仮名日記

ネタと雑感

やすいはなし(新しい天体で)

2007年08月09日 | 文化
 代官山がオサレな街だなどという通念は、雑誌の情報操作から始まったことだと故景山民夫が書いていたような憶えがありますが、その代官山にあるクラブ兼ライブハウス兼その他諸々などという、普段なら近寄る筈もない場所を訪れたのは、ひとえにバーニー・ウォーレルを観たかったからです(8/4 18:00~@代官山UNIT)
 来日と聞いて矢も盾も堪らずチケットを手に入れたけれど、それが夕方6時から翌日の朝6時までなどというアホなスケジュールのイベントであることに後から気付いたのは、真に以て迂闊の極みなり。まあ、あらかじめそのことを知っていたとしても観には行ったでしょうが。それに、結局は意地汚く最後まで居座り続けたので文句を言ってはいけないのかも知れない。
 
バーニー・ウォーレルとは、Pファンク最盛期の屋台骨を支えた鍵盤奏者であり作曲者。高度の音楽的素養を基盤として自在極まる創造性を発揮し、突拍子もないようでいて整合感のある演奏はまさに唯一無二のものだ。Pファンクから離れた1980年代以降は、トーキング・ヘッズを初めとする数多くのミュージシャンと共演し、その異才を広く知らしめた。
 が、その彼が今やアメリカ本国でも忘れられた存在であり、生活にも困窮しているという寂しい現況を
『STRANGER Bernie Worrell on Earth』というドキュメンタリー作品が伝えた。もちろんショービジネスの世界では人気・知名度などは常ならざるもので、その荒波を乗り越えるには彼の自己プロデュース能力が十分でなかったということかも知れない。しかし、大衆音楽においてシンセサイザーがまさに活用され始めた時期に、その可能性・領域を切り開いたパイオニアとしての功績に比して、現在の彼への評価はあまりに不十分なものではないだろうか。
 ことほどさように景気の悪い事前情報を念頭に置きつつ、当日のライブに臨んだのでした。バーニーは何度か来日していますが、今回はMethod of Defianceという、ベーシスト兼プロデューサーのビル・ラズウェルによるプロジェクトの一員としての公演。バーニーさえいればいいという不届きな心得だったので、「アヴァン・ドラムンベース・ハードコア・ジャズ・ダブ・ファンク」という触れ込みのこのプロジェクトについては事前にまったく情報を仕入れていなかったが、いつものラズウェルらしいジャンル横断型のハードエッジな音楽だろうと当たりをつけていたら、果たしてそのとおり。さすがラズウェル、悪い意味で期待を裏切らない。
 開演してまずバーニーが飄々と現れてソロを取り、その後に他のメンバーがそれぞれのポジションに着いて終始轟音で演奏し倒すという構成。キーボードのソロで『ボランティアード・スレイブリー』(ローランド・カーク)が飛び出したり、『コズミック・スロップ』(ファンカデリック)のアレンジ版を披露したりと旧来のファン向けのサービスもあったし、何より録音で聴いたとおりのあの音、時に荘厳なまでに神秘的・魔術的で、時に「ウンコ踏みつぶしたよう」に下世話な音が目前で奏でられるだけでこみ上げるものがあった。
 が、グループ全体が走り出すと、音量バランスのせいもあってか、バーニーの音が埋没してほとんど聞こえない。ハードでメタリックで鋭角な音が隙間無く連続し衝突するこのグループの音群と、バーニーの陰影と屈折を帯びた音色との相性はあまり良いとは思えず、はっきり言って彼がそこにいる意味が乏しい。その証拠に、アンコールでのバーニー抜きの演奏も、多少音が薄くなりはしたが、それまでと同じように成立してしまっていた。音数が減ったとき、例えば、曲の終盤に近藤等則のトランペットとバーニーのキーボードだけ残った場面では、両者の照応がスリルを生もうとしているようだったが、それが持続・展開されなかったのがもどかしい。
 グループ総体としては間違いなく力演だったけれど、その中でのバーニーの立ち位置の覚束なさが、ビル・ラズウェルによるプロデュースの問題点のみならず、先述のようなバーニーの寄る辺の無い状況を表していたように思われ、少しばかりの苦さが胸中に残ったのでありました。

やすいはなし(所以夏原)

2007年08月06日 | 社会
(判りにくいと思うのであらかじめばらしておきますが、元ネタはこちらです。参院選の結果をネタにしようとして、どうしてこうなったのか、自分でもよく判らない。)

雑然とした部屋。目の間の離れた女子高生が、テレビを観ながら携帯電話で話をしている。
「なんかさー、選挙特番てウザくない?どこのチャンネルも同じだしさー、いつまで経っても終わんなくってさー、誰が観んのって感じ」
部屋の外から家人が誰かを制止する声がする。
「えー、待って。誰か来たみたい」
突然部屋に入ってくる顔の肉が垂れ下がった鼻の下の長い中年男。
「なに、アンタ!?」
「アベや。総理大臣のアベシンゾーや。キシノブスケの孫でアベシンタローの息子や」
「誰それ」
「知らんのか、この非国民のガキが。日本が中国に攻め込まれへんのは、キシノブスケのおかげやぞ。感謝せえ、孫のワシにも感謝せえ」
「ウザッ」
「ウザいとか言うな!座れ、ええからそこ座れ。ワシが性根を叩き直したるわ」
女子高生を有無を言わせず床に座らせ、その前に仁王立ちをするアベシンゾー。
「ワシは怒っとんねん。おまえ今、選挙特番観ながらワシの悪口言うとったやろ。自民党がボロ負けしてるのを観てわろとったやろ」
「してないよ。頭おかしいんじゃないの」
「誰が『空気を読めない』じゃ。信念を貫いたらあかんのか」
「言ってないし」
「やかましい、口答えすな。おまえらみたいなモンがおるから教育の再生が必要やねん」
新書本を懐から取り出す。
「見てみこれ、ワシが書いた本や。題名ぐらいは知っとるやろ」
「知らなーい」
「アホンダラ、大ベストセラーやぞ、なめんなよ。徳育を必修にしてこれを教科書にしたんねん。そしたら、おまえら必死こいて読むやろ」
「教科書とかほとんど見ないし」
「そんなゆとり教育の時代は終わりや。24時間365日『国と郷土を愛する態度』を叩き込んだるからそう思え。おまえらみたいな慰安婦のできそこないを、お国のために死ねる立派な人間に作り直したるわ」
「なにイアンフって」
「おまえ、援助交際しとるやろ。女子高生は全員援助交際をしとるに決まっとんねん。ジェンダーフリー教育のせいや」
「何それ、モーソーじゃん、完全に」
「うっさい、ボケ!カーッといこかー!」
拳を挙げ、殴りかかるジェスチャーをするアベ。
「アベちゃん、もういいじゃない」
パーマをあてた目の細い男が、やはり突然部屋に入ってくる。
「ごめんなさいね、アベちゃん純粋だから。総理大臣一本だから」
「あっコイズミ総理」
「総理大臣はワシや。アベシンゾーや」
「大人げないことしてるんじゃないわよ、アベちゃん」
「こいつワシをバカにしとんねん。選挙で負けたからって、権力の頂点にいるワシがこんなガキに舐められるわけにはいかんのや」
「そんなこと気にしてるようじゃダメ。鈍感力で乗り切らなきゃ」
「みんなワシの内閣を死に体や、死に体や言うねん。何が死に体じゃ。マツオカの腰抜けやあるまいし『死にたい』とか言わへんわ」
「アベちゃん、不謹慎なダジャレはよしなさい」
「ワシは辞めへんぞ。ワシは歴史に残る総理大臣になったんねん。まだ坂を登り始めたばかりやねん」
「なんかさ、この人のせいで選挙にすっごい負けたんでしょ」
「まあそうね。いろいろあったからね」
「ワシのせいやない。ワシのやってきたことをちゃんと評価できない国民の目が節穴なんじゃ」
「それ、誰も喜んでないってことじゃないの。そんなんだから『空気読めない』とか言われるんだよ」
「ちゃうわ、ボケ!国民がアホやから本当に大事なことが判れへんのや。もう、国民とかマスコミとかどーでもええわ。年金とか事務所費とか、金のことばっか文句つけくさって。根性が卑しいんじゃ。世の中、金よりも大事なことがいっぱいあるっちゅうねん。だいたいワシも最後は責任を認めとるやないか。ワシは総理大臣やぞ。総理大臣が認めとんのやから、いつまでもグジグジ言わんと納得しといたらそれでええんちゃうんか」
カメラ目線で喚き散らすアベ。もはや聞いていない女子高生。コイズミに尋ねる。
「負けたってどのぐらい」
「まー、自民党がこんなに負けたのは10年ぶりぐらいね」
「じゃあ歴史に残るんじゃないの」
「そんな残り方はイヤなんじゃ。いま辞めたら、それこそいつまでも笑いモンじゃ。ワシはもっと誉められたいんじゃ。憲法を改正して戦後レジームからの脱却を完成させるんじゃ。それが『美しい国』様からワシが授かった使命やのに、どいつもこいつも足を引っ張りくさりやがって」
「まだ衆議院があるじゃない。与党の議席をたくさん取って残してあげたから強行採決がいくらでもできるじゃない。止まない雨は無いじゃない。明けない夜は無いじゃない」
「そうや、強行採決で、ワシに反対する奴らは国外追放にできる法律を成立させたったらええねん。非国民なんやからそうされて当然や。この『美しい国』には要らん奴らを追い出せば、憲法改正なんかすぐやっちゅうねん」
「憲法を変えるのってそんなに難しいの」(コイズミに)
「そうね、今までいろんな人たちががんばったけど、60年間誰もできなかったわね」
「それじゃ、この人になんか絶対無理じゃん」
「無理とかぬかすなー!おまえみたいなモンは真っ先に北朝鮮に売り飛ばして飢え死にさせたんぞ、コラー!!」
激昂するアベを宥めるコイズミ。
「もう帰りましょう、アベちゃん。こどもじゃないんだから、いつまでも駄々をこねてる場合じゃないでしょう」
「ワシは帰らへんぞ、ワシはカンカンなんじゃー」
「じゃあ、どうしたいの。どうすれば、すっきり帰れるの」
コイズミに何事かこっそり耳打ちするアベ。それを聞き、諦めたような様子で女子高生に伝えるコイズミ。
「ごめんなさいね、『美しい国、サイコー』って言ってもらっていいかしら」
「えー、なんかチョーめんどくさいんだけど」
「それでアベちゃんが気持ちよく帰れるんだからいいじゃない。お互いに気分良く終われるんだからそれでいいじゃない。そこはいいじゃない」
やや威圧的な態度で迫るコイズミ。不承不承うなずく女子高生。
「うつくしーくに、さいこー」(棒読みで)
「え、なんて?よく聞こえへんかったから、もういちど言うてみて」
「うつくしーくに、さいこー」
「そーやろ、最高やろ。やっぱり総理大臣はこれからもアベシンゾーやないとあかんやろ。ワシが一番うまく『美しい国』を造れんねん。何しろワシが最初に言い出したんやから」
「そんなこと恥ずかしくて誰も言わなかっただけでしょ」(小声で)
「え、なんて?今度はほんとに聞こえへんかったわ」
「もういいでしょ、満足でしょ、帰りましょう、アベちゃん」
「あ、帰る前に写メ撮っていい?」(コイズミに)
「しょうがないわね、一枚だけにしてね」
結局何枚か携帯で写真を撮るコイズミと女子高生。羨ましげに見ているアベ。
「じゃあ行きましょう、アベちゃん。早く行って責任だけは認めとかないと、ほんとに辞めさせられることになっちゃうわよ」
「お、おう」
名残惜しげなアベ、仕方なしにコイズミに続いて部屋を出て行く。
「ごめんなさいね、おじゃましちゃってね。アベちゃんを応援してあげてね」
「愛国心を忘れんなよー」
一人残された女子高生、深々と溜め息をつく。
「あの人、本ッ当にウザい」