海に来ていました。
夕日を見たくて。
今日の空は、どんな風に暮れていくかしら、と。
浜辺に行くと、走って行くと、こんなふう。
歓声をあげて見とれます。
遠くにかすかに見えるのは、佐渡島です。
ふと気がつくと、わたしより先に、浜辺に立つ人がいます。
姿勢のよい男性。
ひとまわり上くらいの方でしょうか。
夕日を見つめています。
ふと、目が合い、会釈。
こちらに歩いてこられます。
その方は、笑顔で言いました。
“今日は、雲に沈まない、きれいな夕日が見えますよ”
“はい、きっとそうですね。”
わたしも、笑顔でこたえながら、その方に、見とれてしまいました。
それはそれは、とてもきれいな目をしていたのです。
わたしは、夕日に視線を戻し、ひとり納得していました。
この方は、きっと、とても頻繁に夕日を見に来ているのだわ。
夕日に限らず、きれいなものを、美しいものを、たくさん見て暮らしているのだわ。
この夕日のように、ほんとうに美しいもの素晴らしいものは、人の心をきれいにするから。
だからあんなに、目がきれいなんだわ。
わたしは、夕日に、その人に、二重に感動していました。
生きていけば、心曇ることも、瞳が曇ることも、あります。
二度と笑顔になれないような気がすることも。
そこを、なんとか生き抜いていくのが、たぶん、その人の挑戦。
成し遂げたいこと、見つけたいものが、待っている。
つまづき、歩けなかったことのある人こそ、ある日、突然、大自然の本当の美しさがわかるのではないかしら。
空はこんなに蒼かったかしら・・・
花はこんなにきれいな色だったのね・・・
木々の緑に、こんなに心安らぐなんて・・・
日の出を眺めていたら、涙が出ちゃった・・・
苦悩や困難を経て、きよめられ高められた心の、美しさ。
そういうものが、目には全部、現れる。
夕日が沈むのを見届け、駐車場に戻ると、たくさんの車、たくさんの人。
みんな、外に出て、空を見ています。
チラッと見ただけですが、みんな、いい顔。
今日、海にきて、ほんとうによかった。
嬉しい気持ちで、帰ってきました。