カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カゼ たちぬ 「ジョキョク」

2013-12-22 | ホリ タツオ
 カゼ たちぬ

 ホリ タツオ

   Le vent se lève, il faut tenter de vivre.
                   PAUL VALÉRY

 ジョキョク

 それら の ナツ の ヒビ、 イチメン に ススキ の おいしげった クサハラ の ナカ で、 オマエ が たった まま ネッシン に エ を かいて いる と、 ワタシ は いつも その カタワラ の 1 ポン の シラカバ の コカゲ に ミ を よこたえて いた もの だった。 そうして ユウガタ に なって、 オマエ が シゴト を すませて ワタシ の ソバ に くる と、 それから しばらく ワタシタチ は カタ に テ を かけあった まま、 はるか かなた の、 フチ だけ アカネイロ を おびた ニュウドウグモ の むくむく した カタマリ に おおわれて いる チヘイセン の ほう を ながめやって いた もの だった。 ようやく くれよう と しかけて いる その チヘイセン から、 ハンタイ に ナニモノ か が うまれて きつつ ある か の よう に……

 そんな ヒ の ある ゴゴ、 (それ は もう アキ ちかい ヒ だった) ワタシタチ は オマエ の カキカケ の エ を ガカ に たてかけた まま、 その シラカバ の コカゲ に ねそべって クダモノ を かじって いた。 スナ の よう な クモ が ソラ を さらさら と ながれて いた。 その とき フイ に、 どこ から とも なく カゼ が たった。 ワタシタチ の アタマ の ウエ では、 キ の ハ の アイダ から ちらっと のぞいて いる アイイロ が のびたり ちぢんだり した。 それ と ほとんど ドウジ に、 クサムラ の ナカ に ナニ か が ばったり と たおれる モノオト を ワタシタチ は ミミ に した。 それ は ワタシタチ が そこ に オキッパナシ に して あった エ が、 ガカ と ともに、 たおれた オト らしかった。 すぐ たちあがって ゆこう と する オマエ を、 ワタシ は、 イマ の イッシュン の ナニモノ をも うしなうまい と する か の よう に ムリ に ひきとめて、 ワタシ の ソバ から はなさない で いた。 オマエ は ワタシ の する が まま に させて いた。

  カゼ たちぬ、 いざ いきめ やも。

 ふと クチ を ついて でて きた そんな シク を、 ワタシ は ワタシ に もたれて いる オマエ の カタ に テ を かけながら、 クチ の ウチ で くりかえして いた。 それから やっと オマエ は ワタシ を ふりほどいて たちあがって いった。 まだ よく かわいて は いなかった カンバス は、 その アイダ に、 イチメン に クサ の ハ を こびつかせて しまって いた。 それ を ふたたび ガカ に たてなおし、 パレット ナイフ で そんな クサ の ハ を とりにくそう に しながら、
「まあ! こんな ところ を、 もし オトウサマ に でも みつかったら……」
 オマエ は ワタシ の ほう を ふりむいて、 なんだか アイマイ な ビショウ を した。

「もう 2~3 ニチ したら オトウサマ が いらっしゃる わ」
 ある アサ の こと、 ワタシタチ が モリ の ナカ を さまよって いる とき、 とつぜん オマエ が そう いいだした。 ワタシ は なんだか フマン そう に だまって いた。 すると オマエ は、 そういう ワタシ の ほう を みながら、 すこし しゃがれた よう な コエ で ふたたび クチ を きいた。
「そう したら もう、 こんな サンポ も できなく なる わね」
「どんな サンポ だって、 しよう と おもえば できる さ」
 ワタシ は まだ フマン-らしく、 オマエ の いくぶん きづかわしそう な シセン を ジブン の ウエ に かんじながら、 しかし それ より も もっと、 ワタシタチ の ズジョウ の コズエ が なんとはなし に ざわめいて いる の に キ を とられて いる よう な ヨウス を して いた。
「オトウサマ が なかなか ワタシ を はなして くださらない わ」
 ワタシ は とうとう じれったい と でも いう よう な メツキ で、 オマエ の ほう を みかえした。
「じゃあ、 ボクタチ は もう これ で オワカレ だ と いう の かい?」
「だって シカタ が ない じゃ ない の」
 そう いって オマエ は いかにも あきらめきった よう に、 ワタシ に つとめて ほほえんで みせよう と した。 ああ、 その とき の オマエ の カオイロ の、 そして その クチビル の イロ まで も、 なんと あおざめて いた こと ったら!
「どうして こんな に かわっちゃった ん だろう なあ。 あんな に ワタシ に なにもかも まかせきって いた よう に みえた のに……」 と ワタシ は かんがえあぐねた よう な カッコウ で、 だんだん ハダカネ の ごろごろ しだして きた せまい ヤマミチ を、 オマエ を すこし サキ に やりながら、 いかにも あるきにくそう に あるいて いった。 そこいら は もう だいぶ コダチ が ふかい と みえ、 クウキ は ひえびえ と して いた。 トコロドコロ に ちいさな サワ が くいこんだり して いた。 とつぜん、 ワタシ の アタマ の ナカ に こんな カンガエ が ひらめいた。 オマエ は この ナツ、 ぐうぜん であった ワタシ の よう な モノ にも あんな に ジュウジュン だった よう に、 いや、 もっと もっと、 オマエ の チチ や、 それから また そういう チチ をも カズ に いれた オマエ の スベテ を たえず シハイ して いる もの に、 すなお に ミ を まかせきって いる の では ない だろう か?…… 「セツコ! そういう オマエ で ある の なら、 ワタシ は オマエ が もっと もっと すき に なる だろう。 ワタシ が もっと しっかり と セイカツ の ミトオシ が つく よう に なったら、 どうしたって オマエ を もらい に いく から、 それまで は オトウサン の モト に イマ の まま の オマエ で いる が いい……」 そんな こと を ワタシ は ジブン ジシン に だけ いいきかせながら、 しかし オマエ の ドウイ を もとめ でも する か の よう に、 いきなり オマエ の テ を とった。 オマエ は その テ を ワタシ に とられる が まま に させて いた。 それから ワタシタチ は そうして テ を くんだ まま、 ヒトツ の サワ の マエ に たちどまりながら、 おしだまって、 ワタシタチ の アシモト に ふかく くいこんで いる ちいさな サワ の ずっと ソコ の、 シタバエ の シダ など の ウエ まで、 ヒ の ヒカリ が かずしれず エダ を さしかわして いる ひくい カンボク の スキマ を ようやく の こと で くぐりぬけながら、 マダラ に おちて いて、 そんな コモレビ が そこ まで とどく うち に ほとんど ある か ない か くらい に なって いる ソヨカゼ に ちらちら と ゆれうごいて いる の を、 ナニ か せつない よう な キモチ で みつめて いた。

 それから 2~3 ニチ した ある ユウガタ、 ワタシ は ショクドウ で、 オマエ が オマエ を むかえ に きた チチ と ショクジ を ともに して いる の を みいだした。 オマエ は ワタシ の ほう に ぎごちなさそう に セナカ を むけて いた。 チチ の ソバ に いる こと が オマエ に ほとんど ムイシキテキ に とらせて いる に ちがいない ヨウス や ドウサ は、 ワタシ には オマエ を ついぞ みかけた こと も ない よう な わかい ムスメ の よう に かんじさせた。
「たとい ワタシ が その ナ を よんだ に したって……」 と ワタシ は ヒトリ で つぶやいた。 「アイツ は ヘイキ で こっち を ミムキ も しない だろう。 まるで もう ワタシ の よんだ モノ では ない か の よう に……」
 その バン、 ワタシ は ヒトリ で つまらなそう に でかけて いった サンポ から かえって きて から も、 しばらく ホテル の ヒトケ の ない ニワ の ナカ を ぶらぶら して いた。 ヤマユリ が におって いた。 ワタシ は ホテル の マド が まだ フタツ ミッツ アカリ を もらして いる の を ぼんやり と みつめて いた。 そのうち すこし キリ が かかって きた よう だった。 それ を おそれ でも する か の よう に、 マド の アカリ は ヒトツビトツ きえて いった。 そして とうとう ホテル-ジュウ が すっかり マックラ に なった か と おもう と、 かるい キシリ が して、 ゆるやか に ヒトツ の マド が ひらいた。 そして バライロ の ネマキ らしい もの を きた、 ヒトリ の わかい ムスメ が、 マド の フチ に じっと よりかかりだした。 それ は オマエ だった。……

 オマエタチ が たって いった ノチ、 ヒゴト ヒゴト ずっと ワタシ の ムネ を しめつけて いた、 あの カナシミ に にた よう な コウフク の フンイキ を、 ワタシ は いまだに はっきり と よみがえらせる こと が できる。
 ワタシ は シュウジツ、 ホテル に とじこもって いた。 そうして ながい アイダ オマエ の ため に うっちゃって おいた ジブン の シゴト に とりかかりだした。 ワタシ は ジブン にも おもいがけない くらい、 しずか に その シゴト に ボットウ する こと が できた。 その うち に スベテ が ホカ の キセツ に うつって いった。 そして いよいよ ワタシ も シュッパツ しよう と する ゼンジツ、 ワタシ は ヒサシブリ で ホテル から サンポ に でかけて いった。
 アキ は ハヤシ の ナカ を みちがえる ばかり に ランザツ に して いた。 ハ の だいぶ すくなく なった キギ は、 その アイダ から、 ヒトケ の たえた ベッソウ の テラス を ずっと ゼンポウ に のりださせて いた。 キンルイ の しめっぽい ニオイ が オチバ の ニオイ に いりまじって いた。 そういう おもいがけない くらい の キセツ の スイイ が、 ――オマエ と わかれて から ワタシ の しらぬ マ に こんな にも たって しまった ジカン と いう もの が、 ワタシ には イヨウ に かんじられた。 ワタシ の ココロ の ウチ の どこかしら に、 オマエ から ひきはなされて いる の は ただ イチジテキ だ と いった カクシン の よう な もの が あって、 その ため こうした ジカン の スイイ まで が、 ワタシ には イマ まで とは ぜんぜん ちがった イミ を もつ よう に なりだした の で あろう か?…… そんな よう な こと を、 ワタシ は すぐ アト で はっきり と たしかめる まで、 なにやら ぼんやり と かんじだして いた。
 ワタシ は それから 10 スウフン-ゴ、 ヒトツ の ハヤシ の つきた ところ、 そこ から キュウ に うちひらけて、 とおい チヘイセン まで も イッタイ に ながめられる、 イチメン に ススキ の おいしげった クサハラ の ナカ に、 アシ を ふみいれて いた。 そして ワタシ は その カタワラ の、 すでに ハ の きいろく なりかけた 1 ポン の シラカバ の コカゲ に ミ を よこたえた。 そこ は、 その ナツ の ヒビ、 オマエ が エ を かいて いる の を ながめながら、 ワタシ が いつも イマ の よう に ミ を よこたえて いた ところ だった。 あの とき には ほとんど いつも ニュウドウグモ に さえぎられて いた チヘイセン の アタリ には、 イマ は、 どこ か しらない、 トオク の サンミャク まで が、 マッシロ な ホサキ を なびかせた ススキ の ウエ を わけながら、 その リンカク を ヒトツヒトツ くっきり と みせて いた。
 ワタシ は それら の とおい サンミャク の スガタ を みんな アンキ して しまう くらい、 じっと メ に チカラ を いれて みいって いる うち に、 イマ まで ジブン の ウチ に ひそんで いた、 シゼン が ジブン の ため に きめて おいて くれた もの を イマ こそ やっと みいだした と いう カクシン を、 だんだん はっきり と ジブン の イシキ に のぼらせはじめて いた。……
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