カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

サンショウ-ダユウ 1

2016-03-20 | モリ オウガイ
 サンショウ-ダユウ

 モリ オウガイ

 エチゴ の カスガ を へて イマヅ へ でる ミチ を、 めずらしい タビビト の ヒトムレ が あるいて いる。 ハハ は 30 サイ を こえた ばかり の オンナ で、 フタリ の コドモ を つれて いる。 アネ は 14、 オトウト は 12 で ある。 それ に 40 ぐらい の ジョチュウ が ヒトリ ついて、 くたびれた ハラカラ フタリ を、 「もう じきに オヤド に おつき なさいます」 と いって はげまして あるかせよう と する。 フタリ の ナカ で、 アネムスメ は アシ を ひきずる よう に して あるいて いる が、 それでも キ が かって いて、 つかれた の を ハハ や オトウト に しらせまい と して、 おりおり おもいだした よう に ダンリョク の ある アルキツキ を して みせる。 ちかい ミチ を モノマイリ に でも あるく の なら、 ふさわしく も みえそう な ヒトムレ で ある が、 カサ やら ツエ やら かいがいしい イデタチ を して いる の が、 タレ の メ にも めずらしく、 また キノドク に かんぜられる の で ある。
 ミチ は ヒャクショウヤ の たえたり つづいたり する アイダ を とおって いる。 スナ や コイシ は おおい が、 アキビヨリ に よく かわいて、 しかも ネンド が まじって いる ため に、 よく かたまって いて、 ウミ の ソバ の よう に クルブシ を うずめて ヒト を なやます こと は ない。
 ワラブキ の イエ が ナンゲン も たちならんだ ヒトカマエ が ハハソ の ハヤシ に かこまれて、 それ に ユウヒ が かっと さして いる ところ に とおりかかった。
「まあ あの うつくしい モミジ を ごらん」 と、 サキ に たって いた ハハ が ゆびさして コドモ に いった。
 コドモ は ハハ の ゆびさす ほう を みた が、 なんとも いわぬ ので、 ジョチュウ が いった。 「コノハ が あんな に そまる の で ございます から、 アサバン おさむく なりました の も ムリ は ございません ね」
 アネムスメ が とつぜん オトウト を かえりみて いった。 「はやく オトウサマ の いらっしゃる ところ へ ゆきたい わね」
「ネエサン。 まだ なかなか いかれ は しない よ」 オトウト は さかしげ に こたえた。
 ハハ が さとす よう に いった。 「そう です とも。 イマ まで こして きた よう な ヤマ を たくさん こして、 カワ や ウミ を オフネ で たびたび わたらなくて は ゆかれない の だよ。 マイニチ せいだして おとなしく あるかなくて は」
「でも はやく ゆきたい の です もの」 と、 アネムスメ は いった。
 ヒトムレ は しばらく だまって あるいた。
 ムコウ から カラオケ を かついで くる オンナ が ある。 シオハマ から かえる シオクミ オンナ で ある。
 それ に ジョチュウ が コエ を かけた。 「もしもし、 この ヘン に タビ の ヒト の ヤド を する イエ は ありません か」
 シオクミ オンナ は アシ を とめて、 シュウジュウ 4 ニン の ムレ を みわたした。 そして こう いった。 「まあ、 オキノドク な。 あいにく な ところ で ヒ が くれます ね。 この トチ には タビ の ヒト を とめて あげる ところ は 1 ケン も ありません」
 ジョチュウ が いった。 「それ は ホントウ です か。 どうして そんな に ジンキ が わるい の でしょう」
 フタリ の コドモ は、 はずんで くる タイワ の チョウシ を キ に して、 シオクミ オンナ の ソバ へ よった ので、 ジョチュウ と 3 ニン で オンナ を とりまいた カタチ に なった。
 シオクミ オンナ は いった。 「いいえ。 シンジャ が おおくて ジンキ の いい トチ です が、 クニ ノ カミ の オキテ だ から シカタ が ありません。 もう あそこ に」 と いいさして、 オンナ は イマ きた ミチ を ゆびさした。 「もう あそこ に みえて います が、 あの ハシ まで おいで なさる と、 タカフダ が たって います。 それ に くわしく かいて ある そう です が、 チカゴロ わるい ヒトカイ が この ヘン を たちまわります。 それで タビビト に ヤド を かして アシ を とめさせた モノ には オトガメ が あります。 アタリ 7 ケン マキゾエ に なる そう です」
「それ は こまります ね。 コドモシュウ も おいで なさる し、 もう そう トオク まで は いかれません。 どうにか シヨウ は ありますまい か」
「そう です ね。 ワタシ の かよう シオハマ の ある アタリ まで、 アナタガタ が おいで なさる と、 ヨル に なって しまいましょう。 どうも そこら で いい ところ を みつけて、 ノジュク を なさる より ほか、 シカタ が ありますまい。 ワタシ の シアン では、 あそこ の ハシ の シタ に おやすみ なさる が いい でしょう。 キシ の イシガキ に ぴったり よせて、 カワラ に おおきい ザイモク が たくさん たてて あります。 アラカワ の カミ から ながして きた ザイモク です。 ヒルマ は その シタ で コドモ が あそんで います が、 オク の ほう には ヒ も ささず、 くらく なって いる ところ が あります。 そこ なら カゼ も とおしますまい。 ワタシ は こうして マイニチ かよう シオハマ の モチヌシ の ところ に います。 つい そこ の ハハソ の モリ の ナカ です。 ヨル に なったら、 ワラ や コモ を もって いって あげましょう」
 コドモ ら の ハハ は ヒトリ はなれて たって、 この ハナシ を きいて いた が、 この とき シオクミ オンナ の ソバ に すすみよって いった。 「よい カタ に であいました の は、 ワタシドモ の シアワセ で ございます。 そこ へ いって やすみましょう。 どうぞ ワラ や コモ を おかり もうしとう ございます。 せめて コドモ たち に でも しかせたり きせたり いたしとう ございます」
 シオクミ オンナ は うけあって、 ハハソ の ハヤシ の ほう へ かえって ゆく。 シュウジュウ 4 ニン は ハシ の ある ほう へ いそいだ。

 アラカワ に かけわたした オウゲ ノ ハシ の タモト に ヒトムレ は きた。 シオクミ オンナ の いった とおり に、 あたらしい タカフダ が たって いる。 かいて ある クニ ノ カミ の オキテ も、 オンナ の コトバ に たがわない。
 ヒトカイ が たちまわる なら、 その ヒトカイ の センギ を したら よさそう な もの で ある。 タビビト に アシ を とめさせまい と して、 ゆきくれた モノ を ロトウ に まよわせる よう な オキテ を、 クニ ノ カミ は なぜ さだめた もの か。 ふつつか な セワ の ヤキヨウ で ある。 しかし ムカシ の ヒト の メ には オキテ は どこまでも オキテ で ある。 コドモ ら の ハハ は ただ そういう オキテ の ある トチ に きあわせた ウンメイ を なげく だけ で、 オキテ の ヨシアシ は おもわない。
 ハシ の タモト に、 カワラ へ センタク に おりる モノ の かよう ミチ が ある。 そこ から ヒトムレ は カワラ に おりた。 なるほど タイソウ な ザイモク が イシガキ に たてかけて ある。 ヒトムレ は イシガキ に そうて ザイモク の シタ へ くぐって はいった。 オトコ の コ は おもしろがって、 サキ に たって いさんで はいった。
 おくふかく もぐって はいる と、 ホラアナ の よう に なった ところ が ある。 シタ には おおきい ザイモク が ヨコ に なって いる ので、 トコ を はった よう で ある。
 オトコ の コ が サキ に たって、 ヨコ に なって いる ザイモク の ウエ に のって、 いちばん スミ へ はいって、 「ネエサン、 はやく おいでなさい」 と よぶ。
 アネムスメ は おそるおそる オトウト の ソバ へ いった。
「まあ、 おまち あそばせ」 と ジョチュウ が いって、 セ に おって いた ツツミ を おろした。 そして キガエ の イルイ を だして、 コドモ を ワキ へ よらせて、 スミ の ところ に しいた。 そこ へ オヤコ を すわらせた。
 ハハオヤ が すわる と、 フタリ の コドモ が サユウ から すがりついた。 イワシロ の シノブ-ゴオリ の スミカ を でて、 オヤコ は ここ まで くる うち に、 イエ の ナカ では あって も、 この ザイモク の カゲ より ソト-らしい ところ に ねた こと が ある。 フジユウ にも しだいに なれて、 もう さほど ク には しない。
 ジョチュウ の ツツミ から だした の は イルイ ばかり では ない。 ヨウジン に もって いる タベモノ も ある。 ジョチュウ は それ を オヤコ の マエ に だして おいて いった。 「ここ では タキビ を いたす こと は できません。 もし わるい ヒト に みつけられて は ならぬ から で ございます。 あの シオハマ の モチヌシ と やら の イエ まで いって、 オユ を もらって まいりましょう。 そして ワラ や コモ の こと も たのんで まいりましょう」
 ジョチュウ は まめまめしく でて いった。 コドモ は たのしげ に オコシゴメ やら、 ほした クダモノ やら を たべはじめた。
 しばらく する と、 この ザイモク の カゲ へ ヒト の はいって くる アシオト が した。 「ウバタケ かい」 と ハハオヤ が コエ を かけた。 しかし ココロ の ウチ には、 ハハソ の モリ まで いって きた に して は、 あまり はやい と うたがった。 ウバタケ と いう の は ジョチュウ の ナ で ある。
 はいって きた の は 40 サイ ばかり の オトコ で ある。 ホネグミ の たくましい、 キンニク が ヒトツビトツ ハダ の ウエ から かぞえられる ほど、 シボウ の すくない ヒト で、 ゲボリ の ニンギョウ の よう な カオ に エミ を たたえて、 テ に ズズ を もって いる。 ワガヤ を あるく よう な、 なれた アルキツキ を して、 オヤコ の ひそんで いる ところ へ すすみよった。 そして オヤコ の ザセキ に して いる ザイモク の ハシ に コシ を かけた。
 オヤコ は ただ おどろいて みて いる。 アタ を しそう な ヨウス も みえぬ ので、 おそろしい とも おもわぬ の で ある。
 オトコ は こんな こと を いう。 「ワシ は ヤマオカ タユウ と いう フナノリ じゃ。 コノゴロ この トチ を ヒトカイ が たちまわる と いう ので、 コクシュ が タビビト に ヤド を かす こと を さしとめた。 ヒトカイ を つかまえる こと は、 コクシュ の テ に あわぬ と みえる。 キノドク な は タビビト じゃ。 そこで ワシ は タビビト を すくうて やろう と おもいたった。 さいわい ワシ が イエ は カイドウ を はなれて いる ので、 こっそり ヒト を とめて も、 タレ に エンリョ も いらぬ。 ワシ は ヒト の ノジュク を しそう な モリ の ナカ や ハシ の シタ を たずねまわって、 これまで オオゼイ の ヒト を つれて かえった。 みれば コドモシュウ が カシ を たべて いなさる が、 そんな もの は ハラ の タシ には ならいで、 ハ に さわる。 ワシ が ところ では さしたる モテナシ は せぬ が、 イモガユ でも しんぜましょう。 どうぞ エンリョ せず に きて くだされい」 オトコ は しいて さそう でも なく、 ヒトリゴト の よう に いった の で ある。
 コドモ の ハハ は つくづく きいて いた が、 セケン の オキテ に そむいて まで も ヒト を すくおう と いう ありがたい ココロザシ に かんぜず には いられなかった。 そこで こう いった。 「うけたまわれば シュショウ な オココロガケ と ぞんじます。 かすな と いう オキテ の ある ヤド を かりて、 ひょっと ヤドヌシ に ナンギ を かけよう か と、 それ が キガカリ で ございます が、 ワタクシ は ともかくも、 コドモ ら に ぬくい オカユ でも たべさせて、 ヤネ の シタ に やすませる こと が できましたら、 その ゴオン は ノチ の ヨ まで も わすれますまい」
 ヤマオカ タユウ は うなずいた。 「さてさて よう モノ の わかる ゴフジン じゃ。 そんなら すぐに アンナイ を して しんぜましょう」 こう いって たちそう に した。
 ハハオヤ は キノドク そう に いった。 「どうぞ すこし おまち くださいませ。 ワタクシドモ 3 ニン が オセワ に なる さえ こころぐるしゅう ございます のに、 こんな こと を もうす の は いかが と ぞんじます が、 じつは いま ヒトリ ツレ が ございます」
 ヤマオカ タユウ は ミミ を そばだてた。 「ツレ が おあり なさる。 それ は オトコ か オナゴ か」
「コドモ たち の セワ を させ に つれて でた ジョチュウ で ございます。 ユ を もらう と もうして、 カイドウ を 3~4 チョウ アト へ ひきかえして まいりました。 もう ほどなく かえって まいりましょう」
「オジョチュウ かな。 そんなら まって しんぜましょう」 ヤマオカ タユウ の おちついた、 ソコ の しれぬ よう な カオ に、 なぜか ヨロコビ の カゲ が みえた。

 ここ は ナオエ ノ ウラ で ある。 ヒ は まだ ヨネヤマ の ウシロ に かくれて いて、 コンジョウ の よう な ウミ の ウエ には うすい モヤ が かかって いる。
 ヒトムレ の キャク を フネ に のせて トモヅナ を といて いる センドウ が ある。 センドウ は ヤマオカ タユウ で、 キャク は ユウベ タユウ の イエ に とまった シュウジュウ 4 ニン の タビビト で ある。
 オウゲ ノ ハシ の シタ で ヤマオカ タユウ に であった ハハオヤ と コドモ フタリ とは、 ジョチュウ ウバタケ が かけそんじた ヘイシ に ユ を もらって かえる の を まちうけて、 タユウ に つれられて ヤド を かり に いった。 ウバタケ は フアン-らしい カオ を しながら ついて いった。 タユウ は カイドウ を ミナミ へ はいった マツバヤシ の ナカ の クサノヤ に 4 ニン を とめて、 イモガユ を すすめた。 そして どこ から どこ へ ゆく タビ か と とうた。 くたびれた コドモ ら を サキ へ ねさせて、 ハハ は ヤド の アルジ に ミノウエ の オオヨソ を、 かすか な トモシビ の モト で はなした。
 ジブン は イワシロ の モノ で ある。 オット が ツクシ へ いって かえらぬ ので、 フタリ の コドモ を つれて たずね に ゆく。 ウバタケ は アネムスメ の うまれた とき から モリ を して くれた ジョチュウ で、 ミヨリ の ない モノ ゆえ、 とおい、 おぼつかない タビ の トモ を する こと に なった と はなした の で ある。
 さて ここ まで は きた が、 ツクシ の ハテ へ ゆく こと を おもえば、 まだ イエ を でた ばかり と いって も よい。 これから オカ を いった もの で あろう か。 または フナジ を いった もの で あろう か。 アルジ は フナノリ で あって みれば、 さだめて オンゴク の こと を しって いる だろう。 どうぞ おしえて もらいたい と、 コドモ ら の ハハ が たのんだ。
 タユウ は しれきった こと を とわれた よう に、 すこしも ためらわず に フナジ を ゆく こと を すすめた。 オカ を いけば、 じき トナリ の エッチュウ ノ クニ に いる サカイ に さえ、 オヤシラズ コシラズ の ナンジョ が ある。 けずりたてた よう な ガンセキ の スソ には アラナミ が うちよせる。 タビビト は ヨコアナ に はいって、 ナミ の ひく の を まって いて、 せまい ガンセキ の シタ の ミチ を はしりぬける。 その とき は オヤ は コ を かえりみる こと が できず、 コ も オヤ を かえりみる こと が できない。 それ は ウミベ の ナンジョ で ある。 また ヤマ を こえる と、 ふまえた イシ が ヒトツ ゆるげば、 チヒロ の タニソコ に おちる よう な、 あぶない ソワミチ も ある。 サイコク へ ゆく まで には、 どれほど の ナンジョ が ある か しれない。 それ とは ちがって、 フナジ は アンゼン な もの で ある。 たしか な センドウ に さえ たのめば、 いながら に して ヒャクリ でも センリ でも いかれる。 ジブン は サイコク まで ゆく こと は できぬ が、 ショコク の センドウ を しって いる から、 フネ に のせて でて、 サイコク へ ゆく フネ に のりかえさせる こと が できる。 アス の アサ は さっそく フネ に のせて でよう と、 タユウ は こともなげ に いった。
 ヨ が あけかかる と、 タユウ は シュウジュウ 4 ニン を せきたてて イエ を でた。 その とき コドモ ら の ハハ は ちいさい フクロ から カネ を だして、 ヤドチン を はらおう と した。 タユウ は とめて、 ヤドチン は もらわぬ、 しかし カネ の いれて ある タイセツ な フクロ は あずかって おこう と いった。 なんでも タイセツ な シナ は、 ヤド に つけば ヤド の アルジ に、 フネ に のれば フネ の ヌシ に あずける もの だ と いう の で ある。
 コドモ ら の ハハ は サイショ に ヤド を かる こと を ゆるして から、 アルジ の タユウ の いう こと を きかなくて は ならぬ よう な イキオイ に なった。 オキテ を やぶって まで ヤド を かして くれた の を、 ありがたく は おもって も、 ナニゴト に よらず いう が まま に なる ほど、 タユウ を しんじて は いない。 こういう イキオイ に なった の は、 タユウ の コトバ に ヒト を おしつける ツヨミ が あって、 ハハオヤ は それ に あらがう こと が できぬ から で ある。 その あらがう こと の できぬ の は、 どこ か おそろしい ところ が ある から で ある。 しかし ハハオヤ は ジブン が タユウ を おそれて いる とは おもって いない。 ジブン の ココロ が はっきり わかって いない。
 ハハオヤ は よぎない こと を する よう な ココロモチ で フネ に のった。 コドモ ら は ないだ ウミ の、 あおい カモ を しいた よう な オモテ を みて、 モノメズラシサ に ムネ を おどらせて のった。 ただ ウバタケ が カオ には、 キノウ ハシ の シタ を たちさった とき から、 イマ フネ に のる とき まで、 フアン の イロ が きえうせなかった。
 ヤマオカ タユウ は トモヅナ を といた。 サオ で キシ を ヒトオシ おす と、 フネ は ゆらめきつつ うかびでた。

 ヤマオカ タユウ は しばらく キシ に そうて ミナミ へ、 エッチュウ-ザカイ の ホウガク へ こいで ゆく。 モヤ は みるみる きえて、 ナミ が ヒ に かがやく。
 ジンカ の ない イワカゲ に、 ナミ が スナ を あらって、 ミル や アラメ を うちあげて いる ところ が あった。 そこ に フネ が 2 ソウ とまって いる。 センドウ が タユウ を みて よびかけた。
「どう じゃ。 ある か」
 タユウ は ミギ の テ を あげて、 オヤユビ を おって みせた。 そして ジブン も そこ へ フネ を もやった。 オヤユビ だけ おった の は、 4 ニン ある と いう アイズ で ある。
 マエ から いた センドウ の ヒトリ は ミヤザキ ノ サブロウ と いって、 エッチュウ ミヤザキ の モノ で ある。 ヒダリ の テ の コブシ を ひらいて みせた。 ミギ の テ が シロモノ の アイズ に なる よう に、 ヒダリ の テ は ゼニ の アイズ に なる。 これ は 5 カンモン に つけた の で ある。
「きばる ぞ」 と いま ヒトリ の センドウ が いって、 ヒダリ の ヒジ を つと のべて、 イチド コブシ を ひらいて みせ、 ついで ヒトサシユビ を たてて みせた。 この オトコ は サド ノ ジロウ で 6 カンモン に つけた の で ある。
「オウチャクモノ め」 と ミヤザキ が さけんで たちかかれば、 「だしぬこう と した の は オヌシ じゃ」 と サド が ミガマエ を する。 2 ソウ の フネ が かしいで、 フナバタ が ミズ を むちうった。
 タユウ は フタリ の センドウ の カオ を ひややか に みくらべた。 「あわてるな。 どっち も カラテ では かえさぬ。 オキャクサマ が ゴキュウクツ で ない よう に、 オフタリ ずつ わけて しんぜる。 チンセン は アト で つけた ネダン の ワリ じゃ」 こう いって おいて、 タユウ は キャク を かえりみた。 「さあ、 オフタリ ずつ あの フネ へ おのり なされ。 どれ も サイコク への ビンセン じゃ。 フナアシ と いう もの は、 おもすぎて は ハシリ が わるい」
 フタリ の コドモ は ミヤザキ が フネ へ、 ハハオヤ と ウバタケ とは サド が フネ へ、 タユウ が テ を とって のりうつらせた。 うつらせて ひく タユウ が テ に、 ミヤザキ も サド も イクサシ か の ゼニ を にぎらせた の で ある。
「あの、 アルジ に おあずけ なされた フクロ は」 と、 ウバタケ が シュウ の ソデ を ひく とき、 ヤマオカ タユウ は カラブネ を つと おしだした。
「ワシ は これ で オイトマ を する。 たしか な テ から たしか な テ へ わたす まで が ワシ の ヤク じゃ。 ごきげんよう おこし なされ」
 ロ の オト が せわしく ひびいて、 ヤマオカ タユウ の フネ は みるみる とおざかって ゆく。
 ハハオヤ は サド に いった。 「おなじ ミチ を こいで いって、 おなじ ミナト に つく の で ございましょう ね」
 サド と ミヤザキ とは カオ を みあわせて、 コエ を たてて わらった。 そして サド が いった。 「のる フネ は グゼイ の フネ、 つく は おなじ カノキシ と、 レンゲブジ の オショウ が いうた げな」
 フタリ の センドウ は それきり だまって フネ を だした。 サド ノ ジロウ は キタ へ こぐ。 ミヤザキ ノ サブロウ は ミナミ へ こぐ。 「あれあれ」 と よびかわす オヤコ シュウジュウ は、 ただ とおざかりゆく ばかり で ある。
 ハハオヤ は ものぐるおしげ に フナバタ に テ を かけて のびあがった。 「もう シカタ が ない。 これ が ワカレ だよ。 アンジュ は マモリ ホンゾン の ジゾウサマ を タイセツ に おし。 ズシオウ は オトウサマ の くださった マモリガタナ を タイセツ に おし。 どうぞ フタリ が はなれぬ よう に」 アンジュ は アネムスメ、 ズシオウ は オトウト の ナ で ある。
 コドモ は ただ 「オカアサマ、 オカアサマ」 と よぶ ばかり で ある。
 フネ と フネ とは しだいに とおざかる。 ウシロ には エ を まつ ヒナ の よう に、 フタリ の コドモ が あいた クチ が みえて いて、 もう コエ は きこえない。
 ウバタケ は サド ノ ジロウ に 「もし センドウ さん、 もしもし」 と コエ を かけて いた が、 サド は かまわぬ ので、 とうとう アカマツ の ミキ の よう な アシ に すがった。 「センドウ さん。 これ は どうした こと で ございます。 あの オジョウサマ、 ワカサマ に わかれて、 いきて どこ へ ゆかれましょう。 オクサマ も おなじ こと で ございます。 これから ナニ を タヨリ に おくらし なさいましょう。 どうぞ あの フネ の ゆく ほう へ こいで いって くださいまし。 ゴショウ で ございます」
「うるさい」 と サド は ウシロザマ に けった。 ウバタケ は フナトコ に たおれた。 カミ は みだれて フナバタ に かかった。
 ウバタケ は ミ を おこした。 「ええ。 これまで じゃ。 オクサマ、 ごめん くださいまし」 こう いって マッサカサマ に ウミ に とびこんだ。
「こら」 と いって センドウ は ヒジ を さしのばした が、 まにあわなかった。
 ハハオヤ は ウチキ を ぬいで サド が マエ へ だした。 「これ は ソマツ な もの で ございます が、 オセワ に なった オレイ に さしあげます。 ワタクシ は もう これ で オイトマ を もうします」 こう いって フナバタ に テ を かけた。
「タワケ が」 と、 サド は カミ を つかんで ひきたおした。 「ウヌ まで しなせて なる もの か。 ダイジ な シロモノ じゃ」
 サド ノ ジロウ は ツナデ を ひきだして、 ハハオヤ を クルクルマキ に して ころがした。 そして キタ へ キタ へ と こいで いった。

「オカアサマ オカアサマ」 と よびつづけて いる アネ と オトウト と を のせて、 ミヤザキ ノ サブロウ が フネ は キシ に そうて ミナミ へ はしって ゆく。
「もう よぶな」 と ミヤザキ が しかった。 「ミズ の ソコ の イロクズ には きこえて も、 あの オナゴ には きこえぬ。 オナゴ ども は サド へ わたって アワ の トリ でも おわせられる こと じゃろう」
 アネ の アンジュ と オトウト の ズシオウ とは だきあって ないて いる。 コキョウ を はなれる も、 とおい タビ を する も ハハ と イッショ に する こと だ と おもって いた のに、 イマ はからずも ひきわけられて、 フタリ は どうして いい か わからない。 ただ カナシサ ばかり が ムネ に あふれて、 この ワカレ が ジブン たち の ミノウエ を どれだけ かわらせる か、 その ホド さえ わきまえられぬ の で ある。
 ヒル に なって ミヤザキ は モチ を だして くった。 そして アンジュ と ズシオウ と にも ヒトツ ずつ くれた。 フタリ は モチ を テ に もって たべよう とも せず、 メ を みあわせて ないた。 ヨル は ミヤザキ が かぶせた トマ の シタ で、 なきながら ねいった。
 こうして フタリ は イクニチ か フネ に あかしくらした。 ミヤザキ は エッチュウ、 ノト、 エチゼン、 ワカサ の ツヅ ウラウラ を うりあるいた の で ある。
 しかし フタリ が おさない のに、 カラダ も かよわく みえる ので、 なかなか かおう と いう モノ が ない。 たまに カイテ が あって も、 ネダン の ソウダン が ととのわない。 ミヤザキ は しだいに キゲン を そんじて、 「いつまでも なく か」 と フタリ を うつ よう に なった。
 ミヤザキ が フネ は まわり まわって、 タンゴ の ユラ ノ ミナト に きた。 ここ には イシウラ と いう ところ に おおきい ヤシキ を かまえて、 タハタ に コメ ムギ を うえさせ、 ヤマ では カリ を させ、 ウミ では スナドリ を させ、 コガイ を させ、 ハタオリ を させ、 カナモノ、 スエモノ、 キ の ウツワ、 ナニ から ナニ まで、 ソレゾレ の ショクニン を つかって つくらせる サンショウ-ダユウ と いう ブゲンシャ が いて、 ヒト なら いくらでも かう。 ミヤザキ は これまで も、 ヨソ に カイテ の ない シロモノ が ある と、 サンショウ-ダユウ が ところ へ もって くる こと に なって いた。
 ミナト に でばって いた タユウ の ヤッコガシラ は、 アンジュ、 ズシオウ を すぐに 7 カンモン に かった。
「やれやれ、 ガキ ども を かたづけて ミ が かるう なった」 と いって、 ミヤザキ ノ サブロウ は うけとった ゼニ を フトコロ に いれた。 そして ハトバ の サケミセ に はいった。

 ヒトカカエ に あまる ハシラ を たてならべて つくった オオイエ の おくぶかい ヒロマ に 1 ケン シホウ の ロ を きらせて、 スミビ が おこして ある。 その ムコウ に シトネ を 3 マイ かさねて しいて、 サンショウ-ダユウ は オシマズキ に もたれて いる。 サユウ には ジロウ、 サブロウ の フタリ の ムスコ が コマイヌ の よう に ならんで いる。 もと タユウ には 3 ニン の ダンシ が あった が、 タロウ は 16 サイ の とき、 トウボウ を くわだてて とらえられた ヤッコ に、 チチ が てずから ヤキイン を する の を じっと みて いて、 イチゴン も モノ を いわず に、 ふいと イエ を でて ユクエ が しれなく なった。 イマ から 19 ネン マエ の こと で ある。
 ヤッコガシラ が アンジュ、 ズシオウ を つれて マエ へ でた。 そして フタリ の コドモ に ジギ を せい と いった。
 フタリ の コドモ は ヤッコガシラ の コトバ が ミミ に いらぬ らしく、 ただ メ を みはって タユウ を みて いる。 コトシ 60 サイ に なる タユウ の、 シュ を ぬった よう な カオ は、 ヒタイ が ひろく アゴ が はって、 カミ も ヒゲ も ギンイロ に ひかって いる。 コドモ ら は おそろしい より は フシギ-がって、 じっと その カオ を みて いる の で ある。
 タユウ は いった。 「こうて きた コドモ は それ か。 いつも かう ヤッコ と ちごうて、 ナン に つこうて よい か わからぬ、 めずらしい コドモ じゃ と いう から、 わざわざ つれて こさせて みれば、 イロ の あおざめた、 かぼそい ワラワ ども じゃ。 ナン に つこうて よい か は、 ワシ にも わからぬ」
 ソバ から サブロウ が クチ を だした。 スエ の オトウト で ある が、 もう 30 に なって いる。 「いや オトッサン。 サッキ から みて いれば、 ジギ を せい と いわれて も ジギ も せぬ。 ホカ の ヤッコ の よう に ナノリ も せぬ。 よわよわしゅう みえて も しぶとい モノドモ じゃ。 ホウコウ ハジメ は オトコ が シバカリ、 オンナ が シオクミ と きまって いる。 その とおり に させなされい」
「おっしゃる とおり、 ナ は ワタクシ にも もうしませぬ」 と、 ヤッコガシラ が いった。
 タユウ は あざわらった。 「オロカモノ と みえる。 ナ は ワシ が つけて やる。 アネ は イタツキ を シノブグサ、 オトウト は わが ナ を ワスレグサ じゃ。 シノブグサ は ハマ へ いって、 ヒ に 3 ガ の シオ を くめ。 ワスレグサ は ヤマ へ いって ヒ に 3 ガ の シバ を かれ。 よわよわしい カラダ に めんじて、 ニ は かるう して とらせる」
 サブロウ が いった。 「カブン の イタワリヨウ じゃ。 こりゃ、 ヤッコガシラ。 はやく つれて さがって ドウグ を わたして やれ」
 ヤッコガシラ は フタリ の コドモ を シンザンゴヤ に つれて いって、 アンジュ には オケ と ヒサゴ、 ズシオウ には カゴ と カマ を わたした。 どちら にも ヒルゲ を いれる カレイケ が そえて ある。 シンザンゴヤ は ホカ の ヌヒ の イドコロ とは ベツ に なって いる の で ある。
 ヤッコガシラ が でて ゆく コロ には、 もう アタリ が くらく なった。 この イエ には アカリ も ない。

 ヨクジツ の アサ は ひどく さむかった。 ユウベ は コヤ に そなえて ある フスマ が あまり きたない ので、 ズシオウ が コモ を さがして きて、 フネ で トマ を かずいた よう に、 フタリ で かずいて ねた の で ある。
 キノウ ヤッコガシラ に おしえられた よう に、 ズシオウ は カレイケ を もって クリヤ へ カレイ を ウケトリ に いった。 ヤネ の ウエ、 チ に ちらばった ワラ の ウエ には シモ が ふって いる。 クリヤ は おおきい ドマ で、 もう オオゼイ の ヌヒ が きて まって いる。 オトコ と オンナ とは うけとる バショ が ちがう のに、 ズシオウ は アネ の と ジブン の と もらおう と する ので、 イチド は しかられた が、 アス から は メイメイ が もらい に くる と ちかって、 ようよう カレイケ の ホカ に、 メンツウ に いれた カタカユ と、 キ の マリ に いれた ユ との フタリ-マエ をも うけとった。 カタカユ は シオ を いれて かしいで ある。
 アネ と オトウト とは アサゲ を たべながら、 もう こうした ミノウエ に なって は、 ウンメイ の モト に ウナジ を かがめる より ホカ は ない と、 けなげ にも ソウダン した。 そして アネ は ハマベ へ、 オトウト は ヤマジ を さして ゆく の で ある。 タユウ が ヤシキ の サン ノ キド、 ニ ノ キド、 イチ ノ キド を イッショ に でて、 フタリ は シモ を ふんで、 みかえりがち に サユウ へ わかれた。
 ズシオウ が のぼる ヤマ は ユラガタケ の スソ で、 イシウラ から は すこし ミナミ へ いって のぼる の で ある。 シバ を かる ところ は、 フモト から とおく は ない。 ところどころ ムラサキイロ の イワ の あらわれて いる ところ を とおって、 やや ひろい ヘイチ に でる。 そこ に ゾウキ が しげって いる の で ある。
 ズシオウ は ゾウキバヤシ の ナカ に たって アタリ を みまわした。 しかし シバ は どうして かる もの か と、 しばらく は テ を つけかねて、 アサヒ に シモ の とけかかる、 シトネ の よう な オチバ の ウエ に、 ぼんやり すわって トキ を すごした。 ようよう キ を とりなおして、 ヒトエダ フタエダ かる うち に、 ズシオウ は ユビ を いためた。 そこで また オチバ の ウエ に すわって、 ヤマ で さえ こんな に さむい、 ハマベ に いった アネサマ は、 さぞ シオカゼ が さむかろう と、 ヒトリ ナミダ を こぼして いた。
 ヒ が よほど のぼって から、 シバ を せおって フモト へ おりる、 ホカ の キコリ が とおりかかって、 「オマエ も タユウ の ところ の ヤッコ か、 シバ は ヒ に ナンカ かる の か」 と とうた。
「ヒ に 3 ガ かる はず の シバ を、 まだ すこしも かりませぬ」 と ズシオウ は ショウジキ に いった。
「ヒ に 3 ガ の シバ ならば、 ヒル まで に 2 カ かる が いい。 シバ は こうして かる もの じゃ」 キコリ は わが ニ を おろして おいて、 すぐに 1 カ かって くれた。
 ズシオウ は キ を とりなおして、 ようよう ヒル まで に 1 カ かり、 ヒル から また 1 カ かった。
 ハマベ に ゆく アネ の アンジュ は、 カワ の キシ を キタ へ いった。 さて シオ を くむ バショ に おりたった が、 これ も シオ の クミヨウ を しらない。 ココロ で ココロ を はげまして、ようよう ヒサゴ を おろす や いなや、 ナミ が ヒサゴ を とって いった。
 トナリ で くんで いる オナゴ が、 てばやく ヒサゴ を ひろって もどした。 そして こう いった。 「シオ は それ では くまれません。 どれ クミヨウ を おしえて あげよう。 メテ の ヒサゴ で こう くんで、 ユンデ の オケ で こう うける」 とうとう 1 カ くんで くれた。
「ありがとう ございます。 クミヨウ が、 アナタ の おかげ で、 わかった よう で ございます。 ジブン で すこし くんで みましょう」 アンジュ は シオ を くみおぼえた。
 トナリ で くんで いる オナゴ に、 ムジャキ な アンジュ が キ に いった。 フタリ は ヒルゲ を たべながら、 ミノウエ を うちあけて、 キョウダイ の チカイ を した。 これ は イセ ノ コハギ と いって、 フタミガウラ から かわれて きた オナゴ で ある。
 サイショ の ヒ は こんな グアイ に、 アネ が いいつけられた 3 ガ の シオ も、 オトウト が いいつけられた 3 ガ の シバ も、 1 カ ずつ の カンジン を うけて、 ヒノクレ まで に シュビ よく ととのった。

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