絵本は、読んでもらうための本。
子どもの本に関する高名な先生たちは、みなそのように著述しています。
息子は9才ですが、ひとりでもたくさん本を読みますし、寝る前はわたしに本を読んでもらうことを未だに喜びます。
字が読めることと本を読むことは、別のようですね。
特に絵本の場合、文字を追うことに忙しいと、せっかくの美しい絵を堪能できません。
繰り返し読んだり読んでもらった絵本でも、展開も結末もわかっていても、それを母と一緒に辿っていくことの楽しさは色褪せないのでしょうね。
寝る前に息子が抱えてくる本を見て、息子の気持ちやその時の悩みがわかることも、母にとっては貴重なことです。
何より、わたしが本好きなので、読ませてもらえることがとても幸せです。
さて、昨夜、息子が抱えてきた本は、『しまのないトラ』。
斉藤洋 作
廣川沙映子 絵
息子がまだ読んでいない、第五話を読むことにしました。
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しまのないトラがいました。
仲間外れにされていました。
茂みに隠れるための縞がないので、近距離からの狩りもできません。
しまいにはジャングルのみんなにバカにされるようになりました。
しまのないトラは、ひとりぼっちで、いつもお腹を空かせていました。
すっかり落ち込んでいたところに、一頭のワシが来ます。
ワシは、しまのないトラに、狩りの姿を見せます。
獲物と定めた一羽の鳥は、すぐにワシに気づき逃げていきます。
かなりの距離がありました。
でも、ワシはそこから時間をかけて、ぐんぐん追い詰めていきました。
ドサリ。
トラの前に鳥が落とされます。
ワシが仕留めた鳥でした。
そしてワシは飛び去ります。
トラは、悔しかった。
でも、鳥を食べました。
お腹が空いて仕方がなかったのです。
そして、そんな悔しさは二度と味わいたくないと思いました。
トラは考えました。
そして、発見しました。
縞がないことで近距離の狩りができないなら、遠距離からの狩りができるように、走る練習をしよう!
しまのないトラは、くる日もくる日も走る練習を続けました。
そのうち、遠くからでも獲物を追い詰められるようになりました。
もう、茂みに隠れる必要がなくなったのです。
しまのないトラは、いつもお腹いっぱい食べられるようになりました。
それだけでなく、たくましく大きな体になっていきました。
もうだれもバカにしません。
他のトラたちも、からかうことができなくなります。
しまのないトラは、自分たちよりずっと体が大きく、狩りも上手になったから。
しまのないトラは、あの時のワシを空に見つけ、大きな声でお礼の言葉を叫びます。
ワシが教えてくれたのです。
みんなとは違う自分を生きるとは、どういうことかを。
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物語が終わりに近づいた時、息子が言いました。
“なんか、オチがありそうだなあ。”
斉藤洋さんの本はみなユーモアがありますので、この物語にも何かありそう、と感じたようです。
事実、やはりオチがあったのです。
“やっぱりねえー。”
息子は笑いました。
感想を聞きたかったけれど、そのまま眠るのを見守りました。
言葉にしなくてもいいのですよね。
心で大切に、感じているだけで。
本は心のたべもの。
この小さな時間が、どうか、息子の心の、よい食べ物になりますよう・・・。