カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

バンギク

2016-09-22 | ハヤシ フミコ
 バンギク

 ハヤシ フミコ

 ユウガタ、 5 ジ-ゴロ うかがいます と いう デンワ で あった ので、 キン は、 1 ネン-ぶり に ねえ、 まあ、 そんな もの です か と いった ココロモチ で、 デンワ を はなれて トケイ を みる と、 まだ 5 ジ には 2 ジカン ばかり マ が ある。 まず その アイダ に、 ナニ より も フロ へ いって おかなければ ならない と、 ジョチュウ に ハヤメ な、 ユウショク の ヨウイ を させて おいて、 キン は いそいで フロ へ いった。 わかれた あの とき より も わかやいで いなければ ならない。 けっして ジブン の オイ を かんじさせて は ハイボク だ と、 キン は ゆっくり と ユ に はいり、 かえって くる なり、 レイゾウコ の コオリ を だして、 こまかく くだいた の を、 ニジュウ に なった ガーゼ に つつんで、 カガミ の マエ で 10 プン ばかり も まんべんなく コオリ で カオ を マッサージ した。 ヒフ の カンカク が なくなる ほど、 カオ が あかく しびれて きた。 56 サイ と いう オンナ の ネンレイ が ムネ の ナカ で キバ を むいて いる けれども、 キン は オンナ の トシ なんか、 ナガネン の シュギョウ で どう に でも ごまかして みせる と いった キビシサ で、 トッテオキ の ハクライ の クリーム で つめたい カオ を ふいた。 カガミ の ナカ には シビト の よう に あおずんだ オンナ の ふけた カオ が おおきく メ を みはって いる。 ケショウ の トチュウ で ふっと ジブン の カオ に イヤケ が さして きた が、 ムカシ は エハガキ にも なった あでやか な うつくしい ジブン の スガタ が マブタ に うかび、 キン は ヒザ を まくって、 フトモモ の ハダ を みつめた。 むっくり と ムカシ の よう に もりあがった フトリカタ では なく、 ほそい ジョウミャク の モウカン が うきたって いる。 ただ、 そう やせて も いない と いう こと が ココロヤスメ には なる。 ぴっちり と フトモモ が あって いる。 フロ では、 キン は、 きまって、 きちんと すわった フトモモ の クボミ へ ユ を そそぎこんで みる の で あった。 ユ は、 フトモモ の ミゾ へ じっと たまって いる。 ほっと した ヤスラギ が キン の オイ を なぐさめて くれた。 まだ、 オトコ は できる。 それ だけ が ジンセイ の チカラダノミ の よう な キ が した。 キン は、 マタ を ひらいて、 そっと、 ウチモモ の ハダ を ヒトゴト の よう に なでて みる。 すべすべ と して アブラ に なじんだ シカガワ の よう な ヤワラカサ が ある。 サイカク の 「ショコク を みしる は イセ モノガタリ」 の ナカ に、 イセ の ケンブツ の ナカ に、 シャミ を ひく オスギ、 タマ、 と いう フタリ の うつくしい オンナ が いて、 シャミ を ひきならす マエ に、 シンク の アミ を はりめぐらせて、 その アミノメ から フタリ の オンナ の カオ を ねらって は ゼニ を なげる アソビ が あった と いう の を、 キン は おもいだして、 クレナイ の アミ を はった と いう、 その ニシキエ の よう な ウツクシサ が、 イマ の ジブン には もう とおい カコ の こと に なりはてた よう な キ が して ならなかった。 わかい コロ は ホネミ に しみて キンヨク に メ が くれて いた もの だ けれども、 トシ を とる に つれて、 しかも、 ひどい センソウ の ナミ を くぐりぬけて みる と、 キン は、 オトコ の ない セイカツ は クウキョ で たよりない キ が して ならない。 ネンレイ に よって、 ジブン の ウツクシサ も すこし ずつ は ヘンカ して きて いた し、 その トシドシ で ジブン の ウツクシサ の フウカク が ちがって きて いた。 キン は トシ を とる に したがって ハデ な もの を ミ に つける グ は しなかった。 50 を すぎた フンベツ の ある オンナ が、 うすい ムネ に クビカザリ を して みたり、 ユモジ に でも いい よう な あかい コウシジマ の スカート を はいて、 シロ サティン の おおだぶだぶ の ブラウス を きて、 ツバビロ の ボウシ で ヒタイ の シワ を かくす よう な ミョウ な コザイク は キン は きらい だった。 それ か と いって、 キモノ の エリウラ から ベニイロ を のぞかせる よう な ジョロウ の よう な いやらしい コノミ も きらい で あった。
 キン は、 ヨウフク は この ジダイ に なる まで イチド も きた こと は ない。 すっきり と した まっしろい チリメン の エリ に、 アイオオシマ の カスリ の アワセ、 オビ は うすい クリーム イロ の シロスジ ハカタ。 ミズイロ の オビアゲ は ゼッタイ に ムナモト に みせない こと。 たっぷり と した ムネ の フクラミ を つくり、 コシ は ほそく、 ジバラ は ダテマキ で しめる だけ しめて、 オシリ には うっすり と マワタ を しのばせた コシブトン を あてて セイヨウ の オンナ の イキ な キツケ を ジブン で かんがえだして いた。 カミノケ は、 ムカシ から チャイロ だった ので、 イロ の しろい カオ には、 その カミノケ が 50 を すぎた オンナ の カミ とも おもわれなかった。 オオガラ なので、 スソミジカ に キモノ を きる せい か、 スソモト が きりっと して、 さっぱり して いた。 オトコ に あう マエ は、 かならず こうした クロウト-っぽい ジミ な ツクリカタ を して、 カガミ の マエ で、 ヒヤザケ を 5 シャク ほど きゅう と あおる。 その アト は ハミガキ で ハ を みがき、 さけくさい イキ を ころして おく こと も ヌカリ は ない。 ほんの ショウリョウ の サケ は、 どんな ケショウヒン を つかった より も キン の ニクタイ には コウカ が あった。 うっすり と ヨイ が はっしる と、 メモト が あかく そまり、 おおきい メ が うるんで くる。 あおっぽい ケショウ を して、 リスリン で といた クリーム で おさえた カオ の ツヤ が、 イキ を ふきかえした よう に さえざえ して くる。 ベニ だけ は ジョウトウ の ダーク を こく ぬって おく。 あかい もの と いえば クチビル だけ で ある。 キン は、 ツメ を そめる と いう こと も ショウガイ した こと が ない。 ロウネン に なって から の テ は なおさら、 そうした ケショウ は ものほしげ で ヒンジャク で おかしい の で ある。 ニュウエキ で まんべんなく テノコウ を たたいて おく だけ で、 ツメ は カンショウ な ほど みじかく きって ラシャ の キレ で みがいて おく。 ナガジュバン の ソデグチ に かいまみえる シキサイ は、 すべて あわい イロアイ を このみ、 ミズイロ と モモイロ の ぼかした タヅナ なぞ を ミ に つけて いた。 コウスイ は あまったるい ニオイ を、 カタ と ぼってり した ニノウデ に こすりつけて おく。 ミミタブ なぞ へは まちがって も つける よう な こと は しない の で ある。 キン は オンナ で ある こと を わすれたく ない の だ。 セケン の ロウバ の ウスギタナサ に なる の ならば しんだ ほう が まし なの で ある。 ――ヒト の ミ に ある まじき まで たわわ なる、 バラ と おもえど わが ココチ する。 キン は ユウメイ な オンナ の うたった と いう この ウタ が すき で あった。 オトコ から はなれて しまった セイカツ は かんがえて も ぞっと する。 イタヤ の もって きた、 バラ の うすい ピンク の ハナビラ を みて いる と、 その ハナ の ゴウカサ に キン は ムカシ を ゆめみる。 とおい ムカシ の フウゾク や ジブン の シュミ や カイラク が すこし ずつ ヘンカ して きて いる こと も キン には たのしかった。 ヒトリネ の オリ、 キン は マヨナカ に メ が さめる と、 ムスメジダイ から の オトコ の カズ を ユビ で ひそか に おりかぞえて みた。 あの ヒト と あの ヒト、 それに あの ヒト、 ああ、 あの ヒト も ある…… でも、 あの ヒト は、 あの ヒト より も サキ に あって いた の かしら…… それとも、 アト だった かしら…… キン は、 まるで カゾエウタ の よう に、 オトコ の オモイデ に ココロ が けむたく むせて くる。 おもいだす オトコ の ワカレカタ に よって ナミダ の でて くる よう な ヒト も あった。 キン は ヒトリヒトリ の オトコ に ついて は、 デアイ の とき のみ を かんがえる の が すき で あった。 イゼン よんだ こと の ある イセ モノガタリ-フウ に、 ムカシ オトコ ありけり と いう オモイデ を いっぱい ココロ に ためて いる せい か、 キン は ヒトリネ の ネドコ の ナカ で、 うつらうつら と ムカシ の オトコ の こと を かんがえる の は タノシミ で あった。 ――タベ から の デンワ は キン に とって は おもいがけなかった し、 ジョウトウ の ブドウシュ に でも オメ に かかった よう な キ が した。 タベ は、 オモイデ に つられて くる だけ だ。 ムカシ の ナゴリ が すこし は のこって いる で あろう か と いった カンショウ で、 コイ の ヤケアト を ギンミ し に くる よう な もの なの だ。 クサ ぼうぼう の ガレキ の アト に たって、 ただ、 ああ と タメイキ だけ を つかせて は ならない の だ。 ネンレイ や カンキョウ に いささか の マズシサ も あって は ならない の だ。 つつしみぶかい ヒョウジョウ が ナニ より で あり、 フンイキ は フタリ で しみじみ と ボットウ できる よう な タダヨイ で なくて は ならない。 ジブン の オンナ は あいかわらず うつくしい オンナ だった と いう アトアジ の ナゴリ を わすれさせて は ならない の だ。 キン は トドコオリ なく ミジタク が すむ と、 カガミ の マエ に たって ジブン の ブタイスガタ を たしかめる。 バンジ ヌカリ は ない か と……。 チャノマ へ ゆく と、 もう、 ユウショク の ゼン が でて いる。 うすい ミソシル と、 シオコンブ に ムギメシ を ジョチュウ と サシムカイ で たべる と、 アト は タマゴ を やぶって キミ を ぐっと のんで おく。 キン は オトコ が たずねて きて も、 ムカシ から ジブン の ほう で ショクジ を だす と いう こと は あまり しなかった。 こまごま と チャブダイ を つくって、 テリョウリ なん です よ と ならべたてて オトコ に あいらしい オンナ と おもわれたい なぞ とは ツユ ほど も かんがえない の で ある。 カテイテキ な オンナ と いう こと は キン には なんの キョウミ も ない の だ。 ケッコン を しよう なぞ と おもい も しない オトコ に、 カテイテキ な オンナ と して こびて ゆく イワレ は ない の だ。 こうした キン に むかって くる オトコ は、 キン の ため に、 イロイロ な ミヤゲモノ を もって きた。 キン に とって は それ が アタリマエ なの で ある。 キン は カネ の ない オトコ を アイテ に する よう な こと は けっして しなかった。 カネ の ない オトコ ほど ミリョク の ない もの は ない。 コイ を する オトコ が、 ブラッシュ も かけない ヨウフク を きたり、 ハダギ の ボタン の はずれた の なぞ ヘイキ で きて いる よう な オトコ は ふっと いや に なって しまう。 コイ を する、 その こと ジタイ が、 キン には ヒトツヒトツ ゲイジュツヒン を つくりだす よう な キ が した。 キン は ムスメジダイ に アカサカ の マンリュウ に にて いる と いわれた。 ヒトヅマ に なった マンリュウ を イチド みかけた こと が あった が、 ほれぼれ と する よう な うつくしい オンナ で あった。 キン は その みごと な ウツクシサ に うなって しまった。 オンナ が いつまでも ウツクシサ を たもつ と いう こと は、 カネ が なくて は どうにも ならない こと なの だ と さとった。 キン が ゲイシャ に なった の は、 19 の とき で あった。 たいした ゲイゴト も ミ に つけて は いなかった が、 ただ、 うつくしい と いう こと で ゲイシャ に なりえた。 その コロ、 フランスジン で トウヨウ ケンブツ に きて いた もう かなり な ネンレイ の シンシ の ザシキ に よばれて、 キン は シンシ から ニホン の マルグリット ゴーチェ と して あいされる よう に なり、 キン ジシン も、 ツバキヒメ キドリ で いた こと も ある。 ニクタイテキ には あんがい つまらない ヒト で あった が、 キン には なんとなく わすれがたい ヒト で あった。 ミッシェル さん と いって、 もう、 フランス の キタ の どこ か で しんで いる に ちがいない ネンレイ で ある。 フランス へ かえった ミッシェル から、 オパール と こまかい ダイヤ を ちりばめた ウデワ を おくって きた が、 それ だけ は センソウ サナカ にも てばなさなかった。 ――キン の カンケイ した オトコ たち は、 ミンナ ソレゾレ に えらく なって いった が、 この シュウセンゴ は、 その オトコ たち の オオカタ は ショウソク も わからなく なって しまった。 アイザワ キン は ソウトウ の ザイサン を ためこんで いる だろう と いう フウヒョウ で あった が、 キン は かつて マチアイ を しよう とか、 リョウリヤ を しよう なぞ とは イチド も かんがえた こと が なかった。 もって いる もの と いえば、 やけなかった ジブン の イエ と、 アタミ の ベッソウ を 1 ケン もって いる きり で、 ヒト の いう ほど の カネ は なかった。 ベッソウ は ギマイ の ナマエ に なって いた の を、 シュウセンゴ、 オリ を みて てばなして しまった。 まったく の ムイ トショク で あった が、 ジョチュウ の キヌ は ギマイ の セワ で あった が オシ の オンナ で ある。 キン は、 クラシ も あんがい つつましく して いた。 エイガ や シバイ を みたい と いう キ も なかった し、 キン は なんの モクテキ も なく うろうろ と ガイシュツ する こと は きらい で あった。 テンピ に さらされた とき の ジブン の オイ を ヒトメ に みられる の は いや で あった。 あかるい タイヨウ の シタ では、 ロウネン の オンナ の ミジメサ を ヨウシャ なく みせつけられる。 いかなる カネ の かかった フクショク も テンピ の マエ では なんの ヤク にも たたない。 ヒカゲ の ハナ で くらす こと に マンゾク で あった し、 キン は シュミ と して ショウセツボン を よむ こと が すき で あった。 ヨウジョ を もらって ロウゴ の タノシミ を かんがえて は と いわれる こと が あって も、 キン は ロウゴ なぞ と いう オモイ が フカイ で あった し、 キョウ まで コドク で きた こと も、 キン には ヒトツ の リユウ が ある の だった。 ――キン は リョウシン が なかった。 アキタ の ホンジョウ チカク の コサガワ の ウマレ だ と いう こと だけ が キオク に あって、 イツツ ぐらい の とき に トウキョウ に もらわれて、 アイザワ の セイ を なのり、 アイザワ-ケ の ムスメ と して そだった。 アイザワ キュウジロウ と いう の が ヨウフ で あった が、 ドボク ジギョウ で ダイレン に わたって ゆき、 キン が ショウガッコウ の コロ から、 この ヨウフ は ダイレン へ ユキッパナシ で ショウソク は ない の で ある。 ヨウボ の リツ は なかなか の リザイカ で、 カブ を やったり シャクヤ を たてたり して、 その コロ は ウシゴメ の ワラダナ に すんで いた が、 ワラダナ の アイザワ と いえば、 ウシゴメ でも ソウトウ の カネモチ と して みられて いた。 その コロ カグラザカ に タツイ と いう ふるい タビヤ が あって、 そこ に、 マチコ と いう うつくしい ムスメ が いた。 この タビヤ は ニンギョウ-チョウ の ミョウガヤ と おなじ よう に レキシ の ある イエ で、 タツイ の タビ と いえば、 ヤマノテ の ヤシキマチ でも ソウトウ の シンヨウ が あった もの で ある。 コン の ノレン を はった ひろい ミセサキ に ミシン を おいて、 モモワレ に ゆった マチコ の クロジュス の エリ を かけて ミシン を ふんで いる ところ は、 ワセダ の ガクセイ たち にも ヒョウバン だった と みえて、 ガクセイ たち が タビ を あつらえ に きて は、 チップ を おいて ゆく モノ も ある と いう フウヒョウ だった が、 この マチコ より イツツ ムッツ も わかい キン も、 チョウナイ では うつくしい ショウジョ と して ヒョウバン だった。 カグラザカ には フタリ の コマチムスメ と して ヒトビト に いいふらされて いた。 ――キン が 19 の コロ、 アイザワ の イエ も、 ゴウヒャク の トリゴエ と いう オトコ が デイリ する よう に なって から、 イエ が なんとなく かたむきはじめ、 ヨウボ の リツ は シュラン の よう な クセ が ついて、 ながい こと くらい セイカツ が つづいて いた が、 キン は ふっと した ジョウダン から トリゴエ に おかされて しまった。 キン は その コロ、 やぶれかぶれ な キモチ で イエ を とびだして、 アカサカ の スズモト と いう イエ から ゲイシャ に なって でた。 タツイ の マチコ は、 ちょうど その コロ、 はじめて できた ヒコウキ に フリソデ スガタ で のせて もらって スサキ の ハラ に ツイラク した と いう こと が シンブンダネ に なり、 そうとう ヒョウバン を つくった。 キン は、 キンヤ と いう ナマエ で ゲイシャ に でた が、 すぐ、 コウダン ザッシ なんか に シャシン が のったり して、 シマイ には、 その コロ リュウコウ の エハガキ に なったり した もの で ある。
 イマ から おもえば、 こうした こと も、 みんな とおい カコ の こと に なって しまった けれども、 キン は ジブン が ゲンザイ 50 サイ を すぎた オンナ だ とは どうしても ガテン が ゆかなかった。 ながく いきて きた もの だ と おもう とき も あった が、 また みじかい セイシュン だった と おもう とき も ある。 ヨウボ が なくなった アト、 いくらも ない カザイ は、 キン の もらわれて きた アト に うまれた スミコ と いう ギマイ に あっさり つがれて しまって いた ので、 キン は ヨウカ に たいして なんの セキニン も ない カラダ に なって いた。
 キン が タベ を しった の は、 スミコ フウフ が トツカ に ガクセイ アイテ の クロウト ゲシュク を して いる コロ で、 キン は、 3 ネン ばかり つづいて いた ダンナ と わかれて、 スミコ の ゲシュク に ヒトヘヤ を かりて キラク に くらして いた。 タイヘイヨウ センソウ が はじまった コロ で ある。 キン は スミコ の チャノマ で ゆきあう ガクセイ の タベ と しりあい、 オヤコ ほど も トシ の ちがう タベ と、 いつか ヒトメ を しのぶ ナカ に なって いた。 50 サイ の キン は、 しらない ヒト の メ には 37~38 ぐらい に しか みえない ワカワカシサ で、 マユ の こい の が におう よう で あった。 ダイガク を ソツギョウ した タベ は すぐ リクグン ショウイ で シュッセイ した の だ けれども、 タベ の ブタイ は しばらく ヒロシマ に チュウザイ して いた。 キン は、 タベ を たずねて 2 ド ほど ヒロシマ へ いった。
 ヒロシマ へ つく なり、 リョカン へ グンプク スガタ の タベ が たずねて きた。 カワ-くさい タベ の タイシュウ に キン は ヘキエキ しながら も、 フタバン を タベ と ヒロシマ の リョカン で くらした。 はるばる と とおい チ を たずねて、 くたくた に つかれて いた キン は、 タベ の たくましい チカラ に ホンロウ されて、 あの とき は しぬ よう な オモイ だった と ヒト に コクハク して いった。 2 ド ほど タベ を たずねて ヒロシマ に ゆき、 ソノゴ タベ から イクド デンポウ が きて も、 キン は ヒロシマ へは ゆかなかった。 ショウワ 17 ネン に タベ は ビルマ へ ゆき、 シュウセン の ヨクトシ の 5 ガツ に フクイン して きた。 すぐ ジョウキョウ して きて、 タベ は ヌマブクロ の キン の イエ を たずねて きた が、 タベ は ひどく ふけこんで、 マエバ の ぬけて いる の を みた キン は ムカシ の ユメ も きえて シツボウ して しまった。 タベ は ヒロシマ の ウマレ で あった が、 チョウケイ が ダイギシ に なった とか で、 アニ の セワ で ジドウシャ-ガイシャ を おこして、 トウキョウ で 1 ネン も たたない アイダ に、 みちがえる ばかり リッパ な シンシ に なって キン の マエ に あらわれ、 きんきん に サイクン を もらう の だ と はなした。 それから また 1 ネン あまり、 キン は タベ に あう こと も なかった。 ――キン は、 クウシュウ の はげしい コロ、 ステネ ドウヨウ の ネダン で、 ゲンザイ の ヌマブクロ の デンワ-ツキ の イエ を かい、 トツカ から ヌマブクロ へ ソカイ して いた。 トツカ とは メ と ハナ の チカサ で ありながら、 ヌマブクロ の キン の イエ は のこり、 トツカ の スミコ の イエ は やけた。 スミコ たち が、 キン の ところ へ にげて きた けれども、 キン は、 シュウセン と ドウジ に スミコ たち を おいだして しまった。 もっとも おいだされた スミコ も、 トツカ の ヤケアト に はやばや と イエ を たてた ので、 かえって イマ では キン に カンシャ して いる アリサマ でも あった。 イマ から おもえば、 シュウセン チョクゴ だった ので、 やすい カネ で イエ を たてる こと が できた の で ある。
 キン も アタミ の ベッソウ を うった。 テドリ 30 マン ちかい カネ が はいる と、 その カネ で ボロヤ を かって は テイレ を して 3~4 バイ には うった。 キン は、 カネ に あわてる と いう こと を しなかった。 キンセン と いう もの は、 あわて さえ しなければ すくすく と ユキダルマ の よう に ふくらんで くれる リトク の ある もの だ と いう こと を ナガネン の シュギョウ で こころえて いた。 コウリ より は やすい リマワリ で かたい タンポ を とって ヒト にも かした。 センソウ イライ、 ギンコウ を あまり シンヨウ しなく なった キン は、 なるべく カネ を ソト へ まわした。 ノウカ の よう に イエ へ つんで おく グ も しなかった。 その ツカイ には スミコ の オット の ヒロヨシ を つかった。 イクワリ か の シャレイ を はらえば、 ヒト は こきみよく はたらいて くれる もの だ と いう こと も キン は しって いた。 ジョチュウ との フタリズマイ で、 4 マ ばかり の イエウチ は、 ガイケン には さびしかった の だ けれども、 キン は すこしも さびしく も なかった し、 ガイシュツギライ で あって みれば、 フタリグラシ を フジユウ とも おもわなかった。 ドロボウ の ヨウジン には イヌ を かう こと より も、 トジマリ を かたく する と いう こと を シンヨウ して いて、 どこ の イエ より も キン の イエ は トジマリ が よかった。 ジョチュウ は オシ なので、 どんな オトコ が たずねて きて も タニン に きかれる シンパイ は ない。 そのくせ キン は、 ときどき、 むごたらしい コロサレカタ を しそう な ジブン の ウンメイ を ときどき クウソウ する とき が あった。 イキ を ころして ひっそり と しずまりかえった イエ と いう もの を フアン に おもわない でも ない。 キン は、 アサ から バン まで ラジオ を かける こと を わすれなかった。 キン は その コロ、 チバ の マツド で カダン を つくって いる オトコ と しりあって いた。 アタミ の ベッソウ を かった ヒト の オトウト だ とか で、 センソウチュウ は ハノイ で ボウエキ の ショウシャ を おこして いた の だ けれども、 シュウセンゴ ひきあげて きて、 アニ の シホン で マツド で ハナ の サイバイ を はじめた。 トシ は まだ 40 サイ そこそこ で あった が、 トウハツ が つるり と はげて、 トシ より は ふけて みえた。 イタヤ セイジ と いった。 2~3 ド イエ の こと で キン を たずねて きた けれども、 イタヤ は いつのまにか キン の ところ へ シュウ に イチド は たずねて くる よう に なって いた。 イタヤ が きはじめて から、 キン の イエ は うつくしい ハナバナ の ミヤゲ で にぎわった。 ――キョウ も カスタニアン と いう きいろい バラ が ざくり と トコノマ の カビン に さされて いる。 イチョウ の ハ、 すこし こぼれて なつかしき、 バラ の ソノウ の シモジメリ かな。 きいろい バラ は トシマザカリ の ウツクシサ を おもわせた。 ダレ か の ウタ に ある。 シモジメリ した アサ の バラ の ニオイ が、 つうん と キン の ムネ に オモイデ を さそう。 タベ から デンワ が かかって みる と、 イタヤ より も、 キン は わかい タベ の ほう に ひかれて いる こと を さとる。 ヒロシマ では つらかった けれども、 あの コロ の タベ は グンジン で あった し、 あの あらあらしい ワカサ も イマ に なれば ムリ も なかった こと だ と つまされて うれしい オモイデ で ある。 はげしい オモイデ ほど、 トキ が たてば なんとなく なつかしい もの だ。 ――タベ が たずねて きた の は 5 ジ を だいぶ すぎて から で あった が、 おおきな ツツミ を さげて きた。 ツツミ の ナカ から、 ウイスキー や、 ハム や、 チーズ なぞ を だして、 ナガヒバチ の マエ に どっかと すわった。 もう ムカシ の セイネン-ラシサ は オモカゲ も ない。 ハイイロ の コウシ の セビロ に、 くろっぽい グリン の ズボン を はいて いる の は いかにも この ジダイ の キカイヤ さん と いった カンジ だった。 「あいかわらず きれい だな」 「そう、 ありがとう、 でも、 もう ダメ ね」 「いや、 ウチ の サイクン より いろっぽい」 「オクサマ おわかい ん でしょう?」 「わかくて も、 イナカモノ だよ」 キン は、 タベ の ギン の タバコ ケース から 1 ポン タバコ を ぬいて ヒ を つけて もらった。 ジョチュウ が ウイスキー の グラス と、 サッキ の ハム や チーズ を もりあわせた サラ を もって きた。 「いい コ だね……」 タベ が にやにや わらいながら いった。 「ええ、 でも オシ なの よ」 ほほう と いった ヒョウジョウ で、 タベ は じいっと ジョチュウ の スガタ を みつめて いた。 ニュウワ な メモト で、 ジョチュウ は テイネイ に タベ に アタマ を さげた。 キン は、 ふっと、 キ にも かけなかった ジョチュウ の ワカサ が メザワリ に なった。 「ゴエンマン なの でしょう?」 タベ は ぷう と ケムリ を ふきながら、 ああ ボク ん とこ かい と いった カオ で、 「もう ライゲツ コドモ が うまれる ん だ」 と いった。 へえ、 そう なの と、 キン は ウイスキー の ビン を もって、 タベ の グラス に すすめた。 タベ は うまそう に きゅう と グラス を あけて、 ジブン も キン の グラス に ウイスキー を ついで やった。 「いい セイカツ だな」 「あら、 どうして?」 「ソト は アラシ が ごうごう と ふきすさんで いる のに さ、 キミ ばかり は いつまで たって も かわらない…… フシギ な ヒト だよ。 どうせ、 キミ の こと だ から、 いい パトロン が いる ん だろう けど、 オンナ は いい な」 「それ、 ヒニク です か? でも、 ワタシ、 べつに、 タベ さん に、 そんな ふう な こと いわれる ほど、 アナタ に ゴヤッカイ かけた って こと ない わね?」 「おこった の? そう じゃ ない ん だよ。 そう じゃ ない ん だ。 アンタ は シアワセ な ヒト だ って いう ん だよ。 オトコ の シゴト って つらい もん だ から、 つい、 そんな こと を いった のさ。 イマ の ヨ は、 あだ や おろそか には くらせない。 くう か くわれる か だ。 ボク なんか、 マイニチ バクチ を して くらして いる よう な もん だ から ね」 「だって、 ケイキ は いい ん でしょう?」 「よか ない さ…… あぶない ツナワタリ、 ミミナリ が する くらい つらい カネ を つかって いる ん だぜ」 キン は だまって ウイスキー を なめた。 カベギワ で コオロギ が ないて いる の が いやに しめっぽい。 タベ は、 2 ハイ-メ の ウイスキー を のむ と、 あらあらしく キン の テ を ヒバチ-ゴシ に つかんだ。 ユビワ を はめて いない テ が キヌ ハンカチ の よう に たよりない ほど やわらかい。 キン は テ の サキ に ある チカラ を じっと ぬいて、 イキ を ころして いた。 チカラ の ぬけて いる テ は むしょうに つめたくて ぼってり と やわらかい。 タベ の よった メ には、 ムカシ の サマザマ が ウズ を なし ココロ に せまって くる。 ムカシ の まま の ウツクシサ で オンナ が すわって いる。 フシギ な キ が した。 たえず ながれる サイゲツ の ナカ に すこし ずつ ケイケン が つみかさなって ゆく。 その ナガレ の ナカ に、 ヒヤク も あれば ツイラク も ある。 だが、 ムカシ の オンナ は なんの ヘンカ も なく ふてぶてしく そこ に すわって いる。 タベ は じいっと キン の メ を みつめた。 メ を かこむ コジワ も ムカシ の まま だ。 リンカク も くずれて は いない。 この オンナ の セイカツ の ジョウタイ を しりたかった。 この オンナ には シャカイテキ の ハンシャ は なんの ハンノウ も なかった の かも しれない。 タンス を かざり ナガヒバチ を かざり、 ゴウカ に グンセイ した バラ の ハナ も かざり、 にっこり と わらって ジブン の マエ に すわって いる。 もう、 すでに 50 は こして いる はず だ のに、 におう ばかり の オンナラシサ で ある。 タベ は キン の ホントウ の ネンレイ を しらなかった。 アパート-ズマイ の タベ は、 25 サイ に なった ばかり の サイクン の そそけた つかれた スガタ を マブタ に うかべる。 キン は ヒバチ の ヒキダシ から、 ノベギン の ほそい キセル を だして、 ちいさく なった リョウギリ を さして ヒ を つけた。 タベ が、 ときどき ヒザガシラ を ぶるぶる と ゆすぶって いる の が、 キン には キ に かかった。 キンセンテキ に まいって いる こと でも ある の かも しれない と、 キン は じいっと タベ の ヒョウジョウ を カンサツ した。 ヒロシマ へ いった とき の よう な イチズ な オモイ は もう キン の ココロ から うすれさって いる。 フタリ の ながい クウハク が、 キン には ゲンジツ に あって みる と ちぐはぐ な キ が する。 そうした ちぐはぐ な オモイ が、 キン には もどかしく さびしかった。 どうにも ムカシ の よう に ココロ が もえて ゆかない の だ。 この オトコ の ニクタイ を よく しって いる と いう こと で、 ジブン には もう この オトコ の スベテ に ミリョク を うしなって いる の かしら とも かんがえる。 フンイキ は あった に して も、 カンジン の ココロ が もえて ゆかない と いう こと に、 キン は アセリ を おぼえる。 「ダレ か、 キミ の セワ で、 40 マン ほど かして くれる ヒト ない?」 「あら、 オカネ の こと? 40 マン なんて タイキン じゃ ない の?」 「うん、 イマ、 どうしても、 それだけ ほしい ん だよ。 ココロアタリ は ない?」 「ない わ、 だいいち、 こんな ムシュウニュウ な クラシ を して いる ワタシ に、 そんな ソウダン を したって ムリ じゃ ない の……」 「そう かなあ、 うんと、 リシ を つける が、 どう だろう?」 「ダメ! ワタシ に そんな こと おっしゃって も ムリ よ」 キン は、 キュウ に さむけだつ よう な キ が した。 イタヤ との のどか な アイダガラ が こいしく なって くる。 キン は、 がっかり した キモチ で、 しゅんしゅん と わきたって いる アラレ の テツビン を とって チャ を いれた。 「20 マン ぐらい でも どうにか ならない? オン に きる ん だ がなあ……」 「おかしな ヒト ね? ワタシ に オカネ の こと を おっしゃったって、 ワタシ には オカネ の ない こと よく わかって いらっしゃる じゃ ない の……。 ワタシ が ほしい くらい の もの だわ。 ワタシ に あいたい ため に きて くだすった ん じゃ なく、 オカネ の ハナシ で、 ワタシ の とこ へ いらっした の?」 「いや、 キミ に あいたい ため さ、 そりゃあ あいたい ため だ けど、 キミ に なら、 なんでも ソウダン が できる と おもった から なん だよ」 「オニイサマ に ソウダン なされば いい のよ」 「アニキ には はなせない カネ なん だ」 キン は ヘンジ も しない で、 ふっと、 ジブン の ワカサ も、 もう あと 1~2 ネン だな と おもう。 ムカシ の やきつく よう な フタリ の コイ が、 イマ に なって みる と、 オタガイ の ウエ に なんの エイキョウ も なかった こと に キ が ついて くる。 あれ は コイ では なく、 つよく ひきあう シユウ だけ の ツナガリ だった の かも しれない。 カゼ に ただよう オチバ の よう な もろい ダンジョ の ツナガリ だけ で、 ここ に すわって いる ジブン と タベ は、 ただ、 なんでも ない チジン の ツナガリ と して だけ の もの に なって いる。 キン の ムネ に ひややか な もの が ながれて きた。 タベ は おもいついた よう に、 にやり と して、 「とまって も いい?」 と ちいさい コエ で、 チャ を のんで いる キン に たずねた。 キン は びっくり した メ を して、 「ダメ よ。 こんな ワタシ を からかわない で ください」 と、 メジリ の シワ を わざと ちぢめる よう に して わらった。 うつくしい しろい イレバ が ひかる。 「いやに レイコク ムジョウ だな。 もう、 いっさい カネ の ハナシ は しない。 ちょっと、 ムカシ の キン さん に あまったれた ん だ。 でも、 ――ここ は ベッセカイ だ もの ね。 キミ は アクウン の つよい ヒト だよ。 どんな こと が あったって くたばらない の は えらい。 イマ の わかい オンナ なんか、 そりゃあ みじめ だ から ね。 キミ、 ダンス は しない の?」 キン は、 ふふん と ハナ の オク で わらった。 わかい オンナ が どう だ って いう ん だろう……。 ワタシ の しった こと じゃ ない わ。 「ダンス なんて しらない わ。 アナタ なさる の?」 「すこし は ね」 「そう、 いい カタ が ある ん でしょう? それで オカネ が いる ん じゃ ない の?」 「バカ だなあ、 オンナ に みつぐ ほど、 ぼろい カネモウケ は して いない」 「あら、 でも、 とても、 その ミダシナミ は シンシ じゃ ない のよ。 ソウトウ な オシゴト で なくちゃ、 できない ゲイ だわ」 「これ は ハッタリ なん だ。 フトコロ は ぴいぴい なん だぜ。 ナナコロビ ヤオキ も コノゴロ は あわただしくて ね……」 キン は ふふふ と フクミワライ を して、 タベ の ふさふさ と した クロカミ に みとれて いる。 まだ、 じゅうぶん ふさふさ と して ヒタイギワ に たれて いる。 カクボウ の コロ の におう ミズミズシサ は うせて いる けれども、 ホオ の アタリ が もう チュウネン の アダメカシサ を ただよわせて、 ヒン の いい ヒョウジョウ は ない ながら も、 たくましい ナニ か が ある。 モウジュウ が トオク から ニオイ を かぎあって いる よう な カンサツ の シカタ で、 キン は、 タベ にも チャ を いれて やった。 「ねえ、 ちかい うち に オカネ の キリサゲ って ある って ホントウ なの?」 キン は ジョウダン-めかして たずねた。 「シンパイ する ほど もってる ん だな?」 「まあ! すぐ、 それ だ から、 アナタ って かわった わね。 そんな フウヒョウ を ヒト が してる から なの よ」 「さあ、 そんな ムリ な こと は イマ の ニホン じゃ できない だろう ね。 カネ の ない モノ には、 まず、 そんな シンパイ は ない さ」 「ホントウ ね……」 キン は いそいそ と ウイスキー の ビン を タベ の グラス に さした。 「ああ、 ハコネ か どっか しずか な ところ へ いきたい な。 2~3 ニチ そんな ところ で ぐっすり ねて みたい」 「つかれてる の」 「うん、 カネ の シンパイ で ね」 「でも、 カネ の シンパイ なんて アナタ-らしくて いい じゃあ ありません の? なまじ、 オンナ の シンパイ じゃ ない だけ……」 タベ は、 キン の とりすまして いる の が にくにくしかった。 ジョウトウ の コブツ を みて いる よう で おかしく も ある。 イッショ に イチヤ を すごした ところ で、 ホドコシ を して やる よう な もの だ と、 タベ は、 キン の アゴ の アタリ を みつめた。 しっかり した アゴ の セン が イシ の ツヨサ を あらわして いる。 さっき みた オシ の ジョチュウ の みずみずしい ワカサ が ミョウ に マブタ に だぶって きた。 うつくしい オンナ では ない が、 わかい と いう こと が、 オンナ に メ の こえて きた タベ には シンセン で あった。 なまじ、 この デアイ が はじめて ならば、 こうした モドカシサ も ない の では ない か と、 タベ は、 サッキ より も ツカレ の みえて きた キン の カオ に オイ を かんじる。 キン は ナニ か を さっした の か、 さっと たちあがって、 リンシツ に ゆく と、 キョウダイ の マエ に ゆき、 ホルモン の チュウシャキ を とって、 ずぶり と ウデ に さした。 ハダ を ダッシメン で きつく こすりながら、 カガミ の ナカ を のぞいて、 パフ で ハナ の ウエ を おさえた。 いろめきたつ オモイ の ない ダンジョ が、 こうした つまらない デアイ を して いる と いう こと に、 キン は くやしく なって きて、 おもいがけ も しない トオリマ の よう な ナミダ を マブタ に うかべた。 イタヤ だったら、 ヒザ に なきふす こと も できる。 あまえる こと も できる。 ナガヒバチ の マエ に いる タベ が、 すき なの か きらい なの か すこしも わからない の だ。 かえって もらいたく も あり、 もうすこし、 ナニ か を アイテ の ココロ に のこしたい アセリ も ある。 タベ の メ は、 ジブン と わかれて イライ、 タクサン の オンナ を みて きて いる の だ。 カワヤ へ たって、 カエリ、 ジョチュウベヤ を ちょっと のぞく と、 キヌ は、 シンブンシ の カタガミ を つくって、 ヨウサイ の ベンキョウ を イッショウ ケンメイ に して いた。 おおきな オシリ を ぺったり と タタミ に つけて、 かがみこむ よう に して ハサミ を つかって いる。 きっちり まいた カミ の エリモト が、 つやつや と しろくて、 みほれる よう に たっぷり と した ニクヅキ で あった。 キン は そのまま また ナガヒバチ の マエ へ もどった。 タベ は ねころんで いた。 キン は チャダンス の ウエ の ラジオ を かけた。 おもいがけない おおきい ヒビキ で ダイク が ながれだした。 タベ は むっくり と おきた。 そして また ウイスキー の グラス を クチビル に つける。 「キミ と、 シバマタ の カワジン へ いった こと が あった ね。 えらい アメ に ふりこめられて、 メシ の ない ウナギ を くった こと が あった なあ」 「ええ、 そんな こと あった わね、 あの コロ は もう、 タベモノ が とても フジユウ な とき だった わ。 アナタ が ヘイタイ さん に なる マエ よ、 トコノマ に あかい カノコユリ が さいてて さあ、 フタリ で、 カビン を ひっくりかえした こと おぼえて いる?」 「そんな こと あった ね……」 キン の カオ が キュウ に ふくらみ、 わかわかしく ヒョウジョウ が かわった。 「いつか また いこう か?」 「ええ、 そう ね、 でも もう、 ワタシ、 オックウ だわ…… もう、 あそこ も、 なんでも たべさせる よう に なってる でしょう ね?」 キン は、 さっき ないた カンショウ を けさない よう に、 そっと、 ムカシ の オモイデ を たぐりよせよう と ドリョク して いる。 そのくせ、 タベ とは ちがう オトコ の カオ が ココロ に うかぶ。 タベ と シバマタ に いった アト、 シュウセン チョクゴ に、 ヤマザキ と いう オトコ と イチド、 シバマタ へ いった キオク が ある。 ヤマザキ は つい せんだって イ の シュジュツ で しんで しまった。 バンカ で むしあつい ヒ の エドガワ-ベリ の カワジン の うすぐらい ヘヤ の ケシキ が うかんで くる。 こっとん、 こっとん、 ミズアゲ を して いる ジドウ ポンプ の オト が ミミ に ついて いた。 カナカナ が なきたてて、 マドベ の たかい エドガワ-ヅツミ の ウエ を カイダシ の ジテンシャ が キョウソウ の よう に ギンリン を ひからせて はしって いた もの だ。 ヤマザキ とは 2 ド-メ の アイビキ で あった が、 オンナ に ウブ な ヤマザキ の ワカサ が、 キン には しみじみ と シンセイ に かんじられた。 タベモノ も ホウフ だった し、 シュウセン の アト の キ の ぬけた セソウ が、 あんがい シンクウ の ナカ に いる よう に しずか だった。 カエリ は ヨル で、 シン コイワ へ ひろい グンドウロ を バス で もどった の を おぼえて いる。 「あれ から、 おもしろい ヒト に めぐりあった?」 「ワタシ?」 「うん……」 「おもしろい ヒト って、 アナタ イガイ に なにも ありません わ」 「ウソ つけ!」 「あら、 どうして、 そう じゃ ない の? こんな ワタシ を、 ダレ が アイテ に する もの です か……」 「シンヨウ しない」 「そう…… でも、 ワタシ、 これから さきだす つもり、 いきて いる カイ に ね」 「まだ、 そうとう ナガイキ だろう から ね」 「ええ、 ナガイキ を して、 ぼろぼろ に おいさらばえる まで……」 「ウワキ は やめない?」 「まあ、 アナタ って いう ヒト は、 ムカシ の ジュン な とこ すこしも なくなった わね。 どうして、 そんな いや な こと を いう ヒト に なった ん でしょう? ムカシ の アナタ は きれい だった わ」 タベ は、 キン の ギン の キセル を とって すって みた。 じゅっと にがい ヤニ が シタ に くる。 タベ は ハンカチ を だして、 べっと ヤニ を はいた。 「ソウジ しない から つまってる のよ」 キン は わらいながら、 キセル を とりあげて、 チリガミ の ウエ に コキザミ に つよく ふった。 タベ は、 キン の セイカツ を フシギ に かんがえる。 セソウ の ザンコクサ が なにひとつ アト を とどめて は いない と いう こと だ。 20~30 マン の カネ は なんとか ツゴウ の つきそう な クラシムキ だ。 タベ は キン の ニクタイ に たいして は なんの ミレン も なかった が、 この クラシ の ソコ に かくれて いる オンナ の セイカツ の ユタカサ に おいすがる キモチ だった。 センソウ から もどって、 タダ の ケッキ だけ で ショウバイ を して みた が、 アニ から の シホン は ハントシ-たらず で すっかり つかいはたして いた し、 サイクン イガイ の オンナ にも カカワリ が あって、 その オンナ にも やがて コドモ が できる の だ。 ムカシ の キン を おもいだして、 もしや と いう キモチ で キン の ところ へ きた の だ けれども、 キン は、 ムカシ の よう な イチズ の ところ は なくなって いて、 いやに フンベツ を こころえて いた。 タベ との ひさびさ の デアイ にも いっこう に もえて は こなかった。 カラダ を くずさない、 きちんと した ヒョウジョウ が、 タベ には なかなか ちかよりがたい の で ある。 もう イチド、 タベ は キン の テ を とって かたく にぎって みた。 キン は される まま に なって いる だけ で ある。 ヒバチ に のりだして くる でも なく、 カタテ で キセル の ヤニ を とって いる。
 ながい サイゲツ に さらされた と いう こと が、 フクザツ な カンジョウ を オタガイ の ムネ の ナカ に たたみこんで しまった。 ムカシ の あの ナツカシサ は もう ニド と ふたたび もどって は こない ほど、 フタリ とも ヘイコウ して トシ を とって きた の だ。 フタリ は だまった まま ゲンザイ を ヒカク しあって いる。 ゲンメツ の ワ の ナカ に しずみこんで しまって いる。 フタリ は フクザツ な ツカレカタ で あって いる の だ。 ショウセツテキ な グウゼン は この ゲンジツ には ミジン も ない。 ショウセツ の ほう が はるか に あまい の かも しれない。 ビミョウ な ジンセイ の シンジツ。 フタリ は オタガイ を ここ で キョゼツ しあう ため に あって いる に すぎない。 タベ は、 キン を ころして しまう こと も クウソウ した。 だが、 こんな オンナ でも ころした と なる と ツミ に なる の だ と おもう と ミョウ な キ が した。 ダレ から も チュウイ されない オンナ を ヒトリ や フタリ ころした ところ で、 それ が ナン だろう と おもいながら も、 それ が ザイニン に なって しまう ケッカ の こと を かんがえる と ばかばかしく なって くる の だ。 たかが ムシケラ ドウゼン の ロウジョ では ない か と おもいながら も、 この オンナ は ナニゴト にも どうじない で ここ に いきて いる の だ。 フタツ の タンス の ナカ には、 50 ネン かけて つくった キモノ が ぎっしり と はいって いる に ちがいない。 ムカシ、 ミッシェル とか いった フランスジン に おくられた ウデワ を みせられた こと が あった けれども、 ああした ホウセキルイ も もって いる に ちがいない。 この イエ も カノジョ の もの で ある に きまって いる。 オシ の ジョチュウ を おいて いる オンナ の ヒトリ ぐらい を ころした ところ で たいした こと は あるまい と クウソウ を たくましく しながら も、 タベ は、 この オンナ に おもいつめて、 センソウ サナカ アイビキ を つづけて いた ガクセイ ジダイ の、 この オモイデ が いきぐるしく セイセン を はなって くる。 サケ の ヨイ が まわった せい か、 メノマエ に いる キン の オモカゲ が ジブン の ヒフ の ナカ に ミョウ に しびれこんで くる。 テ を ふれる キ も ない くせ に、 キン との ムカシ が リョウカン を もって ココロ に カゲ を つくる。
 キン は たって、 オシイレ の ナカ から、 タベ の ガクセイ ジダイ の シャシン を 1 マイ だして きた。 「ほほう、 ミョウ な もの もって いる ん だね」 「 ええ、 スミコ の ところ に あった のよ。 もらって きた の、 これ、 ワタシ と あう マエ の コロ の ね。 この コロ の アナタ って キコウシ みたい よ。 コンガスリ で いい じゃ ない? もって いらっしゃい よ。 オクサマ に おみせ に なる と いい わ。 きれい ね。 いやらしい こと を いう ヒト には みえません ね」 「こんな ジダイ も あった ん だね?」 「ええ、 そう よ。 コノママ で すくすく と そだって いったら、 タベ さん は たいした もの だった のね?」 「じゃあ、 すくすく と そだたなかった って いう の?」 「ええ、 そう」 「そりゃあ、 キミ の せい だし、 ながい センソウ も あった し ね」 「あら、 そんな こと、 コジツケ だわ。 そんな こと は ゲンイン に ならなくて よ。 アナタ って、 とても ゾク に なっちゃった……」 「へえ…… ゾク に ね。 これ が ニンゲン なん だよ」 「でも、 ながい こと、 この シャシン を もちあるいて いた ワタシ の ジュンジョウ も いい じゃあ ない の?」 「タショウ は オモイデ もん だろう から ね。 ボク には くれなかった ね?」 「ワタシ の シャシン?」 「うん」 「シャシン は こわい わ。 でも、 ムカシ の ワタシ の ゲイシャ ジダイ の シャシン、 センチ に おくって あげた でしょう?」 「どこ か へ おっことしちゃった なあ……」 「それ ごらんなさい。 ワタシ の ほう が、 ずっと ジュン だわ」
 ナガヒバチ の トリデ は、 なかなか くずれそう にも ない。 タベ は、 もう すっかり よっぱらって しまった。 キン の マエ に ある グラス は、 ハジメ の 1 パイ を ついだ まま の が、 まだ ハンブン イジョウ も のこって いる。 タベ は つめたい チャ を イッキ に のんで、 ジブン の シャシン を キョウミ も なく ヨコイタ の ウエ に おいた。 「デンシャ、 だいじょうぶ?」 「かえれ や しない よ。 このまま ヨッパライ を おいだす の かい」 「ええ、 そう、 ぽいと ほうりだしちゃう わ。 ここ は オンナ の ウチ で、 キンジョ が うるさい です から ね」 「キンジョ? へえ、 そんな もの キミ が キ に する とは おもわない な」 「キ に します」 「ダンナ が くる の?」 「まあ! いや な タベ さん、 ワタシ、 ぞっと して しまって よ。 そんな こと いう アナタ って きらいっ!」 「いい さ。 カネ が できなきゃ、 2~3 ニチ かえれない ん だ。 ここ へ おいて もらう かな……」 キン は、 リョウテ で ホオヅエ を ついて、 じいっと おおきい メ を みはって タベ の しろっぽい クチビル を みた。 ヒャクネン の コイ も さめはてる の だ。 だまって、 メノマエ に いる オトコ を ギンミ して いる。 ムカシ の よう な、 ココロ の イロドリ は もう おたがいに きえて しまって いる。 セイネンキ に あった オトコ の ハジライ が すこしも ない の だ。 キンイップウ を だして もどって もらいたい くらい だ。 だが、 キン は、 メノマエ に だらしなく よって いる オトコ に 1 セン の カネ も だす の は いや で あった。 ういういしい オトコ に だして やる ほう が まだ まし で ある。 ジソンシン の ない オトコ ほど いや な もの は ない。 ジブン に チミチ を あげて きた オトコ の ウイウイシサ を キン は イクド も ケイケン して いた。 キン は、 そうした オトコ の ウイウイシサ に ひかれて いた し、 コウショウ な もの にも おもって いた。 リソウテキ な アイテ を えらぶ こと イガイ に カノジョ の キョウミ は ない。 キン は、 ココロ の ナカ で、 タベ を つまらぬ オトコ に なりさがった もの だ と おもった。 センシ も しない で もどって きた ウン の ツヨサ が、 キン には ウンメイ を かんじさせる。 ヒロシマ まで タベ を おって いった、 あの とき の クロウ だけ で、 もう この オトコ とは マク に す べき だった と おもう の だった。 「ナニ を じろじろ ヒト の カオ みてる ん だ?」 「あら、 アナタ だって、 サッキ から、 ワタシ を じろじろ みてて ナニ か イイキ な こと かんがえて いた でしょう?」 「いや、 いつ あって も うつくしい キン さん だ と みほれて いた のさ……」 「そう、 ワタシ も、 そう なの。 タベ さん は リッパ に なった と おもって……」 「ギャクセツ だね」 タベ は、 ヒトゴロシ の クウソウ を して いた の だ と クチ まで でかけて いる の を ぐっと おさえて、 ギャクセツ だね と にげた。 「アナタ は これから オトコザカリ だ から タノシミ だ わね」 「キミ も まだまだ じゃ ない の?」 「ワタシ? ワタシ は もう ダメ。 このまま しぼんで ゆく きり。 2~3 ネン したら、 イナカ へ いって くらしたい のよ」 「ぼろぼろ に なる まで ナガイキ して、 ウワキ する って いった の は ウソ?」 「あら、 そんな こと、 ワタシ いいません よ。 ワタシ って、 オモイデ に いきてる オンナ なの よ。 ただ、 それ だけ。 いい オトモダチ に なりましょう ね」 「にげてる ね。 ジョガクセイ みたい な こと を いいなさんな よ。 ええ。 オモイデ だの って もの は どうでも いい な」 「そう かしら…… だって、 シバマタ へ いった の いいだした の アナタ よ」 タベ は また ヒザ を ぶるぶる と セッカチ に ゆすぶった。 カネ が ほしい。 カネ。 なんとか して、 ただ、 5 マン エン でも、 キン に かりたい の だ。 「ホントウ に ツゴウ つかない かねえ? ミセ を タンポ に おいて も ダメ?」 「あら、 また、 オカネ の ハナシ? そんな こと を ワタシ に おっしゃって も ダメ よ。 ワタシ、 1 セン も ない のよ。 そんな オカネモチ も しらない し、 ある よう で ない の が カネ じゃ ない の。 ワタシ、 アナタ に かりたい くらい だわ……」 「そりゃあ うまく ゆけば、 うんと キミ に もって くる さ。 キミ は、 わすれられない ヒト だ もの、……」 「もう タクサン よ、 そんな オセジ は…… オカネ の ハナシ しない って いった でしょう?」 わあっと アタリ イチメン みずっぽい アキ の ヨカゼ が ふきまくる よう で、 タベ は、 ナガヒバチ の ヒバシ を にぎった。 イッシュン、 すさまじい イカリ が マユ の アタリ に はう。 ナゾ の よう に ユウワク される ヒトツ の カゲ に むかって、 タベ は ヒバシ を かたく にぎった。 ライコウ の よう な トドロキ が ドウキ を うつ。 その ドウキ に シゲキ される。 キン は なんとない フアン な メ で タベ の テモト を みつめた。 いつか、 こんな バメン が ジブン の シュウイ に あった よう な ニジュウウツシ を みる よう な キ が した。 「アナタ、 よってる のね、 とまって いく と いい わ……」 タベ は とまって いく と いい と いわれて、 ふっと ヒバシ を もった テ を はなした。 ひどく メイテイ した カッコウ で、 タベ は よろめきながら カワヤ へ たって いった。 キン は タベ の ウシロスガタ に ヨカン を うけとり、 ココロ の ウチ で ふふん と ケイベツ して やる。 この センソウ で スベテ の ニンゲン の ココロ の カンキョウ が がらり と かわった の だ。 キン は、 チャダナ から ヒロポン の ツブ を だして すばやく のんだ。 ウイスキー は まだ 3 ブン の 1 は のこって いる。 これ を みんな のませて、 ドロ の よう に ねむらせて、 アス は おいかえして やる。 ジブン だけ は ねむって いられない の だ。 よく おこった ヒバチ の あおい ホノオ の ウエ に、 タベ の わかかりし コロ の シャシン を くべた。 もうもう と ケムリ が たちのぼる。 モノ の やける ニオイ が アタリ に こもる。 ジョチュウ の キヌ が そっと ひらいて いる フスマ から のぞいた。 キン は わらいながら テマネ で、 キャクマ に フトン を しく よう に いいつけた。 カミ の やける ニオイ を けす ため に、 キン は うすく きった チーズ の ヒトキレ を ヒ に くべた。 「わあ、 ナニ やいてる の」 カワヤ から もどって きた タベ が ジョチュウ の ゆたか な カタ に テ を かけて フスマ から のぞきこんだ。 「チーズ を やいて たべたら どんな アジ か と おもって、 ヒバシ で つまんだら ヒ に おっことしちまった のよ」 しろい ケムリ の ナカ に、 マッスグ な くろい ケムリ が すっと たちのぼって いる。 デンキ の まるい ガラスガサ が、 クモ の ナカ に ういた ツキ の よう に みえた。 アブラ の やける ニオイ が ハナ に つく。 キン は、 ケムリ に むせて、 アタリ の ショウジ や フスマ を あらあらしく あけて まわった。
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