仮名日記

ネタと雑感

やすいはなし(蕎麦屋・蕎麦ー屋)

2009年09月12日 | 社会
 前回の続きのようなもの。
 自民党の現状を、自民党のネットCMに倣って、例え話風にしてみます。

 とある町でのお話。
 町の大通りに面して、最近とみに味が落ちたため、客足が遠のきつつある老舗の蕎麦屋がある。
 三代前の店長の時代は人気があったが、その頃に出した、痛みを伴うほどしょっぱい蕎麦つゆのせいで、体力の弱い人々が立ち直れなくなってしまったことも、今の不人気の原因の一つだと言われている。その次の代の店長は、こどもの客が来ると、頼まれもしないのに「美しい蕎麦の食べ方」を講釈しだすので、たいそう迷惑がられたし、先代の店長の、何となく人を小ばかにしたような態度も反感を買った。
 今の店長は、常に口をへの字に曲げてべらんめえ口調で喋る男で、客を客とも思わない態度を時折みせるので評判が悪い。客があれこれ注文を付けると、
「蕎麦ってのはこういうもんなんだよ。黙って食えよ。」
とすごんだりする。怒りだした客には、
「うちはねえ、代々この味を守ってきているんだよ。気に入らねえんだったら、出てってくれ。」
などと言いながら、塩の固まりをぶつけてくるので始末に負えない。
 蕎麦屋の、通りを挟んだ向かいにはラーメン屋があり、最近この店が、行列ができるほどの人気になってきたことが、への字口の店長はどうにも気に入らないのだった。
「あそこのラーメンなんてたいして美味くもねえのに、あんなに流行るっておかしくねえか。雑誌なんかがあることないこと書くから、みんなそれに踊らされてんだな。食い物の味の判んねえ奴らが多すぎるんだよ。」
客に向かってそんなことを口走ったりして、ますます蕎麦屋の人気を落としているのだが、本人はそのことに気が付かないようだ。
 町内には他に、以前はそこそこの人気があったけれども、今は見る影もなく寂れたオムライス屋とか、唐辛子を大量にぶち込んで何でもかんでも真っ赤にしてしまう激辛料理専門店がある。この激辛料理の店はマニアックなファンに何とか支えられているが、蟹を使ったメニューを出したところ、すこしだけ話題になったりした。また、最近 突如として全国展開したうどんのチェーン店が開店の準備をしていたが、採算を考えない無理な経営が祟ったらしく、店を開く前に撤退してしまった。
 さらに、表はおでん屋だが裏に回ると寺になっていて、ときどき壁越しにお題目が聞こえてくる珍妙な店もある。このおでん屋と蕎麦屋とは、ここしばらくは客を分け合うほど仲が良いが、そのためにおでん屋の持ち味が薄れたと惜しむ人もいるという。
 蕎麦屋は人気を取り戻すためにいろいろと策を講じるが、何をやっても評価してもらえずに客はどんどん減っていき、もはや店を移転して出直さなければならないか、という状況に至って、への字口店長がついにブチギレる。
 彼は、向かいのラーメン店に開店前から並んでいる人々のところへ怒りを露わにして乗り込んでいき、青筋立ててまくし立てる。
「お前ら日本人だろうが!日本人なら蕎麦を食えよ!
 ラーメンなんか食いやがって、お前ら中国人か!
 中国に帰れ、中国に!とんでもない奴らだ!!」
 あまりの剣幕にしばし唖然とするラーメン店の客たち。しかし、相手が蕎麦屋のへの字口と気付き、いっせいに罵りだす。
「うるせえ、もう蕎麦なんて飽きたんだよ!」
「漢字もろくに読めないくせに偉そうにするな、できそこない!」
「帰って漫画でも読んでろ、この役立たず!」
「二度と面を見せるな!!」
 人々に取り囲まれ、袋叩きにされるへの字口。蕎麦屋の店員達は、入口の戸の隙間からその様子を横目で見ながら、次の店長を誰にすればいいのか相談している。誰が店長になってもうまくいかなそうで、なかなか決まらない。「自分がなる」と鼻息荒く手を挙げようとしたら、古株の店員に羽交い締めで制止される慌て者もいる……。
 今後、この蕎麦屋がどうなるのか、俺にはよく判りません。通ぶった一部のマニアだけが喜ぶ「伝統」を守った蕎麦を出すのは止めて欲しいけどね。もっと本音を言えば、食中毒で死人を出す前にさっさと潰れちまえ、と思っていますが。

やすいはなし(君が、壊れた)

2009年09月09日 | 社会
自民党のネットCM二つ。

【プロポーズ篇】



【ラーメン篇】



 衆議院選挙から一週間以上も過ぎた時点で何ですが、自民党による上の二つのCMは、言いたいことを判りやすく伝えているという点で、良くできたものだったと思います。ただ、選挙の結果を見るかぎりでは、あまり効果がなかったのでしょう。ネガティブキャンペーンとは、選択肢が限られている場合に、「あっちよりこっちの方がまだマシだ」と思わせるためのものですが、これらのCMによって、かえって自民党の問題点を意識させることになったのではないだろうか。「根拠がある」は「決まり切ったことしかしない」、「揺るぎない」は「聞く耳を持たない」と言い換えることができる。「責任力」なんてのも、さんざん無責任な姿を晒した後では、まさに噴飯物のフレーズだった。
 それらの広告は笑って済ませられましたが、選挙当日の8月30日、自民党が出した新聞の一面広告にはどうしようもなくむかついた。大きな、しかも致命的な問題を孕んでいると感じたからです。
 引用すると、
「あなたのために。この国のために。
 景気を後退させ、日本経済を壊してはいけない。
 バラマキ政策で、子供たちにツケを残してはいけない。
 偏った教育の日教組に、子供たちの将来を任せてはいけない。
 特定の労働組合の思想に従う、"偏った政策"を許してはいけない。
 信念なき安保政策で、国民の生命を危機にさらしてはいけない。
 
日本を壊すな。
 (以下略)」
 それぞれの「~してはいけない」は、民主党の政策に対する警告として挙げられているのだろう。民主党に政権交代したら本当にそうなるのか、という疑問は措くとして、最初の二つは「おまえが言うな」というレベルのこと。そして後の三つは、政治的な意見・価値観の相違に過ぎない。それで良い結果になるだろうと考え、選択する自由が国民にはあるはずなのに、そんなことをしたら「日本」が壊れるとまでかれらは言う。
 ここに示されているのは、自民党にとってかくあるべきものとされた「日本」像であり、この「日本」に当てはまらない者たちを敵視する偏狭な姿勢である。これは、自分達の考え方に賛同しない者は「日本」人とは認めない、「日本」には不要だ、という、思想・良心の自由の否定へとつながっていくだろう。戦前のような思想統制を思い起こさせ、仮にも政権党がこのような物言いをしたことに、危機感を覚えざるを得ない。
 さらに、そもそも「壊すな」という命令形の言葉は誰に向けられたものか。選挙当日に新聞に載せられているということは、当然、国民にだろう。国民がまさに主権者として権利を行使しようとしているその日に、恫喝まがいの強い調子で、しかも「あなたのために」という押し付けがましさまで付け加えながら、国民に対して居丈高に命令をする無神経さ。支持率の低下について自省することもなく、ただ国民の無理解のせいと決めつけ、あたかも、火遊びをするこどもを叱りつけるかのように、国民の間違った選挙権の使い方を正してやろうという傲慢な態度である。主権者への敬意をあまりにも欠いているし、その国民に選ばれて政権党になったということを忘れ、自らの地位の根拠を否定する考え方だ。つまりは、国民主権という大原則を、かれらは根本から理解していないということである。
 宣伝文句だから、インパクト重視で多少刺激的な言い方になるのは仕方がない、と大目に見るべきだろうか。あるいは、単なる広告の一節を自民党の総意とするのは強引な決めつけだろうか。だが、活字にまでなっているものを失言の類と同等に扱う必要はない。しかも、これは選挙の当日に、国民に対して示された言葉である。どれほど重く深刻に受け止めても足りないことはないし、これをあえて看過すること自体が、選挙の意義、参政権の意義、すなわち民主主義の意義を軽視するものである。
 人間は苦境にあるとき、その地金が出る。普段は自分の欠点を取り繕う余裕もあるけれど、その余裕が無くなったとたんに品性の下劣さ・器量の小ささ・自制心の欠落ぶりを露呈し、出してはいけない本音を漏らしてしまう。選挙後のぶら下がり取材で、記者達に見苦しい八つ当たりをして見せた麻生首相のように。
 政権交代により野党に転落するか、という当日に出された一面広告。まさに追いつめられたその時に表明された言葉によって、自民党は、思想・良心の自由を尊重せず、国民主権を軽視する政党であるということが判った。要するに、民主主義の否定に向かうのが自民党の本性だったのであり、このことを、次の選挙まで覚えておかなくてはならないと思う。