20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『呼んでみただけ』(安東みきえ・新潮社)

2010年10月16日 | Weblog
  
 児童文学作家の安東みきえさんの大人向けのご本です。
 ご存知、安東さんは『頭のうちどころが悪かった熊の話』(理論社)がベストセラーになり、たくさんのみなさんに読まれている作家です。

 この本にも、「頭のうちどころ・・・」で描かれた寓話性に富んだお話が、ママが子どもに寝ながら語ってあげるお話として、たくさん出て来ます。
 とにかく安東みきえさんという作家の文章のお上手さには、唸ってしまいます。一文一文を、練り上げるように書いているのですから。
「頭のうちどころ・・・」には、その練り上げ加減に、もうひとつスパイスが加えてありました。
 哲学的な思索と、シニカルな感性という、ふたつのスパイスが。

 この『呼んでみただけ』は、そんな安東ワールドを展開しながらも、作者が目の前にいて、語りかけてくれているような、やわらかさがあります。
 作者自身が実に鮮やかに、そこから浮かび上がってくるのです。
 ひとりぼっちになることへの怖さや、ぬくもりを求めるさびしさ。

 そういった、作り上げた寓話性のおもしろさではなく、作者の人間性を思いきりあらわに表現したおもしろさ。
 この作品には安東みきえの人間性が色濃く投影されているのです。
 そのことが読んでいて心地いい気持ちにしてくれます。

 母親と小さな息子の会話も、胸にしみます。
 秋の夜、親子でぜひ読みがたりをして欲しい一冊です。
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