仮名日記

ネタと雑感

やすらぎよ ひかりよ とくかえれかし(その1)

2006年02月26日 | 文化
 2月8日、作曲家の伊福部 昭さんが亡くなられました。映画『ゴジラ』第1作(1954)の音楽を作曲した人、というのが最も判りやすい紹介の仕方でしょうが、伊福部氏はそのほかにも、オーケストラ向けの曲や怪獣映画以外の劇伴音楽を数多く手掛けられましたし、東京音楽大学の学長を務めた教育者でもありました。その作風や経歴があまりに個性的であるために、異端視され冷遇された時期もあったようですが、戦前から活動を始めた音楽家の作品が今でも人々に聴かれ続けているという事実が、その業績の巨きさを物語っています。
 この機会に、と言うと不謹慎かも知れませんが、俺が聴いたことがある伊福部作品の推薦盤をまとめて紹介してみようと思います。氏の作品に触れる一助になることを願って。
 ただし、多くの人がそうでしょうが、俺は『ゴジラ』を手掛かりにして伊福部作品を聴き始めた人間で、しかも、いわゆるクラシックを日常的にはほとんど聴くことがない。そのため、オーケストラ曲について詳細に論ずることはできません。おまけに、全作品を聴き込んだマニアでもない、と信頼性を損なうことを承知で白状してしまいます。
 こうした自分の知識と素養に見合うよう、『ゴジラ』メインタイトル曲の「ドシラ ドシラ」というフレーズは思い浮かぶけれど、というようなかつての自分と同じような人向けの紹介をするつもりです。オーケストラ曲のみの盤も挙げますが、伊福部氏ご本人がいうところの「純音楽」は、「クラシック」や「前衛音楽」の難解さとは縁遠く、映画音楽と地続きの判りやすさ・大衆性を持ち合わせています。時には、オーケストラ曲と映画音楽とのあいだで同じ曲想が用いられていることもあり、聴き進めていくのにさほど障碍を感じることはないでしょう。
 また、上記のようにこれから伊福部作品を聴いてみようという人向けの紹介であるため、、中古でしか手に入らない盤は避け、現時点で新品が入手可能なものを極力挙げることにします。『ゴジラ大全集』というサウンドトラック盤のシリーズなど、今では廃盤になっているものも多いので。

[『ゴジラ』第1作のサントラ盤から聴いてみる]

『GODZILLA 50th ANNIVERSARY EDITION』
(LA-LA LAND RECORDS・LLLCD 1022)
 さて、伊福部氏を知るきっかけといえば、繰り返すようですが、何を措いても『ゴジラ』ということになります。そこでサントラ盤から手を着けてみようと思いきや、国内向けは廃盤という寂しい状況。
東宝ミュージックから発売されているボックスセットの中に入ってはいますが、6枚組で10500円もする商品にいきなり手を出す気にはなれないでしょう。1枚で手に入れるにはこの輸入盤しかない。
 しかしこの盤は、デジタルリマスターが施され、当然英語だけれど丁寧なライナーノートが付き、国内盤には無かったボーナストラックも入った充実した内容。磁気テープによる音源が無いために、国内盤では劇中のフィルム音声を台詞と一緒に収録していた『平和への祈り』というコーラス曲が、おそらくはデジタル編集により台詞抜きになっているのも希少価値アリ。

[伊福部作曲による特撮映画音楽をまとめて聴いてみる]

『ミレニアム ゴジラ ベスト』
(東芝EMI・TYCY-10043)
 東宝特撮映画のために書かれた伊福部作品を集めたもの。タイトルがやや紛らわしいけれど、ゴジラ映画以外の楽曲も収められています。代表的な曲を集めたとあって、かなり聴き応えがある。個人的なお薦めは、『大怪獣バラン』・『キングコング対ゴジラ』各メインタイトル曲の、異言語による混声オスティナート歌謡。尺は短いけれど、マグマ(という異能のグループがフランスにいるのです)の楽曲に匹敵する高揚感を味わえる。
 また、『怪獣大戦争マーチ』など、人気の高いマーチ曲(伊福部氏の呼び方では「アレグロ」)が聴けるのも嬉しい。以前は東芝EMIから『伊福部昭 特撮映画マーチ集』という勇壮感の塊のようなのCDも出ていましたが、ご多分に漏れず廃盤。

[ゴジラ映画音楽をまとめて聴いてみる]

『THE BEST OF GODZILLA 1954-1975』
(GNP/CRESCENED・GNPD 8055)
『THE BEST OF GODZILLA 1984-1995』
(GNP/CRESCENED・GNPD 8056)
 ゴジラ映画用楽曲のベスト盤的なものは例の如く国内向け廃盤のため、またもや輸入盤になってしまう。冒頭に掲げた『1954-1975』のジャケ写真の強引な合成っぷりがとてつもなく胡散臭いが、ハリウッド版ゴジラ公開に合わせてつくられた正規盤とのこと。
 昭和ゴジラと平成ゴジラ(1984版を含む)の楽曲が網羅されており、伊福部作品以外も収録されています。『1984-1995』は、平成版の伊福部作品を聴けるところに価値があり、特に『ゴジラ vs デストロイア』オープニングの不穏な重厚さや、エンディングのスピード感は聴きもの。
 また、選曲はアメリカ人スタッフが行なったのか、国内盤では入らないような珍曲が混入しているのも楽しい。『モスラの歌』のオリジナルと平成版が聴けたり、とんでもなくダサいボーナストラックが付いていたり。殊に、(伊福部作品からは離れるけれど)特撮ヒーローもののエンディングのようなボーカル曲『ゴジラマーチ』や、沖縄の守護神キングシ-サーを目覚めさせるための祈りの歌なのに沖縄的要素ほぼ皆無のムード歌謡『ミヤラビの祈り』などが入った昭和編のカオス感が堪らん。『ゴジラ対ヘドラ』から『かえせ!太陽を』が収録されていないのが惜しい。ツメが甘いなあ、アメリカ人。
(続く)

ヒーローズ

2006年02月09日 | 社会
 そろそろ人々の関心も薄れてきた頃でしょうが、またもライブドア、というより堀江氏をネタにしてみます。正直なところ、これほど彼に関心を持てたのは初めてのことです。いままでに彼がどんな騒動を起こそうと、近鉄バッファローズ買収であれ、ニッポン放送株大量取得であれ、衆議院選挙出馬であれ、どっちに転ぼうが知ったことじゃなかったのに。
 こんな風に関心をかきたてられたのは、他人の、それも金持ちの不幸を喜ぶ下司根性も働いてはいるのでしょうが、何より、一個人がどうということもない罪に問われたことが、あれほどの影響を及ぼしたという事実によって、彼の存在の大きさに気付かされたため。今さら何を言っておるか、というところでしょうが、そこは「『不明だ』と言われれば、甘んじて受ける」つもりです。
 いやね、彼が人気者だったことは確かだけれど、投資の対象にしていた人々は別として、一般には、変わったこと・おかしなことを次々にして見せる珍獣として面白がられているだけだと考えていたんですよ。だから、ああして逮捕されたことも彼の新しい芸としていっとき楽しんで、しばらくすれば、ああ面白かった、次は何をしてくれるのかな、とみんな何事も無かったようにすっきりした顔で帰っていくんだろうと思っていた。
 ところがそうではなく、彼を自己実現や経済改革のモデルとして、本当に尊敬・信頼していた人々が少なからずいたんですね。そしてそうした人々は、彼が違法な手段を用いていた(とされている)ことに、本気で失望したらしい。変革者としての彼が罪に問われてしまったことで、彼が体現していた新しい価値観・理念が守旧派からの反動を受け、かれらにとって望ましくない方向に社会が逆戻りしてしまう。このことが、彼に期待を懸け希望を託していた人々にとって、大きな裏切りとして映っているようです。
 しかし、堀江氏は本当に人々や社会を欺いていたのでしょうか。彼が既存の権威や体制と対立する際に、改革者としてのイメージを利用していた節もなきにしもあらずでしょうが、自己を偽り聖人君子を装って人々を惑わしていたとは思えません。もちろん、「違法な手段を使いました」と触れてまわりはしませんでしたが、彼は公の場で自身の信条・信念を率直に語り、本に著してさえいます。また、株式分割による価格の釣り上げや時間外取引による株式取得のような、脱法的とさえ批判される手段を実際に用い、それを隠そうともしませんでした。
 それらの言動から判ることは、「人の心はお金で買える」という身も蓋も無い言葉に端的に表れているように、金銭こそが彼の根本的な価値基準であり最大の目的だった、少なくともそのように自らを律していたということです。金儲け自体を自己目的化させ、そのためならばモラルも情宜も慣習も一顧だにせず、手段を選ばず先鋭に突き進んでいく。そして、この金銭以外の規範を認めないシンプルでアナーキーな姿勢が、国家の定めた規範である法の軽視・無視へと向かうのは何の不思議もない、当然予測して然るべきことだったのです。
 堀江氏は、新興企業の長として既存の勢力に斬り込まなければならなかったがゆえに、またITやM&Aといった手法の新奇さゆえに、既得権益を揺るがし新規参入を促す規制緩和・構造改革の象徴と目されました。しかし、それは本来の目的=利潤追求の副産物として生じた見かけに過ぎず、旧体制への反抗が彼の本懐だったことを示すものではありません。むしろ、彼の拝金主義は尾崎紅葉の『金色夜叉』に出てくるような古典的なものであり、その意味では改革者ではなく伝統主義者だったと言えます。
 そして、彼自身がこの金儲け至上主義を露骨なまでに標榜していた以上、彼を支持することは即ち金儲け至上主義への支持だったはずです。にもかかわらず、官憲に捕らわれた今になってにわかに怖じ気づいて他人のフリとは、誠実に自己を語っていた堀江氏に対する許し難い裏切りではありませんか。この恥知らずどもが、銭道不覚悟も甚だしい。むしろここは「やったッ!! さすが堀江!」とシビれ、あこがれを強めるべきでしょう。実際の経緯としては、ギリギリのグレーゾーンを探りながら利益を上げようとするうちに、いつの間にかクロの領域へと逸脱していたということかも知れませんが、「ばれなきゃイカサマじゃない」とばかりに法に反することも辞さない姿こそ、かれらが堀江氏に望んでいたものではなかったのだろうか。
 もしも彼に失望するとすれば、彼がこんなに簡単に、しかも(いま報じられている限りでは)ありきたりで革新性に乏しい犯罪で尻尾を掴まれてしまったことについてでしょう。なぜもっとうまくやらなかったのか、あなたの力はそんなものだったのか、札束と株券が溢れる金儲けのための約束の地へと導いてくれるのではなかったのか、と。
 結局のところ堀江氏を支持していた人々は、彼に対する深い理解や彼の目指す方向への信頼に基づいてそうしたのではなく、自分に都合のよい像を投影して英雄視していたに過ぎなかったのでしょう。そのような利己的なふるまいにも無自覚なかれらは、現在のような事態に至ると、わずかではあっても確かに自ら関わっていたはずなのに、自分たちは騙されていた・裏切られたとばかりにすべての責任を彼に押し付け、彼を支持した自分自身を問い直さずに平然としていられる。つまり、一連の騒動はかれらの内面に何も残さず、何ひとつ変えることは無かったということになります。
 そうであれば、堀江氏よりもさらに巧妙な人物が新たに現れたならば、かれらはまた同じように崇拝し、讃美することになるでしょう。判りやすいシンプルな価値観と、改革者のイメージと、受けを狙えるキャラクターを備えていれば、希望・期待を指し示す英雄としてたやすく受け容れられ、人々を巻き込んでいくに違いない。もちろん堀江氏のように、何かのきっかけで弊履の如くうち捨てられるおそれと隣り合わせの立場ではありますが。
 もしかしたらその地位に、現在の試練をくぐり抜けて成長した堀江氏自身が就くかも知れません。さらなる奸佞邪知を身につけて、旧体制も権力も到底太刀打ちできないような巧緻きわまる戦略を駆使する、経済犯罪界のナポレオンとして彼が帰還することを期待しようではありませんか。
 たぶん無理だろうけど。

DEEEZ NUUUTS

2006年02月01日 | 社会
 「このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつ」(宮沢賢治『どんぐりと山猫』より)は誰でしょう。

・ 利益を追求するあまり違法な手段に手を染めた新興企業の社長
・ その社長を新たな価値観を体現する英雄として喝采を送っていた人々
・ その社長を経済改革の旗手として支持していた人々
・ その人気を当て込んで視聴率を稼ごうとバラエティー番組に出したテレビ局
・ その人気を当て込んで視聴率を稼ごうとニュース番組に出したテレビ局
・ その人気を当て込んで部数を稼ごうと社長に関する記事を載せた新聞・雑誌
・ その人気を利用しようとして選挙に引っ張り出して応援した与党
・ その人気を利用しようとして選挙に引っ張り出そうとしたけれど、意見が少し違ったので取りやめた野党
・ 選挙で応援したことの責任を問われてメディアも同じことをしたと開き直る与党の政治家
・ メディアに持ち上げられて落とされるという構図に自身を重ね合わせる首相
・ 自らも選挙に出そうとしたにもかかわらず与党の責任を問う野党の政治家
・ 自らが持ち上げたか否かを検証することもなく与党の責任を問うメディア
・ 与党よりも野党とメディアの責任を問うことが穿った見方だと思っている人々
・ 当該企業の犯した犯罪がすべて与党の政策の産物だと批判する人々
・ だから与党の政策はすべて間違いだと主張する人々
・ 今こそ終身雇用のもとで不平不満を露ほども漏らさず額に汗して地道に働く本来の姿に帰れと説く人々
・ 金儲けはすべて悪だと言いだす人々
・ 犯罪は別として社長はまぎれもなく先覚者だったと言う人々
・ 社長を信頼していたのに裏切られたと失望する人々
・ 自分たちは違うと言わんばかりに当該企業を批判しだす同業者
・ 当該企業と似たようなことをしていながら罪に問われずにいる人々
・ それを放置していながら職務を果たしているつもりの司直
・ 自分たちの方が正しかったとしたり顔をする既存の大企業
・ おたついて他の企業の株価まで下げる投資家たち
・ それに対応できずに取引終了を早める取引所
・ それみたことかあんなハゲタカを参入させなくてよかったと言い出すかつての球団オーナー
・ それをご託宣の如く有り難がってお追従に走る人々
・ かつて当該企業の敵対的買収のターゲットになったのでここぞとばかりこきおろすテレビ局とその関連会社
・ そのグループと対立するメディアは即ち当該企業のシンパだったと考える人々
・ 当該企業の騒動のおかげで一息ついた耐震強度偽装問題の責任者
・ 社長とわずかでも親交のあった有名人
・ 当該企業の株価が5倍になると予言していた占い師
・ 海外資本とかフリーメイソンとか香港マフィアとかそのあたり
・ 株投資だの企業買収だので稼いでるやつはみんな似たりよったりのイカサマ師崩れで株絡みの犯罪で誰が得しようが損しようが自分には関係ないが金持ちが逮捕されて落ちぶれていくところを見るのはいい気分だざまあみろと思っている低所得階級
・ いままで何の興味もなかったのに社長が逮捕されたとたんに批判めいたことを書きなぐるブログの管理人