Islander Works

書いて、読んで、人生は続く。大島健夫のブログ

9月2日「覚えたての呪文 不可思議/wonderboyトリビュートアルバム発売ライブ」

2012-07-22 23:02:20 | 日常のこと
不可思議/wonderboyを私に紹介してくれたのは猫道さんだ。2009年の7月7日、彼の自主企画「猫道節」に出演した時のことだった。

wonderboyは、そこで私が読んだ「蛇」を気に入ってくれ、当時彼が企画していたスポークンワーズ・コンピレーションアルバム「言葉がなければ可能性はない」への参加オファーをくれた。当時交わしていたmixiメッセを読み返してみると、その時既に他のアルバム参加者は全て決まり、レコーディングもほぼ完了している状態であった旨が記されている。私は最後の一人であり、彼と人生が交差するには実にきわどいタイミングであったことになる。

話はとんとん拍子に進んだ。初対面からわずか13日後の7月20日、私はレコーディングのため、彼の実家がある埼玉県の「入曽」という街にいた。

駅で出迎えてくれたwonderboyは、近くの弁当屋さんで私に300円くらいの「鶏弁当」を買ってくれた。代金を払おうとすると、「いや、これ皆さんにごちそうしてますんで」と断られ、半ば強引にオゴられてしまった。ずっと後になってわかったのだが、彼のその言葉はウソであった。確かに、レコーディングに出向いた参加者は皆、何か食べ物をもらったことは確かだったが、それは人によってサンドイッチだったり、冷蔵庫に残っていた唐揚げだったりした。今となっては誰にもわからない理由により、彼はそれぞれのレコーディング参加者に与える食べ物に微妙なバリエーションをつけていたのである。

入曽の駅から彼のご実家までは歩いて15分くらいであったように記憶している。その道々、wonderboyは「こんどのSSWS、どうしても優勝したいんっすよね~」と連呼していた。その時点で私は彼のパフォーマンスを一度も見たことがなかった。隣を歩いているのは自分よりもちょうど一回り年下の、背の低い、猫背気味の、細い目をしたちょっぴりナマイキそうな、気のいい町のお兄さんだった。

人前でマイクを握り、言葉を発する不可思議/wonderboyを初めて見たのは、その年の11月22日に行われた、「言葉がなければ可能性はない」のリリースパーティーだった。

それは、素晴らしいステージだった。その声と動きとリリックの全てから放たれる熱量、いい意味でのポップさ、オーディエンスのベクトルをグリップする力。何よりも、「放たれなければならない言葉が放たれている」ことをその場で確信させる力。あの夜、会場に集まっていたのはおそらくほとんど全員が「初めから好意的」なお客であっただろうけれど、そんなことは関係なかった。いいものを見たなあ、と心から思った。こいつ、きっとこれから売れるだろうなあ、と思った。

その後の彼の活躍については、私なんかよりも、ここを読んでいる皆さんの方がずっと詳しいだろうし、何回もライヴに足を運んだ人もいるだろう。

2011年6月。24日が25日に変ろうとする頃、猫道さんから一本のメールが届いた。私に不可思議/wonderboyの死を知らせてくれたのは、彼を紹介してくれたの同じ猫道さんだった。

信じられないとか、そういうことではなく、単純に意味がわからなかった。わからないあまり、wonderboy本人に電話してしまった。もちろん誰も出なかった。

27日、葬儀に列席するために、人生で二度目の入曽駅に降り立った。葬儀社の入り口に、彼の本名を記した巨大な看板がそそり立っていた。ロビーに置かれたモニターからは、「Pellicule」のPVが延々と流れていた。

あれからさらに1年が過ぎた。

一度だけ、wonderboyの夢を見た。私は、他数名のキャストと一緒に、山の中の小学校の体育館のようなところでライヴをすることになっていた。でも何人か会場に来ないキャストがいて、その代りに現れたのがワンダーだった。おかしなことだけれど、お互いに彼がもう死んでいることはわかっていた。私が冗談めかして「今日、代りに出ない?」と言うと、「いや、それはまずいっしょ」という感じなり、なんだか恥ずかしそうに笑っていた。「だよね~」と言って、握手した。その瞬間に目が覚めた。掌には感触が残ったままだった。

その間に、三角みづ紀さんの企画と尽力により、詩人たちからwonderboyへのトリビュートアルバムの制作が進んでいた。「言葉がなければ可能性はない」の参加者に、鈴木陽一レモンEnya Sangともちゃん9さいとspan、ジュテーム北村、ぬくみりゑという、ワンダーと縁の深いメンバーを加え、それぞれがそれぞれのやり方でワンダーの詩をパフォーマンスしたそれはついに完成し、この9月に発売となる。

9月2日、その発売ライヴが行われる。「言葉がなければ可能性はない」と彼は言った。なんと素晴らしい言葉だろう。

彼と関わってきた私たちは、それぞれの時間を生きて、過ごして、積み重ねてきた。

私はそれを、彼に見せたい。


☆☆☆


9月2日(日)・池袋 3-tri-
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-41-2 マキビルB1F

「覚えたての呪文 不可思議/wonderboyトリビュートアルバム発売ライブ」

▽出演
Enya-Sangと鈴木陽一レモン/イシダユーリ/大島健夫/ジュテーム北村/ともちゃん9さいとspan/ぬくみりゑ/猫道/三角みづ紀

19時開場/19時30分開演・入場料予約1500円+1ドリンク/当日2000円+1ドリンク


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