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院内感染対策 なう

2011-10-31 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
院内感染ニュースは、通年でいろいろな記事があります。

10月に2つ大きく報道された事例がありました。(報道されなくても日常的にあちこちでおきていますが)。
まず、どちらも感染管理に関わるスタッフが熱心に取り組んでいる結果、状況が把握されたといえます。
感染管理に関心のない病院やスタッフばかりのところではこのような発表や報道にはなりません。なぜなら調べもしないからです。

アウトブレイクが起きてなかなか収束しないとき、必ず誰かがぼそっとつぶやきます。

「検査をやめれば症例はゼロになるんじゃないだろうか」確かにそうです。


発表が遅れることを批判するむきがあるので、最近は保健所への連絡は早くなっているとききます。ただ、保健所に連絡をしても院内感染が減るということではないですが。院内に誰も詳しい人がいない場合は助けてもらえる部分もあるかもしれませんね。

(地域の感染管理担当者ネットワークが病院じゃなくface to faceの関係でつながっていると助け合いは早いです)

メディアは常に病院の落ち度探し視線ですが、そもそもどのような状況があるのか。
世の中的にBig Pictureのつかみや現実認知が不十分なように感じます。


「努力すればゼロになる」というゼロリスク思考、のイルージョンはいろいろな意味で危険です。
「誰かのせいじゃないか」という悪者捜しやストーリー建ては医療をabuseするだけです。

どのような構図があるのか。

まず、病原体も耐性菌も、健康な人にharmということはありません。

なので、ラボレベルの情報をもとに社会問題のように大騒ぎするのは偏見や誤解につながります。誤解が広がると、医療機関はリスクの高い患者を受け入れなくなる可能性があります。【困るのは患者さん)


病院ではなぜ問題になるかというと、もともと免疫が低下している超高齢者、がん等の基礎疾患がありもともと感染症が原因で超重症になりやすい、合併症(糖尿病や循環器呼吸器疾患等)があり重症になりやすい、といった人が集まっている場所だからです。
しかも集団でいます。

「もともと感染したら困る人たちが感染したら困るような菌に感染するかもしれない場所に集団でいる」ということです。
そして、その人たちをケアする多忙な急性期の病院はスタッフ不足や疲弊の問題がある、ということです。

この潜在リスクを下げるために地味にできることがいくつかあります。

「高齢者を若返らせる」それは無理

「がんの患者の免疫低下の原因となっている治療(抗がん剤やステロイド剤)をやめる」別の意味で命が危くなる・・

「がんにさせない」個人・社会で地道に取り組みましょう

「一か所に集めない」在宅か個室ですね

「患者に感染予防行動を教育する」
今は認知症等で注意事項を遵守することが難しい人がいます。スタッフも1対1ではりついて監視はできません。家族か誰かが24時間はりつけるなら可能かも。

「スタッフの数を増やす」
今以上に感背管理対策を厳しくし、ていねいなケアをすれば、今残っているリスク10のうち、8くらいに減らせるかもしれませんので、医師や看護師を今の基底以上に増やすのも一案です。
作業の精度を追求し、医師は当直明けはお休み、看護師は7対1などひかえめなことをいわず、オーストラリアのように4対1にもっていくようにメディア中心のキャンペーンを張ってはどうかと思います。(当然医療のコスト、患者の自己負担は上がると思います)

「物品や廃棄物にかかる費用は公費で負担する」
感染対策が不十分だったんじゃ?可能な限りの対策してるの?という疑問がある場合は、必要な物品やその廃棄物の処理のコストを病院ではなく社会が負担すればよいのではないかと思います。
(当然、医療費や患者の自己負担は上がると思います)

ニュースになるような地域の基幹病院は、周辺の高齢者施設や他の医療機関から「患者が重症になったので入院させてほしい」という依頼を受けます。

救急車で運ばれてきた時点で、耐性菌の問題が生じていることがしばしばあります。
「耐性菌のもちこみ」事例です。

耐性菌の遺伝子情報を調べて、その同一性を見ますが、院内だけでなく地域で問題になっている型との相同性の検討も大切です。

このため感染管理も自分の施設内のことだけ考えれいればよいという時代ではありません。
患者さんは施設や病院をいったりきたりしているからですね。
(海外渡航者の場合、外の事情も関連してきます)

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新発田病院の多剤耐性緑膿菌:院内感染、疑い濃厚 3患者の菌一致 /新潟
毎日新聞 2011年10月15日 地方版

 県立新発田病院で9月、入院患者3人から抗生物質のほとんど効かない多剤耐性緑膿菌が検出され、うち1人が感染が原因で死亡した問題で、病院は14日、「院内感染の可能性が高い」と発表した。感染経路は不明。同病院は当初、3人が別々の個室で接触がないことなどから院内感染の可能性は低いとみていただけに、感染経路の究明や再発防止対策が急務となる。また今年1~8月に患者16人から菌が検出されていたことも明らかにした。
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院長が「想定が甘かった」という内容が具体的に何かわかりませんが、
何かをしていたらその人は感染しなかった、死ななかったという話なのか。報告書を待ちましょう。

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院内感染の患者3人死亡 多剤耐性緑膿菌を検出 松戸市立病院 千葉日報2011年10月26日 

松戸市立病院は25日、9月下旬以降に死亡した入院患者3人が多剤耐性緑膿菌に院内感染していたと発表した。「感染と患者の死亡との因果関係は低い」としている。

 同病院によると、最初に感染が確認されたのは、重症肺炎で入院し集中治療室で治療を受けていた68歳の男性。
 この男性から79歳と58歳のいずれも男性患者に菌が広まった可能性が高く、3人の検体を調べたところ、菌の遺伝子の型が同じだったという。

 感染経路について同病院は「医療従事者の手や衣服、あるいは室内に付着していた菌が何らかの形で患者に感染したのではないか」とみている。
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アウトブレイク事例では、その都度大なり小なりの調査は行われますが、今まで以上の提案がどれだけでてくるかは疑問です。

本来やるべきことをやれているのか?
それができないほどにスタッフ数が足りない、過剰業務であるならば、安全優先で縮小するなどの決断も必要になるのかもしれません。

標準的なことを地道にやり、そこでの課題を無視したり現場の負担におわせず、皆で改善しなくてはという支えあいが大切だと思います。

ゼロにならないリスク。リスクを100にしないで10でくいとめるためには、まずは感染管理に責任をもって取り組め、スタッフをサポートする「実地の訓練を受けた」専従スタッフをおくことです。
(感染管理加算がとれるようになってからICNも専従になる人が増えていると聞きます)

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