(すずしさやかねをはなるるかねのこえ)
「鐘をはなるる鐘の声」とは、よく気付いたものだ。音は発生源の鐘を離れ、空気を媒体として移動し、人の耳に届く。秒速340メートルの音の世界。
音が鐘を離れるのは、一瞬である。蕪村に聞こえているのは鐘を離れた音だ。つまり、「鐘をはなれし」と過去形にするべきなのだが、現在形にしたということは、鐘を直に見ている、つまり鐘を撞いていたか、又は至近にいたのであろう。
音とは言わず、鐘の声と言っているのは、平家物語の「祇園精舎の鐘の声」を踏まえているのだろうか。とするとこの句のテーマは「諸行無常」かもしれない。
さて、もう一つ問題になるのは、「涼しさや」である。たまたま夏の涼しい時間帯だったのであろうが、春夏秋冬どのような季語でも合ってしまうから蕪村は困ったはずだ。そんな蕪村の困った顔が浮かんで、更にこの句が味わい深く感じてしまう。
キョウチクトウ(夾竹桃)