カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ウンメイロンシャ 1

2014-10-23 | クニキダ ドッポ
 ウンメイロンシャ

 クニキダ ドッポ

 1

 アキ の ナカバスギ、 フユ-ぢかく なる と いずれ の カイヒン を とわず、 オオカタ は さぴれて くる。 カマクラ も その とおり で、 ジブン の よう に ネンジュウ すんで いる モノ の ホカ は、 ハマ へ でて みて も、 サト の コ、 ウラ の コ、 ジビキアミ の オトコ、 あるいは ハマヅタイ に ゆきかよう アキンド を みる ばかり、 トジンシ らしい モノ の スガタ を みる は まれ なの で ある。
 ある ヒ ジブン は イツモ の よう に ナメリガワ の ホトリ まで サンポ して、 さて スナヤマ に のぼる と、 おもいのほか、 キタカゼ が ミ に しむ ので すぐ フモト に おりて そこら ヒアタリ の よい ところ、 カラダ を のばして ラク に ホン の よめそう な ところ と アタリ を みまわした が、 おもう よう な ところ が ない ので、 あちらこちら と さがしあるいた。 すると 1 カショ、 おもしろい バショ を みつけた。
 スナヤマ が キュウ に ほげて クサ の ネ で わずか に それ を ささえ、 その シタ が ガケ の よう に なって いる、 その ネカタ に すわって リョウアシ を なげだす と、 セ は ウシロ の スナヤマ に もたれ、 ミギ の ヒジ は カタワラ の こだかい ところ に かかり、 ちょうど ソハ に よった よう で、 まことに ココロモチ の よい バショ で ある。
 ジブン は もって きた ショウセツ を フトコロ から だして、 こころのどか に よんで いる と、 ヒ は あたたか に てり ソラ は たかく はれ ここ より は ウミ も みえず、 ヒトゴエ も きこえず、 ナギサ に ころがる ナミオト の おだやか に おもおもしく きこえる ホカ は アタリ ひっそり と して いる ので、 いつしか ココロ を すっかり ホン に とられて しまった。
 しかるに ふと モノオト の した よう で ある から なにごころなく アタマ を あげる と、 ジブン から 4~5 ケン はなれた ところ に ヒト が たって いた の で ある。 いつ ここ へ きて、 どこ から あらわれた の か すこしも キ が つかなかった ので、 あたかも チ の ソコ から わきでた か の よう に おもわれ、 ジブン は おどろいて よく みる と、 トシ は 30 ばかり、 オモナガ の ハナ の たかい オトコ、 セ は すらり と した ヤサガタ、 ミナリ と いい ヒン と いい、 イッケン して ベッソウ に きて いる ヒト か、 それとも ヤド を とって タイリュウ して いる シンシ と しれた。
 カレ は そこ に つったって ジブン の ほう を じっと みて いる その メツキ を みて、 ジブン は さらに おどろき かつ あやしんだ。 カタキ を みる イカリ の メ か、 それにしては チカラ うすし。 ヒト を うたがう サイギ の メ か、 それにしては ヒカリ にぶし。 ただ なにごころなく ヒト を ながむる メ に して は はなはだ スゴミ を おぶ。
 ミョウ な ヤツ だ と ジブン も みかえして いる こと しばし、 カレ は たちまち メ を スナ の ウエ に てんじて、 イッポ イッポ、 しずか に あるきだした。 されども この クボチ の ソト に でよう とは しない で、 ただ そこら を ぶらぶら あるいて いる。 そして ときどき すごい メ で ジブン の ほう を みる。 イッタイ の ヨウス が ジンジョウ で ない ので、 ジブン は ココロモチ が わるく なり、 バショ を かえる つもり で そこ を たち、 スナヤマ の ウエ まで きて、 ウシロ を かえりみる と、 どう だろう あやし の オトコ は はやくも ジブン の すわって いた バショ に カラダ を なげて いた! そして ジブン を みおくって いる はず が、 そう で なく たてた ヒザ の ウエ に ウデグミ を して つっぷして カオ を ウデ の アイダ に うずめて いた。
 あまり の フシギサ に ジブン は ヨウス を みて やる キ に なって、 とある コカゲ に カレクサ を しいて はいつくばい、 ホン を みながら、 おりおり アタマ を あげて かの オトコ を うかがって いた。
 カレ は やや しばらく カオ を あげなかった。 けれども 10 プン とは ジブン を またさなかった。 カレ の たちあがる や ビョウニン の ごとく、 なんとなく ちからなげ で あった が、 たった と おもう と そのまま くるり と ウシロムキ に なって、 スナヤマ の ガケ に メン と むき、 ミギ の テ で その フモト を ほりはじめた。
 とりだした もの は おおきな ビン、 カレ は タモト から ハンケチ を だして ビン の スナ を はらい、 さらに ちいさな コップ-ヨウ の もの を だして、 ビン の セン を ぬく や、 1 パイ 1 パイ、 3~4 ハイ ツヅケサマ に のんだ が、 ビン を しずか に シタ に おき、 テ に サカズキ を もった まま、 こうぜん と コウベ を あげて オオゾラ を ながめて いた。
 そして また 1 パイ のんだ。 そして はしなく マナコ を ジブン の ほう へ てんじた と おもう と、 コップ を テ に した まま ジブン の ほう へ オオマタ で あるいて くる。 その ホブ の キリョク ある サマ は イゼン の ヨウス と まるで ちごうて いた。
 ジブン は おどろいて にげだそう か と おもった。 しかし すぐ おもいかえして そのまま ヨコ に なって いる と、 カレ は まもなく ジブン の ソバ まで きて、 あやしげ な エミ を うかべながら、
「アナタ は ボク が イマ ナニ を した か みて いた でしょう?」
と いった コエ は すこし しわがれて いた。
「みて いました」 と ジブン は はっきり こたえた。
「アナタ は ヒト の ヒミツ を うかごうて よい と おもいます か」 と カレ は ますます あやしげ な エミ を ふかく する。
「よい とは おもいません」
「それなら なぜ ボク の ヒミツ を うかがいました」
「ボク は ここ で ホン を よむ の ジユウ を もって います」
「それ は ベツモンダイ です」 と カレ は ちょっと メ を ジブン の ホン の ウエ に そそいだ。
「ベツモンダイ では ありません。 アナタ が ナニ を しよう と ボク が ナニ を しよう と、 それ が ヒト に ガイ を およぼさぬ カギリ は オタガイ の ジユウ です。 もし アナタ に ヒミツ が ある なら みずから まず ヒミツ に したら よい でしょう」
 カレ は キュウ に そわそわ して ヒダリ の テ で アタマ の ケ を むしる よう に かきながら、
「そう です、 そう です。 けれども あれ が ボク の なしうる カギリ の ヒミツ なん です」 と いって しばらく コトバ を とぎらし、 キ を つめて いた が、
「ボク が アナタ を せめた の は わるう ございました。 けれども どうか イマ ゴラン に なった こと を ヒミツ に して くださいません か、 オネガイ です が」
「オタノミ と あれば ヒミツ に します。 べつに ボク の かんした こと では ありません から」
「ありがとう ございます。 それ で ボク も アンシン しました。 いや まことに シツレイ しました、 いきなり アナタ を とがめまして……」 と カレ は ヒト を おしつけよう と する サイショ の キセイ とは うってかわり、 いかにも ちからなげ に わびた の を みて、 ジブン も キノドク に なり、
「なにも そう あやまる には およびません。 ボク も じつは アナタ が センコク ボク の マエ に つったって、 ボク ばかり みて いた とき の フウ が なんとなく あやしかった から、 それで ここ へ きて アナタ の する こと を うかごうて いた の です。 やはり アナタ を うかがった の です。 けれども あの こと が アナタ の ヒミツ と あれば、 かたく ボク は その ヒミツ を まもります から ゴアンシン なさい」
 カレ は だまって ジブン の カオ を みて いた が、
「アナタ は きっと まもって くださる カタ です」 と コエ を ふるわし、
「どう でしょう、 ひとつ ボク の サカズキ を うけて くださいません か」
「サケ です か、 サケ なら ボク は のまない ほう が よい の です」
「のまない ほう が! のまない ほう が! むろん そう です。 もう のまない で すむ こと なら ボク とて も のまない ほう が よい の です。 けれども ボク は のむ の です。 それ が ボク の ヒミツ なん です。 どう でしょう、 ボク と アナタ と こう やって ハナシ を する の も ナニ か の ウンメイ です、 あやしい ウンメイ です から、 フシギ な エン です から ひとつ ボク の ヒミツ の サカズキ を うけて くださいません か、 え、 どう でしょう、 うけて くださいません か」 と いう コトバ の フシブシ、 その コワネ、 その メモト、 その カオイロ は げに おおいなる ヒミツ、 いたましい ヒミツ を つつんで いる よう に おもわれた。
「よろしゅう ございます。 それでは ひとつ いただきましょう」 と ジブン の こたうる や すぐ カレ は サキ に たって モト の バショ へ と ひきかえす ので、 ジブン も その アト に したがった。

 2

「これ は ジョウトウ の ブランデー です。 ジブン で ジョウトウ も ない もん です が、 センジツ ジョウキョウ した とき、 ギンザ の カメヤ へ いって サイジョウ の を くれろ と ナイショウ で 3 ボン かって きて ここ へ かくして おいた の です。 1 ポン は もう たいらげて アキビン は ナメリガワ に なげこみました。 これ が 2 ホン-メ です。 まだ 1 ポン この スナ の ナカ に うずめて あります。 なくなれば また かって きます」
 ジブン は カレ の さした サカズキ を うけ、 すこし ずつ すすりながら カレ の いう ところ を きいて いた が、 きく に つれて ジブン は カレ を あやしむ ネン の ますます たかまる を きんじえなかった。 けれども けっして カレ の ヒミツ に たちいろう とは おもわなかった。
「それで センコク ボク が ここ へ きて みる と、 イガイ にも アナタ が すでに この バショ を センリョウ して いた の です。 おどろきました ね。 けしからん ヒト も ある もの だ、 ボク の シュコ を おかし、 ボク の シュエン の ムシロ を うばいながら ヘイキ で ホン を よんで いる なんて と、 ボク は それで アナタ を みつめながら ここ を さらなかった の です」 と カレ は ビショウ して いった。 その メモト には ココロ の ソコ に ひそんで いる カレ の やさしい、 ショウジキ な ヒトガラ の ヒカリ さえ ほのめいて、 ジブン には さらに それ が いたましげ に みえた。 そこで ジブン も ワライ を ふくみ、
「そう でしょう、 それ で なければ あんな メツキ で ボク を ゴラン に なる わけ は ございません。 さも うらめしそう でした」
「いや うらめしく は ございません、 なさけなかった の です。 おやおや オレ は かくして おいた サケ さえ も いつか ヒト の シリ の シタ に しかれて しまう の か、 と ジブン の ウンメイ を のろった の です。 のろう と いえば すごく きこえます が、 じつは ボク には そんな すごい リョウケン も また キリョク も ありません。 ウンメイ が ボク を のろうて いる の です―― アナタ は ウンメイ と いう こと を しんじます か? え、 ウンメイ と いう こと を。 どう です、 も ヒトツ」 と カレ は ビン を あげた ので、
「いや ボク は もう いただきますまい」 と サカズキ を カレ に かえし、 「ボク は ウンメイロンシャ では ありません」
 カレ は テシャク で のみ、 シュキ を はいて、
「それでは グウゼンロンシャ です か」
「ゲンイン ケッカ の リホウ を しんずる ばかり です」
「けれども その ゲンイン は ニンゲン の チカラ より はっし、 そして その ケッカ が ニンゲン の ズジョウ に おちきたる ばかり で なく、 ニンゲン の チカラ イジョウ に ゲンイン したる ケッカ を ニンゲン が うける バアイ が たくさん ある。 その とき、 アナタ は ウンメイ と いう ニンゲン の チカラ イジョウ の もの を かんじません か」
「かんじます。 けれども それ は シゼン の チカラ です。 そして シゼンカイ は ゲンイン ケッカ の リホウ イガイ には はたらかない もの と ボク は しんじて います から、 ウンメイ と いう ごとき シンピ-らしい メイモク を その チカラ に くわえる こと は できません」
「そう です か、 そう です か、 わかりました。 それでは アナタ は ウチュウ に シンピ なし と いう オカンガエ なの です。 つまり、 アナタ には この ウチュウ に よする この ジンセイ の イギ が、 ごく ヘイイ メイリョウ なので、 アナタ の アタマ は ニニン が 4 で、 イッサイ が まにあう の です。 アナタ の ウチュウ は リッタイ で なく ヘイメン です。 ムキュウ ムゲン と いう ジジツ も アナタ には なんら、 カンキョウ と イク と チンシ と を よびおこす トウメン の おおいなる ジジツ では なく、 スウ の レンゾク を もって インフィニテー (ムゲン) を シキ で しめそう と する スウガクシャ の オナカマ でしょう」 と いって くるしそう な タンソク を もらし、 ひややか な、 あざける よう な ゴキ で、
「けれども、 じつは その ほう が シアワセ なの です。 ボク の コトバ で いえば アナタ は ウンメイ に シュクフク されて いる カタ、 アナタ の コトバ で いえば ボク は フコウ な ケッカ を ミ に うけて いる オトコ です」
「それでは これ で シツレイ します」 と ジブン は たちあがった。 すると カレ は あわてて ジブン を ひきとめ、
「ま、 ま、 アナタ おこった の です か、 もし ボク の いった こと が オキ に さわったら ゴカンベン を ねがいます。 つい その ジブン で カッテ に くるしんで カッテ に イロイロ な こと を、 バカ な ヤク にも たたん こと を かんがえて おる もん です から、 つい ミサカイ も なく しゃべる の です。 いいえ、 ダレ にも そんな こと を いった こと は ない の です。 けれども なんだか アナタ には いって みとう かんじました から エンリョ も なく カッテ な ネツ を ふいた ので、 アナタ には わらわれる かも しれません が、 ボク には やはり あやし の ウンメイ が ボク と アナタ を ひきつけた よう に かんぜられる の です。 フシアワセ な オトコ と おもって、 もすこし おはなし くださいません か、 もすこし……」
「けれども べつに おはなし する よう な こと も ボク には ありません が……」
「そう いわない で どうか もすこし ここ に いて ください な、 もすこし……。 ああ! どうして こう ボク は ムリ ばかり いう の でしょう! よった の でしょう か。 ウンメイ です、 ウンメイ です、 よう ございます、 アナタ に オハナシ が ない なら ボク が はなします。 ボク が はなす から きいて ください、 せめて きいて ください、 ボク の フシアワセ な ウンメイ を!」
 この クツウ の サケビ を きいて ナンビト が ココロ を うごかさざらん。 ジブン は そのまま とどまって、
「ききましょう とも。 ボク が きいて オサシツカエ が なければ ナニゴト でも うけたまわりましょう」
「きいて くださいます か。 それなら おはなし しましょう。 けれども ボク は ウンメイ の あやしき チカラ に まどうて いる モノ です から、 その つもり で きいて ください。 もし ゲンイン ケッカ の リホウ と アナタ が いう なら、 それでも よう ございます。 ただ その ゲンイン ケッカ の ハッテン が あまり に ジンイ の ソト に でて いて、 その ため に ヒトリ の わかい オトコ が ムゲン の クノウ に しずんで いる ジジツ を アナタ が しりました なら、 それ を ボク が あやしき ウンメイ の チカラ と おもう の も ムリ の ない こと だけ は ショウチ くださる だろう と おもいます。 で アナタ に ききます が、 ここ に ヒトリ の オトコ が あって、 その オトコ が なにごころなく ミチ を あるいて いる と、 どこ から とも しれず ヒトツ の イシ が とんで きて その オトコ の アタマ に あたり、 ソクシ する、 その ため に その オトコ の サイシ は ウエ に しずみ、 その ため に ハハ と コ は あらそい、 その ため に オヤコ は チ を ながす ほど の サンゲキ を えんずる と いう ジジツ が、 コノヨ に ありうる こと と アナタ は しんずる でしょう か」
「じっさい ある こと か ない こと か は しりません が、 ありうる こと とは しんじます、 それ は」
「そう でしょう。 それなら アナタ は ヒト の イヒョウ に でた ゲンイン の ため に、 ふとした ゲンイン の ため に、 ヒジョウ なる ヒサン が ややもすれば、 ヒト の ズジョウ に おちて くる と いう ジジツ を みとむる の です。 ボク の ミノウエ の ごとき、 まったく それ なので、 ほとんど しんず べからざる あやしい ウンメイ が ボク を もてあそんで いる の です。 ボク は ウンメイ と いいます。 ボク には その ホカ には しんじられん です から」 と いって カレ は ほっと タメイキ を つき、
「けれども アナタ きいて くれます か」
「ききます とも! どうか おはなしなさい」
「それなら まず テヂカ な サケ の こと から はなしましょう。 アナタ は さだめし フシギ な こと と おもって いる でしょう が、 じつは セケン に ありふれた こと で、 クルシミ を ワスレタサ の マスイザイ に もちいて おる の です。 スナ の ナカ に かくして おく の は かくして のまなければ ならない タク の ジジョウ が ある から なので、 そのうえ、 この バショ は いかにも しずか で かつ カイカツ で、 いかな どくどくしい ウンメイ の マ も ミ を かくして ヒト を うかがう くらい カゲ の ない の が ボク の キ に いった から です。 ここ へ ミ を よこたえて アルコール の チカラ に ミ を たくし たかい オオゾラ を あおいで いる アイダ は、 ボク の ココロ が いくらか ジユウ を うる とき です。 その うち には この ゲキレツ な アルコール が さなきだに よわりはてた ボク の シンゾウ を しだいに やぶって、 ついには シュビ よく ボク も ジメツ する だろう と おもって います」
「そんなら アナタ は、 ジサツ を ねごうて いる の です か」 と ジブン は おどろいて とうた。
「ジサツ じゃあ ない、 ジメツ です。 ウンメイ は ボク の ジサツ すら ゆるさない の です。 アナタ、 ウンメイ の オニ が もっとも たくみ に つかう ドウグ の ヒトツ は 『マドイ』 です よ。 『マドイ』 は カナシミ を クルシミ に かえます。 クルシミ を さらに ジジョウ させます。 ジサツ は ケッシン です。 しじゅう マドイ の ため に くるしんで いる モノ に、 どうして この ケッシン が おこりましょう。 だから 『マドイ』 と いう にぶい、 おもおもしい クルシミ から のがれる には やはり、 ジメツ と いう チドン な ホウホウ しか サク が ない の です」
と しみじみ いう カレ の カオ には あきらか に ゼツボウ の カゲ が うごいて いた。
「どういう ワケ が ある の か しりません が、 ボク は タニン の ジサツ を しって これ を ボウカン する わけ には ゆきません。 ジメツ と いう も ジサツ に ちがいない の です から」 と ジブン が いう や、
「けれども ジサツ は ヒトビト の ジユウ でしょう」 と カレ は エミ を ふくんで いった。
「そう かも しれません。 しかし これ を とめうる ならば、 とめる の が また ヒトビト の ジユウ なり ギム です」
「よう ございます。 ボク も けっして ジメツ したく は ありません。 もし アナタ が ボク の ハナシ を すっかり きいて、 その うえ で ボク を すくう の サク を たてて くださる の なら ボク は コノウエ も ない シアワセ です」
 こう きいて は ジブン も だまって いられない。
「よろしい! どうか すっかり きかして もらいましょう。 コンド は ボク の ほう から おねがい します」

 3

 ボク は タカハシ シンゾウ と いう セイメイ です が、 タカハシ の セイ は ヨウカ の を おかした ので、 ボク の モト の セイ は オオツカ と いう の です。
 オオツカ シンゾウ と いった とき の こと から はなします が、 チチ は オオツカ ゴウゾウ と いって ゴゾンジ でも ございます か、 トウキョウ コウソイン の ハンジ と して は ちょっと セケン でも ナ の しれた オトコ で、 ゴウゾウ の ナ の しめす ごとく ゴウチョク イッペン の ジンブツ。 ずいぶん ボク を キョウイク する うえ には クシン した よう でした。 けれども どういう もの か ボク は コドモ の ジブン から ガクモン が きらい で、 ただ モノカゲ に ヒトリ ひっこんで、 ナニ を かんがえる とも なく ぼんやり して いる こと が ナニ より すき でした。 12 サイ の ジブン と おぼえて います、 コロ は ハル の スエ と いう こと は ニワ の サクラ が ほとんど ちりつくして、 いろあせた ハナビラ の まだ コズエ に のこって いた の が、 ワカバ の ヒマ から ほろほろ と ヒトヒラ ミヒラ おつる サマ を イマ も はっきり と おもいだす こと が できる ので しれます。 ボク は クラ の イシダン に こしかけて イツモ の ごとく ぼんやり と ニワ の オモテ を ながめて います と、 ユウヒ が ナナメ に ニワ の コノマ に さしこんで、 さなきだに しずか な ニワ が、 ひとしお ひっそり して、 じっと して、 ながめて いる と コドモゴコロ にも かなしい よう な たのしい よう な、 いわゆる シュンシュウ でしょう、 そんな ココロモチ に なりました。
 ヒト の ココロ の フシギ を しって いる モノ は、 コドモ の ムネ にも ハル の しずか な ユウベ を かんずる こと の、 じっさい ありうる こと を いなまぬ だろう と おもいます。
 ともかくも ボク は そういう ショウネン でした。 チチ の ゴウゾウ は この こと を たいへん ク に して、 ボク の こと を ぼうずくさい コ だ と しばしば コゴト を いい、 ボウズ なら テラ へ やって しまう など どなった こと も あります。 それ に ひきかえ ボク の オトウト の ヒデスケ は ワンパク コゾウ で、 ボク より フタツ トシ が シタ でした が、 コッカク も チチ に にて たくましく、 キショウ も まるで ボク とは ちがって いた の です。
 チチ が ボク を しかる とき、 ハハ と オトウト とは いつも わらって ハタ で みて いた もの です。 ハハ と いう は オトヨ と いい、 コトバ の すくない、 ニュウワ-らしく みえて しっかり した キショウ の オンナ でした が、 ボク を しかった こと も なく、 さりとて あまやかす ほど に かあいがり も せず、 いわば よらず さわらず に して いた よう です。
 それで ボク の キショウ が セイライ イマ いった よう なの で ある か、 あるいは そう で なく、 ボク は コドモ の とき、 はやく フシゼン な サカイ に おかれて、 われしらず の コドク な セイカツ を おくった ゆえ かも しれない の です。
 なるほど チチ は ボク の こと を ク に しました。 けれども その シンパイ は ただ フツウ の オヤ が その コ の ウエ を うれうる の とは ちがって いた の です。 それで チチ が、 「せっかく オトコ に うまれた の なら おとこらしく なれ、 オンナ の よう な オトコ は ソダテガイ が ない」 と グチ-めいた コゴト を いう、 その コトバ の ウチ にも ボク の あやしい ウンメイ の ホサキ が みえて いた の です が、 コドモ の ボク には まだ キ が つきません でした。
 いう こと を わすれて いました が、 その コロ は チチ が オカヤマ チホウ サイバンショチョウ の ヤク で、 オオツカ の イッケ は オカヤマ の シチュウ に すんで いた ので、 イッカ が トウキョウ に うつった の は まだ よほど ノチ の こと です。
 ある ヒ の こと でした。 ボク が イツモ の よう に ニワ へ でて マツ の ネ に コシ を かけ ぼんやり して いる と、 いつのまにか チチ が ソバ に きて、
「オマエ は ナニ を かんがえて いる の だ。 もって うまれた キショウ なら シカタ も ない が、 オレ は オマエ の よう な キショウ は だいきらい だ。 もすこし しっかり しろ」 と マジメ の カオ で いいます から、 ボク は カオ も あげえない で だまって いました。 すると チチ は ボク の ソバ に コシ を おろして、
「おい シンゾウ」 と いって キュウ に コエ を ひそめ、 「オマエ は ダレ か に ナニ か きき は しなかった か」
 ボク には なんの こと か さっぱり わからない から、 おどろいて チチ の カオ を あおぎました が、 フシギ にも われしらず なみだぐみました。 それ を みて チチ の カオイロ は にわか に かわり、 ますます コエ を ひそめて、
「かくす には およばん ぞ、 きいたら きいた と いう が ええ。 そんなら オレ には カンガエ が ある から。 さあ かくさず に いう が ええ。 ナニ か きいたろう?」
 この とき の チチ の ヨウス は よほど ロウバイ して いる よう でした。 それで コエ さえ イツモ と かわり、 ボク は こわく なりました から、 しくしく なきだす と、 チチ は ますます うろたえ、
「さあ いえ! きいたら きいた と いえ! かくす か オマエ は」 と ボク の カオ を にらみつけました から、 ボク も ますます こわく なり、
「ごめんなさい、 ごめんなさい」 と ただ あやまりました。
「あやまれ と いう ん じゃ ない。 もし ナニ か オマエ が ミョウ な こと を きいて、 それで ぼんやり かんがえて いる じゃ ない か と おもう から、 それで きく の だ。 なんにも きかん の なら それ で ええ。 さあ ショウジキ に いえ!」 と コンド は ホント に おこって いいます から、 ボク は なんの こと か わからず、 ただ ヒジョウ な わるい こと でも した の か と、 オロオロゴエ で、
「ごめんなさい、 ごめんなさい」
「バカ! オオバカモノ! ダレ が あやまれ と いった。 12 にも なって オトコ の くせ に すぐ なく」
 どなられた ので ボク は びっくり して なきながら チチ の カオ を みて いる と、 チチ も しばらく は だまって じっと ボク の カオ を みて いました が、 キュウ に なみだぐんで、
「なかん でも ええ、 もう オレ も とわん から、 さあ オク へ かえる が ええ」 と やさしく いった その コトバ は すくない が、 ジアイ に みちて いた の です。
 ソノゴ でした、 チチ が ボク の こと を あまり いわなく なった の は。 けれども また ソノゴ でした、 ボク の ココロ の ソコ に イッペン の ウンエイ の しずんだ の は。 ウンメイ の あやしき オニ が その ツメ を ボク の ココロ に うちこんだ の は じつに この とき です。
 ボク は チチ の コトバ が キ に なって たまりません でした。 これ も フツウ の コドモ なら まもなく わすれて しまった だろう と おもいます が、 ボク は わすれる どころ か、 まがなすきがな、 なぜ チチ は あのよう な こと を とうた の か、 チチ が かくまで に ロウバイ した ところ を みる と、 よほど の ダイジ で あろう と、 コドモゴコロ に いろいろ と かんがえて、 そして その ダイジ は ボク の ミノウエ に かんする こと だ と しんずる よう に なりました。
 なぜ でしょう。 ボク は イマ でも フシギ に おもって いる の です。 なぜ チチ の とうた こと が ボク の ミノウエ の こと と ジブン で しんずる に いたった でしょう。
 くらき に すみなれた モノ は、 よく くらき に モノ を みる と おなじ こと で、 フシゼン なる サカイ に おかれたる ショウネン は いつしか その くらき フシゼン の ソコ に ひそんで いる コクテン を みとめる こと が できた の だろう と おもいます。
 けれども ボク の その コクテン の シンソウ を とらええた の は ずっと ノチ の こと です。 ボク は キ に かかりながら も、 これ を チチ に といかえす こと は できず、 また ハハ には なおさら できず、 ちいさな ココロ を いためながら も ツキヒ を おくって いました。 そして 15 の トシ に チュウガッコウ の キシュクシャ に いれられました が、 その マエ に ヒトツ おはなし して おく こと が ある の です。
 オオツカ の トナリヤシキ に ひろい クワバタケ が あって その ヨコ に ソギブキ の ちいさな イエ が ある。 それ に トシヨリ フウフ と その コロ 16~17 に なる ムスメ が すんで いました。 イゼン は リッパ な シゾク で、 クワバタケ は すなわち その ヤシキアト だ そう です。 この トシヨリ が ボク の ナカヨシ でした が、 ある ヒ ボク に イゴ の アソビ を おしえて くれました。 2~3 ニチ たって ヤショク の とき、 この こと を フボ に はなしました ところ、 いつも アソビ の こと は あまり キ に しない チチ が メ に カド を たてて しかり、 ハハ すら おどろいた メ を はって ボク の カオ を みつめました。 そして フボ が カオ を みあわした とき の ヨウス の ジンジョウ で なかった ので、 ボク は はなはだ ミョウ に かんじました。
 なぜ ボク が イゴ を テキ と しなければ ならぬ か、 それ も ノチ に わかりました が、 それ が わかった とき こそ、 ボク が まったく ウンメイ の オニ に アットウ せられ、 ボク が イマ の クノウ を なめつくす ハジメ で ございました。
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