ちいさなちいさな いのりのことば

 * にしだひろみ *

右往左往の心得

2018年09月30日 | Weblog
その船に、船頭さんはいるのですが、物静かな方でした。

そうなると、さまざまに号令を発する乗組員がたくさん出てきます。

あちらだ、こちらだ、と、いろんな指示が飛び出します。


その船において、わたしは一番若輩でしたから、どの指示にも背きにくく、どれも分があるように思えます。

時々、こればかりはどうしても、と思われることには、提案をして変えていただいたりしましたが、

あとのことには、右往左往しながら、指示に従い作業に当たりました。



そのひとつが、異なる指示をする乗組員さんの目に止まり、お叱りをいただくことになりました。

がっくり。

でも、そちらにも分がありました。

また右往左往しながら仕切り直しをしました。



肌寒い日でしたが、あちこち駆け回るわたしたちは汗だくに。

わたしと同じように、さまざまな指示に右往左往するスタッフさんはたくさんいたのですが、

わたしの母ほどの年の方は落ち着いたもので、

「行けと言われたら行く、下げろと言われたら下げる、そうするしかないし、そういうものよ。」

しなやかな姿勢と微笑み。

見事です。


その言葉をきいてからは、むしろ張り切って右往左往をしました。




この船というのは、年に一度行われるイベントのこと。

今年限りでなく毎年あることなので、わたしは、若輩ながら、執行部の方に改善点をお伝えしようと思います。


船頭も乗組員さんも、まだ慣れない船であり、みんなで力を合わせての航海です。

来年もまた、いろいろあることでしょう。


もし来年もお誘いをいただいたら、次はもっとしなやかに右往左往したいと思います。

はじめから完璧な航海を求めず、みんなでゆっくり築いていく旅も素敵です。



今日は、いい経験をさせてもらいました。

乗り合わせたみなさんに、労りと感謝をお伝えします。

雪が舞い降りる日まで

2018年09月28日 | Weblog
秋の活動がはじまりました。

朗読会に、講座に。


わたしは、冬は活動をお休みします。

雪道の運転が苦手なことと、静かに心を深めて過ごすために。


ひとひらの雪が舞い降りる頃まで、ひとつひとつ、心をこめて行いたいと思います。



今年は、保育園の先生方向けのシンボルツリーワークショップを初めて開かせていただきました。

すごい保育園さんなんですよ、職員研修として、わたしを呼んでくださったのです。

ほぼ全員の先生が受けられました。


ご自身をよりよく知るために、先生方との関係をよいものにしていくために、子どもたちのよいところ、サポートのヒントに、

真剣に学ばれました。


でも、さいごには、

「旦那との相性を知りたいんですが・・」

「わたしに合う木を教えてください・・」

と、たくさんの質問が飛び出して、なんて楽しかったことでしょう。


わたしにとっても、楽しくて学ぶことのたくさんある時間でした。

感謝の気持ちでいっぱいです。



2ヶ月のあいだ、夏休みと稲刈り休みをいただいていた「うんまんま」さんでの朗読会も、来月から復活します。

懐かしく、スタッフさんたちに早く会いたいです。


おうちカフェへも、素敵なお客様がいらしています。




すべて、思い出になっていくから・・


毎日の、ひとつひとつに、

ご縁の、ひとつひとつに、

感謝しながら。

わたしの図書館

2018年09月27日 | Weblog
その図書館は、「図書室」と呼んだほうがぴったりな、小さなところ。

丘の上の、大きな建物のなかに、ひっそりと在る。

わたしは、その丘をのぼっていくのが、とても好き。



学校の図書室より、もっと小さな規模で、本はとても少ないが、

何やら懐かしく心地いい。

学習や閲覧用の机が窓辺にずらりと並び、ガラス窓の向こうには、森がある。



静かで、静かで、静か。

週末やお休みの日以外は、いつ訪ねても、人がほとんどいない。

だからわたしは、思う存分、本と二人きりになれる。



その図書館が好きな、もうひとつの理由は、貸出カードがあること。

借りたい本の後ろポケットにあるカードを取り出し、鉛筆で名前と日付を書いて、箱に入れる。

一冊一冊、おなじ作業をする。

その、ひとつひとつの行為が、たまらなく愛しい。



借りる責任を、ひしと感じることも、素敵に思う。

名前が残るんだもの。

大切に読もう、期限を守ろう、そう強く思える。



司書の女性に、たまに会う。

わたしの母よりひとまわり若いくらいだろうか。

返却された本の貸出カードを探し、確かに返却されましたの判子を押して、本を棚に戻す。


一連の作業のなかに、機械も機械音もない。

そこが、わたしを惹き付ける。



小さな、限られた蔵書だからこそ、未知の分野の本に出会える。

みんな、肩を寄せあうように並んでいるから。


この秋、わたしは、一冊の本に出会った。

これまで見向きもしなかった分野。


タイトルに惹き付けられ、装丁のセンスに圧倒された。

本を読むことの幸せをよく知っている人の装丁だ。


内容には、はじめ、怖じ気づいた。

怪談ものだったから。


でも、惹き付けられて仕方ないので、借りてきた。

そして、時を忘れて読んだ。


・・わたしの、読みたかった本だった。

こんな本に出会いたかった。



『荒神(こうじん)』
宮部みゆき



映画『もののけ姫』を思い浮かべるような物語。

タタリ神のような荒神が、江戸時代の村を襲い、飲み込む。


でも、荒神を産み落としたのは人間、人間の誤った生き方にあるとして、

最期には、一人の女性が荒神の母として、荒神を抱く。



わたしはそこに、いまの世に渦巻く苦しみや災害への、こたえを見た。

そして、涙した。




今日も、小さな図書館へ向かった。


今日も、とても静かだった。

あお

2018年09月11日 | Weblog
初秋の強さとさみしさを、この人は、こう表現する。



“九月の森ではふしぎなことがおこる。

春と秋がとなりあわせになっている。

黄色い葉と青々とした草。

色あせた草と、いまにもつぼみが開きそうな花。

あたたかい太陽とつめたい風。

おとろえていくものと、盛りをむかえようとするもの。

にぎやかな歌としずけさ。

そして、さみしさと喜びが。”


ニコライ・スラトコフ『北の森の十二か月』より




蝉たちは、みんなもう、いのちを全うしただろうか。

いつの間にか、あの声が、途絶えていた。

聴こえるのは、さまざまな虫たちの唄。



高くそびえ立つ杉に、少しもひるまず巻きのぼっていくのは、葛。

その紫の花は、燃えるような色。

目指すは、あの抜けるような青さの空か。



ふと足もとを見ると、息絶えた蝉。

何もかもを出し尽くし、仰向けに放心していた。

最期にその手足で、あの空を掴んだか。



わたしの夏も、去った。

日常のことをこなしながら、ふと、心をこめることを思い出し、

感謝に打たれ、時に考え、痛み、気づき。


日に何度も、空を仰いだ。

あの健やかで透明な青こそ、いのちが還る場所。

そう思いながら。



蝉も、葛も、わたしも、

みんな、あの青から生まれ、あの青を慕い、いつかは吸い込まれていく。



だからわたしも、燃えるように生きたい。

わたしのいのちを、余さずみな「想い」にかえていきたい。


あの青へと。

時には毅然と

2018年09月05日 | Weblog
小さなプレートを作ろう。

木の板だと一番いい。

紙をラミネート加工してもいい。


柔らかだけどしっかりとした文字を、そこに綴ろう。

それを、玄関先の階段のあたりに、掲げよう。




このような田舎にも、汗をふきふきセールスマンが来る。

果物の販売から学習塾の勧誘まで、様々な用件で。

重い荷を背負っている人も少なくない。



わたしは、全て、お断りしている。

結果的にそうなった。

せっかくであっても、そういう形で物や機会を得ることが好きではないから。


無料のサンプルなども、受け取らない。

お断りしながら、いつも胸が痛むのだが、(きっと、配りきらなくてはならないのだろう・・と思うから)

いま必要としていないものを、今後も必要としないことがわかるから、

そのサンプルを受けとることはできない。

そんなわたしが受けとることは、失礼なことだと感じる。



だからこそ、こんなところまでわざわざ、よく来てくださいました、そんな敬意をこめて、

丁寧に、お断りしている。


でも、それだけではダメなのだと、昨日知った。




その人は、乳製品のカタログとサンプルを持ってきた。

なんとも重そうな保冷ケースを肩にかつぎ、大汗をかいていた。


わたしは、ご苦労を詫びながらお断りした。

そもそも乳製品は日常的にとらない。


しかしその人は、タダなんだからと言って、わたしの手にサンプルをよこした。


わたしは、乳製品をとらないことや、定期的に食品を注文するようなことはしないことを、できるだけ穏やかに伝えた。

その人は、呆れたように言った。

無料なんだから、と。


だからこそ受け取れないと、わたしはサンプルの袋を差し出す手を下げなかった。


その人は、呆れを通り越して、嫌悪感を顕に、

無言でサンプルを取って、行ってしまった。



その日、その出来事が起きるまでは、わたしの心は静かな海のようだった。

それが、めちゃくちゃに荒れてしまった。



セールスマンへの嫌な感情はほとんどなく、むしろ自分の感じやすい心が悲しかった。



わたしは思った。

みんなが、心から好きな仕事をできたらいいのに。

苦労はあっても、心は晴れやかであるような。



あんなに苦労して営業をしても、その乳製品の会社に対するわたしのイメージは最悪になってしまった。

もちろん、わたしのような客は、少ないのだろうけど。


あのセールスマンが、もし、会社や製品、仕事に誇りを持っていたとしたら、あんな態度にはならなかったのではないか。

もっとゆとりある対応ができただろう。

大切なものを損なってしまったことに、気づいていただろうか。




わたしの心の海は、しばらく嵐のようになっていた。


が、やがて、落ち着いてきた。


あのようなことが起きないように、工夫すべきだったと気づいたから。

そうしなかったわたしの非だ。

あの人は悪くない。


それがわかり、静かな海が戻ってきた。



プレートを作る。

ちょっと可愛らしいデザインで。


そして、こんな風に書こう。


“セールスや勧誘はお受けいたしません。ご理解ください。こちらまでご足労くださってありがとうございました。”