カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ある オンナ (コウヘン 1)

2021-07-22 | アリシマ タケオ
 ある オンナ

 (コウヘン)

 アリシマ タケオ

 22

 どこ か から キク の カオリ が かすか に かよって きた よう に おもって ヨウコ は こころよい ネムリ から メ を さました。 ジブン の ソバ には、 クラチ が アタマ から すっぽり と フトン を かぶって、 イビキ も たてず に ジュクスイ して いた。 リョウリヤ を かねた リョカン の に にあわしい ハデ な チリメン の ヤグ の ウエ には もう だいぶ たかく なった らしい アキ の ヒ の ヒカリ が ショウジゴシ に さして いた。 ヨウコ は オウフク 1 カゲツ の ヨ を フネ に のりつづけて いた ので、 フナアシ の ユラメキ の ナゴリ が のこって いて、 カラダ が ふらり ふらり と ゆれる よう な カンジ を うしなって は いなかった が、 ひろい タタミ の マ に おおきな やわらかい ヤグ を のべて、 ゴタイ を おもう まま のばして、 ヒトバン ゆっくり と ねむりとおした その ココチヨサ は カクベツ だった。 アオムケ に なって、 さむからぬ テイド に あたたまった クウキ の ナカ に リョウテ を ニノウデ まで ムキダシ に して、 やわらかい カミノケ に こころよい ショッカク を かんじながら、 ナニ を おもう とも なく テンジョウ の モクメ を みやって いる の も、 めずらしい こと の よう に こころよかった。
 やや コハントキ も そうした まま で いる と、 チョウバ で ボンボンドケイ が 9 ジ を うった。 3 ガイ に いる の だ けれども その オト は ほがらか に かわいた クウキ を つたって ヨウコ の ヘヤ まで ひびいて きた。 と、 クラチ が いきなり ヤグ を はねのけて トコ の ウエ に ジョウタイ を たてて メ を こすった。
「9 ジ だな イマ うった の は」
と オカ で きく と おかしい ほど おおきな シオガレゴエ で いった。 どれほど ジュクスイ して いて も、 ジカン には エイビン な センイン-らしい クラチ の ヨウス が なんの こと は なく ヨウコ を ほほえました。
 クラチ が たつ と、 ヨウコ も トコ を でた。 そして その ヘン を かたづけたり、 タバコ を すったり して いる アイダ に (ヨウコ は フネ の ナカ で タバコ を すう こと を おぼえて しまった の だった) クラチ は てばやく カオ を あらって ヘヤ に かえって きた。 そして セイフク に きかえはじめた。 ヨウコ は いそいそ と それ を てつだった。 クラチ トクユウ な セイヨウフウ に あまったるい よう な イッシュ の ニオイ が その カラダ にも フク にも まつわって いた。 それ が フシギ に いつでも ヨウコ の ココロ を ときめかした。
「もう メシ を くっとる ヒマ は ない。 また しばらく は せわしい で コッパ ミジン だ。 コンヤ は おそい かも しれん よ。 オレタチ には テンチョウセツ も なにも あった もん じゃ ない」
 そう いわれて みる と ヨウコ は キョウ が テンチョウセツ なの を おもいだした。 ヨウコ の ココロ は なおなお カンカツ に なった。
 クラチ が ヘヤ を でる と ヨウコ は エンガワ に でて テスリ から シタ を のぞいて みた。 リョウガワ に サクラナミキ の ずっと ならんだ モミジザカ は キュウコウバイ を なして カイガン の ほう に かたむいて いる、 そこ を クラチ の コンラシャ の スガタ が イキオイ よく あるいて ゆく の が みえた。 ハンブン-ガタ ちりつくした サクラ の ハ は シンク に コウヨウ して、 ノキナミ に かかげられた ニッショウキ が、 カゼ の ない クウキ の ナカ に あざやか に ならんで いた。 その アイダ に エイコク の コッキ が 1 ポン まじって ながめられる の も カイコウジョウ-らしい フゼイ を そえて いた。
 とおく ウミ の ほう を みる と ゼイカン の サンバシ に もやわれた 4 ソウ ほど の キセン の ナカ に、 ヨウコ が のって かえった エノシママル も まじって いた。 マッサオ に すみわたった ウミ に たいして キョウ の サイジツ を シュクガ する ため に ホバシラ から ホバシラ に かけわたされた コバタ が オモチャ の よう に ながめられた。
 ヨウコ は ながい コウカイ の シジュウ を イチジョウ の ユメ の よう に おもいやった。 その ナガタビ の アイダ に、 ジブン の イッシン に おこった おおきな ヘンカ も ジブン の こと の よう では なかった。 ヨウコ は なにがなし に キボウ に もえた いきいき した ココロ で テスリ を はなれた。 ヘヤ には こざっぱり と ミジタク を した ジョチュウ が きて ネドコ を あげて いた。 1 ケン ハン の オオトコノマ に かざられた オオハナイケ には、 キク の ハナ が ヒトカカエ ブン も いけられて いて、 クウキ が うごく たび ごと に センニン-じみた カオリ を ただよわした。 その カオリ を かぐ と、 ともすると まだ ガイコク に いる の では ない か と おもわれる よう な タビゴコロ が イッキ に くだけて、 ジブン は もう たしか に ニホン の ツチ の ウエ に いる の だ と いう こと が しっかり おもわされた。
「いい オヒヨリ ね。 コンヤ アタリ は いそがし ん でしょう」
と ヨウコ は アサメシ の ゼン に むかいながら ジョチュウ に いって みた。
「はい コンヤ は ゴエンカイ が フタツ ばかり ございまして ね。 でも ハマ の カタ でも ガイム ショウ の ヤカイ に いらっしゃる カタ も ございます から、 たんと こみあい は いたしますまい けれども」
 そう こたえながら ジョチュウ は、 サクバン おそく ついて きた、 ちょっと エタイ の しれない この うつくしい フジン の スジョウ を さぐろう と する よう に チュウイ-ぶかい メ を やった。 ヨウコ は ヨウコ で 「ハマ」 と いう コトバ など から、 ヨコハマ と いう トチ を カタチ に して みる よう な キモチ が した。
 みじかく なって は いて も、 なんにも する こと なし に イチニチ を くらす か と おもえば、 その アキ の イチニチ の ナガサ が ヨウコ には ひどく キ に なりだした。 ミョウゴニチ トウキョウ に かえる まで の アイダ に、 カイモノ でも みて あるきたい の だ けれども、 ミヤゲモノ は キムラ が レイ の ギンコウ キッテ を くずして ありあまる ほど かって もたして よこした し、 テモト には あわれ な ほど より カネ は のこって いなかった。 ちょっと でも じっと して いられない ヨウコ は、 ニホン で きよう とは おもわなかった ので、 セイヨウ-ムキ に チュウモン した ハデ-すぎる よう な ワタイレ に テ を とおしながら、 とつおいつ かんがえた。
「そう だ コトウ に デンワ でも かけて みて やろう」
 ヨウコ は これ は いい シアン だ と おもった。 トウキョウ の ほう で シンルイ たち が どんな ココロモチ で ジブン を むかえよう と して いる か、 コトウ の よう な オトコ に コンド の こと が どう ひびいて いる だろう か、 これ は たんに ナグサミ ばかり では ない、 しって おかなければ ならない ダイジ な こと だった。 そう ヨウコ は おもった。 そして ジョチュウ を よんで トウキョウ に デンワ を つなぐ よう に たのんだ。
 サイジツ で あった せい か デンワ は おもいのほか はやく つながった。 ヨウコ は すこし イタズラ-らしい ビショウ を エクボ の はいる その うつくしい カオ に かるく うかべながら、 カイダン を アシバヤ に おりて いった。 イマゴロ に なって ようやく トコ を はなれた らしい ダンジョ の キャク が しどけない フウ を して ロウカ の ここかしこ で ヨウコ と すれちがった。 ヨウコ は それら の ヒトビト には メ も くれず に チョウバ に いって デンワシツ に とびこむ と ぴっしり と ト を しめて しまった。 そして ジュワキ を テ に とる が はやい か、 デンワ に クチ を よせて、
「アナタ ギイチ さん? ああ そう。 ギイチ さん それ は コッケイ なの よ」
と ひとりでに すらすら と いって しまって われながら ヨウコ は はっと おもった。 その とき の うきうき した かるい ココロモチ から いう と、 ヨウコ には そう いう より イジョウ に シゼン な コトバ は なかった の だ けれども、 それ では あまり に ジブン と いう もの を メイハク に さらけだして いた の に キ が ついた の だ。 コトウ は あんのじょう こたえしぶって いる らしかった。 とみに は ヘンジ も しない で、 ちゃんと きこえて いる らしい のに、 ただ 「ナン です?」 と ききかえして きた。 ヨウコ は すぐ トウキョウ の ヨウス を のみこんだ よう に おもった。
「そんな こと どうでも よ ござんす わ。 アナタ オジョウブ でした の」
と いって みる と 「ええ」 と だけ すげない ヘンジ が、 キカイ を とおして で ある だけ に ことさら すげなく ひびいて きた。 そして コンド は コトウ の ほう から、
「キムラ…… キムラ クン は どうして います。 アナタ あった ん です か」
と はっきり きこえて きた。 ヨウコ は すかさず、
「はあ あいまして よ。 あいかわらず ジョウブ で います。 ありがとう。 けれども ホントウ に かわいそう でした の。 ギイチ さん…… きこえます か。 アサッテ ワタシ トウキョウ に かえります わ。 もう オバ の ところ には いけません から ね、 あすこ には いきたく ありません から…… あのね、 スキヤ-チョウ の ね、 ソウカクカン…… ツガイ の ツル…… そう、 おわかり に なって?…… ソウカクカン に いきます から、 アナタ きて くだされる?…… でも ぜひ きいて いただかなければ ならない こと が ある ん です から…… よくって?…… そう ぜひ どうぞ。 シアサッテ の アサ? ありがとう きっと おまち もうして います から ぜひ です のよ」
 ヨウコ が そう いって いる アイダ、 コトウ の コトバ は シマイ まで オクバ に モノ の はさまった よう に おもかった。 そして ややともすると ヨウコ との カイケン を こばもう と する ヨウス が みえた。 もし ヨウコ の ギン の よう に すんだ すずしい コエ が、 コトウ を えらんで アイソ する らしく ひびかなかったら、 コトウ は ヨウコ の いう こと を きいて は いなかった かも しれない と おもわれる ほど だった。
 アサ から ナニゴト も わすれた よう に こころよかった ヨウコ の キモチ は この デンワ ヒトツ の ため に ミョウ に こじれて しまった。 トウキョウ に かえれば コンド こそ は なかなか ヨウイ ならざる ハンコウ が まちうけて いる とは ジュウニブン に カクゴ して、 その ソナエ を して おいた つもり では いた けれども、 コトウ の クチウラ から かんがえて みる と メン と ぶつかった ジッサイ は クウソウ して いた より も ジュウダイ で ある の を おもわず には いられなかった。 ヨウコ は デンワシツ を でる と ケサ はじめて カオ を あわした オカミ に チョウバ-ゴウシ の ナカ から アイサツ されて、 ヘヤ にも うかがい に こない で なれなれしく コトバ を かける その シウチ に まで フカイ を かんじながら、 そうそう 3 ガイ に ひきあげた。
 それから は もう ホントウ に なんにも する こと が なかった。 ただ クラチ の かえって くる の ばかり が いらいら する ほど まち に またれた。 シナガワ ダイバ オキ アタリ で うちだす シュクホウ が かすか に ハラ に こたえる よう に ひびいて、 コドモ ら は オウライ で その コロ しきり に はやった ナンキン ハナビ を ぱちぱち と ならして いた。 テンキ が いい ので ジョチュウ たち は はしゃぎきった ジョウダン など を いいいい あらゆる ヘヤ を あけはなして、 ぎょうさんらしく ハタキ や ホウキ の オト を たてた。 そして ただ ヒトリ この リョカン では いのこって いる らしい ヨウコ の ヘヤ を ソウジ せず に、 いきなり エンガワ に ゾウキン を かけたり した。 それ が でてゆけがし の シウチ の よう に ヨウコ には おもえば おもわれた。
「どこ か ソウジ の すんだ ヘヤ が ある ん でしょう。 しばらく そこ を かして ください な。 そして ここ も きれい に して ちょうだい。 ヘヤ の ソウジ も しない で ゾウキンガケ なぞ したって なんにも なり は しない わ」
と すこし ケン を もたせて いって やる と、 ケサ きた の とは ちがう、 ヨコハマ ウマレ らしい、 ワルズレ の した チュウネン の ジョチュウ は、 はじめて エンガワ から たちあがって コメンドウ そう に ヨウコ を タタミロウカ ヒトツ を へだてた トナリ の ヘヤ に アンナイ した。
 ケサ まで キャク が いた らしく、 ソウジ は すんで いた けれども、 ヒバチ だの、 スミトリ だの、 ふるい シンブン だの が、 ヘヤ の スミ には まだ おいた まま に なって いた。 あけはなした ショウジ から かわいた あたたかい コウセン が タタミ の オモテ 3 ブ ほど まで さしこんで いる、 そこ に ヒザ を ヨコクズシ に すわりながら、 ヨウコ は メ を ほそめて まぶしい コウセン を さけつつ、 ジブン の ヘヤ を かたづけて いる ジョチュウ の ケハイ に ヨウジン の キ を くばった。 どんな ところ に いて も ダイジ な カネメ な もの を くだらない もの と イッショ に ほうりだして おく の が ヨウコ の クセ だった。 ヨウコ は そこ に いかにも ダテ で カンカツ な ココロ を みせて いる よう だった が、 ドウジ に くだらない ジョチュウ づれ が デキゴコロ でも おこし は しない か と おもう と、 サイシン に カンシ する の も わすれ は しなかった。 こうして トナリ の ヘヤ に キ を くばって いながら も、 ヨウコ は ヘヤ の スミ に キチョウメン に おりたたんで ある シンブン を みる と、 ニホン に かえって から まだ シンブン と いう もの に メ を とおさなかった の を おもいだして、 テ に とりあげて みた。 テレビン-ユ の よう な ニオイ が ぷんぷん する ので それ が キョウ の シンブン で ある こと が すぐ さっせられた。 はたして ダイ 1 メン には 「セイジュ バンザイ」 と ニクブト に かかれた ミダシ の モト に キケン の ショウゾウ が かかげられて あった。 ヨウコ は 1 カゲツ の ヨ も とおのいて いた シンブンシ を ものめずらしい もの に おもって ざっと メ を とおしはじめた。
 イチメン には その トシ の 6 ガツ に イトウ ナイカク と コウテツ して できた カツラ ナイカク に たいして イロイロ な チュウモン を テイシュツ した ロンブン が かかげられて、 カイガイ ツウシン には シナ リョウドナイ に おける ニチロ の ケイザイテキ カンケイ を といた チリコフ-ハク の コウガイ など が みえて いた。 ニメン には トミグチ と いう ブンガク ハカセ が 「サイキン ニホン に おける いわゆる フジン の カクセイ」 と いう ツヅキモノ の ロンブン を のせて いた。 フクダ と いう オンナ の シャカイ シュギシャ の こと や、 カジン と して しられた ヨサノ アキコ ジョシ の こと など の ナ が あらわれて いる の を ヨウコ は チュウイ した。 しかし イマ の ヨウコ には それ が フシギ に ジブン とは かけはなれた こと の よう に みえた。
 サンメン に くる と 4 ゴウ カツジ で かかれた キベ コキョウ と いう ジ が メ に ついた ので おもわず そこ を よんで みる ヨウコ は あっ と おどろかされて しまった。

 ○ボウ-ダイ キセン-ガイシャ センチュウ の ダイカイジ
   ジムチョウ と フジン センキャク との みちならぬ コイ――
   センキャク は キベ コキョウ の センサイ

 こういう オオギョウ な ヒョウダイ が まず ヨウコ の メ を こいたく いつけた。

「ホンポウ にて もっとも ジュウヨウ なる イチ に ある ボウ-キセン-ガイシャ の ショユウセン ○○-マル の ジムチョウ は、 サキゴロ ベイコク コウロ に キンムチュウ、 かつて キベ コキョウ に かして ホド も なく スガタ を くらましたる バクレン オンナ-ボウ が イットウ センキャク と して のりこみいたる を そそのかし、 その オンナ を ベイコク に ジョウリク せしめず ひそか に つれかえりたる カイジジツ あり。 しかも ボウジョ と いえる は ベイコク に センコウ せる コンヤク の オット まで ある ミブン の モノ なり。 センキャク に たいして もっとも おもき セキニン を になう べき ジムチョウ に かかる フラチ の キョドウ ありし は、 ジムチョウ イッコ の シッタイ のみ ならず、 その キセン-ガイシャ の タイメン にも エイキョウ する ゆゆしき ダイジ なり。 コト の シサイ は もれなく ホンシ の タンチ したる ところ なれど も、 カイシュン の ヨチ を あたえん ため、 しばらく ハッピョウ を みあわせおく べし。 もし ある キカン を すぎて も、 リョウニン の シュウコウ あらたまる モヨウ なき とき は、 ホンシ は ヨウシャ なく ショウサイ の キジ を かかげて チクショウドウ に おちいりたる フタリ を チョウカイ し、 あわせて キセン-ガイシャ の セキニン を とう こと と す べし。 ドクシャ こう カツモク して その とき を まて」

 ヨウコ は シタクチビル を かみしめながら この キジ を よんだ。 いったい ナニ シンブン だろう と、 その とき まで キ にも とめない で いた ダイ 1 メン を くりもどして みる と、 れいれい と 「ホウセイ シンポウ」 と しょして あった。 それ を しる と ヨウコ の ゼンシン は イカリ の ため に ツメ の サキ まで あおじろく なって、 おさえつけて も おさえつけて も ぶるぶる と ふるえだした。 「ホウセイ シンポウ」 と いえば タガワ ホウガク ハカセ の キカン シンブン だ。 その シンブン に こんな キジ が あらわれる の は イガイ でも あり トウゼン でも あった。 タガワ フジン と いう オンナ は どこ まで しゅうねく いやしい オンナ なの だろう。 タガワ フジン から の ツウシン に ちがいない の だ。 ホウセイ シンポウ は この ツウシン を うける と、 ホウドウ の センベン を つけて おく ため と、 ドクシャ の コウキシン を あおる ため と に、 いちはやく あれ だけ の キジ を のせて、 タガワ フジン から さらに くわしい ショウソク の くる の を まって いる の だろう。 ヨウコ は するどく も こう すいした。 もし これ が ホカ の シンブン で あったら、 クラチ の イッシンジョウ の キキ でも ある の だ から、 ヨウコ は どんな ヒミツ な ウンドウ を して も、 コノウエ の キジ の ハッピョウ は もみけさなければ ならない と ムネ を さだめた に ソウイ なかった けれども、 タガワ フジン が アクイ を こめて させて いる シゴト だ と して みる と、 どのみち かかず には おくまい と おもわれた。 ユウセン-ガイシャ の ほう で コウアツテキ な コウショウ でも すれば とにかく、 その ホカ には ミチ が ない。 くれぐれも にくい オンナ は タガワ フジン だ…… こう イチズ に おもいめぐらす と ヨウコ は フネ の ナカ での クツジョク を いまさら に まざまざ と ココロ に うかべた。
「オソウジ が できました」
 そう フスマゴシ に いいながら サッキ の ジョチュウ は カオ も みせず に さっさと シタ に おりて いって しまった。 ヨウコ は けっく それ を きやすい こと に して、 その シンブン を もった まま、 ジブン の ヘヤ に かえった。 どこ を ソウジ した の だ と おもわれる よう な ソウジ の シカタ で、 ハタキ まで が チガイダナ の シタ に おきわすられて いた。 カビン に キチョウメン で キレイズキ な ヨウコ は もう たまらなかった。 ジブン で てきぱき と そこいら を かたづけて おいて、 パラゾル と テサゲ を とりあげる が いなや その ヤド を でた。
 オウライ に でる と その リョカン の ジョチュウ が 4~5 ニン ハヤジマイ を して ヒルマ の ウチ を ノゲヤマ の ダイジングウ の ほう に でも サンポ に ゆく らしい ウシロスガタ を みた。 そそくさ と アサ の ソウジ を いそいだ ジョチュウ たち の ココロ も ヨウコ には よめた。 ヨウコ は その オンナ たち を みおくる と なんと いう こと なし に さびしく おもった。
 オビ の アイダ に はさんだ まま に して おいた シンブン の キリヌキ が ムネ を やく よう だった。 ヨウコ は あるきあるき それ を ひきだして テサゲ に しまいかえた。 リョカン は でた が どこ に ゆこう と いう アテ も なかった ヨウコ は うつむいて モミジザカ を おりながら、 さし も しない パラゾル の イシヅキ で シモドケ に なった ツチ を ヒトアシ ヒトアシ つきさして あるいて いった。 いつのまにか じめじめ した うすぎたない せまい トオリ に きた と おもう と、 はしなくも いつか コトウ と イッショ に あがった サガミヤ の マエ を とおって いる の だった。 「サガミヤ」 と ふるめかしい ジタイ で かいた オキアンドン の カミ まで が その とき の まま で すすけて いた。 ヨウコ は みおぼえられて いる の を おそれる よう に アシバヤ に その マエ を とおりぬけた。
 テイシャジョウ マエ は すぐ そこ だった。 もう 12 ジ ちかい アキ の ヒ は はなやか に てりみちて、 おもった より かずおおい グンシュウ が ウンガ に かけわたした イクツ か の ハシ を にぎやか に オウライ して いた。 ヨウコ は ジブン ヒトリ が ミンナ から ふりむいて みられる よう に おもいなした。 それ が アタリマエ の とき ならば、 どれほど オオク の ヒト に じろじろ と みられよう とも ド を うしなう よう な ヨウコ では なかった けれども、 たったいま いまいましい シンブン の キジ を みた ヨウコ では あり、 いかにも セイヨウ-じみた やぼくさい ワタイレ を きて いる ヨウコ で あった。 フクソウ に チリ ほど でも ヒテン の ウチドコロ が ある と キ が ひけて ならない ヨウコ と して は、 リョカン を でて きた の が かなしい ほど コウカイ された。
 ヨウコ は とうとう ゼイカン ハトバ の イリグチ まで きて しまった。 その イリグチ の ちいさな レンガヅクリ の ジムショ には、 トシ の わかい カンシホ たち が ニジュウ キンボタン の セビロ に、 カイグンボウ を かぶって ジム を とって いた が、 そこ に ちかづく ヨウコ の ヨウス を みる と、 キノウ ジョウリク した とき から ヨウコ を みしって いる か の よう に、 その とびはなれて ハデヅクリ な スガタ に メ を さだめる らしかった。 モノズキ な その ヒトタチ は はやくも シンブン の キジ を みて モンダイ と なって いる オンナ が ジブン に ちがいない と メボシ を つけて いる の では あるまい か と ヨウコ は ナニゴト に つけて も ぐちっぽく ヒケメ に なる ジブン を みいだした。 ヨウコ は しかし そうした ふう に みつめられながら も そこ を たちさる こと が できなかった。 もしや クラチ が ヒルメシ でも たべ に あの おおきな ゴタイ を おもおもしく うごかしながら フネ の ほう から でて き は しない か と ココロマチ が された から だ。
 ヨウコ は そろそろ と カイガンドオリ を グランド ホテル の ほう に あるいて みた。 クラチ が でて くれば、 クラチ の ほう でも ジブン を みつける だろう し、 ジブン の ほう でも ウシロ に メ は ない ながら、 でて きた の を かんづいて みせる と いう ジシン を もちながら、 ウシロ も ふりむかず に だんだん ハトバ から とおざかった。 ウミゾイ に たてつらねた イシグイ を つなぐ ガンジョウ な テッサ には、 セイヨウジン の コドモ たち が コウシ ほど な ヨウケン や アマ に つきそわれて こともなげ に あそびたわむれて いた。 そして ヨウコ を みる と ココロヤスダテ に ムジャキ に ほほえんで みせたり した。 ちいさな かわいい コドモ を みる と どんな とき どんな バアイ でも、 ヨウコ は サダコ を おもいだして、 ムネ が しめつけられる よう に なって、 すぐ なみだぐむ の だった。 この バアイ は ことさら そう だった。 みて いられない ほど それら の コドモ たち は かなしい スガタ に ヨウコ の メ に うつった。 ヨウコ は そこ から さける よう に アシ を かえして また ゼイカン の ほう に あゆみちかづいた。 カンシ カ の ジムショ の マエ を きたり いったり する ニンズウ は らくえき と して たえなかった が、 その ナカ に ジムチョウ らしい スガタ は さらに みえなかった。 ヨウコ は エノシママル まで いって みる ユウキ も なく、 そこ を イクド も あちこち して カンシホ たち の メ に かかる の も うるさかった ので、 すごすご と ゼイカン の オモテモン を ケンチョウ の ほう に ひきかえした。

 23

 その ユウガタ クラチ が ホコリ に まぶれ アセ に まびれて モミジザカ を すたすた と のぼって かえって くる まで も ヨウコ は リョカン の シキイ を またがず に サクラ の ナミキ の シタ など を ハイカイ して まって いた。 さすが に 11 ガツ と なる と ユウグレ を もよおした ソラ は みるみる うすさむく なって カゼ さえ ふきだして いる。 イチニチ の コウラク に あそびつかれた らしい ヒト の ムレ に まじって フキゲン そう に カオ を しかめた クラチ は マッコウ に サカ の チョウジョウ を みつめながら ちかづいて きた。 それ を みやる と ヨウコ は イチジ に チカラ を カイフク した よう に なって、 すぐ おどりだして くる イタズラゴコロ の まま に、 1 ポン の サクラ の キ を タテ に クラチ を やりすごして おいて、 ウシロ から しずか に ちかづいて テ と テ と が ふれあわん ばかり に おしならんだ。 クラチ は さすが に フイ を くらって まじまじ と サムサ の ため に すこし なみだぐんで みえる おおきな すずしい ヨウコ の メ を みやりながら、 「どこ から わいて でた ん だ」 と いわん ばかり の カオツキ を した。 ヒトツフネ の ナカ に アサ と なく ヨル と なく イッショ に なって ネオキ して いた もの を、 キョウ はじめて ハンニチ の ヨ も カオ も みあわさず に すごして きた の が おもった イジョウ に ものさびしく、 ドウジ に こんな ところ で おもい も かけず であった が ヨソウ の ホカ に マンゾク で あった らしい クラチ の カオツキ を みてとる と、 ヨウコ は なにもかも わすれて ただ うれしかった。 その マックロ に よごれた テ を いきなり ひっつかんで あつい クチビル で かみしめて いたわって やりたい ほど だった。 しかし オモイ の まま に よりそう こと すら できない ダイドウ で ある の を どう しよう。 ヨウコ は その せつない ココロ を すねて みせる より ほか なかった。
「ワタシ もう あの ヤドヤ には とまりません わ。 ヒト を バカ に して いる ん です もの。 アナタ おかえり に なる なら カッテ に ヒトリ で いらっしゃい」
「どうして……」
と いいながら クラチ は トウワク した よう に オウライ に たちどまって しげしげ と ヨウコ を みなおす よう に した。
「これ じゃ (と いって ホコリ に まみれた リョウテ を ひろげ エリクビ を ぬきだす よう に のばして みせて しぶい カオ を しながら) どこ にも いけ や せん わな」
「だから アナタ は おかえり なさいまし と いってる じゃ ありません か」
 そう マエオキ を して ヨウコ は クラチ と おしならんで そろそろ あるきながら、 オカミ の シウチ から、 ジョチュウ の フシダラ まで オヒレ を つけて いいつけて、 はやく ソウカクカン に うつって ゆきたい と せがみ に せがんだ。 クラチ は ナニ か シアン する らしく ソッポ を みいみい ミミ を かたむけて いた が、 やがて リョカン に ちかく なった コロ もう イチド たちどまって、
「キョウ あそこ から デンワ で ヘヤ の ツゴウ を しらして よこす こと に なって いた が オマエ きいた か…… (ヨウコ は そう いいつけられながら イマ まで すっかり わすれて いた の を おもいだして、 すこしく てれた よう に クビ を ふった) ……ええ わ、 じゃ デンポウ を うって から サキ に いく が いい。 ワシ は ニモツ を して コンヤ アト から いく で」
 そう いわれて みる と ヨウコ は また ヒトリ だけ サキ に ゆく の が いや でも あった。 と いって ニモツ の シマツ には フタリ の ウチ どちら か ヒトリ いのこらねば ならない。
「どうせ フタリ イッショ に キシャ に のる わけ にも いくまい」
 クラチ が こう いいたした とき ヨウコ は あやうく、 では キョウ の ホウセイ シンポウ を みた か と いおう と する ところ だった が、 はっと おもいかえして ノド の ところ で おさえて しまった。
「ナン だ」
 クラチ は ミカケ の わり に おそろしい ほど ビンショウ に はたらく ココロ で、 カオ にも あらわさない ヨウコ の チュウチョ を みてとった らしく こう なじる よう に たずねた が、 ヨウコ が なんでも ない と こたえる と、 すこしも コウデイ せず に、 それ イジョウ を といつめよう とは しなかった。
 どうしても リョカン に かえる の が いや だった ので、 ヒジョウ な モノタラナサ を かんじながら、 ヨウコ は そのまま そこ から クラチ に わかれる こと に した。 クラチ は チカラ の こもった メ で ヨウコ を じっと みて ちょっと うなずく と アト をも みない で どんどん と リョカン の ほう に カッポ して いった。 ヨウコ は のこりおしく その ウシロスガタ を みおくって いた が、 それ に なんと いう こと も ない かるい ホコリ を かんじて かすか に ほほえみながら、 クラチ が のぼって きた サカミチ を ヒトリ で くだって いった。
 テイシャジョウ に ついた コロ には もう ガス の ヒ が そこら に ともって いた。 ヨウコ は しった ヒト に あう の を キョクタン に おそれさけながら、 キシャ の でる すぐ マエ まで テイシャジョウ マエ の チャミセ の ヒトマ に かくれて いて イットウシツ に とびのった。 だだっぴろい その キャクシャ には ガイム ショウ の ヤカイ に ゆく らしい 3 ニン の ガイコクジン が めいめい、 デコルテー を きかざった フジン を カイホウ して のって いる だけ だった。 イツモ の とおり その ヒトタチ は フシギ に ヒト を ひきつける ヨウコ の スガタ に メ を そばだてた。 けれども ヨウコ は もう ヒダリテ の コユビ を キヨウ に おりまげて、 ヒダリ の ビン の ホツレゲ を うつくしく かきあげる あの シナ を して みせる キ は なくなって いた。 ヘヤ の スミ に こしかけて、 テサゲ と パラゾル と を ヒザ に ひきつけながら、 たった ヒトリ その ヘヤ の ナカ に いる もの の よう に オウヨウ に かまえて いた。 ぐうぜん カオ を みあわせて も、 ヨウコ は ハリ の ある その メ を ムジャキ に (ホントウ に それ は ツミ を しらない 16~17 の オトメ の メ の よう に ムジャキ だった) おおきく みひらいて アイテ の シセン を はにかみ も せず むかえる ばかり だった。 センポウ の ヒトタチ の ネンレイ が どの くらい で ヨウボウ が どんな ふう だ など と いう こと も ヨウコ は すこしも チュウイ して は いなかった。 その ココロ の ウチ には ただ クラチ の スガタ ばかり が イロイロ に えがかれたり けされたり して いた。
 レッシャ が シンバシ に つく と ヨウコ は しとやか に クルマ を でた が、 ちょうど そこ に、 トウザン に カクオビ を しめた、 ハコヤ と でも いえば いえそう な、 キ の きいた わかい モノ が デンポウ を カタテ に もって、 めざとく ヨウコ に ちかづいた。 それ が ソウカクカン から の デムカエ だった。
 ヨコハマ にも まして みる もの に つけて レンソウ の むらがりおこる コウケイ、 それ から くる つよい シゲキ…… ヨウコ は ヤド から まわされた ジンリキシャ の ウエ から ギンザ-ドオリ の ヨル の アリサマ を みやりながら、 あやうく イクド も なきだそう と した。 サダコ の すむ おなじ トチ に かえって きた と おもう だけ でも もう ムネ は わくわく した。 アイコ も サダヨ も どんな おそろしい キタイ に ふるえながら ジブン の かえる の を まちわびて いる だろう。 あの オジ オバ が どんな はげしい コトバ で ジブン を この フタリ の イモウト に えがいて みせて いる か。 かまう もの か。 なんと でも いう が いい。 ジブン は どう あって も フタリ を ジブン の テ に とりもどして みせる。 こう と おもいさだめた うえ は ユビ も ささせ は しない から みて いる が いい。 ……ふと ジンリキシャ が オワリ-チョウ の カド を ヒダリ に まがる と くらい ほそい トオリ に なった。 ヨウコ は めざす リョカン が ちかづいた の を しった。 その リョカン と いう の は、 クラチ が イロザタ で なく ヒイキ に して いた ゲイシャ が ある ザイサンカ に ひかされて ひらいた ミセ だ と いう ので、 クラチ から あらかじめ かけあって おいた の だった。 ジンリキシャ が その ミセ に ちかづく に したがって ヨウコ は その オカミ と いう の に ふとした ケネン を もちはじめた。 ミチ の オンナ ドウシ が であう マエ に かんずる イッシュ の かるい テキガイシン が ヨウコ の ココロ を しばらく は ヨ の コトガラ から きりはなした。 ヨウコ は クルマ の ナカ で エモン を キ に したり、 ソクハツ の カタチ を なおしたり した。
 ムカシ の レンガダテ を そのまま カイゾウ した と おもわれる シックイヌリ の ガンジョウ な、 カドジメン の ヒトカマエ に きて、 こうこう と あかるい イリグチ の マエ に シャフ が カジボウ を おろす と、 そこ には もう 2~3 ニン の オンナ の ヒトタチ が はしりでて まちかまえて いた。 ヨウコ は スソマエ を かばいながら クルマ から おりて、 そこ に たちならんだ ヒトタチ の ナカ から すぐ オカミ を みわける こと が できた。 セタケ が おもいきって ひくく、 カオカタチ も ととのって は いない が、 サンジュウ オンナ-らしく フンベツ の そなわった、 キカンキ-らしい、 アカヌケ の した ヒト が それ に ちがいない と おもった。 ヨウコ は おもいもうけた イジョウ の コウイ を すぐ その ヒト に たいして もつ こと が できた ので、 ことさら こころよい シタシミ を モチマエ の アイキョウ に そえながら、 アイサツ を しよう と する と、 その ヒト は こともなげ に それ を さえぎって、
「いずれ ゴアイサツ は のちほど、 さぞ おさむう ございましてしょう。 オニカイ へ どうぞ」
と いって ジブン から サキ に たった。 いあわせた ジョチュウ たち は メハシ を きかして いろいろ と セワ に たった。 イリグチ の ツキアタリ の カベ には おおきな ボンボンドケイ が ヒトツ かかって いる だけ で なんにも なかった。 その ミギテ の ガンジョウ な フミゴコチ の いい ハシゴダン を のぼりつめる と、 タ の ヘヤ から ロウカ で きりはなされて、 16 ジョウ と 8 ジョウ と 6 ジョウ との ヘヤ が カギガタ に つづいて いた。 チリ ヒトツ すえず に きちんと ソウジ が とどいて いて、 3 カショ に おかれた テツビン から たつ ユゲ で ヘヤ の ナカ は やわらかく あたたまって いた。
「オザシキ へ と もうす ところ です が、 ごきさく に こちら で おくつろぎ くださいまし…… ミマ とも とって は ございます が」
 そう いいながら オカミ は ナガヒバチ の おいて ある 6 ジョウ の マ へ と アンナイ した。
 そこ に すわって ヒトトオリ の アイサツ を コトバスクナ に すます と、 オカミ は ヨウコ の ココロ を しりぬいて いる よう に、 ジョチュウ を つれて シタ に おりて いって しまった。 ヨウコ は ホントウ に しばらく なり とも ヒトリ に なって みたかった の だった。 かるい アタタカサ を かんずる まま に おもい チリメン の ハオリ を ぬぎすてて、 アリタケ の カイチュウモノ を オビ の アイダ から とりだして みる と、 こりがち な カタ も、 おもくるしく かんじた ムネ も すがすがしく なって、 かなり つよい ツカレ を イチジ に かんじながら、 ネコイタ の ウエ に ヒジ を もたせて イズマイ を くずして もたれかかった。 フルビ を おびた アシヤガマ から ナリ を たてて しろく ユゲ の たつ の も、 きれい に かきならされた ハイ の ナカ に、 かたそう な サクラズミ の ヒ が しろい カツギ の シタ で ほんのり と あからんで いる の も、 セイコウ な ヨウダンス の はめこまれた 1 ケン の カベ に つづいた キヨウ な サンジャクドコ に、 シラギク を さした カラツヤキ の ツリハナイケ が ある の も、 かすか に たきこめられた ジンコウ の ニオイ も、 メ の つんだ スギマサ の テンジョウイタ も、 ほっそり と ミガキ の かかった カワツキ の ハシラ も、 ヨウコ に とって は―― おもい、 こわい、 かたい センシツ から ようやく カイホウ されて きた ヨウコ に とって は なつかしく ばかり ながめられた。 ここ こそ は クッキョウ の ヒナンジョ だ と いう よう に ヨウコ は つくづく と アタリ を みまわした。 そして ヘヤ の スミ に ある キウルシ を ぬった クワ の ヒロブタ を ひきよせて、 それ に テサゲ や カイチュウモノ を いれおわる と、 あく こと も なく その フチ から ソコ に かけて の マルミ を もった ビミョウ な テザワリ を めでいつくしんだ。
 バショガラ とて そこここ から この カイワイ に トクユウ な ガッキ の コエ が きこえて きた。 テンチョウセツ で ある だけ に キョウ は ことさら それ が にぎやか なの かも しれない。 コガイ には ポクリ や アズマ ゲタ の オト が すこし さえて たえず して いた。 きかざった ゲイシャ たち が みがきあげた カオ を びりびり する よう な ヨサム に オシゲ も なく デンポウ に さらして、 さすが に カンキ に アシ を はやめながら、 よばれた ところ に くりだして ゆく その ヨウス が、 まざまざ と ハキモノ の オト を きいた ばかり で ヨウコ の ソウゾウ には えがかれる の だった。 アイノリ らしい ジンリキシャ の ワダチ の オト も イセイ よく ひびいて きた。 ヨウコ は もう イチド これ は クッキョウ な ヒナンジョ に きた もの だ と おもった。 この カイワイ では ヨウコ は マナジリ を かえして ヒト から みられる こと は あるまい。
 めずらしく あっさり した、 サカナ の あたらしい ユウショク を すます と ヨウコ は フロ を つかって、 おもいぞんぶん カミ を あらった。 たしない フネ の ナカ の タンスイ では あらって も あらって も ねちねち と アカ の とりきれなかった もの が、 さわれば テ が きれる ほど さばさば と アブラ が ぬけて、 ヨウコ は アタマ の ナカ まで かるく なる よう に おもった。 そこ に オカミ も ショクジ を おえて ハナシアイテ に なり に きた。
「たいへん おそう ございます こと、 コンヤ の うち に おかえり に なる でしょう か」
 そう オカミ は ヨウコ の おもって いる こと を サキガケ に いった。 「さあ」 と ヨウコ も はっきり しない ヘンジ を した が、 こさむく なって きた ので ユカタ を きかえよう と する と、 そこ に ソデダタミ に して ある ジブン の キモノ に つくづく アイソ が つきて しまった。 この ヘン の ジョチュウ に たいして も そんな しつっこい けばけばしい ガラ の キモノ は ニド と きる キ には なれなかった。 そう なる と ヨウコ は しゃにむに それ が たまらなく なって くる の だ。 ヨウコ は うんざり した ヨウス を して ジブン の キモノ から オカミ に メ を やりながら、
「みて ください これ を。 この フユ は ベイコク に いる の だ と ばかり きめて いた ので、 あんな もの を つくって みた ん です けれども、 ガマン にも もう きて いられなく なりました わ。 ゴショウ。 アナタ の ところ に ナニ か フダンギ の あいた の でも ない でしょう か」
「どうして アナタ。 ワタシ は これ で ござんす もの」
と オカミ は ヒョウキン にも きがるく ちゃんと たちあがって ジブン の セタケ の ヒクサ を みせた。 そして たった まま で しばらく かんがえて いた が、 オドリ で しこみぬいた よう な テツキ で はたと ヒザ の ウエ を たたいて、
「よう ございます。 ワタシ ひとつ クラチ さん を びっくら さして あげます わ。 ワタシ の イモウトブン に あたる の に ガラ と いい トシカッコウ と いい、 シツレイ ながら アナタサマ と そっくり なの が います から、 それ の を とりよせて みましょう。 アナタサマ は アライガミ で いらっしゃる なり…… いかが、 ワタシ が すっかり したてて さしあげます わ」
 この オモイツキ は ヨウコ には つよい ユウワク だった。 ヨウコ は イチ も ニ も なく いさみたって ショウチ した。
 その バン 11 ジ を すぎた コロ に、 まとめた ニモツ を ジンリキシャ 4 ダイ に つみのせて、 クラチ が ソウカクカン に ついて きた。 ヨウコ は オカミ の イレヂエ で わざと ゲンカン には でむかえなかった。 ヨウコ は イタズラモノ-らしく ヒトリワライ を しながら タテヒザ を して みた が、 それ には ジブン ながら キ が ひけた ので、 ミギアシ を ヒダリ の モモ の ウエ に つみのせる よう に して その アシサキ を トンビ に して すわって みた。 ちょうど そこ に かなり よった らしい ヨウス で、 クラチ が オカミ の アンナイ も またず に ずしん ずしん と いう アシドリ で はいって きた。 ヨウコ と カオ を みあわした シュンカン には ヘヤ を まちがえた と おもった らしく、 すこし あわてて ミ を ひこう と した が、 すぐ クシマキ に して クロエリ を かけた その オンナ が ヨウコ だった の に キ が つく と、 イツモ の しぶい よう に カオ を くずして わらいながら、
「ナン だ バカ を しくさって」
と ほざく よう に いって、 ナガヒバチ の ムカイザ に どっかと アグラ を かいた。 ついて きた オカミ は たった まま しばらく フタリ を みくらべて いた が、
「ようよう…… へんてこ な オダイリビナ サマ」
と ヨウキ に カケゴエ を して わらいこける よう に ぺちゃん と そこ に すわりこんだ。 3 ニン は コエ を たてて わらった。
 と、 オカミ は キュウ に マジメ に かえって クラチ に むかい、
「こちら は キョウ の ホウセイ シンポウ を……」
と いいかける の を、 ヨウコ は すばやく メ で さえぎった。 オカミ は あぶない ドタンバ で ふみとどまった。 クラチ は スイガン を オカミ に むけながら、
「ナニ」
と シリアガリ に といかえした。
「そう ハヤミミ を はしらす と ツンボ と まちがえられます とさ」
と オカミ は こともなげ に うけながした。 3 ニン は また コエ を たてて わらった。
 クラチ と オカミ との アイダ に イチベツ イライ の ウワサバナシ が しばらく の アイダ とりかわされて から、 コンド は クラチ が マジメ に なった。 そして ヨウコ に むかって ブッキラボウ に、
「オマエ もう ねろ」
と いった。 ヨウコ は クラチ と オカミ と を ならべて ヒトメ みた ばかり で、 フタリ の アイダ の ケッパク なの を みてとって いた し、 ジブン が ねて アト の ソウダン と いうて も、 コンド の ジケン を ジョウズ に まとめよう と いう に ついて の ソウダン だ と いう こと が のみこめて いた ので、 すなお に たって その ザ を はずした。
 ナカ の 10 ジョウ を へだてた 16 ジョウ に フタリ の ネドコ は とって あった が、 フタリ の カイワ は おりおり かなり はっきり もれて きた。 ヨウコ は べつに ウタガイ を かける と いう の では なかった が、 やはり じっと ミミ を かたむけない では いられなかった。
 ナニ か の ハナシ の ツイデ に ニュウヨウ な こと が おこった の だろう、 クラチ は しきり に ミノマワリ を さぐって、 ナニ か を とりだそう と して いる ヨウス だった が、 「アイツ の テサゲ に いれた かしらん」 と いう コエ が した ので ヨウコ は はっと おもった。 あれ には ホウセイ シンポウ の キリヌキ が いれて ある の だ。 もう とびだして いって も おそい と おもって ヨウコ は ダンネン して いた。 やがて はたして フタリ は キリヌキ を みつけだした ヨウス だった。
「ナン だ アイツ も しっとった の か」
 おもわず すこし たかく なった クラチ の コエ が こう きこえた。
「どうりで さっき ワタシ が この こと を いいかける と あの カタ が メ で とめた ん です よ。 やはり あちら でも アナタ に しらせまい と して。 いじらしい じゃ ありません か」
 そう いう オカミ の コエ も した。 そして フタリ は しばらく だまって いた。
 ヨウコ は ネドコ を でて その バ に ゆこう か とも おもった。 しかし コンヤ は フタリ に まかせて おく ほう が いい と おもいかえして フトン を ミミ まで かぶった。 そして だいぶ ヨ が ふけて から クラチ が ね に くる まで こころよい アンミン に ゼンゴ を わすれて いた。


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