仮名日記

ネタと雑感

やすいはなし(No Woman)

2008年04月08日 | 文化
 4月5日の某新聞朝刊に、坂東眞理子著『女性の品格』(PHP新書)の全面広告が掲載されておりました。言わずと知れたベストセラーではありますが、俺は読んでおりません。で、その広告には女優の山本陽子さんの顔写真とともに、「春の品格」と題された毛筆の一文が印刷されていました。
 春という新たな始まりの季節を迎える女性たちに、『女性の品格』を読んで「品格」を身につけようと勧める文章で、署名があるので山本さんの直筆であると判ります。そのように述べるからには、山本さんも同書の愛読者で、自身の品格を高めるべく日々研鑽しているに違いない。いわば、『女性の品格』の趣旨を体現している存在が「女優 山本陽子」ということであり、であるからこそ、わざわざ広告に起用されたのでありましょう。
 しかし、そこにはたいへんな落とし穴がありました。この新聞広告の最大の欠陥であり、かつ誰にでも一目瞭然の大失態とは。
それは、彼女の字が上手くも何ともないってことです(上掲写真参照)。
 精一杯きれいに見せようと努力しているようだけれど、如何せん気の毒なくらいへったくそなの。わざわざ毛筆で書いたはいいが、筆の運び方の基本がまるでなっていないので、見続けているとイラッとする。流麗とか高雅とか端正という言葉とは程遠く、鑑賞に堪える趣きや独特の面白みを伝えるものでもない、贔屓目に見ても、ちょっとしっかりした小学生が書いたぐらいのあか抜けない、要するに品格のない文字。
 いや、字が汚くったって精神的には品格のある人もいるでしょう。もしかしたら、「悪筆でも心のこもった手書きの文章がいい」というような教えが『女性の品格』の中に書いてあるのかも知れない。でも、これは広告なんだから、誰もが息を呑むような達筆の女性を連れてきて文章を書かせ、それを印刷して人々に訴えるべきではないだろうか。『女性の品格』を読んだ女性は、字まで美しくなるのかと錯覚させるぐらいに。
 しかし実際には、失笑を誘うような悪筆をわざわざ持ってきて広告の説得力を大幅に減じてしまった。同書の神通力も、女優の書く文字を改めさせるには至らないことを人々に見せつけてしまったのだ。そもそも、まともな審美眼と羞恥心を持ち合わせた人間ならば、こんな文字を全国紙に載せて衆目に晒そうとは思わないはずであり、もっとふさわしい文字で心に響く広告を尽力の末に作り上げたはずだ。それができなかったということは、この広告の制作者がまったく品格に欠けていることを意味する。よりにもよって品格を論じた書物の広告で、品格の欠如を露呈させてしまうとは、何という尻の抜けた話であろう。
 まさか、この広告の制作者は全員男性で、自分には品格なんて必要ないと思っているわけではあるまいな。『女性の品格』を読んでいないからはっきりとは判らないが、同書は、そんな男にとってだけ都合のいいメッセージを発しているのだろうか。そんな書物がベストセラーになるとは信じたくないが。


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