カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ユメ ジュウヤ 1

2014-04-20 | ナツメ ソウセキ
 ユメ ジュウヤ

 ナツメ ソウセキ

 ダイ 1 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 ウデグミ を して マクラモト に すわって いる と、 アオムキ に ねた オンナ が、 しずか な コエ で もう しにます と いう。 オンナ は ながい カミ を マクラ に しいて、 リンカク の やわらか な ウリザネガオ を その ナカ に よこたえて いる。 マッシロ な ホオ の ソコ に あたたかい チ の イロ が ほどよく さして、 クチビル の イロ は むろん あかい。 とうてい しにそう には みえない。 しかし オンナ は しずか な コエ で、 もう しにます と はっきり いった。 ジブン も たしか に これ は しぬ な と おもった。 そこで、 そう かね、 もう しぬ の かね、 と ウエ から のぞきこむ よう に して きいて みた。 しにます とも、 と いいながら、 オンナ は ぱっちり と メ を あけた。 おおきな ウルオイ の ある メ で、 ながい マツゲ に つつまれた ナカ は、 ただ イチメン に マックロ で あった。 その マックロ な ヒトミ の オク に、 ジブン の スガタ が あざやか に うかんで いる。
 ジブン は すきとおる ほど ふかく みえる この クロメ の ツヤ を ながめて、 これ でも しぬ の か と おもった。 それで、 ねんごろ に マクラ の ソバ へ クチ を つけて、 しぬ ん じゃ なかろう ね、 だいじょうぶ だろう ね、 と また ききかえした。 すると オンナ は くろい メ を ねむそう に みはった まま、 やっぱり しずか な コエ で、 でも、 しぬ ん です もの、 シカタ が ない わ と いった。
 じゃ、 ワタシ の カオ が みえる かい と イッシン に きく と、 みえる かい って、 そら、 そこ に、 うつってる じゃ ありません か と、 にこり と わらって みせた。 ジブン は だまって、 カオ を マクラ から はなした。 ウデグミ を しながら、 どうしても しぬ の かな と おもった。
 しばらく して、 オンナ が また こう いった。
「しんだら、 うめて ください。 おおきな シンジュガイ で アナ を ほって。 そうして テン から おちて くる ホシ の カケ を ハカジルシ に おいて ください。 そうして ハカ の ソバ に まって いて ください。 また あい に きます から」
 ジブン は、 いつ あい に くる かね と きいた。
「ヒ が でる でしょう。 それから ヒ が しずむ でしょう。 それから また でる でしょう、 そうして また しずむ でしょう。 ――あかい ヒ が ヒガシ から ニシ へ、 ヒガシ から ニシ へ と おちて ゆく うち に、 ――アナタ、 まって いられます か」
 ジブン は だまって うなずいた。 オンナ は しずか な チョウシ を イチダン はりあげて、
「100 ネン まって いて ください」 と おもいきった コエ で いった。
「100 ネン、 ワタクシ の ハカ の ソバ に すわって まって いて ください。 きっと あい に きます から」
 ジブン は ただ まって いる と こたえた。 すると、 くろい ヒトミ の ナカ に あざやか に みえた ジブン の スガタ が、 ぼうっと くずれて きた。 しずか な ミズ が うごいて うつる カゲ を みだした よう に、 ながれだした と おもったら、 オンナ の メ が ぱちり と とじた。 ながい マツゲ の アイダ から ナミダ が ホオ へ たれた。 ――もう しんで いた。
 ジブン は それから ニワ へ おりて、 シンジュガイ で アナ を ほった。 シンジュガイ は おおきな なめらか な フチ の するどい カイ で あった。 ツチ を すくう たび に、 カイ の ウラ に ツキ の ヒカリ が さして きらきら した。 しめった ツチ の ニオイ も した。 アナ は しばらく して ほれた。 オンナ を その ナカ に いれた。 そうして やわらかい ツチ を、 ウエ から そっと かけた。 かける たび に シンジュガイ の ウラ に ツキ の ヒカリ が さした。
 それから ホシ の カケ の おちた の を ひろって きて、 かろく ツチ の ウエ へ のせた。 ホシ の カケ は まるかった。 ながい アイダ オオゾラ を おちて いる マ に、 カド が とれて なめらか に なった ん だろう と おもった。 だきあげて ツチ の ウエ へ おく うち に、 ジブン の ムネ と テ が すこし あたたかく なった。
 ジブン は コケ の ウエ に すわった。 これから 100 ネン の アイダ こうして まって いる ん だな と かんがえながら、 ウデグミ を して、 まるい ハカイシ を ながめて いた。 その うち に、 オンナ の いった とおり ヒ が ヒガシ から でた。 おおきな あかい ヒ で あった。 それ が また オンナ の いった とおり、 やがて ニシ へ おちた。 あかい まんま で のっと おちて いった。 ヒトツ と ジブン は カンジョウ した。
 しばらく する と また カラクレナイ の テントウ が のそり と のぼって きた。 そうして だまって しずんで しまった。 フタツ と また カンジョウ した。
 ジブン は こういう ふう に ヒトツ フタツ と カンジョウ して ゆく うち に、 あかい ヒ を イクツ みた か わからない。 カンジョウ して も、 カンジョウ して も、 しつくせない ほど あかい ヒ が アタマ の ウエ を とおりこして いった。 それでも 100 ネン が まだ こない。 シマイ には、 コケ の はえた まるい イシ を ながめて、 ジブン は オンナ に だまされた の では なかろう か と おもいだした。
 すると イシ の シタ から ハス に ジブン の ほう へ むいて あおい クキ が のびて きた。 みるまに ながく なって ちょうど ジブン の ムネ の アタリ まで きて とまった。 と おもう と、 すらり と ゆらぐ クキ の イタダキ に、 こころもち クビ を かたぶけて いた ほそながい イチリン の ツボミ が、 ふっくら と ハナビラ を ひらいた。 マッシロ な ユリ が ハナ の サキ で ホネ に こたえる ほど におった。 そこ へ はるか の ウエ から、 ぽたり と ツユ が おちた ので、 ハナ は ジブン の オモミ で ふらふら と うごいた。 ジブン は クビ を マエ へ だして つめたい ツユ の したたる、 しろい ハナビラ に セップン した。 ジブン が ユリ から カオ を はなす ヒョウシ に おもわず、 とおい ソラ を みたら、 アカツキ の ホシ が たった ヒトツ またたいて いた。
「100 ネン は もう きて いた ん だな」 と この とき はじめて キ が ついた。

 ダイ 2 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 オショウ の シツ を さがって、 ロウカヅタイ に ジブン の ヘヤ へ かえる と アンドウ が ぼんやり ともって いる。 カタヒザ を ザブトン の ウエ に ついて、 トウシン を かきたてた とき、 ハナ の よう な チョウジ が ぱたり と シュヌリ の ダイ に おちた。 ドウジ に ヘヤ が ぱっと あかるく なった。
 フスマ の エ は ブソン の フデ で ある。 くろい ヤナギ を こく うすく、 オチコチ と かいて、 さむそう な ギョフ が カサ を かたぶけて ドテ の ウエ を とおる。 トコ には カイチュウ モンジュ の ジク が かかって いる。 たきのこした センコウ が くらい ほう で いまだに におって いる。 ひろい テラ だ から しんかん と して、 ヒトケ が ない。 くろい テンジョウ に さす マルアンドウ の まるい カゲ が、 あおむく トタン に いきてる よう に みえた。
 タテヒザ を した まま、 ヒダリ の テ で ザブトン を めくって、 ミギ を さしこんで みる と、 おもった ところ に、 ちゃんと あった。 あれば アンシン だ から、 フトン を モト の ごとく なおして、 その ウエ に どっかり すわった。
 オマエ は サムライ で ある。 サムライ なら さとれぬ はず は なかろう と オショウ が いった。 そう いつまでも さとれぬ ところ を もって みる と、 オマエ は サムライ では あるまい と いった。 ニンゲン の クズ じゃ と いった。 ははあ おこった な と いって わらった。 くやしければ さとった ショウコ を もって こい と いって ぷいと ムコウ を むいた。 けしからん。
 トナリ の ヒロマ の トコ に すえて ある オキドケイ が ツギ の トキ を うつ まで には、 きっと さとって みせる。 さとった うえ で、 コンヤ また ニュウシツ する。 そうして オショウ の クビ と サトリ と ヒキカエ に して やる。 さとらなければ、 オショウ の イノチ が とれない。 どうしても さとらなければ ならない。 ジブン は サムライ で ある。
 もし さとれなければ ジジン する。 サムライ が はずかしめられて、 いきて いる わけ には ゆかない。 きれい に しんで しまう。
 こう かんがえた とき、 ジブン の テ は また おもわず フトン の シタ へ はいった。 そうして シュザヤ の タントウ を ひきずりだした。 ぐっと ツカ を にぎって、 あかい サヤ を ムコウ へ はらったら、 つめたい ハ が イチド に くらい ヘヤ で ひかった。 すごい もの が テモト から、 すうすう と にげて ゆく よう に おもわれる。 そうして、 ことごとく キッサキ へ あつまって、 サッキ を イッテン に こめて いる。 ジブン は この するどい ハ が、 ムネン にも ハリ の アタマ の よう に ちぢめられて、 クスン ゴブ の サキ へ きて やむ を えず とがってる の を みて、 たちまち ぐさり と やりたく なった。 カラダ の チ が ミギ の テクビ の ほう へ ながれて きて、 にぎって いる ツカ が にちゃにちゃ する。 クチビル が ふるえた。
 タントウ を サヤ へ おさめて ミギワキ へ ひきつけて おいて、 それから ゼンガ を くんだ。 ――ジョウシュウ いわく ム と。 ム とは ナン だ。 クソボウズ め と ハガミ を した。
 オクバ を つよく かみしめた ので、 ハナ から あつい イキ が あらく でる。 コメカミ が つって いたい。 メ は フツウ の バイ も おおきく あけて やった。
 カケモノ が みえる。 アンドウ が みえる。 タタミ が みえる。 オショウ の ヤカンアタマ が ありあり と みえる。 ワニグチ を あいて あざわらった コエ まで きこえる。 けしからん ボウズ だ。 どうしても あの ヤカン を クビ に しなくて は ならん。 さとって やる。 ム だ、 ム だ と シタ の ネ で ねんじた。 ム だ と いう のに やっぱり センコウ の ニオイ が した。 ナン だ センコウ の くせ に。
 ジブン は いきなり ゲンコツ を かためて ジブン の アタマ を いや と いう ほど なぐった。 そうして オクバ を ぎりぎり と かんだ。 リョウワキ から アセ が でる。 セナカ が ボウ の よう に なった。 ヒザ の ツギメ が キュウ に いたく なった。 ヒザ が おれたって どう ある もの か と おもった。 けれども いたい。 くるしい。 ム は なかなか でて こない。 でて くる と おもう と すぐ いたく なる。 ハラ が たつ。 ムネン に なる。 ヒジョウ に くやしく なる。 ナミダ が ほろほろ でる。 ひとおもいに ミ を オオイワ の ウエ に ぶつけて、 ホネ も ニク も めちゃめちゃ に くだいて しまいたく なる。
 それでも ガマン して じっと すわって いた。 たえがたい ほど せつない もの を ムネ に いれて しのんで いた。 その せつない もの が カラダジュウ の キンニク を シタ から もちあげて、 ケアナ から ソト へ ふきでよう ふきでよう と あせる けれども、 どこ も イチメン に ふさがって、 まるで デグチ が ない よう な ザンコク きわまる ジョウタイ で あった。
 その うち に アタマ が ヘン に なった。 アンドウ も ブソン の エ も、 タタミ も、 チガイダナ も あって ない よう な、 なくって ある よう に みえた。 と いって ム は ちっとも ゲンゼン しない。 ただ イイカゲン に すわって いた よう で ある。 ところへ こつぜん トナリザシキ の トケイ が ちーん と なりはじめた。
 はっと おもった。 ミギ の テ を すぐ タントウ に かけた。 トケイ が フタツメ を ちーん と うった。

 ダイ 3 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 ムッツ に なる コドモ を おぶってる。 たしか に ジブン の コ で ある。 ただ フシギ な こと には いつのまにか メ が つぶれて、 アオボウズ に なって いる。 ジブン が オマエ の メ は いつ つぶれた の かい と きく と、 なに ムカシ から さ と こたえた。 コエ は コドモ の コエ に ソウイ ない が、 コトバツキ は まるで オトナ で ある。 しかも タイトウ だ。
 サユウ は アオタ で ある。 ミチ は ほそい。 サギ の カゲ が ときどき ヤミ に さす。
「タンボ へ かかった ね」 と セナカ で いった。
「どうして わかる」 と カオ を ウシロ へ ふりむける よう に して きいたら、
「だって サギ が なく じゃ ない か」 と こたえた。
 すると サギ が はたして フタコエ ほど ないた。
 ジブン は ワガコ ながら すこし こわく なった。 こんな もの を しょって いて は、 このさき どう なる か わからない。 どこ か うっちゃる ところ は なかろう か と ムコウ を みる と ヤミ の ナカ に おおきな モリ が みえた。 あすこ ならば と かんがえだす トタン に、 セナカ で、
「ふふん」 と いう コエ が した。
「ナニ を わらう ん だ」
 コドモ は ヘンジ を しなかった。 ただ、
「オトッサン、 おもい かい」 と きいた。
「おもかあ ない」 と こたえる と、
「いまに おもく なる よ」 と いった。
 ジブン は だまって モリ を メジルシ に あるいて いった。 タ の ナカ の ミチ が フキソク に うねって なかなか おもう よう に でられない。 しばらく する と フタマタ に なった。 ジブン は マタ の ネ に たって、 ちょっと やすんだ。
「イシ が たってる はず だ がな」 と コゾウ が いった。
 なるほど 8 スン カク の イシ が コシ ほど の タカサ に たって いる。 オモテ には ヒダリ ヒガクボ、 ミギ ホッタハラ と ある。 ヤミ だ のに あかい ジ が あきらか に みえた。 あかい ジ は イモリ の ハラ の よう な イロ で あった。
「ヒダリ が いい だろう」 と コゾウ が メイレイ した。 ヒダリ を みる と サッキ の モリ が ヤミ の カゲ を、 たかい ソラ から ジブン ら の アタマ の ウエ へ なげかけて いた。 ジブン は ちょっと チュウチョ した。
「エンリョ しない でも いい」 と コゾウ が また いった。 ジブン は しかたなし に モリ の ほう へ あるきだした。 ハラ の ナカ では、 よく メクラ の くせ に なんでも しってる な と かんがえながら ヒトスジミチ を モリ へ ちかづいて くる と、 セナカ で、 「どうも メクラ は フジユウ で いけない ね」 と いった。
「だから おぶって やる から いい じゃ ない か」
「おぶって もらって すまない が、 どうも ヒト に バカ に されて いけない。 オヤ に まで バカ に される から いけない」
 なんだか いや に なった。 はやく モリ へ いって すてて しまおう と おもって いそいだ。
「もうすこし ゆく と わかる。 ――ちょうど こんな バン だった な」 と セナカ で ヒトリゴト の よう に いって いる。
「ナニ が」 と きわどい コエ を だして きいた。
「ナニ が って、 しってる じゃ ない か」 と コドモ は あざける よう に こたえた。 すると なんだか しってる よう な キ が しだした。 けれども はっきり とは わからない。 ただ こんな バン で あった よう に おもえる。 そうして もうすこし ゆけば わかる よう に おもえる。 わかって は タイヘン だ から、 わからない うち に はやく すてて しまって、 アンシン しなくって は ならない よう に おもえる。 ジブン は ますます アシ を はやめた。
 アメ は サッキ から ふって いる。 ミチ は だんだん くらく なる。 ほとんど ムチュウ で ある。 ただ セナカ に ちいさい コゾウ が くっついて いて、 その コゾウ が ジブン の カコ、 ゲンザイ、 ミライ を ことごとく てらして、 スンブン の ジジツ も もらさない カガミ の よう に ひかって いる。 しかも それ が ジブン の コ で ある。 そうして メクラ で ある。 ジブン は たまらなく なった。
「ここ だ、 ここ だ。 ちょうど その スギ の ネ の ところ だ」
 アメ の ナカ で コゾウ の コエ は はっきり きこえた。 ジブン は おぼえず とまった。 いつしか モリ の ナカ へ はいって いた。 1 ケン ばかり サキ に ある くろい もの は たしか に コゾウ の いう とおり スギ の キ と みえた。
「オトッサン、 その スギ の ネ の ところ だった ね」
「うん、 そう だ」 と おもわず こたえて しまった。
「ブンカ 5 ネン タツドシ だろう」
 なるほど ブンカ 5 ネン タツドシ らしく おもわれた。
「オマエ が オレ を ころした の は イマ から ちょうど 100 ネン マエ だね」
 ジブン は この コトバ を きく や いなや、 イマ から 100 ネン マエ ブンカ 5 ネン の タツドシ の こんな ヤミ の バン に、 この スギ の ネ で、 ヒトリ の メクラ を ころした と いう ジカク が、 こつぜん と して アタマ の ナカ に おこった。 オレ は ヒトゴロシ で あった ん だな と はじめて キ が ついた トタン に、 セナカ の コ が キュウ に イシジゾウ の よう に おもく なった。

 ダイ 4 ヤ

 ひろい ドマ の マンナカ に スズミダイ の よう な もの を すえて、 その マワリ に ちいさい ショウギ が ならべて ある。 ダイ は クロビカリ に ひかって いる。 カタスミ には シカク な ゼン を マエ に おいて ジイサン が ヒトリ で サケ を のんで いる。 サカナ は ニシメ らしい。
 ジイサン は サケ の カゲン で なかなか あかく なって いる。 そのうえ カオジュウ つやつや して シワ と いう ほど の もの は どこ にも みあたらない。 ただ しろい ヒゲ を ありたけ はやして いる から トシヨリ と いう こと だけ は わかる。 ジブン は コドモ ながら、 この ジイサン の トシ は イクツ なん だろう と おもった。 ところへ ウラ の カケヒ から テオケ に ミズ を くんで きた カミサン が、 マエダレ で テ を ふきながら、
「オジイサン は イクツ かね」 と きいた。 ジイサン は ほおばった ニシメ を のみこんで、
「イクツ か わすれた よ」 と すまして いた。 カミサン は ふいた テ を、 ほそい オビ の アイダ に はさんで ヨコ から ジイサン の カオ を みて たって いた。 ジイサン は チャワン の よう な おおきな もの で サケ を ぐいと のんで、 そうして、 ふう と ながい イキ を しろい ヒゲ の アイダ から ふきだした。 すると カミサン が、
「オジイサン の ウチ は どこ かね」 と きいた。 ジイサン は ながい イキ を トチュウ で きって、
「ヘソ の オク だよ」 と いった。 カミサン は テ を ほそい オビ の アイダ に つっこんだ まま、
「どこ へ ゆく かね」 と また きいた。 すると ジイサン が、 また チャワン の よう な おおきな もの で あつい サケ を ぐいと のんで マエ の よう な イキ を ふう と ふいて、
「あっち へ いく よ」 と いった。
「マッスグ かい」 と カミサン が きいた とき、 ふう と ふいた イキ が、 ショウジ を とおりこして ヤナギ の シタ を ぬけて、 カワラ の ほう へ マッスグ に いった。
 ジイサン が オモテ へ でた。 ジブン も アト から でた。 ジイサン の コシ に ちいさい ヒョウタン が ぶらさがって いる。 カタ から シカク な ハコ を ワキノシタ へ つるして いる。 アサギ の モモヒキ を はいて、 アサギ の ソデナシ を きて いる。 タビ だけ が きいろい。 なんだか カワ で つくった タビ の よう に みえた。
 ジイサン が マッスグ に ヤナギ の シタ まで きた。 ヤナギ の シタ に コドモ が 3~4 ニン いた。 ジイサン は わらいながら コシ から アサギ の テヌグイ を だした。 それ を カンジンヨリ の よう に ほそながく よった。 そうして ジビタ の マンナカ に おいた。 それから テヌグイ の マワリ に、 おおきな まるい ワ を かいた。 シマイ に カタ に かけた ハコ の ナカ から シンチュウ で こしらえた アメヤ の フエ を だした。
「いまに その テヌグイ が ヘビ に なる から、 みて おろう。 みて おろう」 と くりかえして いった。
 コドモ は イッショウ ケンメイ に テヌグイ を みて いた。 ジブン も みて いた。
「みて おろう、 みて おろう、 よい か」 と いいながら ジイサン が フエ を ふいて、 ワ の ウエ を ぐるぐる まわりだした。 ジブン は テヌグイ ばかり みて いた。 けれども テヌグイ は いっこう うごかなかった。
 ジイサン は フエ を ぴいぴい ふいた。 そうして ワ の ウエ を ナンベン も まわった。 ワラジ を つまだてる よう に、 ヌキアシ を する よう に、 テヌグイ に エンリョ を する よう に、 まわった。 こわそう にも みえた。 おもしろそう にも あった。
 やがて ジイサン は フエ を ぴたり と やめた。 そうして、 カタ に かけた ハコ の クチ を あけて、 テヌグイ の クビ を、 ちょいと つまんで、 ぽっと ほうりこんだ。
「こうして おく と、 ハコ の ナカ で ヘビ に なる。 いまに みせて やる。 いまに みせて やる」 と いいながら、 ジイサン が マッスグ に あるきだした。 ヤナギ の シタ を ぬけて、 ほそい ミチ を マッスグ に おりて いった。 ジブン は ヘビ が みたい から、 ほそい ミチ を どこまでも ついて いった。 ジイサン は ときどき 「いまに なる」 と いったり、 「ヘビ に なる」 と いったり して あるいて ゆく。 シマイ には、
 「いまに なる、 ヘビ に なる、
  きっと なる、 フエ が なる、」
と うたいながら、 とうとう カワ の キシ へ でた。 ハシ も フネ も ない から、 ここ で やすんで ハコ の ナカ の ヘビ を みせる だろう と おもって いる と、 ジイサン は ざぶざぶ カワ の ナカ へ はいりだした。 ハジメ は ヒザ ぐらい の フカサ で あった が、 だんだん コシ から、 ムネ の ほう まで ミズ に つかって みえなく なる。 それでも ジイサン は、
 「ふかく なる、 ヨル に なる、
  マッスグ に なる」
と うたいながら、 どこまでも マッスグ に あるいて いった。 そうして ヒゲ も カオ も アタマ も ズキン も まるで みえなく なって しまった。
 ジブン は ジイサン が ムコウギシ へ あがった とき に、 ヘビ を みせる だろう と おもって、 アシ の なる ところ に たって、 たった ヒトリ いつまでも まって いた。 けれども ジイサン は、 とうとう あがって こなかった。

 ダイ 5 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 なんでも よほど ふるい こと で、 カミヨ に ちかい ムカシ と おもわれる が、 ジブン が イクサ を して ウン わるく まけた ため に、 イケドリ に なって、 テキ の タイショウ の マエ に ひきすえられた。
 その コロ の ヒト は ミンナ セ が たかかった。 そうして、 ミンナ ながい ヒゲ を はやして いた。 カワ の オビ を しめて、 それ へ ボウ の よう な ツルギ を つるして いた。 ユミ は フジヅル の ふとい の を そのまま もちいた よう に みえた。 ウルシ も ぬって なければ ミガキ も かけて ない。 きわめて ソボク な もの で あった。
 テキ の タイショウ は、 ユミ の マンナカ を ミギ の テ で にぎって、 その ユミ を クサ の ウエ へ ついて、 サカガメ を ふせた よう な もの の ウエ に コシ を かけて いた。 その カオ を みる と、 ハナ の ウエ で、 サユウ の マユ が ふとく つながって いる。 その コロ カミソリ と いう もの は むろん なかった。
 ジブン は トリコ だ から、 コシ を かける わけ に ゆかない。 クサ の ウエ に アグラ を かいて いた。 アシ には おおきな ワラグツ を はいて いた。 この ジダイ の ワラグツ は ふかい もの で あった。 たつ と ヒザガシラ まで きた。 その ハシ の ところ は ワラ を すこし あみのこして、 フサ の よう に さげて、 あるく と ばらばら うごく よう に して、 カザリ と して いた。
 タイショウ は カガリビ で ジブン の カオ を みて、 しぬ か いきる か と きいた。 これ は その コロ の シュウカン で、 トリコ には ダレ でも いちおう は こう きいた もの で ある。 いきる と こたえる と コウサン した イミ で、 しぬ と いう と クップク しない と いう こと に なる。 ジブン は ヒトコト しぬ と こたえた。 タイショウ は クサ の ウエ に ついて いた ユミ を ムコウ へ なげて、 コシ に つるした ボウ の よう な ケン を するり と ぬきかけた。 それ へ カゼ に なびいた カガリビ が ヨコ から ふきつけた。 ジブン は ミギ の テ を カエデ の よう に ひらいて、 タナゴコロ を タイショウ の ほう へ むけて、 メ の ウエ へ さしあげた。 まて と いう アイズ で ある。 タイショウ は ふとい ケン を かちゃり と サヤ に おさめた。
 その コロ でも コイ は あった。 ジブン は しぬ マエ に ヒトメ おもう オンナ に あいたい と いった。 タイショウ は ヨ が あけて トリ が なく まで なら まつ と いった。 トリ が なく まで に オンナ を ここ へ よばなければ ならない。 トリ が ないて も オンナ が こなければ、 ジブン は あわず に ころされて しまう。
 タイショウ は コシ を かけた まま、 カガリビ を ながめて いる。 ジブン は おおきな ワラグツ を くみあわした まま、 クサ の ウエ で オンナ を まって いる。 ヨ は だんだん ふける。
 ときどき カガリビ が くずれる オト が する。 くずれる たび に うろたえた よう に ホノオ が タイショウ に なだれかかる。 マックロ な マユ の シタ で、 タイショウ の メ が ぴかぴか と ひかって いる。 すると タレ やら きて、 あたらしい エダ を たくさん ヒ の ナカ へ なげこんで ゆく。 しばらく する と、 ヒ が ぱちぱち と なる。 クラヤミ を はじきかえす よう な いさましい オト で あった。
 この とき オンナ は、 ウラ の ナラ の キ に つないで ある、 しろい ウマ を ひきだした。 タテガミ を 3 ド なでて たかい セ に ひらり と とびのった。 クラ も ない アブミ も ない ハダカウマ で あった。 ながく しろい アシ で、 フトバラ を ける と、 ウマ は イッサン に かけだした。 ダレ か が カガリ を つぎたした ので、 トオク の ソラ が うすあかるく みえる。 ウマ は この あかるい もの を めがけて ヤミ の ナカ を とんで くる。 ハナ から ヒ の ハシラ の よう な イキ を 2 ホン だして とんで くる。 それでも オンナ は ほそい アシ で しきりなし に ウマ の ハラ を けって いる。 ウマ は ヒヅメ の オト が チュウ で なる ほど はやく とんで くる。 オンナ の カミ は フキナガシ の よう に ヤミ の ナカ に オ を ひいた。 それでも まだ カガリ の ある ところ まで こられない。
 すると マックラ な ミチ の ハタ で、 たちまち こけこっこう と いう トリ の コエ が した。 オンナ は ミ を ソラザマ に、 リョウテ に にぎった タヅナ を うんと ひかえた。 ウマ は マエアシ の ヒヅメ を かたい イワ の ウエ に はっし と きざみこんだ。
 こけこっこう と ニワトリ が また ヒトコエ ないた。
 オンナ は あっ と いって、 しめた タヅナ を イチド に ゆるめた。 ウマ は モロヒザ を おる。 のった ヒト と ともに マトモ へ マエ へ のめった。 イワ の シタ は ふかい フチ で あった。
 ヒヅメ の アト は いまだに イワ の ウエ に のこって いる。 トリ の なく マネ を した もの は アマノジャク で ある。 この ヒヅメ の アト の イワ に きざみつけられて いる アイダ、 アマノジャク は ジブン の カタキ で ある。
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