プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

大事な話をすべきときがきた

2020-08-28 08:33:53 | 湯浅湾ツアー

 今年の夏はコロナの影響で、須磨や泉南、あるいは日本海の海水浴場が軒並み閉鎖されたせいか、和歌山県下の海水浴場に人が集中する傾向が見られます。当店アイランドストリーム目の前の湯浅湾・栖原海岸も、例年以上に多くの海水浴者が来られました。もちろんそれ自体は悪いこととは思いませんが、残念ながら、ゴミを捨てていく人、威圧的な刺青で闊歩する人、あるいは上半身裸でうちの店内を歩き回る人、勝手に店内のトイレを使う人、大声でケンカする人など、マナーのよろしくない方々も見受けられました。そのほとんどは他府県ナンバーの方々です。個人的には、他府県だろうとマナーを守って慎ましく楽しんでいただけるならば別にいいのですが、そうじゃないならば、このご時世も相まって断固お断りせざるを得ないと考えています。

 また今年の傾向として、海水浴の延長でネットショップなどで買ったカヤックやSUPなどを持ち込み、それで遊ぶ人が見受けられました。それももちろん、マナーを守ってきちんと安全にやってくださるならば何ら問題はないのですが、ライフジャケットを着用せずにフラフラ危なっかしい漕ぎで何キロも沖の毛無島やかるも島に渡ったり、シラス漁船や渡船の航路を並走したり、航路で釣りしたりと、ちょっとこれはアカンだろ、というケースが目立っています。基本的に、沖に出るには最低限のスキルと知識が必要ですが、どう見てもそれを習得しておられない人、習得する気もないような人が多く見られました。おまけに、その中にはゴミを捨てて行く人もいたようです。まだ海水浴者が捨ててくのはひどいと思いつつそういう人種だと理解できますが、カヤックやSUPを愛好しながらもゴミを捨てていくというのは、最もこの遊び/文化の本質に反することで、心底情けなくなりました。

 というわけで、本当に良くない傾向だと思うので、一つ普段あまり触れない話をしたいと思います。カヤックやSUPは本来自由な遊びであり、他者にヤイヤイ言ったり言われたりするものではないのですが、状況が変わったようです。大事な話をすべきタイミングがきたと思います。

 和歌山は漁師がうるさいので、なかなか他でカヤックやSUPをやりにくいけれど、湯浅ならばツアーを催行している業者があるし大丈夫なんだろうということで、年々、そしてコロナ後特に、超初心者のソロやグループが増えています。ここはあらかじめ許可され、お膳立てされた、当たり前のように自由に楽しめるフィールドだというふうに。
 だけどここは最初から許可された場所ではありません。
 むしろ真逆でした。
 ぼくが20年近く前にアイランドストリームとして始めた頃には、超閉鎖的で、カヤックを漕いでいると漁師に船から拡声器で「邪魔だ」「出ていけ」「そんなおもちゃのボートで海に出るな」とどやされたり、かるも島でお客さんと一緒に昼食を食べていると漁師が島にやってきて「お前ら、誰に断ってこの島上陸しとるんじゃ」と罵倒されたり、夜に電話がかかってきて怒鳴られたりと、散々でした。
 どうやら聞いたところによると、ぼくが来る数年前に、カヤックと漁船が衝突する事故があったらしく、カヤックが航路を並走していたのにぶつけた漁船が悪いということになって、漁師側が結構な賠償金を払う羽目になったようでした。車と歩行者の関係と同じように、状況関係なく、エンジン付きの大きい方が前方不注意で悪くなるのです。だから、漁師はカヤックを二度と湯浅湾に入ってこさせたくなかったようです。

 一方ぼくは当時シーカヤックで日本一周単独航海をして帰ってきたところで、各地を色々見てきた中で「関西エリアでシーカヤック文化を広めるにはここだ」と思い、アイランドストリームを立ち上げ、シーカヤックツアーを催行し始めたところでした。ぼくも気合いが入っています。出ていけと言われて「はいそうですか」と退くわけにはいかず、まずは罵倒を堪え忍びながら、別に危ないフネではないことを口ではなく結果で知ってもらおうと、絶対事故は起こすまいとツアーを続けました。その間、地元との話し合いとして、現在の当店の地主である湯浅さんにもご協力いただいたりしました。
 
 そうして数年間無事故で続けたのちに、安全性に留意するならばツアーを続けても良いという、漁協と協定を結ぶに到りました。さらにその後15年ほど無事故を続けることによって、誰にも何も言われなくなりました。
 そうこうしているうちにツアーだけではなく、カヤックフィッシング系の自艇者が増え、さらにここ数年、ネットショップなどで購入したカヤックやSUPの人が増えてきました。
 ・・・・と、そういう経緯があったのです。

 もっとも、これを自分の手柄のように言うつもりはなく、だからこそ経緯などあまり言わなかったのですが、ぼくはずっと無事故のために命を張ってやって来たなという、強い思いがあります。そして湯浅湾のシーカヤックやSUPは、プロショップが主導してきた一つのモデルケースとして、さらに良いものとして育て上げ、いずれ次世代にバトンタッチしていかなきゃというミッションを感じています。

 時代は変わっていきます。社会も変わり、世相も変わり、そして人も入れ替わっていきます。いずれぼくもこのフィールドからいなくなる日が将来、確実に訪れます。ですが、この湯浅湾の海でシーカヤックやSUPを楽しむ人はなくならないでしょうし、むしろ増えていくだろうと確実に言えます。やがて色んな顛末を知る人もいなくなり、もしかしたら別の国籍の人が増えたり、海岸線の店の並びや漁村の風景が激変したりする日が来るかもしれません。だけど変えてはならないものが二つだけあります。一つは開発されない美しい自然そのもの。そしてもう一つは、シーカヤックやSUPが本質的に持つよきスタイル、よきマナー、よき自然観というものです。忘却の彼方に忘れ去られていっても、それだけは変わらず伝承されていってくれればいいと思っています。逆に悪しきマナー、ダサいスタイル、歪んだ自然観などが伝承されていったならば、それはそれは悪夢となってしまいます。

 良きスタイルの伝承か、悪夢の拡張か、どちらになるかは今ここに生きるぼくらの手に掛かっています。だからこそ、これまであまり語る気にならなかったこんなことをここに書き記すのです。好むと好まざるとに関わらず、自然の中での遊びは、自分の楽しみのためだけにやっていると思っていても、実のところそうじゃないのです。ベテランなのか、超初心者なのか、何度も来ている人か、初めて来た人か、他人からはそんな見分けが付くはずもなく、海に出ている一人一人がカヤッカーの代表、SUPの代表となるのです。このままでは、何かのタイミングで「カヤック、SUP禁止」と漁師や地元から言われてしまうかもしれません。

 シーカヤッカーの方、SUP愛好家の方、一つご協力お願いいたします。
 特に自艇、マイボードで湯浅の海に出られる方は、ローカルルールや注意事項などをお伝えしますので、一度アイランドストリームにご来店いただくか、あるいはメールなどでお尋ねください。
 また、スキルに自信のない方は、スクールをご受講下さい。
 当店では、良心的なお気持ちで楽しんでいただける方を、心より歓迎いたします。
 逆に、マナーや注意事項を守って下さらない方、全然スキルも知識もないのにわけもわからず自分で海に出ようとする方を、当店アイランドストリームでは断固お断りいたします。ご了承下さい。

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