カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ギンガ テツドウ の ヨル 2

2012-07-07 | ミヤザワ ケンジ
 6、 ギンガ ステーション

 そして ジョバンニ は すぐ ウシロ の テンキリン の ハシラ が いつか ぼんやり した サンカクヒョウ の カタチ に なって、 しばらく ホタル の よう に、 ぺかぺか きえたり ともったり して いる の を みました。 それ は だんだん はっきり して、 とうとう りん と うごかない よう に なり、 こい コウセイ の ソラ の ノハラ に たちました。 イマ あたらしく やいた ばかり の あおい ハガネ の イタ の よう な、 ソラ の ノハラ に、 マッスグ に すきっと たった の です。
 すると、 どこ か で、 フシギ な コエ が、 ギンガ ステーション、 ギンガ ステーション と いう コエ が した と おもう と いきなり メノマエ が、 ぱっと あかるく なって、 まるで オクマン の ホタルイカ の ヒ を イッペン に カセキ させて、 ソラジュウ に しずめた と いう グアイ、 また ダイアモンド-ガイシャ で、 ネダン が やすく ならない ため に、 わざと とれない フリ を して、 かくして おいた コンゴウセキ を、 ダレ か が いきなり ひっくりかえして、 ばらまいた と いう ふう に、 メノマエ が さあっと あかるく なって、 ジョバンニ は、 おもわず ナンベン も メ を こすって しまいました。
 キ が ついて みる と、 サッキ から、 ごとごと ごとごと、 ジョバンニ の のって いる ちいさな レッシャ が はしりつづけて いた の でした。 ホントウ に ジョバンニ は、 ヨル の ケイベン テツドウ の、 ちいさな キイロ の デントウ の ならんだ シャシツ に、 マド から ソト を みながら すわって いた の です。 シャシツ の ナカ は、 あおい ビロウド を はった コシカケ が、 まるで ガラアキ で、 ムコウ の ネズミイロ の ワニス を ぬった カベ には、 シンチュウ の おおきな ボタン が フタツ ひかって いる の でした。
 すぐ マエ の セキ に、 ぬれた よう に マックロ な ウワギ を きた、 セイ の たかい コドモ が、 マド から アタマ を だして ソト を みて いる の に キ が つきました。 そして その コドモ の カタ の アタリ が、 どうも みた こと の ある よう な キ が して、 そう おもう と、 もう どうしても ダレ だ か わかりたくて、 たまらなく なりました。 いきなり こっち も マド から カオ を だそう と した とき、 にわか に その コドモ が アタマ を ひっこめて、 こっち を みました。
 それ は カムパネルラ だった の です。
 ジョバンニ が、 カムパネルラ、 キミ は マエ から ここ に いた の と いおう と おもった とき、 カムパネルラ が、
「ミンナ は ね、 ずいぶん はしった けれども おくれて しまった よ。 ザネリ も ね、 ずいぶん はしった けれども おいつかなかった」 と いいました。
 ジョバンニ は、 (そう だ、 ボクタチ は イマ、 イッショ に さそって でかけた の だ。) と おもいながら、
「どこ か で まって いよう か」 と いいました。 すると カムパネルラ は、
「ザネリ は もう かえった よ。 オトウサン が むかい に きた ん だ」
 カムパネルラ は、 なぜか そう いいながら、 すこし カオイロ が あおざめて、 どこ か くるしい と いう ふう でした。 すると ジョバンニ も、 なんだか どこ か に、 ナニ か わすれた もの が ある と いう よう な、 おかしな キモチ が して だまって しまいました。
 ところが カムパネルラ は、 マド から ソト を のぞきながら、 もう すっかり ゲンキ が なおって、 イキオイ よく いいました。
「ああ しまった。 ボク、 スイトウ を わすれて きた。 スケッチ-チョウ も わすれて きた。 けれど かまわない。 もう じき ハクチョウ の テイシャバ だ から。 ボク、 ハクチョウ を みる なら、 ホントウ に すき だ。 カワ の トオク を とんで いたって、 ボク は きっと みえる」
 そして、 カムパネルラ は、 まるい イタ の よう に なった チズ を、 しきり に ぐるぐる まわして みて いました。 まったく その ナカ に、 しろく あらわされた アマノガワ の ヒダリ の キシ に そって イチジョウ の テツドウ センロ が、 ミナミ へ ミナミ へ と たどって いく の でした。 そして その チズ の リッパ な こと は、 ヨル の よう に マックロ な バン の ウエ に、 イチイチ の テイシャバ や サンカクヒョウ、 センスイ や モリ が、 アオ や ダイダイ や ミドリ や、 うつくしい ヒカリ で ちりばめられて ありました。 ジョバンニ は なんだか その チズ を どこ か で みた よう に おもいました。
「この チズ は どこ で かった の。 コクヨウセキ で できてる ねえ」
 ジョバンニ が いいました。
「ギンガ ステーション で、 もらった ん だ。 キミ もらわなかった の」
「ああ、 ボク ギンガ ステーション を とおったろう か。 イマ ボクタチ の いる とこ、 ここ だろう」
 ジョバンニ は、 ハクチョウ と かいて ある テイシャバ の シルシ の、 すぐ キタ を さしました。
「そう だ。 おや、 あの カワラ は ツキヨ だろう か」
 そっち を みます と、 あおじろく ひかる ギンガ の キシ に、 ギンイロ の ソラ の ススキ が、 もう まるで イチメン、 カゼ に さらさら さらさら、 ゆられて うごいて、 ナミ を たてて いる の でした。
「ツキヨ で ない よ。 ギンガ だ から ひかる ん だよ」 ジョバンニ は いいながら、 まるで はねあがりたい くらい ユカイ に なって、 アシ を こつこつ ならし、 マド から カオ を だして、 たかく たかく ホシメグリ の クチブエ を ふきながら イッショウ ケンメイ のびあがって、 その アマノガワ の ミズ を、 みきわめよう と しました が、 ハジメ は どうしても それ が、 はっきり しません でした。 けれども だんだん キ を つけて みる と、 その きれい な ミズ は、 ガラス より も スイソ より も すきとおって、 ときどき メ の カゲン か、 ちらちら ムラサキイロ の こまか な ナミ を たてたり、 ニジ の よう に ぎらっと ひかったり しながら、 コエ も なく どんどん ながれて いき、 ノハラ には あっち にも こっち にも、 リンコウ の サンカクヒョウ が、 うつくしく たって いた の です。 とおい もの は ちいさく、 ちかい もの は おおきく、 とおい もの は ダイダイ や キイロ で はっきり し、 ちかい もの は あおじろく すこし かすんで、 あるいは サンカクケイ、 あるいは シヘンケイ、 あるいは イナズマ や クサリ の カタチ、 サマザマ に ならんで、 ノハラ いっぱい ひかって いる の でした。 ジョバンニ は、 まるで どきどき して、 アタマ を やけに ふりました。 すると ホントウ に、 その きれい な ノハラ-ジュウ の アオ や ダイダイ や、 いろいろ かがやく サンカクヒョウ も、 てんでに イキ を つく よう に、 ちらちら ゆれたり ふるえたり しました。
「ボク は もう、 すっかり テン の ノハラ に きた」 ジョバンニ は いいました。
「それに この キシャ、 セキタン を たいて いない ねえ」 ジョバンニ が ヒダリテ を つきだして マド から マエ の ほう を みながら いいました。
「アルコール か デンキ だろう」 カムパネルラ が いいました。
 ごとごと ごとごと、 その ちいさな きれい な キシャ は、 ソラ の ススキ の カゼ に ひるがえる ナカ を、 アマノガワ の ミズ や、 サンカクテン の あおじろい ビコウ の ナカ を、 どこまでも どこまでも と、 はしって いく の でした。
「ああ、 リンドウ の ハナ が さいて いる。 もう すっかり アキ だねえ」 カムパネルラ が、 マド の ソト を ゆびさして いいました。
 センロ の ヘリ に なった みじかい シバクサ の ナカ に、 ゲッチョウセキ で でも きざまれた よう な、 すばらしい ムラサキ の リンドウ の ハナ が さいて いました。
「ボク、 とびおりて、 あいつ を とって、 また とびのって みせよう か」 ジョバンニ は ムネ を おどらせて いいました。
「もう ダメ だ。 あんな に ウシロ へ いって しまった から」
 カムパネルラ が、 そう いって しまう か しまわない うち、 ツギ の リンドウ の ハナ が、 いっぱい に ひかって すぎて いきました。
 と おもったら、 もう ツギ から ツギ から、 タクサン の キイロ な ソコ を もった リンドウ の ハナ の コップ が、 わく よう に、 アメ の よう に、 メノマエ を とおり、 サンカクヒョウ の レツ は、 けむる よう に もえる よう に、 いよいよ ひかって たった の です。

 7、 キタ ジュウジ と プリオシン カイガン

「オッカサン は、 ボク を ゆるして くださる だろう か」
 いきなり、 カムパネルラ が、 おもいきった と いう よう に、 すこし どもりながら、 せきこんで いいました。
 ジョバンニ は、
(ああ、 そう だ、 ボク の オッカサン は、 あの とおい ヒトツ の チリ の よう に みえる ダイダイイロ の サンカクヒョウ の アタリ に いらっしゃって、 イマ ボク の こと を かんがえて いる ん だった。) と おもいながら、 ぼんやり して だまって いました。
「ボク は オッカサン が、 ホントウ に サイワイ に なる なら、 どんな こと でも する。 けれども、 いったい どんな こと が、 オッカサン の イチバン の サイワイ なん だろう」 カムパネルラ は、 なんだか、 なきだしたい の を、 イッショウ ケンメイ こらえて いる よう でした。
「キミ の オッカサン は、 なんにも ひどい こと ない じゃ ない の」 ジョバンニ は びっくり して さけびました。
「ボク わからない。 けれども、 ダレ だって、 ホントウ に いい こと を したら、 いちばん サイワイ なん だねえ。 だから、 オッカサン は、 ボク を ゆるして くださる と おもう」 カムパネルラ は、 ナニ か ホントウ に ケッシン して いる よう に みえました。
 にわか に、 クルマ の ナカ が、 ぱっと しろく あかるく なりました。 みる と、 もう じつに、 コンゴウセキ や クサ の ツユ や あらゆる リッパサ を あつめた よう な、 きらびやか な ギンガ の カワドコ の ウエ を ミズ は コエ も なく カタチ も なく ながれ、 その ナガレ の マンナカ に、 ぼうっと あおじろく ゴコウ の さした ヒトツ の シマ が みえる の でした。 その シマ の たいら な イタダキ に、 リッパ な メ も さめる よう な、 しろい ジュウジカ が たって、 それ は もう こおった ホッキョク の クモ で いた と いったら いい か、 すきっと した キンイロ の エンコウ を いただいて、 しずか に エイキュウ に たって いる の でした。
「ハルレヤ、 ハルレヤ」 マエ から も ウシロ から も コエ が おこりました。 ふりかえって みる と、 シャシツ の ナカ の タビビト たち は、 ミナ マッスグ に キモノ の ヒダ を たれ、 くろい バイブル を ムネ に あてたり、 スイショウ の ジュズ を かけたり、 どの ヒト も つつましく ユビ を くみあわせて、 そっち に いのって いる の でした。 おもわず フタリ も マッスグ に たちあがりました。 カムパネルラ の ホオ は、 まるで じゅくした リンゴ の アカシ の よう に うつくしく かがやいて みえました。
 そして シマ と ジュウジカ とは、 だんだん ウシロ の ほう へ うつって いきました。
 ムコウギシ も、 あおじろく ぽうっと ひかって けむり、 ときどき、 やっぱり ススキ が カゼ に ひるがえる らしく、 さっと その ギンイロ が けむって、 イキ でも かけた よう に みえ、 また、 タクサン の リンドウ の ハナ が、 クサ を かくれたり でたり する の は、 やさしい キツネビ の よう に おもわれました。
 それ も ほんの ちょっと の アイダ、 カワ と キシャ との アイダ は、 ススキ の レツ で さえぎられ、 ハクチョウ の シマ は、 2 ド ばかり、 ウシロ の ほう に みえました が、 じき もう ずうっと とおく ちいさく、 エ の よう に なって しまい、 また ススキ が ざわざわ なって、 とうとう すっかり みえなく なって しまいました。 ジョバンニ の ウシロ には、 いつから のって いた の か、 セイ の たかい、 くろい カツギ を した カトリック-フウ の アマ さん が、 マンマル な ミドリ の ヒトミ を、 じっと マッスグ に おとして、 まだ ナニ か コトバ か コエ か が、 そっち から つたわって くる の を、 つつしんで きいて いる と いう よう に みえました。 タビビト たち は しずか に セキ に もどり、 フタリ も ムネイッパイ の カナシミ に にた あたらしい キモチ を、 なにげなく ちがった コトバ で、 そっと はなしあった の です。
「もう じき ハクチョウ の テイシャバ だねえ」
「ああ、 11 ジ かっきり には つく ん だよ」
 はやくも、 シグナル の ミドリ の アカリ と、 ぼんやり しろい ハシラ と が、 ちらっと マド の ソト を すぎ、 それから イオウ の ホノオ の よう な くらい ぼんやり した テンテツキ の マエ の アカリ が マド の シタ を とおり、 キシャ は だんだん ゆるやか に なって、 まもなく プラットホーム の イチレツ の デントウ が、 うつくしく キソク ただしく あらわれ、 それ が だんだん おおきく なって ひろがって、 フタリ は ちょうど ハクチョウ テイシャバ の、 おおきな トケイ の マエ に きて とまりました。
 さわやか な アキ の トケイ の ダイアル には、 あおく やかれた ハガネ の 2 ホン の ハリ が、 くっきり 11 ジ を さしました。 ミンナ は、 イッペン に おりて、 シャシツ の ナカ は がらん と なって しまいました。
〔20 プン テイシャ〕 と トケイ の シタ に かいて ありました。
「ボクタチ も おりて みよう か」 ジョバンニ が いいました。
「おりよう」
 フタリ は イチド に はねあがって ドア を とびだして カイサツグチ へ かけて いきました。 ところが カイサツグチ には、 あかるい むらさきがかった デントウ が、 ヒトツ ついて いる ばかり、 ダレ も いません でした。 そこらじゅう を みて も、 エキチョウ や アカボウ らしい ヒト の、 カゲ も なかった の です。
 フタリ は、 テイシャバ の マエ の、 スイショウ-ザイク の よう に みえる イチョウ の キ に かこまれた、 ちいさな ヒロバ に でました。 そこ から ハバ の ひろい ミチ が、 マッスグ に ギンガ の アオビカリ の ナカ へ とおって いました。
 サキ に おりた ヒトタチ は、 もう どこ へ いった か ヒトリ も みえません でした。 フタリ が その しろい ミチ を、 カタ を ならべて いきます と、 フタリ の カゲ は、 ちょうど シホウ に マド の ある ヘヤ の ナカ の、 2 ホン の ハシラ の カゲ の よう に、 また フタツ の シャリン の ヤ の よう に イクホン も イクホン も シホウ へ でる の でした。 そして まもなく、 あの キシャ から みえた きれい な カワラ に きました。
 カムパネルラ は、 その きれい な スナ を ヒトツマミ、 テノヒラ に ひろげ、 ユビ で きしきし させながら、 ユメ の よう に いって いる の でした。
「この スナ は みんな スイショウ だ。 ナカ で ちいさな ヒ が もえて いる」
「そう だ」 どこ で ボク は、 そんな こと ならったろう と おもいながら、 ジョバンニ も ぼんやり こたえて いました。
 カワラ の コイシ は、 みんな すきとおって、 たしか に スイショウ や トパース や、 また くしゃくしゃ の シュウキョク を あらわした の や、 また カド から キリ の よう な あおじろい ヒカリ を だす コウギョク やら でした。 ジョバンニ は、 はしって その ナギサ に いって、 ミズ に テ を ひたしました。 けれども あやしい その ギンガ の ミズ は、 スイソ より も もっと すきとおって いた の です。 それでも たしか に ながれて いた こと は、 フタリ の テクビ の、 ミズ に ひたった とこ が、 すこし スイギンイロ に ういた よう に みえ、 その テクビ に ぶっつかって できた ナミ は、 うつくしい リンコウ を あげて、 ちらちら と もえる よう に みえた の でも わかりました。
 カワカミ の ほう を みる と、 ススキ の いっぱい に はえて いる ガケ の シタ に、 しろい イワ が、 まるで ウンドウジョウ の よう に たいら に カワ に そって でて いる の でした。 そこ に ちいさな 5~6 ニン の ヒトカゲ が、 ナニ か ほりだす か うめる か して いる らしく、 たったり かがんだり、 ときどき ナニ か の ドウグ が、 ぴかっと ひかったり しました。
「いって みよう」 フタリ は、 まるで イチド に さけんで、 そっち の ほう へ はしりました。 その しろい イワ に なった ところ の イリグチ に、
〔プリオシン カイガン〕 と いう、 セトモノ の つるつる した ヒョウサツ が たって、 ムコウ の ナギサ には、 ところどころ、 ほそい テツ の ランカン も うえられ、 モクセイ の きれい な ベンチ も おいて ありました。
「おや、 ヘン な もの が ある よ」 カムパネルラ が、 フシギ そう に たちどまって、 イワ から くろい ほそながい サキ の とがった クルミ の ミ の よう な もの を ひろいました。
「クルミ の ミ だよ。 そら、 たくさん ある。 ながれて きた ん じゃ ない。 イワ の ナカ に はいってる ん だ」
「おおきい ね、 この クルミ、 バイ ある ね。 こいつ は すこしも いたんで ない」
「はやく あすこ へ いって みよう。 きっと ナニ か ほってる から」
 フタリ は、 ギザギザ の くろい クルミ の ミ を もちながら、 また サッキ の ほう へ ちかよって いきました。 ヒダリテ の ナギサ には、 ナミ が やさしい イナズマ の よう に もえて よせ、 ミギテ の ガケ には、 イチメン ギン や カイガラ で こさえた よう な ススキ の ホ が ゆれた の です。
 だんだん ちかづいて みる と、 ヒトリ の セイ の たかい、 ひどい キンガンキョウ を かけ、 ナガグツ を はいた ガクシャ らしい ヒト が、 テチョウ に ナニ か せわしそう に かきつけながら、 ツルハシ を ふりあげたり、 スコープ を つかったり して いる、 3 ニン の ジョシュ らしい ヒトタチ に ムチュウ で いろいろ サシズ を して いました。
「そこ の その トッキ を こわさない よう に。 スコープ を つかいたまえ、 スコープ を。 おっと、 もすこし トオク から ほって。 いけない、 いけない。 なぜ そんな ランボウ を する ん だ」
 みる と、 その しろい やわらか な イワ の ナカ から、 おおきな おおきな あおじろい ケモノ の ホネ が、 ヨコ に たおれて つぶれた と いう ふう に なって、 ハンブン イジョウ ほりだされて いました。 そして キ を つけて みる と、 そこら には、 ヒヅメ の フタツ ある アシアト の ついた イワ が、 シカク に トオ ばかり、 きれい に きりとられて バンゴウ が つけられて ありました。
「キミタチ は サンカン かね」 その ダイガクシ らしい ヒト が、 メガネ を きらっと させて、 こっち を みて はなしかけました。
「クルミ が たくさん あったろう。 それ は まあ、 ざっと 120 マン-ネン ぐらい マエ の クルミ だよ。 ごく あたらしい ほう さ。 ここ は 120 マン-ネン マエ、 ダイ 3 キ の アト の コロ は カイガン で ね、 この シタ から は カイガラ も でる。 イマ カワ の ながれて いる とこ に、 そっくり シオミズ が よせたり ひいたり も して いた の だ。 この ケモノ かね、 これ は ボス と いって ね、 おいおい、 そこ ツルハシ は よしたまえ。 テイネイ に ノミ で やって くれたまえ。 ボス と いって ね、 イマ の ウシ の センゾ で、 ムカシ は たくさん いた さ」
「ヒョウホン に する ん です か」
「いや、 ショウメイ する に いる ん だ。 ボクラ から みる と、 ここ は あつい リッパ な チソウ で、 120 マン-ネン ぐらい マエ に できた と いう ショウコ も いろいろ あがる けれども、 ボクラ と ちがった ヤツ から みて も やっぱり こんな チソウ に みえる か どう か、 あるいは カゼ か ミズ や がらん と した ソラ か に みえ や しない か と いう こと なの だ。 わかった かい。 けれども、 おいおい。 そこ も スコープ では いけない。 その すぐ シタ に ロッコツ が うもれてる はず じゃ ない か」 ダイガクシ は あわてて はしって いきました。
「もう ジカン だよ。 いこう」 カムパネルラ が チズ と ウデドケイ と を くらべながら いいました。
「ああ、 では ワタクシドモ は シツレイ いたします」 ジョバンニ は、 テイネイ に ダイガクシ に オジギ しました。
「そう です か。 いや、 さよなら」 ダイガクシ は、 また いそがしそう に、 あちこち あるきまわって カントク を はじめました。 フタリ は、 その しろい イワ の ウエ を、 イッショウ ケンメイ キシャ に おくれない よう に はしりました。 そして ホントウ に、 カゼ の よう に はしれた の です。 イキ も きれず ヒザ も あつく なりません でした。
 こんな に して かける なら、 もう セカイジュウ だって かけれる と、 ジョバンニ は おもいました。
 そして フタリ は、 マエ の あの カワラ を とおり、 カイサツグチ の デントウ が だんだん おおきく なって、 まもなく フタリ は、 モト の シャシツ の セキ に すわって、 イマ いって きた ほう を、 マド から みて いました。

 8、 トリ を とる ヒト

「ここ へ かけて も よう ございます か」
 がさがさ した、 けれども シンセツ そう な、 オトナ の コエ が、 フタリ の ウシロ で きこえました。
 それ は、 チャイロ の すこし ぼろぼろ の ガイトウ を きて、 しろい キレ で つつんだ ニモツ を、 フタツ に わけて カタ に かけた、 アカヒゲ の セナカ の かがんだ ヒト でした。
「ええ、 いい ん です」 ジョバンニ は、 すこし カタ を すぼめて アイサツ しました。 その ヒト は、 ヒゲ の ナカ で かすか に わらいながら、 ニモツ を ゆっくり アミダナ に のせました。 ジョバンニ は、 ナニ か たいへん さびしい よう な かなしい よう な キ が して、 だまって ショウメン の トケイ を みて いましたら、 ずうっと マエ の ほう で、 ガラス の フエ の よう な もの が なりました。 キシャ は もう、 しずか に うごいて いた の です。 カムパネルラ は、 シャシツ の テンジョウ を、 あちこち みて いました。 その ヒトツ の アカリ に くろい カブトムシ が とまって その カゲ が おおきく テンジョウ に うつって いた の です。 アカヒゲ の ヒト は、 ナニ か なつかしそう に わらいながら、 ジョバンニ や カムパネルラ の ヨウス を みて いました。 キシャ は もう だんだん はやく なって、 ススキ と カワ と、 かわるがわる マド の ソト から ひかりました。
 アカヒゲ の ヒト が、 すこし おずおず しながら、 フタリ に ききました。
「アナタガタ は、 どちら へ いらっしゃる ん です か」
「どこまでも いく ん です」 ジョバンニ は、 すこし きまりわるそう に こたえました。
「それ は いい ね。 この キシャ は、 じっさい、 どこ まで でも いきます ぜ」
「アナタ は どこ へ いく ん です」 カムパネルラ が、 いきなり、 ケンカ の よう に たずねました ので、 ジョバンニ は、 おもわず わらいました。 すると、 ムコウ の セキ に いた、 とがった ボウシ を かぶり、 おおきな カギ を コシ に さげた ヒト も、 ちらっと こっち を みて わらいました ので、 カムパネルラ も、 つい カオ を あかく して わらいだして しまいました。 ところが その ヒト は べつに おこった でも なく、 ホオ を ぴくぴく しながら ヘンジ しました。
「ワッシ は すぐ そこ で おります。 ワッシ は、 トリ を つかまえる ショウバイ で ね」
「ナニドリ です か」
「ツル や ガン です。 サギ も ハクチョウ も です」
「ツル は たくさん います か」
「います とも、 サッキ から ないて まさあ。 きかなかった の です か」
「いいえ」
「イマ でも きこえる じゃ ありません か。 そら、 ミミ を すまして きいて ごらんなさい」
 フタリ は メ を あげ、 ミミ を すましました。 ごとごと なる キシャ の ヒビキ と、 ススキ の カゼ との アイダ から、 ころん ころん と ミズ の わく よう な オト が きこえて くる の でした。
「ツル、 どうして とる ん です か」
「ツル です か、 それとも サギ です か」
「サギ です」 ジョバンニ は、 どっち でも いい と おもいながら こたえました。
「そいつ は な、 ぞうさない。 サギ と いう もの は、 みんな アマノガワ の スナ が こごって、 ぼおっと できる もん です から ね、 そして しじゅう カワ へ かえります から ね、 カワラ で まって いて、 サギ が みんな、 アシ を こういう ふう に して おりて くる とこ を、 そいつ が ジベタ へ つく か つかない うち に、 ぴたっと おさえちまう ん です。 すると もう サギ は、 かたまって アンシン して しんじまいます。 アト は もう、 わかりきって まさあ。 オシバ に する だけ です」
「サギ を オシバ に する ん です か。 ヒョウホン です か」
「ヒョウホン じゃ ありません。 ミンナ たべる じゃ ありません か」
「おかしい ねえ」 カムパネルラ が クビ を かしげました。
「おかしい も フシン も ありません や。 そら」 その オトコ は たって、 アミダナ から ツツミ を おろして、 てばやく くるくる と ときました。
「さあ、 ごらんなさい。 イマ とって きた ばかり です」
「ホントウ に サギ だねえ」 フタリ は おもわず さけびました。 マッシロ な、 あの サッキ の キタ の ジュウジカ の よう に ひかる サギ の カラダ が、 トオ ばかり、 すこし ひらべったく なって、 くろい アシ を ちぢめて、 ウキボリ の よう に ならんで いた の です。
「メ を つぶってる ね」 カムパネルラ は、 ユビ で そっと、 サギ の ミカヅキガタ の しろい つぶった メ に さわりました。 アタマ の ウエ の ヤリ の よう な しろい ケ も ちゃんと ついて いました。
「ね、 そう でしょう」 トリトリ は フロシキ を かさねて、 また くるくる と つつんで ヒモ で くくりました。 ダレ が いったい ここら で サギ なんぞ たべる だろう と ジョバンニ は おもいながら ききました。
「サギ は おいしい ん です か」
「ええ、 マイニチ チュウモン が あります。 しかし ガン の ほう が、 もっと うれます。 ガン の ほう が ずっと ガラ が いい し、 だいいち テスウ が ありません から な。 そら」 トリトリ は、 また ベツ の ほう の ツツミ を ときました。 すると キ と アオジロ と マダラ に なって、 ナニ か の アカリ の よう に ひかる ガン が、 ちょうど サッキ の サギ の よう に、 クチバシ を そろえて、 すこし ひらべったく なって、 ならんで いました。
「こっち は すぐ たべられます。 どう です、 すこし おあがりなさい」 トリトリ は、 キイロ な ガン の アシ を、 かるく ひっぱりました。 すると それ は、 チョコレート で でも できて いる よう に、 すっと きれい に はなれました。
「どう です。 すこし たべて ごらんなさい」 トリトリ は、 それ を フタツ に ちぎって わたしました。 ジョバンニ は、 ちょっと たべて みて、 (ナン だ、 やっぱり こいつ は オカシ だ。 チョコレート より も、 もっと おいしい けれども、 こんな ガン が とんで いる もん か。 この オトコ は、 どこ か そこら の ノハラ の カシヤ だ。 けれども ボク は、 この ヒト を バカ に しながら、 この ヒト の オカシ を たべて いる の は、 たいへん キノドク だ。) と おもいながら、 やっぱり ぽくぽく それ を たべて いました。
「もすこし おあがりなさい」 トリトリ が また ツツミ を だしました。 ジョバンニ は、 もっと たべたかった の です けれども、
「ええ、 ありがとう」 と いって エンリョ しましたら、 トリトリ は、 コンド は ムコウ の セキ の、 カギ を もった ヒト に だしました。
「いや、 ショウバイモノ を もらっちゃ すみません な」 その ヒト は、 ボウシ を とりました。
「いいえ、 どう いたしまして。 どう です、 コトシ の ワタリドリ の ケイキ は」
「いや、 すてき な もん です よ。 オトトイ の ダイ 2 ゲン コロ なんか、 なぜ トウダイ の ヒ を、 キソク イガイ に カン 〔1 ジ ブン クウハク〕 させる か って、 あっち から も こっち から も、 デンワ で コショウ が きました が、 なあに、 こっち が やる ん じゃ なくて、 ワタリドリ ども が、 マックロ に かたまって、 アカシ の マエ を とおる の です から シカタ ありません や。 ワタシャ、 べらぼうめ、 そんな クジョウ は、 オレ の とこ へ もって きたって シカタ が ねえ や、 ばさばさ の マント を きて アシ と クチ との トホウ も なく ほそい タイショウ へ やれ って、 こう いって やりました がね、 はっは」
 ススキ が なくなった ため に、 ムコウ の ノハラ から、 ぱっと アカリ が さして きました。
「サギ の ほう は なぜ テスウ なん です か」 カムパネルラ は、 サッキ から、 きこう と おもって いた の です。
「それ は ね、 サギ を たべる には、」 トリトリ は、 こっち に むきなおりました。
「アマノガワ の ミズアカリ に、 トオカ も つるして おく かね、 そう で なきゃ、 スナ に サン、 ヨッカ うずめなきゃ いけない ん だ。 そう する と、 スイギン が みんな ジョウハツ して、 たべられる よう に なる よ」
「こいつ は トリ じゃ ない。 タダ の オカシ でしょう」 やっぱり おなじ こと を かんがえて いた と みえて、 カムパネルラ が、 おもいきった と いう よう に、 たずねました。 トリトリ は、 ナニ か たいへん あわてた ふう で、
「そうそう、 ここ で おりなきゃ」 と いいながら、 たって ニモツ を とった と おもう と、 もう みえなく なって いました。
「どこ へ いった ん だろう」
 フタリ は カオ を みあわせましたら、 トウダイモリ は、 にやにや わらって、 すこし のびあがる よう に しながら、 フタリ の ヨコ の マド の ソト を のぞきました。 フタリ も そっち を みましたら、 タッタイマ の トリトリ が、 キイロ と アオジロ の、 うつくしい リンコウ を だす、 イチメン の カワラ ハハコグサ の ウエ に たって、 マジメ な カオ を して リョウテ を ひろげて、 じっと ソラ を みて いた の です。
「あすこ へ いってる。 ずいぶん キタイ だねえ。 きっと また トリ を つかまえる とこ だねえ。 キシャ が はしって いかない うち に、 はやく トリ が おりる と いい な」 と いった トタン、 がらん と した キキョウイロ の ソラ から、 さっき みた よう な サギ が、 まるで ユキ の ふる よう に、 ぎゃあぎゃあ さけびながら、 いっぱい に まいおりて きました。 すると あの トリトリ は、 すっかり チュウモンドオリ だ と いう よう に ほくほく して、 リョウアシ を かっきり 60 ド に ひらいて たって、 サギ の ちぢめて おりて くる くろい アシ を リョウテ で カタッパシ から おさえて、 ヌノ の フクロ の ナカ に いれる の でした。 すると サギ は、 ホタル の よう に、 フクロ の ナカ で しばらく、 あおく ぺかぺか ひかったり きえたり して いました が、 オシマイ とうとう、 みんな ぼんやり しろく なって、 メ を つぶる の でした。 ところが、 つかまえられる トリ より は、 つかまえられない で ブジ に アマノガワ の スナ の ウエ に おりる もの の ほう が おおかった の です。 それ は みて いる と、 アシ が スナ へ つく や いなや、 まるで ユキ の とける よう に、 ちぢまって ひらべったく なって、 まもなく ヨウコウロ から でた ドウ の シル の よう に、 スナ や ジャリ の ウエ に ひろがり、 しばらく は トリ の カタチ が、 スナ に ついて いる の でした が、 それ も 2~3 ド あかるく なったり くらく なったり して いる うち に、 もう すっかり マワリ と おなじ イロ に なって しまう の でした。
 トリトリ は 20 ピキ ばかり、 フクロ に いれて しまう と、 キュウ に リョウテ を あげて、 ヘイタイ が テッポウダマ に あたって、 しぬ とき の よう な カタチ を しました。 と おもったら、 もう そこ に トリトリ の カタチ は なくなって、 かえって、
「ああ せいせい した。 どうも カラダ に ちょうど あう ほど かせいで いる くらい、 いい こと は ありません な」 と いう キキオボエ の ある コエ が、 ジョバンニ の トナリ に しました。 みる と トリトリ は、 もう そこ で とって きた サギ を、 きちんと そろえて、 ヒトツ ずつ かさねなおして いる の でした。
「どうして あすこ から、 イッペン に ここ へ きた ん です か」 ジョバンニ が、 なんだか アタリマエ の よう な、 アタリマエ で ない よう な、 おかしな キ が して といました。
「どうして って、 こよう と した から きた ん です。 ぜんたい アナタガタ は、 どちら から オイデ です か」
 ジョバンニ は、 すぐ ヘンジ しよう と おもいました けれども、 さあ、 ぜんたい どこ から きた の か、 もう どうしても かんがえつきません でした。 カムパネルラ も、 カオ を マッカ に して ナニ か おもいだそう と して いる の でした。
「ああ、 トオク から です ね」 トリトリ は、 わかった と いう よう に ぞうさなく うなずきました。
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