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HPVワクチンの資料を読む

2013-10-31 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
すでに報道がありますが、記者の皆さんはホームページで公開されている会議での資料は手元にありますので、そのうえで書いた記事ということになります。

数字が複数並んでいるので注意しないと全体をいっているのか部分をいっているのか、病院のデータか製薬会社のデータか混乱します。

用語は日本独特の使い方になっています。

まず、接種後におこる「有害事象」(ゆうがいじしょう)という言葉は、医薬品使用後におきた望ましくないイベントとして広く使われる概念・用語です。

このほかに「副反応」(ふくはんのう)「副作用」という言葉があります。まぎらわしいのと、使われている状況に応じて定義が異なっているので注意が必要です。

みている数字は有害事象なのに副反応と表記されているので、会議の中でも変えたほうがいいのではないかという提案が委員長や委員から出ていますので、なぜ変えないのかは不思議です。
(変えると不都合があるのかもしれません。。。が、それはなにかおもいあたりません)


世界的には、医薬品使用後のイベントは「有害事象」、そのなかで医薬品との関連性を検討して狭義で「副反応」(薬学用語辞典では) という用語が使用されています。

このため、本会議の書類には因果関係は問わず副反応としている、、という説明がついています。
「重篤」の定義は説明書きがありますが、医師の判断で分類されます。


いずれにしましても・・・資料がたくさん並ぶ会議なのであります。
でも、学ぶためには一つ一つ読まないといけません。そうしないと、誤解情報、メディア解釈情報うのみ になってしまうからです。

市販後調査では、臨床試験のサンプル数では把握できない「レアな事象」をキャッチすることと、臨床試験で把握されたものが
予想を超えて頻度が高くなるようなものを、危険の「シグナル」がでていないか?とモニターしています。

   「副作用が発見された場合の対策は?」(製薬協)
   「薬事法に基づく医薬品の副作用報告について」(厚生労働省)
   「諸外国における医療関係データベースの活用状況」(厚生労働省)

参考:稀なケースを検出するにはどれくらいの分母が必要かという説明。


“The most reliable way to assess causality is in a controlled study, but clinical trials of new vaccines are typically too small to detect rare but serious effects. If the size of these trials were increased, much more could be learned about the safety of a vaccine prior to its exposure to entire populations. “
Ellenberg SS.Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2001;10:411-5


「ある症状」「ある疾患」は、その医薬品が存在しなくても、もともと年間を通じて一定の頻度で発生します。
なので、そのいつもの頻度をこえて増えていないかということを見たいので、デンマークとかスウェーデンが報告をした、医薬品を投与した人とされていない人で、その人の基礎疾患や受診状況・その際の診断状況含めて比較ができるのですごいシステム、ということになります。


まず分母です。

発売から7月末までのサーバリックスの接種は約704万件。
このうち医療機関から報告のあった副反応の報告は1107件(0.016%)。うち「重篤」は147件(0.002%)。

重篤の中身をみてみましょう。ばらつきと集積(複数の報告があるもの)をみます。

【サーバリックス】

4月1日から7月31日までの分母は8万4千件。うち重篤カテゴリーが56件。

56件のうち、医療機関から5件以上の報告があったものをみてみます(一人でいくつも報告することがあるので、単純に足すと56こえます。)

疼痛 13件

関節痛 11件
筋力低下 11件
四肢痛  11件

頭痛 9件

倦怠感 8件  
無力症 8件

注射部位疼痛 7件
発熱 7件
意識消失 7件
感覚鈍麻 7件
痙攣 7件

浮動性めまい 6件
握力低下 6件

ギランバレー 5件
転倒5件

です。

1-2例のものをいくつかみてみます。
レアケースをひろうのが有害事象での報告の目的ですので、あまり悩まなくても「ワクチンと関係あるの?」と思われるものもはいってきます。

例えば、
「インフルエンザ」1件  →ワクチン接種後、におきた有害事象です。が、もっと報告があってもよさそうな。

「ウイルス感染」 1件  →一年中なるリスクがありますのでワクチンうってもうたなくてもなります。

「泣き」1件       →「重篤」にくくられるほどの泣き方とはいかほどのものなのか興味深いです。

「月経困難症」「無月経」「過小食」 →思春期女子に接種をしているので、まぎれこみではいってきてもおかしくはないです。

「体重減少」「体重増加」 →「重篤」にくくられるにはもとの体重の何%くらいの上下をいうのか興味深いです。

接種後におきたイベントをみるとこのようにいろいろなものが入ってきます。
泣いたのはワクチンと因果関係があるかといわれたら、あると思うのですが、それは副反応? 重篤な副反応?といわれると、いろいろ考えるところもあります。いずれにしても「重篤の1例」でカウントされます。



【ガーダシル】
ガーダシルの分母は150万4千接種。
医療機関からの報告が297件(0.016%)、重篤が42件(0.002%)。

4月1日から7月31日までは16万5千接種。うち重篤の報告は31件(0.019%)

頭痛 10件

四肢痛 6件
失神 6件

痙攣 5件

やはり「インフルエンザ」1件という報告も入っています。



そして、痛み関連では別の資料が作成・配布されています。

疼痛関連症例の症例リスト

2009年12月から2013年7月までのサーバリックス接種の分母は704万件。

このうちCRPSが5例(0.071/10万)。 CRPSではないけど広範囲の痛み関連のものが50例(0.71/10万)  5+50で55例。

未回復が17例で、その後どうなったかわからない(転帰不明)が14例。
CRPSの5例は10代が4例と40代が1例。

40代は回復。残りの4例が転帰不明(なぜ不明なのかわからないですが、、、この後どうやって検討するんでしょうね?)


「その他」の50例は、、、、

【症例番号1】30代女性:頭痛と背部痛 → 回復、などもありますが、多くは10代女性:四肢痛と関節痛と関節炎 というパターンが多いことがわかります。

このうちCRPSが3件(0.162/10万)、他の重篤な痛み症例は13件(0.71/10万)。
未回復が6例、不明が2例。

CRPS 3例のうち、2例は軽快。 

1例は未回復の症状があって「浮動性めまい」「熱感」「注射部位熱感」「感覚鈍麻」「四肢痛」「頭痛」×2 「ジスキネジー」「脱毛」「光線過敏性反応」「腹痛」×2  「歩行障害」 「羞明」

接種した上腕部ではなく広範囲に痛みが出た他の症例は13例。軽快例が多いですが、【症例番号13】は「てんかん」や「四肢痛」は治ったものの、「倦怠感」「身体表現性障害」「頭痛」が未回復。


数字ベース、報告ベースなので実際に診察をしていない人には想像の世界でしかありませんが。

丁寧な議論・検討と、必要な対応を期待するところであります。



常時、安全性と有効性の問題をモニターしている専門家の努力に感謝しています。


2013年7月19日にWHOで開催された会議のまとめGlobal Advisory Committee on Vaccine Safety, report of meeting held 12-13 June 2013

前回の会議は2009年6月でしたので、そこから4年です。
安全性について米国、オーストラリア、日本からのデータがレビューされました。
オーストラリアは2013年2月から男子への接種がはじまっていますが、そこでの有害事象の傾向は女子とかわらず、ということでした。

日本については"Cases initially resembling complex regional pain syndrome (CPRS) were reported from Japan where >8 million doses of HPV vaccines have been distributed. CPRS is a painful condition that emerges in a limb usually following trauma. Cases have been reported following injury or surgical procedures. It remains of unknown etiology and may occur in the absence of any documented injury. CPRS following HPV vaccines has received media attention in Japan and the number of reported cases has risen to 24, only 7 of which were reported through usual post-marketing surveillance channels. Review by an expert advisory committee could not ascertain a causal relationship to vaccination given lack of sufficient case information and inability to reach a definitive diagnosis in many cases. While these are under investigation, Japan has continued to provide HPV vaccine in their national programme but is not actively recommending its use."

その他のネットで読める安全性モニタリング関係の報告;
GACVS Safety update on HPV Vaccines Geneva, 13 June 2013 WHO
MHRA's 2012 review of Cervarix safety at end of 4 years use in the human papillomavirus (HPV) routine immunisation programme英国 MHRA
HPV Immunisation Programme Vaccine Monitoring Monthly Minimum Data Set 英国NHS
HPV Vaccine Monitoring 米国CDC
HPV immunisation safety monitoring - update 2 ニュージーランド
Update On Human Papillomavirus (HPV) Vaccines カナダ
FIGO Statement on HPV Vaccination Safety, August 2nd, 2013 

Approaches to monitoring biological outcomes for HPV vaccination:Challenges of early adopter countries
Monitoring HPV Vaccine Program BMJ 2010; 340
Monitoring HPV Vaccination Vaccine (2008) 26S, A24―A27
Human Papillomavirus Vaccine Impact Monitoring Project Across CT (HPV-IMPACT)

上記はバイアスのかかった限界付きリストであります。
・・・英語のものしかみていないので、ドイツ語フランス語、中国語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語での有効性・安全性レポートは確認していません。

また、HPVワクチンについては、他にも情報や意見はあり、民間団体の書いている記事などもあるのですが、ホームページじたいに特定の信仰のプロモーション、効果や安全性の確認されていないサプリメントや感度特異度の検証や表記のない民間検査会社の広告など、販売活動と抱き合わせものはバイアスがかかっていると推定できるので本記事ではピックアップしませんでした。

そういったものだけのリストも作成したので近日中に紹介してみたいとおもいます。
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