、 ワタシ を うる」 と カオ を ふせ、 うめく よう な、 キョキ なさる よう な くるしげ の コエ で いいだした ので、 デシ たち すべて、 のけぞらん ばかり に おどろき、 イッセイ に セキ を けって たち、 あの ヒト の マワリ に あつまって おのおの、 シュ よ、 ワタシ の こと です か、 シュ よ、 それ は ワタシ の こと です か と、 ののしりさわぎ、 あの ヒト は しぬる ヒト の よう に かすか に クビ を ふり、 「ワタシ が イマ、 その ヒト に ヒトツマミ の パン を あたえます。 その ヒト は、 ずいぶん フシアワセ な オトコ なの です。 ホントウ に、 その ヒト は、 うまれて こなかった ほう が、 よかった」 と イガイ に はっきり した ゴチョウ で いって、 ヒトツマミ の パン を とり ウデ を のばし、 あやまたず ワタシ の クチ に ひたと おしあてました。 ワタシ も、 もう すでに ドキョウ が ついて いた の だ。 はじる より は にくんだ。 あの ヒト の いまさら ながら の イジワルサ を にくんだ。 このよう に デシ たち ミナ の マエ で こうぜん と ワタシ を はずかしめる の が、 あの ヒト の これまで の シキタリ なの だ。 ヒ と ミズ と。 エイエン に とけあう こと の ない シュクメイ が、 ワタシ と アイツ との アイダ に ある の だ。 イヌ か ネコ に あたえる よう に、 ヒトツマミ の パンクズ を ワタシ の クチ に おしいれて、 それ が アイツ の せめても の ハライセ だった の か。 ははん。 バカ な ヤツ だ。 ダンナサマ、 アイツ は ワタシ に、 オマエ の なす こと を すみやか に なせ と いいました。 ワタシ は すぐに リョウテイ から はしりでて、 ユウヤミ の ミチ を ヒタハシリ に はしり、 ただいま ここ に まいりました。 そうして いそぎ、 この とおり うったえもうしあげました。 さあ、 あの ヒト を ばっして ください。 どうとも カッテ に、 ばっして ください。 とらえて、 ボウ で なぐって スッパダカ に して ころす が よい。 もう、 もう ワタシ は ガマン ならない。 あれ は、 いや な ヤツ です。 ひどい ヒト だ。 ワタシ を イマ まで、 あんな に いじめた。 はははは、 チキショウ め。 あの ヒト は イマ、 ケデロン の オガワ の かなた、 ゲッセマネ の ソノ に います。 もうはや、 あの ニカイ ザシキ の ユウゲ も すみ、 デシ たち と ともに ゲッセマネ の ソノ に いき、 イマゴロ は、 きっと テン へ オイノリ を ささげて いる ジコク です。 デシ たち の ホカ には ダレ も おりません。 イマ なら なんなく あの ヒト を とらえる こと が できます。 ああ、 コトリ が ないて、 うるさい。 コンヤ は どうして こんな に ヨドリ の コエ が ミミ に つく の でしょう。 ワタシ が ここ へ かけこむ トチュウ の モリ でも、 コトリ が ぴいちく ないて おりました。 ヨル に さえずる コトリ は、 めずらしい。 ワタシ は コドモ の よう な コウキシン で もって、 その コトリ の ショウタイ を ヒトメ みたい と おもいました。 たちどまって クビ を かしげ、 キギ の コズエ を すかして みました。 ああ、 ワタシ は つまらない こと を いって います。 ごめん ください。 ダンナサマ、 オシタク は できました か。 ああ たのしい。 いい キモチ。 コンヤ は ワタシ に とって も サイゴ の ヨル だ。 ダンナサマ、 ダンナサマ、 コンヤ これから ワタシ と あの ヒト と リッパ に カタ を せっして たちならぶ コウケイ を、 よく みて おいて くださいまし。 ワタシ は コンヤ あの ヒト と、 ちゃんと カタ を ならべて たって みせます。 あの ヒト を おそれる こと は ない ん だ。 ヒゲ する こと は ない ん だ。 ワタシ は あの ヒト と おなじ トシ だ。 おなじ、 すぐれた わかい モノ だ。 ああ、 コトリ の コエ が、 うるさい。 ミミ に ついて うるさい。 どうして、 こんな に コトリ が さわぎまわって いる の だろう。 ぴいちく ぴいちく、 ナニ を さわいで いる の でしょう。 おや、 その オカネ は? ワタシ に くださる の です か、 あの、 ワタシ に、 30 ギン。 なるほど、 はははは。 いや、 おことわり もうしましょう。 なぐられぬ うち に、 その カネ ひっこめたら いい でしょう。 カネ が ほしくて うったえでた の では ない ん だ。 ひっこめろ! いいえ、 ごめんなさい、 いただきましょう。 そう だ、 ワタシ は ショウニン だった の だ。 キンセン ゆえ に、 ワタシ は ユウビ な あの ヒト から、 いつも ケイベツ されて きた の だっけ。 いただきましょう。 ワタシ は しょせん、 ショウニン だ。 いやしめられて いる キンセン で、 あの ヒト に みごと、 フクシュウ して やる の だ。 これ が ワタシ に、 いちばん ふさわしい フクシュウ の シュダン だ。 ザマア みろ! ギン 30 で、 アイツ は うられる。 ワタシ は、 ちっとも ないて や しない。 ワタシ は、 あの ヒト を あいして いない。 ハジメ から、 ミジン も あいして いなかった。 はい、 ダンナサマ。 ワタシ は ウソ ばかり もうしあげました。 ワタシ は、 カネ が ホシサ に あの ヒト に ついて あるいて いた の です。 おお、 それ に ちがいない。 あの ヒト が、 ちっとも ワタシ に もうけさせて くれない と コンヤ ミキワメ が ついた から、 そこ は ショウニン、 すばやく ネガエリ を うった の だ。 カネ。 ヨノナカ は カネ だけ だ。 ギン 30、 なんと すばらしい。 いただきましょう。 ワタシ は、 ケチ な ショウニン です。 ほしくて ならぬ。 はい、 ありがとう ぞんじます。 はい、 はい。 もうしおくれました。 ワタシ の ナ は、 ショウニン の ユダ。 へっへ。 イスカリオテ の ユダ。
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