感染症診療の原則

研修医&指導医、感染症loveコメディカルのための感染症情報交差点
(リンクはご自由にどうぞ)

感染症における男女差

2011-08-25 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
感染症の発生動向について、トレンドを知っておくことは検査前確率を上げたり、診療の参考になることもあります。
当然予防においても重要です。

統計には最初からバイアスや限界がありますので、それを知っておくことも重要です。

性感染症のデータでよく知られているのは 淋菌 男性>女性、クラミジア 女性>男性という傾向です。
その差について、いくつか考えることがあります。

「感染しやすい解剖生理学的な要因がある」
「症状が出やすく受診検査につながりやすい」 →男性>>>女性といわれています
「母集団での検査実施率が高い」 →女性は妊婦健診でのクラミジア検査率が高い
「報告システムの特徴」

世代の差では、「医療アクセスの違い」「性交頻度、パートナーチェンジ頻度の違い」等も関連します。


男女差がとても大きいSTDはHIV感染症です。日本では報告される9割近くが男性です。

よく国際会議で「女性の感染者を隠しているな?」と某国にからまれたりもしますが、実際問題、日本の女性はHIVに感染していないのでしょうか?

妊婦健診ではほぼ100%HIV検査をしていますが女性の症例の増加が心配される傾向は見られていません。
献血データにおいても同様です。

英国や米国のように、住民健診での検体(血液)を用いて、個人情報リンクをはずした抗体サーベイなどを併用して検討することは可能です。


新規に報告されるHIV症例(HIVキャリア+AIDS発症を合わせた数字)★日本人のみ


米国では人種差や地域差が大きくなっていますが、現在新規HIV症例の24%が女性です。
69%は生殖可能年齢の女性


日本の場合、「男性とセックスをする男性に限局した流行状況」にありますが、もしかしたら時間の経過とともに女性が増加していくのかもしれません。

日本で女性の増加がみられない仮説として、避妊手段の9割がコンドームとなっているため、結果的に守られている、薬物使用など他の感染ルートはごくわずかしかない、等があります。

男性の感染経路をみたときに、一定数「異性間感染」があるのですが、その相手である女性の報告は増えていっていません。

ごく少数のスポットで、そこから多数の男性に広がっているという検討も必要なのかもしれませんが、いずれにしても女性の報告は少ないままです。(HIV感染症は法律上5類ですが、医師の報告率は8割以上あるといわれています)


米国で毎年開催されるNational HIV Prevention Conferenceからの最新ニュースでは、「米国のヘテロセクシュアル女性のHIV症例のうち、半数にはリスク因子がない」ということです。

Half of Heterosexual Women With HIV Have No Risk Factors
Medscape 8月24日

最近の性交渉がある、と答える女性が3分の1、つまり3分の2の女性は性的コンタクトがない、ということでリスク因子なしに分類されているもようです。
サーベイランスの精度としては「感染リスク不明のHIV感染」が増えるのは問題で、はその後のactionにつながりません。

きっと何らかの改善を試みてくるのではないかと思います。

日本にも原因不明のHIVが一定数いますので(こわい)、そのあたり、報告は7日以内じゃなくていいのでもう少し精度があがらないかな・・・です。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジェネラリスト“好機”研修@水戸 | トップ | 【9/15から公費助成】4価のH... »
最新の画像もっと見る

毎日いんふぇくしょん(編集部)」カテゴリの最新記事