プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

シットオントップカヤックについて

2017-06-08 11:40:11 | スクール

 今日に始まったことではなくシットオントップカヤックでのカヤックフィッシングも人気が高いですが、特有の危険性もあるので今回はそのことに触れておきたいと思います。

 シットオントップ。
 死亡や行方不明など、マスメディアに取り沙汰されるような事故はまださほどないですが、メディアでは目にしない小さな(大事故と紙一重の)事故や漂流、かなり耳にします。また、私自身、何度もカヤックフィッシャーをレスキューしています。
 細かい事故はシットオンの方が遙かに、相当多いように見受けられます。

 本格的なシーカヤックと違い、シットオンは一見誰でも気軽に乗れるように見えるせいか、あるいは売らんがためにネットショップなどでそのようにイージーに宣伝されているせいか、別に海の知識やカヤックスキルがなくても楽しめると思われがちです。ですが、求められる海の知識やカヤックスキルは本格シーカヤックと同じか、あるいは時としてさらにワンランク上のものが要求されます。

 ちなみにシットオンに対して本格シーカヤックを「シットイン」という言い方もあるようですが、私はどうもその言い方に違和感を覚えるので使いません。シーカヤックはシーカヤックで、シットオントップカヤックはシットオントップカヤックです。

 で、特にシットオンの誤った認識をされている方が結構いらっしゃいますのでここで指摘しておきたいと思います。

 まず、よく「シットオンはコックピットに入り込まないので、転覆したときも再乗艇しやすい」という言い方を耳にしますが、それは誤りです。特に釣りをする場合、デッキの上にクーラーボックス、雑多なタックル、ランディングネット、魚探その他諸々の物を積載している上、ロッドホルダーに竿を何本も差し込んでいます。そこに乗り込むのは結構至難のワザです(全てのタックルや竿を捨てるのならば別ですが)。結局、パドルフロートが必要になってくるのですが、パドルフロートリエントリーにしても普通のシーカヤックより再乗艇しにくくなります。ですがそもそもシットオンでパドルフロートを持って乗っている人をほとんど見たことがありません。

 また、「あまりテクニックがいらない」と言う方もいます。安定しているからブレースもさほどいらないし、それほど遠出しないから長距離を漕ぐようなフォワードストロークもいらないということでしょうが、これもまた誤りです。カヤックは動いていることよって、パドリングしていることによって安定するのですが、釣りの場合、パドリングの手を止め、その場に止まっていることが多いです。そこである程度の波を食らったら簡単に転覆します。またそれほど遠出していなくても、風や波が出てきたときには素早く戻らなければなりません。ですがシットオンはシーカヤックと違ってボトムがフラットなため波を食い、スピードが格段に落ちます。シーカヤックならばスイスイ進むところが、シットオンならば後退していくこともあります。(ちなみに上の写真の左はフォールディングカヤックですが、まだフォールディングの方が遙かに船足は速い)。シットオンは、足がかなり遅い、波を切れない鈍重な乗り物だということを自覚しておいてください。高い風波の中、それを転がして帰ってくるとなると、相当のパドリングの力が必要になります。

 なお、ツーリング時と比べて釣りをしているとき、どうしても状況判断が遅れがちになります。ツーリングの場合、周囲を見渡しながら視界を広く長くして漕ぐので風や波の変化に気付きやすいですが、釣りをしているとどうしても竿先や近くの水面に集中するので、変化に気付くのが遅れます。そして判断が後手後手になりがちです。もちろんぼく自身もよくシットオンで釣りに行くのですが、いつもそれを感じます。

 あと、危ないのはやはり釣りする時「止まっている」ということですね。止まっていて向こうから船などがやってきた場合、そして釣りに夢中になっていて判断が遅れる場合、ぶつかる危険性が高まります。湯浅湾なんかでも航路上で釣りしている人をよく見かけますが、とんでもない、御法度です。ツーリングの場合、航路をどうしても横切る場合は周囲をよく観察した上で速やかに渡ることによって危険度をゼロに近づけることはできますが、そこに止まって釣りするのは最も危ない(航路は、並走する形もよくない。どうしても渡らなければならない場合、横切る形がベター。つまり他船と線で接するか点で接するかで、接触の可能性が大きく変わる)。アンカリングも極力しないほうがいい。
 カヤックは基本、動いているから安全なのです。

 それから、出艇がしにくいということも知っておく必要があります。波打ち際で、凪かせいぜいさざ波程度ならばそんなことは感じないでしょうが、ザバーンと来る波、そしてサーフになったりすると、かなり困難するか、出艇不能に陥ることもあります。通常のシーカヤックより高いサーフ出艇の技術が求められます。
 
 シーカヤックは何千年の歴史に裏付けられた完成度の高い形状の乗り物であり、耐候性にも優れていますが、シットオンはあくまでも海遊びの延長から生まれたもので、いわゆる耐候性はありません。例えばシットオンで旅することはできません。というと、ここで「別に旅するわけじゃなくて、のんびり漕いだり釣りしたりするだけだから耐候性なんていらないでしょ」という反論がでてくるだろうけれど、海は急変することがよくある世界です。旅の途上だろうと、のんびりお遊びだろうと、その時その瞬間の「海」に身を置くという意味では同じなのです。その荒れてきた海から逃げるためには耐候性高く、船足も速い艇の方が安全なのは言うまでもないことでしょう。

 ほか色々細かい点はありますが、このようなことを書きますと「あんたはシットイン派だからそう言うのだろう」と言われがちなのですが、いや、私も結構シットオンで釣りに行きます。シットオンそのものを嫌っているわけではありません。こういう艇もあるからこそカヤックの多様性も広がり、面白いなと思っています。しかしいつも思うのは「ツーリングより危ないな」「旅するより危ないかもな」ということです。

  まあ、梅雨明けすぐの超べた凪の真夏の海で、湾のさらに奥の入江の沿岸でのんびりするだけだったら、別にいいかなとは思いますが。

 よく「最初はシットオンで入江の中でのんびりしたり釣りしたりして、慣れてきてからシーカヤックしたいです」という方がいらっしゃいます。それでも全然いいと思うのですが、のんびりといってもちょっと数キロ沖へ島渡りしたくなったり、チョイ釣りではなかなか釣れないのでマジ釣りしたくなってくるものです。その時、中途半端なスキルと知識しかなければ痛い目に遭う可能性が高まります。

 まずはきちんとシーカヤックの最低限の基本を身につけ、そこからシットオンに入っていった方がいいと言えるでしょう。ある程度上手くなってからシットオンに乗ると、その利便性が分かりますが、そうでないと時として相当危ない代物になるということは認識しておいた方がいいでしょう。シットオンの人もできるだけパドリングスキル講習、ナヴィゲーション講習をうけてください。

パドリングスキル講習はこちら。
http://islandstream.la.coocan.jp/skillup.htm

ナヴィゲーション講習はこちら。
http://islandstream.la.coocan.jp/navischool.html


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きちんとスクールを受けましょう

2017-06-08 10:28:37 | スクール

 最近、あちこちでシーカヤックの事故が続出しています。
 昨年末の三河湾での死亡事故に続いて、先日も北海道で行方不明の事故があったようです。また死亡や行方不明事故以外のニュースにならない、漂流して助けられたとか、漁船と接触したなどの事故はかなりたくさん起こっています。ここ湯浅湾でも先日、自分でどこかから出艇したカヤックフィッシャーがシラス漁船とぶつかったという事故がありました。幸い紙一重でけがなどはなかったようですが、大事故になっていた可能性もあります。

 私も最近、このブログで安全面についてなどやや辛辣なタッチで書いたりしていますが、やはりガイドツアーではなく、自分で海に出ようとするならば、最低限のスキルと知識は身につけてからにするべきです。 
 海は楽しく、気持ちよく、多くのことを教えてくれる場所ですが、時としてとんでもなく危ない場所でもあるのです。

 確かにシーカヤックは思いのほか安定し優れた乗り物で、登山の世界に比べて事故は格段に少ないです。例えば今年のGWの全国の登山者の遭難発生件数は167件で、遭難者は190人、うち死者が27人、行方不明者2人、負傷者84人となっています。それに比べるとシーカヤックの事故は少ないですが、そもそもの人口に違いがあります。

 シーカヤックは海さえ凪ならば、初めての人でもスイスイ進み、体力の許す限り遠くまで漕いでいくことができます。しかしそこで海が急変し、風が吹き波が上がってくればどうなるか・・・。とたんに難易度が上がり、戻ってくることができなくなるわけです。行きはよいよい、帰りはなんとやら、の世界です。
 つまり自分の実力以上のところまで漕ぎ進んでいけるがゆえに、危険度も上がるというわけです。

 基本的に、自分の実力の範囲内で楽しむべきものです。
 自分の実力を徐々に、一歩一歩高めていき、行ける範囲を広げてゆく。
 そこに本当の面白みがあります。
 謙虚に上達する者に対して、海がたくさんのことを教えてくれるのです。
 それには自分の限界を知り、海の知識を身につけ、常にスキルアップを図っていく必要があります。
 
 本当は自分自身で試行錯誤しながらレベルアップしていくのが一番いいのですが、しかし、この忙しい世の中、なかなかそんな時間が取れないとおっしゃる方が大半でしょう。そういう方のために我々のようなプロが存在しています。
 餅は餅屋。
 悪いことはいいません。きちんとスクールを受けてください。
 でなければ、きちんと自分自身で勉強しましょう。
 それができないならばツアーに参加するか、もしくは海に出ること自体やめておくべきです。

 また、ローカル特有の気象現象や、ルールなどもあります。
 もし湯浅湾で漕がれる場合は、ぜひアイランドストリームにお立ち寄りください。色々お教えします。それに関しては別に料金もお取りしませんので、お気軽にどうぞ。
 http://www.island-stream.com
 


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