カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

オウゴン フウケイ

2018-12-07 | ダザイ オサム
 オウゴン フウケイ

 ダザイ オサム

   ウミ の キシベ に ミドリ なす カシ の キ、 その カシ の キ に オウゴン の ほそき クサリ の むすばれて   ――プーシキン――

 ワタシ は コドモ の とき には、 あまり タチ の いい ほう では なかった。 ジョチュウ を いじめた。 ワタシ は、 のろくさい こと は きらい で、 それゆえ、 のろくさい ジョチュウ を ことにも いじめた。 オケイ は、 のろくさい ジョチュウ で ある。 リンゴ の カワ を むかせて も、 むきながら ナニ を かんがえて いる の か、 2 ド も 3 ド も テ を やすめて、 おい、 と その たび ごと に きびしく コエ を かけて やらない と、 カタテ に リンゴ、 カタテ に ナイフ を もった まま、 いつまでも、 ぼんやり して いる の だ。 たりない の では ない か、 と おもわれた。 ダイドコロ で、 なにも せず に、 ただ のっそり つったって いる スガタ を、 ワタシ は よく みかけた もの で ある が、 コドモゴコロ にも、 うすみっともなく、 ミョウ に カン に さわって、 おい、 オケイ、 ヒ は みじかい の だぞ、 など と おとなびた、 イマ おもって も セスジ の さむく なる よう な ヒドウ の コトバ を なげつけて、 それ で たりず に イチド は オケイ を よびつけ、 ワタシ の エホン の カンペイシキ の ナンビャクニン と なく うようよ して いる ヘイタイ、 ウマ に のって いる モノ も あり、 ハタ もって いる モノ も あり、 ジュウ になって いる モノ も あり、 その ヒトリヒトリ の ヘイタイ の カタチ を ハサミ で もって きりぬかせ、 ブキヨウ な オケイ は、 アサ から ヒルメシ も くわず ヒグレ-ゴロ まで かかって、 やっと 30 ニン くらい、 それ も タイショウ の ヒゲ を カタホウ きりおとしたり、 ジュウ もつ ヘイタイ の テ を、 クマ の テ みたい に おそろしく おおきく きりぬいたり、 そうして いちいち ワタシ に どなられ、 ナツ の コロ で あった、 オケイ は アセカキ なので、 きりぬかれた ヘイタイ たち は ミンナ、 オケイ の テ の アセ で、 びしょびしょ ぬれて、 ワタシ は ついに カンシャク を おこし、 オケイ を けった。 たしか に カタ を けった はず なのに、 オケイ は ミギ の ホオ を おさえ、 がばと なきふし、 なきなき いった。 「オヤ に さえ カオ を ふまれた こと は ない。 イッショウ おぼえて おります」 うめく よう な クチョウ で、 とぎれ、 とぎれ そう いった ので、 ワタシ は、 さすが に いや な キ が した。 その ホカ にも、 ワタシ は ほとんど それ が テンメイ でも ある か の よう に、 オケイ を いびった。 イマ でも、 タショウ は そう で ある が、 ワタシ には ムチ な ロドン の モノ は、 とても カンニン できぬ の だ。
 イッサクネン、 ワタシ は イエ を おわれ、 イチヤ の うち に キュウハク し、 チマタ を さまよい、 ショショ に なきつき、 その ヒ その ヒ の イノチ つなぎ、 やや ブンピツ で もって、 ジカツ できる アテ が つきはじめた と おもった トタン、 ヤマイ を えた。 ヒトビト の ナサケ で ヒトナツ、 チバ ケン フナバシ マチ、 ドロ の ウミ の すぐ チカク に ちいさい イエ を かり、 ジスイ の ホヨウ を する こと が でき、 マイヨ マイヨ、 ネマキ を しぼる ほど の ネアセ と たたかい、 それでも シゴト は しなければ ならず、 マイアサ マイアサ の つめたい 1 ゴウ の ギュウニュウ だけ が、 ただ それ だけ が、 キミョウ に いきて いる ヨロコビ と して かんじられ、 ニワ の スミ の キョウチクトウ の ハナ が さいた の を、 めらめら ヒ が もえて いる よう に しか かんじられなかった ほど、 ワタシ の アタマ も ほとほと いたみつかれて いた。
 その コロ の こと、 コセキシラベ の 40 に ちかい、 やせて コガラ の オマワリ が ゲンカン で、 チョウボ の ワタシ の ナマエ と、 それから ブショウヒゲ ノバシホウダイ の ワタシ の カオ と を、 つくづく みくらべ、 おや、 アナタ は…… の オボッチャン じゃ ございません か? そう いう オマワリ の コトバ には、 つよい コキョウ の ナマリ が あった ので、
「そう です」 ワタシ は ふてぶてしく こたえた。 「アナタ は?」
 オマワリ は やせた カオ に くるしい ばかり に いっぱい の エミ を たたえて、
「やあ。 やはり そう でした か。 オワスレ かも しれない けれど、 かれこれ 20 ネン ちかく マエ、 ワタシ は K で バシャヤ を して いました」
 K とは、 ワタシ の うまれた ムラ の ナマエ で ある。
「ゴラン の とおり」 ワタシ は、 にこり とも せず に おうじた。 「ワタシ も、 イマ は おちぶれました」
「とんでもない」 オマワリ は、 なおも たのしげ に わらいながら、 「ショウセツ を おかき なさる ん だったら、 それ は なかなか シュッセ です」
 ワタシ は クショウ した。
「ところで」 と オマワリ は すこし コエ を ひくめ、 「オケイ が いつも アナタ の オウワサ を して います」
「オケイ?」 すぐに は のみこめなかった。
「オケイ です よ。 オワスレ でしょう。 オタク の ジョチュウ を して いた――」
 おもいだした。 ああ、 と おもわず うめいて、 ワタシ は ゲンカン の シキダイ に しゃがんだ まま、 アタマ を たれて、 その 20 ネン マエ、 のろくさかった ヒトリ の ジョチュウ に たいして の ワタシ の アクギョウ が、 ヒトツヒトツ、 はっきり おもいだされ、 ほとんど ザ に たえかねた。
「コウフク です か?」 ふと カオ を あげて そんな トッピョウシ ない シツモン を はっする ワタシ の カオ は、 たしか に ザイニン、 ヒコク、 ヒクツ な ワライ を さえ うかべて いた と キオク する。
「ええ、 もう、 どうやら」 クッタク なく、 そう ほがらか に こたえて、 オマワリ は ハンケチ で ヒタイ の アセ を ぬぐって、 「かまいません でしょう か。 コンド あれ を つれて、 イチド ゆっくり オレイ に あがりましょう」
 ワタシ は とびあがる ほど、 ぎょっと した。 いいえ、 もう、 それ には、 と はげしく キョヒ して、 ワタシ は いいしれぬ クツジョクカン に ミモダエ して いた。
 けれども、 オマワリ は、 ほがらか だった。
「コドモ が ねえ、 アナタ、 ここ の エキ に つとめる よう に なりまして な、 それ が チョウナン です。 それから オトコ、 オンナ、 オンナ、 その スエ の が ヤッツ で コトシ ショウガッコウ に あがりました。 もう ヒトアンシン。 オケイ も クロウ いたしました。 なんと いう か、 まあ、 オタク の よう な タイケ に あがって ギョウギ ミナライ した モノ は、 やはり どこ か、 ちがいまして な」 すこし カオ を あかく して わらい、 「おかげさま でした。 オケイ も、 アナタ の オウワサ、 しじゅう して おります。 コンド の コウキュウ には、 きっと イッショ に オレイ に あがります」 キュウ に マジメ な カオ に なって、 「それじゃ、 キョウ は シツレイ いたします。 オダイジ に」
 それから、 ミッカ たって、 ワタシ が シゴト の こと より も、 キンセン の こと で おもいなやみ、 ウチ に じっと して おれなくて、 タケ の ステッキ もって、 ウミ へ でよう と、 ゲンカン の ト を がらがら あけたら、 ソト に 3 ニン、 ユカタ きた チチ と ハハ と、 あかい ヨウフク きた オンナ の コ と、 エ の よう に うつくしく ならんで たって いた。 オケイ の カゾク で ある。
 ワタシ は ジブン でも イガイ な ほど の、 おそろしく おおきな ドセイ を はっした。
「きた の です か。 キョウ、 ワタシ これから ヨウジ が あって でかけなければ なりません。 オキノドク です が、 また の ヒ に おいで ください」
 オケイ は、 ヒン の いい チュウネン の オクサン に なって いた。 ヤッツ の コ は、 ジョチュウ の コロ の オケイ に よく にた カオ を して いて、 ウスノロ-らしい にごった メ で ぼんやり ワタシ を みあげて いた。 ワタシ は かなしく、 オケイ が まだ ヒトコト も いいださぬ うち、 にげる よう に、 カイヒン へ とびだした。 タケ の ステッキ で、 カイヒン の ザッソウ を なぎはらい なぎはらい、 イチド も アト を ふりかえらず、 イッポ、 イッポ、 ジダンダ ふむ よう な すさんだ アルキカタ で、 とにかく カイガン-ヅタイ に マチ の ほう へ、 マッスグ に あるいた。 ワタシ は マチ で ナニ を して いたろう。 ただ イミ も なく、 カツドウゴヤ の エカンバン みあげたり、 ゴフクヤ の カザリマド を みつめたり、 ちえっちえっ と シタウチ して は、 ココロ の どこ か の スミ で、 まけた、 まけた、 と ささやく コエ が きこえて、 これ は ならぬ と はげしく カラダ を ゆすぶって は、 また あるき、 30 プン ほど そうして いたろう か、 ワタシ は ふたたび ワタシ の イエ へ とって かえした。
 ウミギシ に でて、 ワタシ は たちどまった。 みよ、 ゼンポウ に ヘイワ の ズ が ある。 オケイ オヤコ 3 ニン、 のどか に ウミ に イシ の ナゲッコ して は わらいきょうじて いる。 コエ が ここ まで きこえて くる。
「なかなか」 オマワリ は、 うんと チカラ こめて イシ を ほうって、 「アタマ の よさそう な カタ じゃ ない か。 あの ヒト は、 いまに えらく なる ぞ」
「そう です とも、 そう です とも」 オケイ の ほこらしげ な たかい コエ で ある。 「あの カタ は、 おちいさい とき から ヒトリ かわって おられた。 メシタ の モノ にも それ は シンセツ に、 メ を かけて くだすった」
 ワタシ は たった まま ないて いた。 けわしい コウフン が、 ナミダ で、 まるで キモチ よく とけさって しまう の だ。
 まけた。 これ は、 いい こと だ。 そう なければ、 いけない の だ。 カレラ の ショウリ は、 また ワタシ の アス の シュッパツ にも、 ヒカリ を あたえる。
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