カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

メオト ゼンザイ 2

2019-08-23 | オダ サクノスケ
 2 ネン たつ と、 チョキン が 300 エン を すこし こえた。 チョウコ は ゲイシャ ジダイ の こと を おもいだし、 あれ は もう ゼンブ はろうて くれた ん か と タネキチ に きく と、 「さいな、 もう アンシン しー や、 この とおり や」 と ショウモン だして きて みせた。 ハハオヤ の オタツ は セルロイド ニンギョウ の ナイショク を し、 オトウト の シンイチ は ユウカンウリ を して いた こと は チョウコ も しって いた が、 それにしても どうして クメン して はらった の か と、 マブタ が あつく なった。 それで、 はじめて オトウト に 50 セン、 オタツ に 3 エン、 タネキチ に 5 エン、 それぞれ くれて やる キ が でた。 そこで チョキン は ちょうど 300 エン に なった。 その ウチ、 リュウキチ が ゲイシャ アソビ に 100 エン ほど つかった ので、 200 エン に へった。 チョウコ は なけ も しなかった。 ユウガタ デントウ も つけぬ くらい 6 ジョウ の マ の マンナカ に ぺたり と すわりこみ、 ウデグミ して カタ で イキ を しながら、 ショウジガミ の やぶれた ところ を じっと にらんで いた。 リュウキチ は シャミセン の バチ で なぐられた アト を おさえよう とも せず、 ごろごろ して いた。
 もう これ イジョウ シマツ の シヨウ も なかった が、 それでも はやく その 100 エン を とりもどさねば ならぬ と、 イロイロ に クフウ した。 ショウバイ ドウグ の イショウ も、 よほど せっぱつまれば ソメカエ を する くらい で、 アト は キセツ キセツ の カワリメ ごと に シチヤ での ダシイレ で なんとか ヤリクリ し、 ゴフクヤ に モノ いう の も はばかる ほど で あった おかげ で、 ハントシ たたぬ うち に やっと モト の ガク に なった の を シオ に、 いつまでも ニカイガリ して いて は ヒト に あなどられる、 1 ケン かりて ヤキイモヤ でも なんでも よい から ショウバイ しよう と さっそく リュウキチ に もちかける と、 「そう やな」 キ の ない ヘンジ だった が、 しかし、 あくる ヒ から カレ は もくもく と して たちまわり、 コウヅ ジンジャ サカシタ に マグチ 1 ケン、 オクユキ 3 ゲン ハン の ちいさな ショウバイヤ を かりうけ、 ダイク を フツカ やとい、 ジブン も てつだって しかるべく カイゾウ し、 もと つとめて いた とき の ケイケン と カオ と で カミソリ-ドンヤ から シナモノ の イタク を して もらう と またたく マ に カミソリヤ の シンミセ が できあがった。 アンゼン カミソリ の カエバ、 ミミカキ、 アタマカキ、 ハナゲヌキ、 ツメキリ など の コモノ から レザー、 ジャッキ、 セイヨウ カミソリ など ショウバイガラ、 セントウ-ガエリ の キャク を あてこむ の が ダイイチ と ミセ も セントウ の マムカイ に かりる だけ の ココロクバリ も リュウキチ は した ので、 チョウコ は しきり に カンシン し、 カイテン の ゼンジツ ホウバイ の ヤトナ たち が イワイ の ハシラドケイ を もって やって くる と、 「おいでやす」 コエ の ハリ も ちがった。 そして 「ウチ が こまめ に やって くれまっさかい な」 と いい、 これ は リュウキチ の こと を ほめた つもり だった。 タスキガケ で こそこそ チンレツダナ の フキソウジ を して いる リュウキチ の スガタ は ミヨウ に よって は、 ずいぶん おとこらしく も なかった が、 オンナ たち は いずれ も カンシン し、 コレヤス さん も ヨク が でる と なかなか の ハタラキモノ だ と おもった。
 カイテン の アサ、 ムコウ ハチマキ でも したい キモチ で チョウコ は ミセ の マ に すわって いた。 ヒルゴロ、 さっぱり キャク が きえへん な と リュウキチ は こころぼそい コエ を だした が、 それ に こたえず、 メ を サラ の よう に して オモテ を とおる ヒト を にらんで いた。 ヒルスギ、 やっと キャク が きて アンゼン の カエバ 1 マイ 6 セン の ウリアゲ だった。 「マイド おおけに」 「どうぞ ゴヒイキ に」 フウフ-ガカリ で うすきみわるい ほど サーヴィス を よく した が、 ジンキ が わるい の か シンミセ の ため か、 その ヒ は 15 ニン キャク が きた だけ で、 それ も ほとんど カエバ ばかり、 ウリアゲ は しめて 2 エン にも たらなかった。
 キャクアシ が さっぱり つかず、 ジレット の ヒトツ も でる の は よい ほう で、 タイテイ は ミミカキ か カエバ ばかり の あさましい ウリアゲ の ヒ が ナンニチ も つづいた。 ハナシ の タネ も つきて、 タイクツ した おたがいに カオ を なさけなく みかわしながら ミセバン して いる と、 いっそ はずかしい オモイ が した。 タイクツ シノギ に、 ヒル の アイダ の 1 ジカン か 2 ジカン ジョウルリ を ケイコ し に いきたい と リュウキチ は いいだした が、 とめる キ も おこらなかった。 これまで ぶらぶら して いる とき には いつでも ゆけた のに、 さすが に はばかって、 ショウバイ を する よう に なって から ケイコ したい と いう。 その キモチ を、 ヒト は しらず チョウコ は あわれ に おもった。 リュウキチ は チカク の シモデラマチ の タケモト ソショウ に ゲッシャ 5 エン で デシイリ し フタツイド の テンギュウ ショテン で ケイコボン の ふるい の を あさって、 マイニチ ぶらり と でかけた。 ショウバイ に ミ を いれる と いって も、 キャク が こなければ シヨウ が ない と いった カオ で、 ミセバン を する とき も ケイコボン を ひらいて、 ぼそぼそ うなる、 その コエ が いかにも なさけなく、 ジョウタツ した と ほめる の も なんとなく キ が ひける くらい で あった。 マイツキ くいこんで いった ので、 ふたたび ヤトナ に でる こと に した。 2 ド-メ の ヤトナ に でる バン、 クロウ とは この こと か と さすが に しんみり した が、 エンカイ の セキ では やはり ショウバイ ダイジ と つとめて、 ヒトリ で ザシキ を さらって ゆかねば すまぬ、 そんな キショウ は めった に うしなわれる もの では なかった。 ユウガタ、 チョウコ が でかけて ゆく と、 リュウキチ は そわそわ と ミセ を ハヤジマイ して、 フタツイド の イチバ の ナカ に ある ヤタイミセ で カヤクメシ と オコゼ の アカダシ を くい、 カラスガイ の スミソ で サケ を のみ、 65 セン の カンジョウ はらって やすい もん やな と、 カフェ 「イチバン」 で ビール や フルーツ を とり、 カタイレ を して いる ジョキュウ に ふんだん に チップ を やる と、 トオカ ブン の ウリアゲ が とんで しもうた。 ヤトナ の モウケ で どうにか クラシ を たてて は いる ものの、 リュウキチ の ツカイブン が はげしい もの で、 だんだん トンヤ の カリ も かさんで きて、 1 ネン シンボウ した アゲク、 ミセ の ケンリ の カイテ が ついた の を サイワイ、 おもいきって ミセ を しめる こと に した。
 ミセジマイ めちゃくちゃ オオナゲウリ の フツカ-カン の ウリアゲ 100 エン あまり と、 ケンリ を うった カネ 120 エン と、 あわせて 220 エン あまり の カネ で トンヤ の ハライ や あちこち の シハライ を すませる と、 しかし 10 エン も のこらなかった。
 ニカイガリ する にも マエバライ では こまる と、 いろいろ さがして いる うち に、 オキン の ところ へ デハイリ して カオミシリ の ゴフクヤ の カツギヤ が 「ウチ の 2 カイ が あいて まん ね、 チョウコ さん の こと でっさかい ヘヤダイ は いつでも よろし おま」 と いうた の を これ サイワイ に、 トビタ オオモン マエ-ドオリ の ロジウラ に ある そこ の 2 カイ を かりる こと に なった。 リュウキチ は あいかわらず ジョウルリ の ケイコ に でかけたり、 キンジョ に ある アカノレン の 5 セン キッサテン で ナン-ジカン も ジカン を つぶしたり して たわいなかった。 チョウコ は クチ が かかれば アメ の ヒ でも ユキ の ヒ でも はたらかいで おく もの か と でかけた。 もう ヤトナ たち の ナカ でも フルガオ に なった。 クミアイ でも できる なら、 さしずめ カンジ と いう ところ で、 トシウエ の ホウバイ から も チョウコ ネエサン と いわれた が、 まさか トクイ に なって は いられなかった。 イショウ の スソ など も はずかしい ほど すりきれて、 ノド から テ の でる ほど あたらしい の が ほしかった。 おまけに シタ が ゴフク の カツギヤ と あって みれば、 たとえ メイセン の 1 マイ でも かって やらねば ギリ が わるい の だ が、 ガマン して ひたすら チョキン に つとめた。 もう イチド、 イッケンミセ の ショウバイ を しなければ ならぬ と、 オヤ の カタキ を とる よう な キモチ で、 われながら あさましかった。
 3 ネン たつ と、 やっと 200 エン たまった。 リュウキチ が チョウ が いたむ と いう ので ときどき イシャ-ガヨイ し、 その ため ニュウヒ が かさんで、 はがゆい ほど、 カネ は たまらなかった の だ。 200 エン できた ので、 リュウキチ に 「なんぞ ええ ショウバイ ない やろ か」 と ソウダン した が、 コンド は 「そんな ハシタガネ では どない も シヨウ が ない」 と ノリキ に ならず、 ある ヒ、 その ウチ 50 エン の カネ を トビタ の クルワ で またたく マ に つかって しまった。 4~5 ニチ マエ に、 イモウト が ちかぢか ムコヨウシ を むかえて、 ウメダ シンミチ の イエ を きりまわして ゆく と いう ウワサ が リュウキチ の ミミ に はいって いた ので、 かねがね ヨキ して いた こと だった が、 それでも ショウギ を アイテ に 1 ニチ で 50 エン の カネ を つかった とは、 むしろ あきれて しまった。 ぼんやり した カオ を ぬっと つきだして かえって きた ところ を、 いきなり エリ を つかんで つきたおし、 ウマノリ に なって、 ぐいぐい クビ を しめあげた。 「く、 く、 くるしい、 くるしい、 オバハン、 ナニ すん ねん」 と リュウキチ は アシ を ばたばた させた。 チョウコ は、 もう おもうぞんぶん セッカン しなければ キ が すまぬ と、 しめつけ しめつけ、 うつ、 なぐる、 シマイ に リュウキチ は 「どうぞ、 カンニン して くれ」 と ヒメイ を あげた。 チョウコ は なかなか テ を ゆるめなかった。 イモウト が ムコヨウシ を むかえる と きいた くらい で ヤケ に なる リュウキチ が、 はらだたしい と いう より、 むしろ かわいそう で、 チョウコ の セッカン は チジョウ-めいた。 スキ を みて リュウキチ は、 ひーひー コエ を たてて シタ へ おり、 にげまわった アゲク、 ベンジョ の ナカ へ かくれて しまった。 さすが に そこ まで は おわなかった。 シタ の シュフ は おんなだてら に と たしなめた が、 チョウコ は モノ ヒトツ いわず、 ソデ を カオ に あてて、 カタ を ふるわせる と、 おもいがけず はじめて おんならしく みえた と、 シュフ は おもった。 トシシタ の オット を もつ カノジョ は かねがね チョウコ の こと を よく いわなかった。 マイアサ ミソシル を こしらえる とき、 リュウキチ が タスキガケ で カツオブシ を けずって いる の を みて、 テイシュ に そんな こと を させて よい もん か と ほとんど クチ に でかかった。 コノミ の アジ に する ため、 わざわざ カツオブシ ケズリ まで ジブン の テ で しなければ おさまらぬ リュウキチ の クイイジ の キタナサ など、 しらなかった の だ。 カツギヤ も ドウカン で、 いつか チョウコ、 リュウキチ と 3 ニン つれだって センニチマエ へ ナニワブシ を きき に いった とき、 たてこんだ ヨセ の ナカ で、 ダレ か に イタズラ を された とて、 きゃーっ と オオゴエ を だして さわぎまわった チョウコ を みて、 えらい オンナ や と おもい、 テイサイ の わるそう な カオ で メ を しょぼしょぼ させて いる リュウキチ に ほとほと ドウジョウ した、 と かえって ニョウボウ に いった。 「あれ では いまに コレヤス さん に きらわれる やろ」 フウフ は ひそひそ かたりあって いた が、 あんのじょう、 リュウキチ は ある ヒ ぶらり と でて いった まま、 イクニチ も かえって こなかった。
 ナノカ たって も リュウキチ は かえって こない ので、 ハンナキ の カオ で、 タネキチ の イエ へ ゆき、 ウメダ シンミチ に いる に ちがいない から、 どんな ヨウス か こっそり みて きて くれ と たのんだ。 タネキチ は、 ムスメ の タノミ を はねつける と いう わけ では ない が、 わかれる キ の センポウ へ いって ヘタ に カオ みられたら、 どんな メ で みられる かも しれぬ と ことわった。 「ヘタ に ミレン もたん と わかれた ほう が ミ の ため やぜ」 など と それ が オヤ の いう コトバ か と、 チョウコ は コウフン の あまり クチゲンカ まで し、 その アシ で シンセカイ の ハッケミ の ところ へ いった。 「アンタ が オトコ はん の ため に つくす その ココロ が アダ に なる。 だいたい この ホシ の ヒト は……」 トシ を きいて ヒノエウマ だ と しる と、 ハッケミ は もう タテイタ に ミズ を ながす オシャベリ で、 なにもかも わるい ウンセイ だった。 「オトコ はん の ココロ は キタ に かたむいて いる」 と きいて、 ぞっと した。 キタ とは ウメダ シンミチ だ。 カネ を はらって ソト へ でる と、 どこ へ ゆく と いう アテ も なく、 マナツ の ヒ が かんかん あたって いる サカリバ を アシバヤ に あるいた。 アタミ の ヤド で でくわした ジシン の こと が おもいだされた。 やはり あつい ヒ だった。
 トオカ-メ、 ちょうど ジゾウボン で、 ロジ にも ボンオドリ が あり、 ムリ に ひっぱりだされて、 タンチョウ な キョク を くりかえし くりかえし、 それでも ときどき チョウシ に ヘンカ を もたせて ひいて いる と、 ふと エアンドン の シタ を ひょこひょこ あるいて くる リュウキチ の カオ が みえた。 アンドン の アカリ に カオ が はえて、 まぶしそう に メ を しょぼつかせて いた。 トタン に シャミセン の イト が きれて はねた。 すぐ 2 カイ へ つれあがって、 つもる ハナシ より も サキ に ミ を なげかけた。
 2 ジカン たって、 デンシャ が なくなる よって と かえって いった。 みじかい ジカン の アイダ に これ だけ の こと を リュウキチ は はなした。 この トオカ-カン ウメダ の イエ へ いりびたって いた の は ホカ や ない、 むろん おもう ところ あって の こと や。 イモウト が ムコヨウシ を とる と あれば、 こちら は ハイチャク と ソウバ は きまって いる が、 それで ナキネイリ しろ とは あまり の シウチ や と、 ウメダ の イエ へ かけこむ なり、 マイニチ ヒザヅメ の ダンパン を やった ところ、 いっこう に キキメ が ない。 ツマ を すて、 コ も すてて すき な オンナ と イッショ に くらして いる ミ に カチメ は ない が、 ハイチャク は ハイチャク でも もらう だけ の もの は もらわぬ と、 アト へは いけぬ おもて テコ でも うごかへんなんだ が、 オヤジ の イイブン は どう や。 チョウコ、 オマエ キ に した あかん ぜ。 「あんな オンナ と イッショ に くらして いる モノ に カネ を やって も シニガネ ドウゼン や、 けっきょく オンナ に だまされて とられて しまう が オチ や、 ほしければ オンナ と わかれろ」 こない いうた きり オヤジ は もう モノ も いいくさらん。 そこで、 チョウコ、 ここ は イチバン シバイ を うつ こっちゃ。 わかれた、 オンナ も わかれる いうて ます と うまく オヤジ を だまして もらう だけ の もの は もろたら、 アト は ハイチャク でも ハイカグラ でも、 その カネ で キラク な ショウバイ でも やって フタリ すえなごう トモシラガ まで くらそう や ない か。 いつまでも オマエ に ヤトナ させとく の も かわいそう や。 それで チョウコ、 アシタ イエ の ツカイ の モノ が きよったら、 わかれまっさ と きっぱり いうて ほしい ん や。 ホンマ の キモチ で いう の や ない ねん ぜ。 シ、 シ、 シバイ や。 シバイ や。 カネ さえ もろたら ワイ は じき かえって くる。 ――チョウコ の ムネ に あまい キモチ と フアン な キモチ が のこった。
 ヨクアサ、 コウヅ の オキン を おとずれた。 ハナシ を きく と、 オキン は 「チョウコ はん、 アンタ コレヤス さん に だまされたはる」 と、 さすが に クロウニン だった。 オキン は、 コレヤス が サイショ チョウコ に ナイショ で ウメダ へ いった と きいて、 これ は うっかり シバイ に のれぬ と おもった。 リュウキチ の ハラ は、 チョウコ が わかれる と いって しまえば、 それ で まんまと キサン が かない、 そのまま ウメダ の イエ へ すわりこんで しまう つもり かも しれぬ。 と そう まで はっきり と わるく とらず、 また いくら ケショウヒン-ドンヤ でも そこ は チチオヤ が おろして くれぬ と すれば、 その とき は その とき で わるく いって も カネ が とれる し、 いわば フタミチ を かけて いる か、 それとも ジブン で ジブン の キモチ が はっきり して ない か、 なにしろ、 リュウキチ には コドモ も ある こと だ と、 そこ まで は クチ に ださなかった が、 いずれ に せよ チョウコ が わかれる と いわなければ、 リュウキチ は オヤ の イエ に おれぬ カンジョウ だ から けっきょく は リュウキチ に もどって ほしければ 「わかれる と いうたら あきまへん ぜ」 チョウコ は オキン の いう とおり に した。 ウソ に しろ わかれる と いう より、 その ほう が いいやすかった。 それに、 まもなく カオ を みせた ツカイ の モノ は テギレキン を ヨウイ して いる らしく、 もらえば それきり で エン が きれそう だった。

 ミッカ たつ と リュウキチ は かえって きた。 いそいそ と した チョウコ を みる なり 「アホ やな、 オマエ の ヒトコト で なにもかも めちゃくちゃ や」 フキゲン きわまった。 テギレキン ウンヌン の キモチ を いう と、 「もろたら、 ワイ の もらう カネ と ニジュウドリ で ええ がな。 ちょっと は ヨク を ださん かい や」 なるほど と おもった。 が、 オキン の コトバ は やはり ムネ の ナカ に のこった。
 チチオヤ から は とりそこなった が、 イモウト から ムシン して きた カネ 300 エン と チョウコ の チョキン を あわせて、 それ で ナニ か ショウバイ を やろう と、 コンド は リュウキチ の クチ から いいだした。 カミソリヤ の にがい ケイケン が ある から、 あれ でも なし、 これ でも なし と リュウキチ の キョウミ を もちそう な ショウバイ を かんがえた スエ、 けっきょく ヤキイモヤ でも やる より ホカ には…… と こまって いる うち に、 ふと カントダキヤ が よい と おもいつき、 リュウキチ に いう と、 「そ、 そ、 そら ええ カンガエ や、 ワイ が ウデマエ ふるって ええ アジ の もん を くわしたる」 ひどく ノリキ に なった。 テキトウ な ウリミセ が ない か と さがす と、 チカク の トビタ オオモン マエ-ドオリ に ちいさな カントダキ の ミセ が ウリ に でて いた。 ゲンザイ トシヨリ フウフ が ショウバイ して いる の だ が、 トチガラ、 キャクダネ が ガラ わるく あらっぽい ので、 おとなしい オナゴシ は つづかず、 と いって キショウ の つよい オンナ は こちら が なめられる と いった アンバイ で、 ほとほと ヒトデ に こまって ウリ に だした の だ と いう から、 かけあう と、 あんがい やすく ゾウサク から ドウグ いっさい つき 350 エン で ゆずって くれた。 シタ は ゼンブ シックイ で ショウバイ に つかう から、 ネトマリ する ところ は 2 カイ の 4 ジョウ ハン ヒトマ ある きり、 おまけに アタマ が つかえる ほど テンジョウ が ひくく いんきくさかった が、 クルワ の ユキカエリ で ヒトドオリ も おおく、 それに カドミセ で、 ミセ の ダンドリ から デイリグチ の トリカタ など たいへん よかった ので、 ネ を きく なり とびついて テ を うった の だ。 シンキ カイテン に さきだち、 ホウゼンジ ケイダイ の ショウベン タンゴテイ や ドウトンボリ の タコウメ を ハジメ、 ユキアタリバッタリ に カントダキヤ の ノレン を くぐって、 アジカゲン や チョウシ の ナカミ の グアイ、 ショウバイ の ヤリクチ など を しらべた。 カントダキヤ を やる と きいて タネキチ は、 「エビ でも イカ でも テンプラ なら ワイ に まかしとくなはれ」 と テツダイ の イ を もうしいでた が、 リュウキチ は、 「コバチモノ は やりまっけど、 テンプラ は だしまへん」 と テイサイ よく ことわった。 タネキチ は ザンネン だった。 オタツ は、 それ みた こと か と タネキチ を あざけった。 「ワテラ に てつどうて もろたら ソン や おもたはる の や。 ダレ が ビタイチモン でも ムシン する もん か」
 オタガイ の ナ を イチジ ずつ とって 「チョウリュウ」 と ヤゴウ を つけ、 いよいよ カイテン する こと に なった。 まだ アツサ が さって いなかった こと とて おもいきって ナマ ビール の タル を しこんで いた ゆえ、 はよ うりきって しまわねば キ が ぬけて ワヤ (ダメ) に なる と、 やきもき シンパイ した ほど でも なく、 よく うれた。 ヒトデ を かりず、 フウフ だけ で ミセ を きりまわした ので、 ヨル の 10 ジ から 12 ジ-ゴロ まで の いちばん たてこむ ジカン は メ の まわる ほど いそがしく、 ショウベン に たつ ヒマ も なかった。 リュウキチ は しろい リョウリギ に タカゲタ と いう イキ な カッコウ で、 ときどき ゼニバコ を のぞいた。 ウリアゲガク が ふえて いる と、 「いらっしゃあい」 カミソリヤ の とき と ちがって カケゴエ も いさましかった。 ぞくに 「オカマ」 と いう チュウセイ の ナガシ ゲイニン が ながして きて、 アオヤギ を にぎやか に ひいて いったり、 ケイキ が よかった。 そのかわり、 トチガラ が わるく、 タチ の よく ない サケノミ ドウシ が ケンカ を はじめたり して、 リュウキチ は はらはら した が、 チョウコ は ムカシ とった キネヅカ で、 そんな キャク を うまく さばく の に べつに シュウハ を つかったり する ヒツヨウ も なかった。 クルワ を ひかえて おそく まで キャク が あり、 カンバン を いれる コロ は もう ヒガシ の ソラ が ムラサキイロ に かわって いた。 くたくた に なって 2 カイ の 4 ジョウ ハン で イットキ うとうと した か と おもう と、 もう メザマシ が じじー と なった。 ネマキ の まま で シタ に おりる と、 カオ も あらわぬ うち に、 「チョウショク できます、 ヨシナ-ツキ 18 セン」 の タテカンバン を だした。 アサガエリ の キャク を あてこんで ミソシル、 ニマメ、 ツケモノ、 ゴハン と ツゴウ ヨシナ で 18 セン、 こまかい ショウバイ だ と タカ を くくって いた ところ、 ビール など を とる キャク も いて、 けっこう ショウバイ に なった から、 しょうしょう ネムサ も ガマン できた。
 あきめいて きて、 やがて カゼ が はだざむく なる と、 もう カントダキヤ に 「もってこい」 の キセツ で、 ビール に かわって サケ も よく でた。 サカヤ の ハライ も きちんきちん と ゲンキン で わたし、 メイシュ の ホンポ から、 カンバン を キゾウ して やろう と いう くらい に なり、 チョウコ の シャミセン も むなしく オシイレ に しまった まま だった。 コンド は ハンブン イジョウ ジブン の カネ を だした と いう せい ばかり でも なかったろう が、 リュウキチ の ミ の イレカタ は モウシブン なかった。 コウキュウビ と いう もの も もうけず、 マイニチ せっせと せいだした から、 ムダヅカイ も ない まま に、 いきおい たまる イッポウ だった。 リュウキチ は マイニチ ユウビンキョク へ いった。 カラダ の えらい ショウバイ だ から、 リュウキチ は つかれる と サケ で ゲンキ を つけた。 サケ を のむ と キ が おおきく なり、 ふらふら と タイキン を つかって しまう リュウキチ の ショウブン を しって いた ので、 チョウコ は ひやひや した が、 ウリモノ の サケ と あって みれば、 リュウキチ も カゲン して のんだ。 そういう ノミカタ も、 しかし、 チョウコ には また ヒトツ の シンパイ で、 いずれ は どちら へ まわって も シンパイ は つきなかった。 オオザケ を のめば バカ に ヨウキ に なる が、 ちびちび やる とき は がんらい ドモリ の せい か ムクチ の リュウキチ が いっそう ムクチ に なって、 キャク の ない とき など、 イス に こしかけて ぽかん と ナニ か カンガエゴト して いる らしい ヨウス を みる と、 やはり、 ウメダ の イエ の こと かんがえてる の と ちがう やろ か、 そう おもって キ が キ で なかった。
 あんのじょう、 イモウト の コンレイ に シュッセキ を はねつけられた とて リュウキチ は キ を くさらせ、 200 エン ほど もちだして でかけた まま、 ミッカ かえって こなかった。 ちょうど ハナミドキ で、 おまけに ニチヨウ、 サイジツ と モンビ が つづいて ミセ を やすむ わけ に ゆかず、 テンテコマイ しながら フツカ ショウバイ を した ものの、 チョウコ は もう ヨク など だして いる キ にも なれず、 おまけに いそがしい の と シンパイ と で カラダ が いう こと を きかず、 ミッカ-メ は とうとう ミセ を しめた。 その ヨル おそく、 かえって きた。 ミミ を すまして いる と、 「イマゴロ は ハンシチ さん が、 どこ に どうして ござろう ぞ。 いまさら かえらぬ こと ながら、 ワシ と いう もの ない ならば、 ハンベエ サマ も オツウ に めんじ、 コ まで なしたる サンカツ ドノ を、 とくに も よびいれさしゃんしたら、 ハンシチ さん の ミモチ も なおり、 ゴカンドウ も あるまい に……」 と サンカツ ハンシチ の サワリ を かたりながら やって くる の は、 リュウキチ に ちがいなかった。
 ヨナカ に ヘタ な ジョウルリ を かたったり して、 キンジョ の テイサイ も わるい こっちゃ と、 はっと した。 「……オキ に いらぬ と しりながら、 ミレン な ワタシ が リンネ ゆえ、 ソイブシ は かなわず とも、 オソバ に いたい と シンボウ して、 これまで いた の が オミ の アダ……」 と こっち から アト を つづけて こましたろ か と いう キモチ で、 シタ へ おりた。 リュウキチ の アシオト は イエ の マエ で とまった。 もう かたり も せず、 キガネ した ヨウス で、 かたかた ト を うごかせて いる よう だった。 「ドナタッ?」 わざと いう と、 「ワイ や」 「ワイ では わかりまへん ぜ」 かさねて とぼけて みせる と、 「コ、 コ、 コレヤス や」 と ソト の コエ は ふるえて いた。 「コレヤス いう ヒト は たんと いたはります」 にこり とも せず いった。 「コレヤス リュウキチ や」 もう チョウコ の セッカン を カンネン して いる よう だった。 「コレヤス リュウキチ いう ヒト は ここ には ヨウ の ない ヒト だす。 イマゴロ どこ ぞ で サンザイ して いやはりまっしゃろ」 と なおも いじめ に かかった が、 キンジョ の テイサイ も あった から、 その くらい に して、 ト を あける なり、 「オバハン、 セ、 セ、 セッショウ やぜ」 と カオ を しかめて つったって いる リュウキチ を ひきずりこんだ。 ムリ に 2 カイ へ おしあげる と、 リュウキチ は テンジョウ へ アタマ を ぶっつけた。 「いたあ!」 も クソ も ある もん か と、 おもうぞんぶん セッカン した。
 もう ニド と ウワキ は しない と リュウキチ は ちかった が、 チョウコ の セッカン は なんの クスリ にも ならなかった。 しばらく する と、 また ホウトウ した。 そして かえる とき は、 やはり セッカン を おそれて あおく なった。 そろそろ ヒマン して きた チョウコ は セッカン する たび に イキギレ が した。
 リュウキチ が ユウトウ に つかう カネ は かなり の ガク だった から、 あそんだ あくる ヒ は さすが に カレ も あおく なって、 サカズキ も テ に しない で、 もくもく と ナベ の ナカ を かきまわして いた。 が、 4~5 ニチ たつ と、 やはり、 キャク の サケ の カン を する ばかり が ノウ や ない と いいだし、 まぜない ほう の サケ を たっぷり チョウシ に いれて、 ドウコ の ナカ へ つけた。 あきらか に ショウバイ に あいた ふう で、 よう と キ が おおきく なり、 しぜん アシ は アソビ の ほう に むいた。 コウヤ の シロバカマ どころ で なく、 これ では リュウキチ の アソビ に アブラ を そそぐ ため に ショウバイ を して いる よう な もの だ と、 チョウコ は だんだん コウカイ した。 えらい ショウバイ を はじめた もの や と おもって いる うち に、 サカヤ への シハライ など も とどこおりがち に なり、 けっきょく、 やめる に しかず と、 その ムネ リュウキチ に いう と、 リュウキチ は ソクザ に ドウイ した。

「この ミセ ゆずります」 と ハリダシ した まま、 いんきくさく ずっと ミセ を しめた きり だった。 リュウキチ は ジョウルリ の ケイコ に かよいだした。 タクワエ の カネ も しだいに うすく なって ゆく のに、 いっこう に ミセ の カイテ が つかなかった。 チョウコ の ハラ は そろそろ、 3 ド-メ の ヤトナ を かんがえて いた。 ある ヒ、 2 カイ の マド から オモテ の ヒトドオリ を ながめて いる と、 それ が ミナ キャク に みえて、 ショウバイ を して いない こと が いかにも おしかった。 ムカイガワ の 5~6 ケン サキ に ある クダモノヤ が、 アカ や キ や ミドリ の イロ が さきこぼれて いて、 カッキ を みせた。 キャク の デイリ も おおかった。 クダモノヤ は ええ ショウバイ や と ふと おもう と、 もう いて も たって も いられず、 リュウキチ が ジョウルリ の ケイコ から かえって くる と、 さっそく 「アカモンヤ を やれへん か」 リュウキチ は ノリキ に ならなかった。 いよいよ くう に こまれば、 ウメダ へ いって ムシン すれば よし と かんがえて いた の だ。
 ある ヒ、 どうやら ウメダ へ でかけた らしかった。 かえって きて の ハナシ に、 ムシン した ところ イモウト の ムコ が でて オウタイ した が、 ハナシ の わからぬ ガンコモノ の うえ に ケチンボ と きて いて、 けっきょく ビタイチモン も ださなかった と しきり に コウフン した。 そして 「アカモンヤ を やろう や ない か」 カオ は にがりきって いた。
 カントダキ の ショドウグ を うりはらった カネ で ミセ を カイゾウ した。 シイレ や なにやかや で だいぶ カネ が たらなかった ので、 イショウ や アタマ の モノ を シチ に いれ、 なお オキン の ところ へ カネ を かり に いった。 オキン は 1 ジカン ばかり リュウキチ の ワルクチ を いった が、 けっきょく 「チョウコ はん、 アンタ が かわいそう や さかい」 と 100 エン かして くれた。
 その アシ で カミシオマチ の タネキチ の ところ へ ゆき、 クダモノヤ を やる から、 2~3 ニチ テ を かして くれ と たのんだ。 スイカ の キリカタ など ヨウリョウ を リュウキチ は しらない から、 ケイケン の ある タネキチ に おそわる ヒツヨウ に せまられて、 コンド は リュウキチ の クチ から 「ひとつ オトッツァン に たのもう や ない か」 と いいだして いた。 タネキチ は わかい コロ オタツ の クニモト の ヤマト から クルマ 1 ダイ ブン の スイカ を かって、 カミシオマチ の ヨミセ で キリウリ した こと が ある。 その コロ、 チョウコ は まだ フタツ で、 オタツ が せおうて、 つまり オヤコ 3 ニン ソウデ で、 ヒトバン に 100 コ うれた と タネキチ は ムカシバナシ し、 よろこんで てつだう こと を いった。 カントダキヤ の とき てつだおう と いって リュウキチ に はねつけられた こと など、 ネ に もたなかった。 どころ か ミセビラキ の ヒ、 スジムカイ にも クダモノヤ が ある とて、 「スイカヤ の ムカイ に スイカヤ が できて、 スイカ ドウシ (すいた ドウシ) の サシムカイ」 と タンカイブシ の モンク を いいだす ほど の ジョウキゲン だった。 ムカイガワ の クダモノヤ は、 ミセ の ハンブン が コオリ-テン に なって いる の が ツヨミ で コオリカケ スイカ で キャク を よんだ から、 しぜん、 チョウコ たち は、 キリミ の アツサ で タイコウ しなければ ならなかった。 が、 いわれなくて も タネキチ の キリカタ は、 すこぶる キマエ が よかった。 1 コ 80 セン の スイカ で 10 セン の キリミ ナンコ と ムナザンヨウ して、 リュウキチ が はらはら する と、 タネキチ は 「キリミ で つって、 まるぐち で もうける ん や。 そんして トク とれ や」 と いった。 そして 「ああ、 スイカ や、 スイカ や、 うまい スイカ の オオヤスウリ や!」 と ハデ な ヨビゴエ を だした。 ムカイガワ の ヨビゴエ も なかなか まけて いなかった。 チョウコ も だまって いられず、 「やすい スイカ だっせ」 と カナキリゴエ を だした。 それ が アイキョウ で、 キャク が きた。 チョウコ は、 カバン の よう な サイフ を クビ から つるして、 ウリアゲ を いれたり、 ツリセン を だしたり した。
 アサ の アイダ、 チョウコ は クルワ の ナカ へ はいって ゆき ノキゴト に スイカ を うって まわった。 「うまい スイカ だっせ」 と いう コエ が びっくり する ほど きれい なの と、 わらう カオ が アイキョウ が あり、 しかも キショウ が イキ で さっぱり して いる の と が たまらぬ と、 ショウギ たち が ヒイキ に して くれた。 「アシタ も もって きとくなはれ や」 そんな とき リュウキチ が セ に のせて ゆく と、 「ネエチャン は……?」 ええ オクサン を もって はる と ほめられる の を、 ヒトゴト の よう に ききながして、 リュウキチ は しぶい カオ で あった。 むしろ、 むっつり して、 これ で あそべば めちゃくちゃ に ハメ を はずす オトコ だ とは みえなかった。
 わりあい ネッシン に ならった ので、 4~5 ニチ する と リュウキチ は スイカ を きる ヨウリョウ など おぼえた。 タネキチ は ちょうど ウジガミ の マツリ で レイネン-どおり オワタリ の ニンソク に やとわれた の を シオ に、 テ を ひいた。 カエリシナ、 リンゴ は よくよく フキン で ふいて ツヤ を だす こと、 スイミツトウ には テ を ふれぬ こと、 クダモノ は ホコリ を きらう ゆえ しじゅう ハタキ を かける こと など ネン おして いった。 その とおり に こころがけて いた の だ が、 どういう もの か アシ が はやくて スイミツトウ など またたく マ に フハイ した。 ミセ へ かざって おけぬ から、 つらい キモチ で すてた。 マイニチ、 すてる ブン が おおかった。 と いって シナモノ を へらす と ミセ が ヒンソウ に なる ので、 そう も ゆかず、 うまく はけない と アセリ が でた。 モウケ も おおい が ソン も カンジョウ に いれねば ならず、 クダモノヤ も ヨウイ な ショウバイ では ない と、 だんだん わかった。
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