感染症診療の原則

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Prioritization (ワクチン優先対象議論)

2009-08-21 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
昨今はコンピューターがおりこう&お手軽になったので、数字を入れると"結果"が「出てしまう」状況があります。出てしまうがゆえに、もともと何のために出そうとしたものなのか、バイアスはどこにあるのか(当然ある)、制約(当然ある)を前提としてどのような解釈が可能なのかがこれまで以上に問われます。

臨床でも公衆衛生でも今あるpracticeを変えるものか、今よりよいoutcomeにつながるのか? が一番クリティカル。
「だから何?」的な数字や発表も実際には多数あります。
(だから何、と思える軸がないとその都度「根拠・目的不明の不安群」が発生)

公衆衛生や感染症のトレーニングの中に、予算や資源に限りがあるときの優先順位付けという訓練があります。(Prioritization、priority setting)

たとえば、途上国のHIV治療プログラムは感染者全員に提供する枠がありません。
「重症な人、死にそうな人」から治療するのか?
「治療効果がよりえられやすい安定した人」を優先すべきなのか?
「母子感染予防」を考慮し妊婦・女性を最優先すべきなのか?
それぞれの主張をするべく「数字をひっぱってくる」こともしなくてはなりません。

日本は、年度末に突然どこからか「ホセイだよ」といわれ、さらに「●日以内に全部つかいきってね」(使い切ることがミッション)という税金の重みや痛みも感じない不思議なお金のある国のためか、この優先順位議論があまりありません。

ここへきてインフルエンザワクチンの数が足りないらしい、ということになり(そもそも皆が希望しているわけではないですが)、誰から接種するの?という話し合いもすすめられています。

8月20日のニュースで流れていましたが、Yale大学とClemson大学の研究者らは、学校に通うこども・その親、医療者を優先順位としてあげています。注目しているのは「誰が感染を広めやすいのか」です。

先に米国CDCが発表をした優先順位は妊婦→子どものケア提供者・親→医療者→乳幼児・10代のワカモノ→若年成人→25-65歳成人となっていました。
より注目しているのは感染・発症したら重症になるリスク。

目的と何に着目しているのかが違うので内容も当然変わってきます。

おりこうになったコンピューターを駆使していろいろな因子を取り入れることは可能ですが、複雑難解な数式になり、研究者同士でも妥当性について100%agreeにはなかなかならないし、このような解析専門家と他の研究チームメンバーが必ずしも同じように理解しているわけではない、ということはCDCのインフル部門のUyeki先生からも指摘されたことです。

ワクチンはそもそも「完全に病原体をブロック」するものではなく、反応も個体差があり、有効期間も限定されており、ワクチン株と流行株との差異など限界も多々ありますが。

今回このように丁寧に誰から、何から、やるべきなのかという議論の仕方を学ぶことは他の感染症対策にも生かされるだろうと期待します。

School Kids, Parents Should Get Flu Vaccines First (Atlanta Jounal Constitution)
http://www.ajc.com/health/content/shared-auto/healthnews/flu-/630225.html
Vaccinate all students, parents, health-care workers against H1N1: Study
http://www.ottawacitizen.com/health/Vaccinate+students+parents+health+care+workers+against+H1N1+Study/1913243/story.html
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