一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

タイトル戦の持将棋

2019-09-21 00:11:16 | 将棋雑考
当ブログでは今月4日に、タイトル戦の第1局で千日手になったケースを紹介したが、今回は持将棋を調べてみた。
持将棋は局数が少なかったので、全局を記してみる。対局者の左側が持将棋局の先手。○●は指し直し局の勝敗。カッコ内は、シリーズの結果である。

1947年 第6期名人戦第3局 ●木村義雄名人VS○塚田正夫八段 手数不明(奪取)
1958年 第17期名人戦第4局 ●升田幸三名人VS○大山康晴王将 173手(防衛)
1967年 第6期十段戦第3局 ○大山康晴十段VS●二上達也八段 231手(防衛)
1975年 第34期名人戦第7局 ●大内延介八段VS○中原誠名人 196手(防衛)
1980年 第38期名人戦第3局 ●米長邦雄王位VS○中原誠名人 176手(防衛)
1982年 第40期名人戦第1局 ●加藤一二三九段VS○中原誠名人 223手(奪取)
1988年 第13期棋王戦第3局 ○高橋道雄棋王VS●谷川浩司王位 145手(奪取)
1989年 第2期竜王戦第2局 ●羽生善治六段VS○島朗竜王 193手(奪取)
1991年 第4期竜王戦第1局 ○谷川浩司竜王VS●森下卓六段 152手(防衛)
1992年 第61期棋聖戦第2局 ●郷田真隆王位VS○谷川浩司棋聖 170手(防衛)
2014年 第55期王位戦第3局 ○羽生善治王位VS●木村一基八段 178手(防衛)

1947年の第6期名人戦は塚田八段の2連敗で第3局を迎えたが、持将棋。これで流れが変わったか、以後は千日手2局を挟み塚田八段が4連勝。常勝木村名人から初の名人奪取となった。
1958年の第17期名人戦は、大山王将がいきなり3連敗し、第4局では辛くも持将棋に持ち込んだ。そしてそこから2勝。升田名人は「実に驚嘆すべき強靭ぶり」とその実力を認めたが、升田名人は心身ともに絶頂期にあった。升田名人は続く第7局を「生涯最高の一局」とする会心の将棋で勝ち、見事名人位を防衛した。
1967年の第6期十段戦の終了図は、入玉につきものの「と金」が1枚しかない。というか、敵陣への侵入もあまりない。しかも双方とも入玉していない。盤面全体にふんわりと円ができていて、絵画のようだ(終了1図)。

1975年の第34期名人戦は、あの「大内八段痛恨の▲7一角」の将棋である。この将棋、1日目を終えて大内八段が大優勢。本人も外野も、新名人を大いに意識した。
だが2日目、大内八段の107手目▲7一角(痛恨図)が、手順前後の大悪手。この手は▲4五歩△同銀の交換を入れてから指すべきで、それなら大内八段が勝勢だった。

大内八段は指したあとすぐ間違いに気づき、立会人の塚田正夫九段に「▲4五歩だった! ▲4五歩でしたよね!?」と叫んだが、塚田九段が返答できるはずもない。気まずい空気が流れたという。
この時大内八段が着ていた襦袢は、洗っても汗の色が取れなかったという。
実戦はその後持将棋成立。指し直し局に大内八段は敗れ、長蛇を逸した。この時大内八段が勝っていれば、大内九段のその後の人生はまるっきり違っていた。
ただし中原十六世名人によると、たとえ▲4五歩△同銀▲7一角でも、後手は戦える、と考えていたという。名人の読みとはそういうものである。
1980年、第38期名人戦の終了図もなかなか凄まじい(終了2図)。

タイトル戦の場合、千日手は次局とセットで一局だが、持将棋は一局単体でカウントされる。両対局者は遅くまで死闘を演じお疲れ様、これで立派な一局です、というわけだ。この図を見れば、それも頷けるというものだ。
1982年の第40期名人戦は、中原-加藤の「十番勝負」である。現在豊島将之名人と木村九段が十番勝負を展開中だが、中原-加藤戦は名人戦だけで10局になった。フルセットになった上、持将棋が1局、千日手が2局出現したからである。
持将棋は第1局で生じたが、当時名人戦は持将棋を0.5勝と計算していた。その後加藤九段は3勝2敗としたが、もし次の将棋で持将棋になれば、3勝で名人奪取という珍記録が生まれるところだった。
結局加藤九段は最終局を、見事な将棋で勝った。よって加藤九段は4.5勝したことになり、やはり珍記録となった。

以上、持将棋は11局と、さすがに数が少なかった。よって中には、持将棋が現れていないタイトル戦もある。2014年、王位戦で初の持将棋が成立したが、タイトル戦では22年振りだった。
指し直し局の勝敗は、タイトル保持者の9勝2敗。シリーズの防衛は7、奪取は4。手数不明の木村-塚田戦を除く10局の平均手数は183.7手。手数の少ないほうから3局に、いずれも谷川九段の名前があるのが興味深い。さすが入玉嫌いの谷川九段である。あまり泥仕合にならないようだ。
ちなみにシリーズ第1局の持将棋は2回。両者譲らず、というわけだが、やはり勝敗がついたほうが、シリーズは盛り上がりそうな気はする。

杉本昌隆八段の「究極の勝ち方 入玉の極意」が、第31回将棋ペンクラブ大賞技術部門の大賞に輝いた。持将棋局だけをとっても、勝敗のついた将棋と同等にドラマがあるのだ。
コメント
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