カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ジョセイト 2

2016-04-04 | ダザイ オサム
 ウチ へ かえって みる と、 オキャクサマ。 オカアサン も、 もう かえって おられる。 レイ に よって、 ナニ か、 にぎやか な ワライゴエ。 オカアサン は、 ワタシ と フタリ きり の とき には、 カオ が どんな に わらって いて も、 コエ を たてない。 けれども、 オキャクサマ と おはなし して いる とき には、 カオ は、 ちっとも わらって なくて、 コエ ばかり、 かんだかく わらって いる。 アイサツ して、 すぐ ウラ へ まわり、 イドバタ で テ を あらい、 クツシタ ぬいで、 アシ を あらって いたら、 サカナヤ さん が きて、 おまちどおさま、 マイド、 ありがとう と いって、 おおきい オサカナ を 1 ピキ、 イドバタ へ おいて いった。 なんと いう、 オサカナ か、 わからない けれど、 ウロコ の こまかい ところ、 これ は ホッカイ の もの の カンジ が する。 オサカナ を、 オサラ に うつして、 また テ を あらって いたら、 ホッカイドウ の ナツ の ニオイ が した。 オトトシ の ナツヤスミ に、 ホッカイドウ の オネエサン の ウチ へ あそび に いった とき の こと を おもいだす。 トマコマイ の オネエサン の ウチ は、 カイガン に ちかい ゆえ か、 しじゅう オサカナ の ニオイ が して いた。 オネエサン が、 あの オウチ の がらん と ひろい オダイドコロ で、 ユウガタ ヒトリ、 しろい おんならしい テ で、 ジョウズ に オサカナ を オリョウリ して いた ヨウス も、 はっきり うかぶ。 ワタシ は、 あの とき、 なぜか オネエサン に あまえたくて、 たまらなく こがれて、 でも オネエサン には、 あの コロ、 もう トシ ちゃん も うまれて いて、 オネエサン は、 ワタシ の もの では なかった の だ から、 それ を おもえば、 ひゅう と つめたい スキマカゼ が かんじられて、 どうしても、 オネエサン の ほそい カタ に だきつく こと が できなくて、 しぬ ほど さびしい キモチ で、 じっと、 あの ほのぐらい オダイドコロ の スミ に たった まま、 キ の とおく なる ほど オネエサン の しろく やさしく うごく ユビサキ を みつめて いた こと も、 おもいだされる。 すぎさった こと は、 みんな なつかしい。 ニクシン って、 フシギ な もの。 タニン ならば、 とおく はなれる と しだいに あわく、 わすれて ゆく もの なのに、 ニクシン は、 なおさら、 なつかしい うつくしい ところ ばかり おもいだされる の だ から。
 イドバタ の グミ の ミ が、 ほんのり あかく いろづいて いる。 もう 2 シュウカン も したら、 たべられる よう に なる かも しれない。 キョネン は、 おかしかった。 ワタシ が ユウガタ ヒトリ で グミ を とって たべて いたら、 ジャピー だまって みて いる ので、 かわいそう で ヒトツ やった。 そしたら、 ジャピー たべちゃった。 また フタツ やったら、 たべた。 あんまり おもしろくて、 この キ を ゆすぶって、 ぽたぽた おとしたら、 ジャピー ムチュウ に なって たべはじめた。 バカ な ヤツ。 グミ を たべる イヌ なんて、 はじめて だ。 ワタシ も セノビ して は、 グミ を とって たべて いる。 ジャピー も シタ で たべて いる。 おかしかった。 その こと、 おもいだしたら、 ジャピー を なつかしくて、
「ジャピー!」 と よんだ。
 ジャピー は、 ゲンカン の ほう から、 きどって はしって きた。 キュウ に、 ハギシリ する ほど ジャピー を かわいく なっちゃって、 シッポ を つよく つかむ と、 ジャピー は ワタシ の テ を やわらかく かんだ。 ナミダ が でそう な キモチ に なって、 アタマ を ぶって やる。 ジャピー は、 ヘイキ で、 イドバタ の ミズ を オト を たてて のむ。
 オヘヤ へ はいる と、 ぽっと デントウ が、 ともって いる。 しんと して いる。 オトウサン いない。 やっぱり、 オトウサン が いない と、 ウチ の ナカ に、 どこ か おおきい クウセキ が、 ぽかん と のこって ある よう な キ が して、 ミモダエ したく なる。 ワフク に きがえ、 ぬぎすてた シタギ の バラ に きれい な キス して、 それから キョウダイ の マエ に すわったら、 キャクマ の ほう から オカアサン たち の ワライゴエ が、 どっと おこって、 ワタシ は、 なんだか、 むかっと なった。 オカアサン は、 ワタシ と フタリ きり の とき は いい けれど、 オキャク が きた とき には、 へんに ワタシ から とおく なって、 つめたく よそよそしく、 ワタシ は そんな とき に、 いちばん オトウサン が なつかしく かなしく なる。
 カガミ を のぞく と、 ワタシ の カオ は、 おや、 と おもう ほど いきいき して いる。 カオ は、 タニン だ。 ワタシ ジシン の カナシサ や クルシサ や、 そんな ココロモチ とは、 ぜんぜん カンケイ なく、 ベッコ に ジユウ に いきて いる。 キョウ は ホオベニ も、 つけない のに、 こんな に ホオ が ぱっと あかくて、 それに、 クチビル も ちいさく あかく ひかって、 かわいい。 メガネ を はずして、 そっと わらって みる。 メ が、 とっても いい。 あおく あおく、 すんで いる。 うつくしい ユウゾラ を、 ながい こと みつめた から、 こんな に いい メ に なった の かしら。 しめた もの だ。
 すこし うきうき して ダイドコロ へ ゆき、 オコメ を といで いる うち に、 また かなしく なって しまった。 セン の コガネイ の ウチ が なつかしい。 ムネ が やける ほど こいしい。 あの、 いい オウチ には、 オトウサン も いらしった し、 オネエサン も いた。 オカアサン だって、 わかかった。 ワタシ が ガッコウ から かえって くる と、 オカアサン と、 オネエサン と、 ナニ か おもしろそう に ダイドコロ か、 チャノマ で ハナシ を して いる。 オヤツ を もらって、 ひとしきり フタリ に あまえたり、 オネエサン に ケンカ ふっかけたり、 それから きまって しかられて、 ソト へ とびだして トオク へ トオク へ ジテンシャ のり、 ユウガタ には かえって きて、 それから たのしく ゴハン だ。 ホントウ に たのしかった。 ジブン を みつめたり、 フケツ に ぎくしゃく する こと も なく、 ただ、 あまえて いれば よかった の だ。 なんと いう おおきい トッケン を ワタシ は キョウジュ して いた こと だろう。 しかも ヘイキ で。 シンパイ も なく、 サビシサ も なく、 クルシミ も なかった。 オトウサン は、 リッパ な よい オトウサン だった。 オネエサン は、 やさしく、 ワタシ は、 いつも オネエサン に ぶらさがって ばかり いた。 けれども、 すこし ずつ おおきく なる に つれて、 だいいち ワタシ が ジシン いやらしく なって、 ワタシ の トッケン は いつのまにか ショウシツ して、 アカハダカ、 みにくい みにくい。 ちっとも、 ヒト に あまえる こと が できなく なって、 かんがえこんで ばかり いて、 くるしい こと ばかり おおく なった。 オネエサン は、 オヨメ に いって しまった し、 オトウサン は、 もう いない。 たった オカアサン と ワタシ だけ に なって しまった。 オカアサン も おさびしい こと ばかり なの だろう。 コナイダ も オカアサン は、 「もう これから サキ は、 いきる タノシミ が なくなって しまった。 アナタ を みたって、 ワタシ は、 ホントウ は、 あまり タノシミ かんじない。 ゆるして おくれ。 コウフク も、 オトウサン が いらっしゃらなければ、 こない ほう が よい」 と おっしゃった。 カ が でて くる と、 ふと オトウサン を おもいだし、 ホドキモノ を する と、 オトウサン を おもいだし、 ツメ を きる とき にも オトウサン を おもいだし、 オチャ が おいしい とき にも、 きっと オトウサン を おもいだす そう で ある。 ワタシ が、 どんな に オカアサン の キモチ を いたわって、 ハナシアイテ に なって あげて も、 やっぱり オトウサン とは ちがう の だ。 フウフアイ と いう もの は、 この ヨノナカ で いちばん つよい もの で、 ニクシン の アイ より も、 とうとい もの に ちがいない。 ナマイキ な こと かんがえた ので、 ヒトリ で カオ が あかく なって きて、 ワタシ は、 ぬれた テ で カミ を かきあげる。 しゅっしゅっ と オコメ を とぎながら、 ワタシ は、 オカアサン が かわいく、 いじらしく なって、 ダイジ に しよう と、 しんから おもう。 こんな ウェーヴ かけた カミ なんか、 さっそく ときほぐして しまって、 そうして カミノケ を もっと ながく のばそう。 オカアサン は、 せんから、 ワタシ の カミ の みじかい の を いやがって いらした から、 うんと のばして、 きちんと ゆって みせたら、 よろこぶ だろう。 けれども、 そんな こと まで して、 オカアサン を、 いたわる の も いや だな。 いやらしい。 かんがえて みる と、 コノゴロ の、 ワタシ の イライラ は、 ずいぶん オカアサン と カンケイ が ある。 オカアサン の キモチ に、 ぴったり そった いい ムスメ で ありたい し、 それだから とて、 へんに ゴキゲン とる の も いや なの だ。 だまって いて も、 オカアサン、 ワタシ の キモチ を ちゃんと わかって アンシン して いらしったら、 いちばん いい の だ。 ワタシ は、 どんな に、 ワガママ でも、 けっして セケン の モノワライ に なる よう な こと は しない の だし、 つらくて も、 さびしくって も、 ダイジ な ところ は、 きちんと まもって、 そうして オカアサン と、 この ウチ と を、 あいして あいして、 あいして いる の だ から、 オカアサン も、 ワタシ を ゼッタイ に しんじて、 ぼんやり ノンキ に して いらしたら、 それ で いい の だ。 ワタシ は、 きっと リッパ に やる。 ミ を コ に して つとめる。 それ が イマ の ワタシ に とって も、 いちばん おおきい ヨロコビ なん だし、 いきる ミチ だ と おもって いる のに、 オカアサン たら、 ちっとも ワタシ を シンライ しない で、 まだまだ、 コドモ アツカイ に して いる。 ワタシ が こどもっぽい こと いう と、 オカアサン は よろこんで、 コナイダ も、 ワタシ が、 ばからしい、 わざと ウクレレ もちだして、 ぽんぽん やって はしゃいで みせたら、 オカアサン は、 しんから うれしそう に して、
「おや、 アメ かな? アマダレ の オト が きこえる ね」 と、 とぼけて いって、 ワタシ を からかって、 ワタシ が、 ホンキ で ウクレレ なんか に ネッチュウ して いる と でも おもって いる らしい ヨウス なので、 ワタシ は、 あさましくて、 なきたく なった。 オカアサン、 ワタシ は、 もう オトナ なの です よ。 ヨノナカ の こと、 なんでも、 もう しって いる の です よ。 アンシン して、 ワタシ に なんでも ソウダン して ください。 ウチ の ケイザイ の こと なんか でも、 ワタシ に ゼンブ うちあけて、 こんな ジョウタイ だ から、 オマエ も と いって くださった なら、 ワタシ は けっして、 クツ なんか ねだり は しません。 しっかり した、 つましい、 つましい ムスメ に なります。 ホントウ に、 それ は、 たしか なの です。 それなのに、 ああ、 それなのに、 と いう ウタ が あった の を おもいだして、 ヒトリ で くすくす わらって しまった。 キ が つく と、 ワタシ は ぼんやり オナベ に リョウテ を つっこんだ まま で、 バカ みたい に、 あれこれ かんがえて いた の で ある。
 いけない、 いけない。 オキャクサマ へ、 はやく ユウショク さしあげなければ。 サッキ の おおきい オサカナ は、 どう する の だろう。 とにかく サンマイ に おろして、 オミソ に つけて おく こと に しよう。 そうして たべる と、 きっと おいしい。 リョウリ は、 すべて、 カン で ゆかなければ いけない。 キュウリ が すこし のこって いる から、 あれ で もって、 サンバイズ。 それから、 ワタシ の ジマン の タマゴヤキ。 それから、 もう ヒトシナ。 あ、 そう だ。 ロココ リョウリ に しよう。 これ は、 ワタシ の コウアン した もの で ございまして。 オサラ ヒトツヒトツ に、 それぞれ、 ハム や タマゴ や、 パセリ や、 キャベツ、 ホウレンソウ、 オダイドコロ に のこって ある もの イッサイ ガッサイ、 イロトリドリ に、 うつくしく ハイゴウ させて、 テギワ よく ならべて だす の で あって、 テスウ は いらず、 ケイザイ だし、 ちっとも、 おいしく は ない けれども、 でも ショクタク は、 ずいぶん にぎやか に カレイ に なって、 なんだか、 たいへん ゼイタク な ゴチソウ の よう に みえる の だ。 タマゴ の カゲ に パセリ の アオクサ、 その ソバ に、 ハム の あかい サンゴショウ が ちらと カオ を だして いて、 キャベツ の きいろい ハ は、 ボタン の カベン の よう に、 トリ の ハネ の センス の よう に オサラ に しかれて、 ミドリ したたる ホウレンソウ は、 ボクジョウ か コスイ か。 こんな オサラ が、 フタツ も ミッツ も ならべられて ショクタク に だされる と、 オキャクサマ は ゆくりなく、 ルイ オウチョウ を おもいだす。 まさか、 それほど でも ない けれど、 どうせ ワタシ は、 おいしい ゴチソウ なんて つくれない の だ から、 せめて、 テイサイ だけ でも うつくしく して、 オキャクサマ を ゲンワク させて、 ごまかして しまう の だ。 リョウリ は、 ミカケ が ダイイチ で ある。 たいてい、 それ で、 ごまかせます。 けれども、 この ロココ リョウリ には、 よほど の エゴコロ が ヒツヨウ だ。 シキサイ の ハイゴウ に ついて、 ヒトイチバイ、 ビンカン で なければ、 シッパイ する。 せめて ワタシ くらい の デリカシー が なければ ね。 ロココ と いう コトバ を、 こないだ ジテン で しらべて みたら、 カレイ のみ にて ナイヨウ クウソ の ソウショク ヨウシキ、 と テイギ されて いた ので、 わらっちゃった。 メイトウ で ある。 ウツクシサ に、 ナイヨウ なんて あって たまる もの か。 ジュンスイ の ウツクシサ は、 いつも ムイミ で、 ムドウトク だ。 きまって いる。 だから、 ワタシ は、 ロココ が すき だ。
 いつも そう だ が、 ワタシ は オリョウリ して、 あれこれ アジ を みて いる うち に、 なんだか ひどい キョム に やられる。 しにそう に つかれて、 インウツ に なる。 あらゆる ドリョク の ホウワ ジョウタイ に おちいる の で ある。 もう、 もう、 なんでも、 どうでも、 よく なって くる。 ついには、 ええっ! と、 ヤケクソ に なって、 アジ でも テイサイ でも、 めちゃめちゃ に、 なげとばして、 ばたばた やって しまって、 じつに フキゲン な カオ して、 オキャク に さしだす。
 キョウ の オキャクサマ は、 ことにも ユウウツ。 オオモリ の イマイダ さん ゴフウフ に、 コトシ ナナツ の ヨシオ さん。 イマイダ さん は、 もう 40 ちかい のに、 コウダンシ みたい に イロ が しろくて、 いやらしい。 なぜ、 シキシマ なぞ を すう の だろう。 リョウギリ の タバコ で ない と、 なんだか、 フケツ な カンジ が する。 タバコ は、 リョウギリ に かぎる。 シキシマ なぞ を すって いる と、 その ヒト の ジンカク まで が、 うたがわしく なる の だ。 いちいち テンジョウ を むいて ケムリ を はいて、 はあ、 はあ、 なるほど、 なんて いって いる。 イマ は、 ヤガク の センセイ を して いる そう だ。 オクサン は、 ちいさくて、 おどおど して、 そして ゲヒン だ。 つまらない こと に でも、 カオ を タタミ に くっつける よう に して、 カラダ を くねらせて、 わらいむせぶ の だ。 おかしい こと なんて ある もの か。 そうして おおげさ に わらいふす の が、 ナニ か ジョウヒン な こと だろう と、 オモイチガイ して いる の だ。 イマ の この ヨノナカ で、 こんな カイキュウ の ヒトタチ が、 いちばん わるい の では ない かしら。 いちばん きたない。 プチブル と いう の かしら。 コヤクニン と いう の かしら。 コドモ なんか も、 へんに こましゃくれて、 すなお な ゲンキ な ところ が、 ちっとも ない。 そう おもって いながら も、 ワタシ は そんな キモチ を、 みんな おさえて、 オジギ を したり、 わらったり、 はなしたり、 ヨシオ さん を かわいい かわいい と いって アタマ を なでて やったり、 まるで ウソ ついて ミナ を だまして いる の だ から、 イマイダ ゴフウフ なんか でも、 まだまだ、 ワタシ より は セイジュン かも しれない。 ミナサン ワタシ の ロココ リョウリ を たべて、 ワタシ の ウデマエ を ほめて くれて、 ワタシ は わびしい やら、 はらだたしい やら、 なきたい キモチ なの だ けれど、 それでも、 つとめて、 うれしそう な カオ を して みせて、 やがて ワタシ も ゴショウバン して イッショ に ゴハン を たべた の で ある が、 イマイダ さん の オクサン の、 しつこい ムチ な オセジ には、 さすが に むかむか して、 よし、 もう ウソ は、 つくまい と きっと なって、
「こんな オリョウリ、 ちっとも おいしく ございません。 なんにも ない ので、 ワタシ の キュウヨ の イッサク なん です よ」 と、 ワタシ は、 ありのまま ジジツ を、 いった つもり なのに、 イマイダ さん ゴフウフ は、 キュウヨ の イッサク とは、 うまい こと を おっしゃる、 と テ を うたん ばかり に わらいきょうじる の で ある。 ワタシ は、 くやしくて、 オハシ と オチャワン ほうりだして、 オオゴエ あげて なこう かしら と おもった。 じっと こらえて、 ムリ に、 にやにや わらって みせたら、 オカアサン まで が、
「この コ も、 だんだん ヤク に たつ よう に なりました よ」 と、 オカアサン、 ワタシ の かなしい キモチ、 ちゃんと わかって いらっしゃる くせ に、 イマイダ さん の キモチ を むかえる ため に、 そんな くだらない こと を いって、 ほほ と わらった。 オカアサン、 そんな に まで して、 こんな イマイダ なんか の ゴキゲン とる こと は、 ない ん だ。 オキャクサン と たいして いる とき の オカアサン は、 オカアサン じゃ ない。 タダ の よわい オンナ だ。 オトウサン が、 いなく なった から って、 こんな にも ヒクツ に なる もの か。 なさけなく なって、 なにも いえなく なっちゃった。 かえって ください、 かえって ください。 ワタシ の チチ は、 リッパ な オカタ だ。 やさしくて、 そうして ジンカク が たかい ん だ。 オトウサン が いない から って、 そんな に ワタシタチ を バカ に する ん だったら、 イマ すぐ かえって ください。 よっぽど イマイダ に、 そう いって やろう と おもった。 それでも ワタシ は、 やっぱり よわくて、 ヨシオ さん に ハム を きって あげたり、 オクサン に オツケモノ とって あげたり ホウシ を する の だ。
 ゴハン が すんで から、 ワタシ は すぐに ダイドコロ へ ひっこんで、 アトカタヅケ を はじめた。 はやく ヒトリ に なりたかった の だ。 なにも、 おたかく とまって いる の では ない けれども、 あんな ヒトタチ と これ イジョウ、 ムリ に ハナシ を あわせて みたり、 イッショ に わらって みたり する ヒツヨウ も ない よう に おもわれる。 あんな モノ にも、 レイギ を、 いやいや、 ヘツライ を いたす ヒツヨウ なんて ゼッタイ に ない。 いや だ。 もう、 これ イジョウ は いや だ。 ワタシ は、 つとめられる だけ は、 つとめた の だ。 オカアサン だって、 キョウ の ワタシ の ガマン して アイソ よく して いる タイド を、 うれしそう に みて いた じゃ ない か。 あれ だけ でも、 よかった ん だろう か。 つよく、 セケン の ツキアイ は、 ツキアイ、 ジブン は ジブン と、 はっきり クベツ して おいて、 ちゃんちゃん キモチ よく モノゴト に タイオウ して ショリ して ゆく ほう が いい の か、 または、 ヒト に わるく いわれて も、 いつでも ジブン を うしなわず、 トウカイ しない で ゆく ほう が いい の か、 どっち が いい の か、 わからない。 イッショウ、 ジブン と おなじ くらい よわい やさしい あたたかい ヒトタチ の ナカ で だけ セイカツ して ゆける ミブン の ヒト は、 うらやましい。 クロウ なんて、 クロウ せず に イッショウ すませる ん だったら、 わざわざ もとめて クロウ する ヒツヨウ なんて ない ん だ。 その ほう が、 いい ん だ。
 ジブン の キモチ を ころして、 ヒト に つとめる こと は、 きっと いい こと に ちがいない ん だ けれど、 これから サキ、 マイニチ、 イマイダ ゴフウフ みたい な ヒトタチ に ムリ に わらいかけたり、 アイヅチ うたなければ ならない の だったら、 ワタシ は、 キチガイ に なる かも しれない。 ジブン なんて、 とても カンゴク に はいれない な、 と おかしい こと を、 ふと おもう。 カンゴク どころ か、 ジョチュウ さん にも なれない。 オクサン にも なれない。 いや、 オクサン の バアイ は、 ちがう ん だ。 この ヒト の ため に イッショウ つくす の だ、 と ちゃんと カクゴ が きまったら、 どんな に くるしく とも、 マックロ に なって はたらいて、 そうして ジュウブン に イキガイ が ある の だ から、 キボウ が ある の だ から、 ワタシ だって、 リッパ に やれる。 アタリマエ の こと だ。 アサ から バン まで、 くるくる コマネズミ の よう に はたらいて あげる。 じゃんじゃん オセンタク を する。 たくさん ヨゴレモノ が たまった とき ほど、 フユカイ な こと が ない。 いらいら して、 ヒステリー に なった みたい に おちつかない。 しんで も しにきれない オモイ が する。 ヨゴレモノ を、 ゼンブ、 ヒトツ も のこさず あらって しまって、 モノホシザオ に かける とき は、 ワタシ は、 もう これ で、 いつ しんで も いい と おもう の で ある。
 イマイダ さん、 おかえり に なる。 なにやら ヨウジ が ある とか で、 オカアサン を つれて でかけて しまう。 はいはい ついて ゆく オカアサン も オカアサン だし、 イマイダ が なにかと オカアサン を リヨウ する の は、 コンド だけ では ない けれど、 イマイダ ゴフウフ の アツカマシサ が、 いや で いや で、 ぶんなぐりたい キモチ が する。 モン の ところ まで、 ミナサン を おおくり して、 ヒトリ ぼんやり ユウヤミ の ミチ を ながめて いたら、 ないて みたく なって しまう。
 ユウビンバコ には、 ユウカン と、 オテガミ 2 ツウ。 1 ツウ は オカアサン へ、 マツザカヤ から ナツモノ ウリダシ の ゴアンナイ。 1 ツウ は、 ワタシ へ、 イトコ の ジュンジ さん から。 コンド マエバシ の レンタイ へ テンニン する こと に なりました。 オカアサン に よろしく、 と カンタン な ツウチ で ある。 ショウコウ さん だって、 そんな に すばらしい セイカツ ナイヨウ など は、 キタイ できない けれど、 でも、 マイニチ マイニチ、 ゲンコク に ムダ なく キキョ する その キリツ が うらやましい。 いつも ミ が、 ちゃんちゃん と きまって いる の だ から、 キモチ の ウエ から ラク な こと だろう と おもう。 ワタシ みたい に、 なにも したく なければ、 いっそ なにも しなくて すむ の だし、 どんな わるい こと でも できる ジョウタイ に おかれて いる の だし、 また、 ベンキョウ しよう と おもえば、 ムゲン と いって いい くらい に ベンキョウ の ジカン が ある の だし、 ヨク を いったら、 よほど の ノゾミ でも かなえて もらえる よう な キ が する し、 ここ から ここ まで と いう ドリョク の ゲンカイ を あたえられたら、 どんな に キモチ が たすかる か わからない。 うんと かたく しばって くれる と、 かえって ありがたい の だ。 センチ で はたらいて いる ヘイタイ さん たち の ヨクボウ は、 たった ヒトツ、 それ は ぐっすり ねむりたい ヨクボウ だけ だ、 と ナニ か の ホン に かかれて あった けれど、 その ヘイタイ さん の クロウ を オキノドク に おもう ハンメン、 ワタシ は、 ずいぶん うらやましく おもった。 いやらしい、 ハンサ な ドウドウ メグリ の、 ネ も ハ も ない シアン の コウズイ から、 きれい に わかれて、 ただ ねむりたい ねむりたい と カツボウ して いる ジョウタイ は、 じつに セイケツ で、 タンジュン で、 おもう さえ ソウカイ を おぼえる の だ。 ワタシ など、 これ は イチド、 グンタイ セイカツ でも して、 さんざ きたわれたら、 すこし は、 はっきり した うつくしい ムスメ に なれる かも しれない。 グンタイ セイカツ しなくて も、 シン ちゃん みたい に、 すなお な ヒト だって ある のに、 ワタシ は、 よくよく、 いけない オンナ だ。 わるい コ だ。 シン ちゃん は、 ジュンジ さん の オトウト で、 ワタシ とは おなじ トシ なん だ けれど、 どうして あんな に、 いい コ なん だろう。 ワタシ は、 シンルイ-ジュウ で、 いや、 セカイジュウ で、 いちばん シン ちゃん を すき だ。 シン ちゃん、 メ が みえない ん だ。 わかい のに、 シツメイ する なんて、 なんと いう こと だろう。 こんな しずか な バン は、 オヘヤ に オヒトリ で いらして、 どんな キモチ だろう。 ワタシタチ なら、 わびしくて も、 ホン を よんだり、 ケシキ を ながめたり して、 いくぶん それ を まぎらかす こと が できる けれど、 シン ちゃん には、 それ が できない ん だ。 ただ、 だまって いる だけ なん だ。 これまで ヒトイチバイ、 がんばって ベンキョウ して、 それから テニス も、 スイエイ も オジョウズ だった の だ もの、 イマ の サビシサ、 クルシサ は どんな だろう。 ユウベ も シン ちゃん の こと を おもって、 トコ に はいって から 5 フン-カン、 メ を つぶって みた。 トコ に はいって メ を つぶって いる の で さえ、 5 フン-カン は ながく、 むなぐるしく かんじられる のに、 シン ちゃん は、 アサ も ヒル も ヨル も、 イクニチ も イクツキ も、 なにも みて いない の だ。 フヘイ を いったり、 カンシャク を おこしたり、 ワガママ いったり して くだされば、 ワタシ も うれしい の だ けれど、 シン ちゃん は、 なにも いわない。 シン ちゃん が フヘイ や ヒト の ワルクチ いった の を きいた こと が ない。 そのうえ いつも あかるい コトバヅカイ、 ムシン の カオツキ を して いる の だ。 それ が なおさら、 ワタシ の ムネ に、 ぴんと きて しまう。
 あれこれ かんがえながら オザシキ を はいて、 それから、 オフロ を わかす。 オフロバン を しながら、 ミカンバコ に こしかけ、 ちろちろ もえる セキタン の ヒ を タヨリ に ガッコウ の シュクダイ を ゼンブ すまして しまう。 それでも、 まだ オフロ が わかない ので、 ボクトウ キタン を よみかえして みる。 かかれて ある ジジツ は、 けっして いや な、 きたない もの では ない の だ。 けれども、 ところどころ サクシャ の キドリ が メ に ついて、 それ が なんだか、 やっぱり ふるい、 タヨリナサ を かんじさせる の だ。 オトシヨリ の せい で あろう か。 でも、 ガイコク の サッカ は、 いくら としとって も、 もっと ダイタン に あまく、 タイショウ を あいして いる。 そうして、 かえって イヤミ が ない。 けれども、 この サクヒン は、 ニホン では、 いい ほう の ブルイ なの では あるまい か。 わりに ウソ の ない、 しずか な アキラメ が、 サクヒン の ソコ に かんじられて すがすがしい。 この サクシャ の もの の ナカ でも、 これ が いちばん かれて いて、 ワタシ は すき だ。 この サクシャ は、 とっても セキニンカン の つよい ヒト の よう な キ が する。 ニホン の ドウトク に、 とても とても、 こだわって いる ので、 かえって ハンパツ して、 へんに どぎつく なって いる サクヒン が おおかった よう な キ が する。 アイジョウ の ふかすぎる ヒト に ありがち な ギアク シュミ。 わざと、 あくどい オニ の メン を かぶって、 それで かえって サクヒン を よわく して いる。 けれども、 この ボクトウ キタン には、 サビシサ の ある うごかない ツヨサ が ある。 ワタシ は、 すき だ。
 オフロ が わいた。 オフロバ に デントウ を つけて、 キモノ を ぬぎ、 マド を いっぱい に あけはなして から、 ひっそり オフロ に ひたる。 サンゴジュ の あおい ハ が マド から のぞいて いて、 1 マイ 1 マイ の ハ が、 デントウ の ヒカリ を うけて、 つよく かがやいて いる。 ソラ には ホシ が きらきら。 ナンド みなおして も、 きらきら。 あおむいた まま、 うっとり して いる と、 ジブン の カラダ の ホノジロサ が、 わざと みない の だ が、 それでも、 ぼんやり かんじられ、 シヤ の どこ か に、 ちゃんと はいって いる。 なお、 だまって いる と、 ちいさい とき の シロサ と ちがう よう に おもわれて くる。 いたたまらない。 ニクタイ が、 ジブン の キモチ と カンケイ なく、 ひとりでに セイチョウ して ゆく の が、 たまらなく、 コンワク する。 めきめき と、 オトナ に なって しまう ジブン を、 どう する こと も できなく、 かなしい。 ナリユキ に まかせて、 じっと して、 ジブン の オトナ に なって ゆく の を みて いる より シカタ が ない の だろう か。 いつまでも、 オニンギョウ みたい な カラダ で いたい。 オユ を じゃぶじゃぶ かきまわして、 コドモ の フリ を して みて も、 なんとなく キ が おもい。 これから サキ、 いきて ゆく リユウ が ない よう な キ が して きて、 くるしく なる。 ニワ の ムコウ の ハラッパ で、 オネエチャン! と、 ハンブン なきかけて よぶ ヨソ の コドモ の コエ に、 はっと ムネ を つかれた。 ワタシ を よんで いる の では ない けれども、 イマ の あの コ に なきながら したわれて いる その 「オネエチャン」 を うらやましく おもう の だ。 ワタシ に だって、 あんな に したって あまえて くれる オトウト が、 ヒトリ でも あった なら、 ワタシ は、 こんな に イチニチ イチニチ、 みっともなく、 まごついて いきて は いない。 いきる こと に、 ずいぶん ハリアイ も でて くる だろう し、 イッショウガイ を オトウト に ささげて、 つくそう と いう カクゴ だって、 できる の だ。 ホントウ に、 どんな つらい こと でも、 たえて みせる。 ヒトリ りきんで、 それから、 つくづく ジブン を かわいそう に おもった。
 フロ から あがって、 なんだか コンヤ は、 ホシ が キ に かかって、 ニワ に でて みる。 ホシ が、 ふる よう だ。 ああ、 もう ナツ が ちかい。 カエル が あちこち で ないて いる。 ムギ が、 ざわざわ いって いる。 ナンカイ、 ふりあおいで みて も、 ホシ が たくさん ひかって いる。 キョネン の こと、 いや キョネン じゃ ない、 もう、 オトトシ に なって しまった。 ワタシ が サンポ に いきたい と ムリ いって いる と、 オトウサン、 ビョウキ だった のに、 イッショ に サンポ に でて くださった。 いつも わかかった オトウサン。 ドイツ-ゴ の 「オマエ ヒャク まで、 ワシャ クジュウク まで」 と いう イミ と やら の コウタ を おしえて くださったり、 ホシ の オハナシ を したり、 ソッキョウ の シ を つくって みせたり、 ステッキ ついて、 ツバ を ぴゅっぴゅっ だしだし、 あの ぱちくり を やりながら イッショ に あるいて くださった、 よい オトウサン。 だまって ホシ を あおいで いる と、 オトウサン の こと、 はっきり おもいだす。 あれ から、 1 ネン、 2 ネン たって、 ワタシ は、 だんだん いけない ムスメ に なって しまった。 ヒトリ きり の ヒミツ を、 たくさん たくさん もつ よう に なりました。
 オヘヤ へ もどって、 ツクエ の マエ に すわって ホオヅエ つきながら、 ツクエ の ウエ の ユリ の ハナ を ながめる。 いい ニオイ が する。 ユリ の ニオイ を かいで いる と、 こうして ヒトリ で タイクツ して いて も、 けっして きたない キモチ が おきない。 この ユリ は、 キノウ の ユウガタ、 エキ の ほう まで サンポ して いって、 その カエリ に ハナヤ さん から 1 ポン かって きた の だ けれど、 それから は、 この ワタシ の ヘヤ は、 まるっきり ちがった ヘヤ みたい に すがすがしく、 フスマ を するする と あける と、 もう ユリ の ニオイ が、 すっと かんじられて、 どんな に たすかる か わからない。 こうして、 じっと みて いる と、 ホントウ に ソロモン の エイガ イジョウ だ と、 ジッカン と して、 ニクタイ カンカク と して、 シュコウ される。 ふと、 キョネン の ナツ の ヤマガタ を おもいだす。 ヤマ に いった とき、 ガケ の チュウフク に、 あんまり たくさん、 ユリ が さきみだれて いた ので おどろいて、 ムチュウ に なって しまった。 でも、 その キュウ な ガケ には、 とても よじのぼって ゆく こと が できない の が、 わかって いた から、 どんな に ひかれて も、 ただ、 みて いる より シカタ が なかった。 その とき、 ちょうど チカク に いあわせた みしらぬ コウフ が、 だまって どんどん ガケ に よじのぼって いって、 そして またたく うち に、 いっぱい、 リョウテ で かかえきれない ほど、 ユリ の ハナ を おって きて くれた。 そうして、 すこしも わらわず に、 それ を みんな ワタシ に もたせた。 それこそ、 いっぱい、 いっぱい だった。 どんな ゴウセイ な ステージ でも、 ケッコンシキジョウ でも、 こんな に タクサン の ハナ を もらった ヒト は ない だろう。 ハナ で メマイ が する って、 その とき はじめて あじわった。 その まっしろい おおきい おおきい ハナタバ を リョウウデ を ひろげて やっとこさ かかえる と、 マエ が ぜんぜん みえなかった。 シンセツ だった、 ホントウ に カンシン な わかい マジメ な コウフ は、 イマ どうして いる かしら。 ハナ を、 あぶない ところ に いって とって きて くれた、 ただ、 それ だけ なの だ けれど、 ユリ を みる とき には、 きっと コウフ を おもいだす。
 ツクエ の ヒキダシ を あけて、 かきまわして いたら、 キョネン の ナツ の センス が でて きた。 しろい カミ に、 ゲンロク ジダイ の オンナ の ヒト が ギョウギ わるく すわりくずれて、 その ソバ に、 あおい ホオズキ が フタツ かきそえられて ある。 この センス から、 キョネン の ナツ が、 ふう と ケムリ みたい に たちのぼる。 ヤマガタ の セイカツ、 キシャ の ナカ、 ユカタ、 スイカ、 カワ、 セミ、 フウリン。 キュウ に、 これ を もって キシャ に のりたく なって しまう。 センス を ひらく カンジ って、 よい もの。 ぱらぱら ホネ が ほどけて いって、 キュウ に ふわっと かるく なる。 くるくる もてあそんで いたら、 オカアサン かえって いらした。 ゴキゲン が よい。
「ああ、 つかれた、 つかれた」 と いいながら、 そんな に フユカイ そう な カオ も して いない。 ヒト の ヨウジ を して あげる の が おすき なの だ から シカタ が ない。
「なにしろ、 ハナシ が ややこしくて」 など いいながら キモノ を きがえ オフロ へ はいる。
 オフロ から あがって、 ワタシ と フタリ で オチャ を のみながら、 へんに にこにこ わらって、 オカアサン ナニ を いいだす か と おもったら、
「アナタ は、 コナイダ から 『ハダシ の ショウジョ』 を みたい みたい と いってた でしょう? そんな に いきたい なら、 いって も よ ござんす。 そのかわり、 コンバン は、 ちょっと オカアサン の カタ を もんで ください。 はたらいて いく の なら、 なおさら たのしい でしょう?」
 もう ワタシ は うれしくて たまらない。 「ハダシ の ショウジョ」 と いう エイガ も みたい とは おもって いた の だ が、 コノゴロ ワタシ は あそんで ばかり いた ので、 エンリョ して いた の だ。 それ を オカアサン、 ちゃんと さっして、 ワタシ に ヨウジ を いいつけて、 ワタシ に オオデ ふって エイガ み に ゆける よう に、 しむけて くださった。 ホントウ に、 うれしく、 オカアサン が すき で、 シゼン に わらって しまった。
 オカアサン と、 こうして ヨル フタリ きり で くらす の も、 ずいぶん ヒサシブリ だった よう な キ が する。 オカアサン、 とても コウサイ が おおい の だ から。 オカアサン だって、 いろいろ セケン から バカ に されまい と おもって つとめて おられる の だろう。 こうして カタ を もんで いる と、 オカアサン の オツカレ が、 ワタシ の カラダ に つたわって くる ほど、 よく わかる。 ダイジ に しよう、 と おもう。 センコク、 イマイダ が きて いた とき に、 オカアサン を、 こっそり うらんだ こと を、 はずかしく おもう。 ごめんなさい、 と クチ の ナカ で ちいさく いって みる。 ワタシ は、 いつも ジブン の こと だけ を かんがえ、 おもって、 オカアサン には、 やはり、 シンソコ から あまえて ランボウ な タイド を とって いる。 オカアサン は、 その つど、 どんな に いたい くるしい オモイ を する か、 そんな もの は、 てんで、 はねつけて いる ジブン だ。 オトウサン が いなく なって から は、 オカアサン は、 ホントウ に およわく なって いる の だ。 ワタシ ジシン、 くるしい の、 やりきれない の と いって オカアサン に カンゼン に ぶらさがって いる くせ に、 オカアサン が すこし でも ワタシ に よりかかったり する と、 いやらしく、 うすぎたない もの を みた よう な キモチ が する の は、 ホントウ に、 ワガママ-すぎる。 オカアサン だって、 ワタシ だって、 やっぱり おなじ よわい オンナ なの だ。 これから は、 オカアサン と フタリ だけ の セイカツ に マンゾク し、 いつも オカアサン の キモチ に なって あげて、 ムカシ の ハナシ を したり、 オトウサン の ハナシ を したり、 1 ニチ でも よい、 オカアサン チュウシン の ヒ を つくれる よう に したい。 そうして、 リッパ に イキガイ を かんじたい。 オカアサン の こと を、 ココロ では、 シンパイ したり、 よい ムスメ に なろう と おもう の だ けれど、 コウドウ や、 コトバ に でる ワタシ は、 ワガママ な コドモ ばっかり だ。 それに、 コノゴロ の ワタシ は、 コドモ みたい に、 きれい な ところ さえ ない。 よごれて、 はずかしい こと ばかり だ。 クルシミ が ある の、 なやんで いる の、 さびしい の、 かなしい の って、 それ は いったい、 なんの こと だ。 はっきり いったら、 しぬる。 ちゃんと しって いながら、 ヒトコト だって、 それ に にた メイシ ヒトツ ケイヨウシ ヒトツ いいだせない じゃ ない か。 ただ、 どぎまぎ して、 オシマイ には、 かっと なって、 まるで ナニ か みたい だ。 ムカシ の オンナ は、 ドレイ とか、 ジコ を ムシ して いる ムシケラ とか、 ニンギョウ とか、 ワルクチ いわれて いる けれど、 イマ の ワタシ なんか より は、 ずっと ずっと、 いい イミ の オンナラシサ が あって、 ココロ の ヨユウ も あった し、 ニンジュウ を さわやか に さばいて ゆける だけ の エイチ も あった し、 ジュンスイ の ジコ ギセイ の ウツクシサ も しって いた し、 カンゼン に ムホウシュウ の、 ホウシ の ヨロコビ も わきまえて いた の だ。
「ああ、 いい アンマ さん だ。 テンサイ です ね」
 オカアサン は、 レイ に よって ワタシ を からかう。
「そう でしょう? ココロ が こもって います から ね。 でも、 アタシ の トリエ は、 アンマ カミシモ、 それ だけ じゃ ない ん です よ。 それ だけ じゃ、 こころぼそい わねえ。 もっと、 いい とこ も ある ん です」
 すなお に おもって いる こと を、 そのまま いって みたら、 それ は ワタシ の ミミ にも、 とっても さわやか に ひびいて、 この 2~3 ネン、 ワタシ が、 こんな に、 ムジャキ に、 モノ を はきはき いえた こと は、 なかった。 ジブン の ブン を、 はっきり しって あきらめた とき に、 はじめて、 ヘイセイ な あたらしい ジブン が うまれて くる の かも しれない、 と うれしく おもった。
 コンヤ は オカアサン に、 イロイロ の イミ で オレイ も あって、 アンマ が すんで から、 オマケ と して、 クオレ を すこし よんで あげる。 オカアサン は、 ワタシ が こんな ホン を よんで いる の を しる と、 やっぱり アンシン な よう な カオ を なさる が、 センジツ ワタシ が、 ケッセル の ヒルガオ を よんで いたら、 そっと ワタシ から ホン を とりあげて、 ヒョウシ を ちらっと みて、 とても くらい カオ を なさって、 けれども なにも いわず に だまって、 そのまま すぐに ホン を かえして くださった けれど、 ワタシ も なんだか、 いや に なって つづけて よむ キ が しなく なった。 オカアサン、 ヒルガオ を よんだ こと が ない はず なのに、 それでも カン で、 わかる らしい の だ。 ヨル、 しずか な ナカ で、 ヒトリ で コエ たてて クオレ を よんで いる と、 ジブン の コエ が とても おおきく まぬけて ひびいて、 よみながら、 ときどき、 くだらなく なって、 オカアサン に はずかしく なって しまう。 アタリ が、 あんまり しずか なので、 バカバカシサ が めだつ。 クオレ は、 いつ よんで も、 ちいさい とき に よんで うけた カンゲキ と ちっとも かわらぬ カンゲキ を うけて、 ジブン の ココロ も、 すなお に、 きれい に なる よう な キ が して、 やっぱり いい な と おもう の で ある が、 どうも、 コエ を だして よむ の と、 メ で よむ の と では、 ずいぶん カンジ が ちがう ので、 オドロキ、 ヘイコウ の カタチ で ある。 でも、 オカアサン は、 エンリコ の ところ や、 ガロオン の ところ では、 うつむいて ないて おられた。 ウチ の オカアサン も、 エンリコ の オカアサン の よう に リッパ な うつくしい オカアサン で ある。
 オカアサン は、 サキ に オヤスミ。 ケサ はやく から オデカケ だった ゆえ、 ずいぶん つかれた こと と おもう。 オフトン を なおして あげて、 オフトン の スソ の ところ を はたはた たたいて あげる。 オカアサン は、 いつでも、 オトコ へ はいる と すぐ メ を つぶる。
 ワタシ は、 それから フロバ で オセンタク。 コノゴロ、 ヘン な クセ で、 12 ジ ちかく なって オセンタク を はじめる。 ヒルマ じゃぶじゃぶ やって ジカン を つぶす の、 おしい よう な キ が する の だ けれど、 ハンタイ かも しれない。 マド から オツキサマ が みえる。 しゃがんで、 しゃっしゃっ と あらいながら、 オツキサマ に、 そっと わらいかけて みる。 オツキサマ は、 しらぬ カオ を して いた。 ふと、 この おなじ シュンカン、 どこ か の かわいそう な さびしい ムスメ が、 おなじ よう に こうして オセンタク しながら、 この オツキサマ に、 そっと わらいかけた、 たしか に わらいかけた、 と しんじて しまって、 それ は、 とおい イナカ の ヤマ の チョウジョウ の イッケンヤ、 シンヤ だまって セド で オセンタク して いる、 くるしい ムスメ さん が、 イマ、 いる の だ、 それから、 パリー の ウラマチ の きたない アパート の ロウカ で、 やはり ワタシ と おなじ トシ の ムスメ さん が、 ヒトリ で こっそり オセンタク して、 この オツキサマ に わらいかけた、 と ちっとも うたがう ところ なく、 ボウエンキョウ で ホント に みとどけて しまった よう に、 シキサイ も センメイ に くっきり おもいうかぶ の で ある。 ワタシタチ ミンナ の クルシミ を、 ホント に ダレ も しらない の だ もの。 いまに オトナ に なって しまえば、 ワタシタチ の クルシサ ワビシサ は、 おかしな もの だった、 と なんでも なく ツイオク できる よう に なる かも しれない の だ けれど、 けれども、 その オトナ に なりきる まで の、 この ながい いや な キカン を、 どうして くらして いったら いい の だろう。 ダレ も おしえて くれない の だ。 ほって おく より シヨウ の ない、 ハシカ みたい な ビョウキ なの かしら。 でも、 ハシカ で しぬる ヒト も ある し、 ハシカ で メ の つぶれる ヒト だって ある の だ。 ほうって おく の は、 いけない こと だ。 ワタシタチ、 こんな に マイニチ、 うつうつ したり、 かっと なったり、 その ウチ には、 ふみはずし、 うんと ダラク して トリカエシ の つかない カラダ に なって しまって イッショウ を めちゃめちゃ に おくる ヒト だって ある の だ。 また、 ひとおもいに ジサツ して しまう ヒト だって ある の だ。 そう なって しまって から、 ヨノナカ の ヒトタチ が、 ああ、 もうすこし いきて いたら わかる こと なのに、 もうすこし オトナ に なったら、 しぜん と わかって くる こと なのに と、 どんな に くやしがったって、 その トウニン に して みれば、 くるしくて くるしくて、 それでも、 やっと そこ まで たえて、 ナニ か ヨノナカ から きこう きこう と ケンメイ に ミミ を すまして いて も、 やっぱり、 ナニ か アタリサワリ の ない キョウクン を くりかえして、 まあ、 まあ と、 なだめる ばかり で、 ワタシタチ、 いつまでも、 はずかしい スッポカシ を くって いる の だ。 ワタシタチ は、 けっして セツナ シュギ では ない けれども、 あんまり トオク の ヤマ を ゆびさして、 あそこ まで いけば ミハラシ が いい、 と、 それ は、 きっと その とおり で、 ミジン も ウソ の ない こと は、 わかって いる の だ けれど、 ゲンザイ こんな はげしい フクツウ を おこして いる のに、 その フクツウ に たいして は、 みて みぬ フリ を して、 ただ、 さあさあ、 もうすこし の ガマン だ、 あの ヤマ の チョウジョウ まで いけば、 しめた もの だ、 と ただ、 その こと ばかり おしえて いる。 きっと、 ダレ か が まちがって いる。 わるい の は、 アナタ だ。
 オセンタク を すまして、 オフロバ の オソウジ を して、 それから、 こっそり オヘヤ の フスマ を あける と、 ユリ の ニオイ。 すっと した。 ココロ の ソコ まで トウメイ に なって しまって、 スウコウ な ニヒル、 と でも いった よう な グアイ に なった。 しずか に ネマキ に きがえて いたら、 イマ まで すやすや ねむってる と ばかり おもって いた オカアサン、 メ を つぶった まま とつぜん いいだした ので、 びくっと した。 オカアサン、 ときどき こんな こと を して、 ワタシ を おどろかす。
「ナツ の クツ が ほしい と いって いた から、 キョウ シブヤ へ いった ツイデ に みて きた よ。 クツ も、 たかく なった ねえ」
「いい の、 そんな に ほしく なくなった の」
「でも、 なければ、 こまる でしょう」
「うん」
 アシタ も また、 おなじ ヒ が くる の だろう。 コウフク は イッショウ、 こない の だ。 それ は、 わかって いる。 けれども、 きっと くる、 アス は くる、 と しんじて ねる の が いい の でしょう。 わざと、 どさん と おおきい オト たてて フトン に たおれる。 ああ、 いい キモチ だ。 フトン が つめたい ので、 セナカ が ほどよく ひんやり して、 つい うっとり なる。 コウフク は イチヤ おくれて くる。 ぼんやり、 そんな コトバ を おもいだす。 コウフク を まって まって、 とうとう たえきれず に ウチ を とびだして しまって、 その あくる ヒ に、 すばらしい コウフク の シラセ が、 すてた ウチ を おとずれた が、 もう おそかった。 コウフク は イチヤ おくれて くる。 コウフク は、――
 オニワ を カア の あるく アシオト が する。 ぱたぱた ぱたぱた、 カア の アシオト には、 トクチョウ が ある。 ミギ の マエアシ が すこし みじかく、 それに マエアシ は O-ガタ で ガニ だ から、 アシオト にも さびしい クセ が ある の だ。 よく こんな マヨナカ に、 オニワ を あるきまわって いる けれど、 ナニ を して いる の かしら。 カア は、 かわいそう。 ケサ は、 イジワル して やった けれど、 アス は、 かわいがって あげます。
 ワタシ は かなしい クセ で、 カオ を リョウテ で ぴったり おおって いなければ、 ねむれない。 カオ を おおって、 じっと して いる。
 ネムリ に おちる とき の キモチ って、 ヘン な もの だ。 フナ か、 ウナギ か、 ぐいぐい ツリイト を ひっぱる よう に、 なんだか おもい、 ナマリ みたい な チカラ が、 イト で もって ワタシ の アタマ を、 ぐっと ひいて、 ワタシ が とろとろ ねむりかける と、 また、 ちょっと イト を ゆるめる。 すると、 ワタシ は、 はっと キ を とりなおす。 また、 ぐっと ひく。 とろとろ ねむる。 また、 ちょっと イト を はなす。 そんな こと を 3 ド か、 4 ド くりかえして、 それから、 はじめて、 ぐうっと おおきく ひいて、 コンド は アサ まで。
 おやすみなさい。 ワタシ は、 オウジサマ の いない シンデレラ ヒメ。 アタシ、 トウキョウ の、 どこ に いる か、 ゴゾンジ です か? もう、 ふたたび オメ に かかりません。
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