宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

筒井康隆(1934-)『最悪の接触(ワースト・コンタクト)』(1985):異星人であるマグ・マグ人と人間(地球人)のコミュニケーションの困難さを描く!

2018-10-23 22:31:24 | Weblog
異星人であるマグ・マグ人と人間(地球人)のコミュニケーションの困難さを描く。以下、それについて考察する。(あまりに項目が多いので、考察は途中まで!)
(1)地球人の観点から見ると、マグ・マグ人は態度(「ニコニコ笑う」)と行動(「棍棒で殴る」)が矛盾する!
最初の挨拶の時、マグ・マグ人はニコニコ笑っていた。ところが突然、後ろに隠していた棍棒でおれを殴った。おれは怒った。ところがマグ・マグ人は「よかった、死ななかったね」とニコニコしていた。「死なないように殴ったよ。」「殺されなかったのだから、幸せではないか。」と言った。
《感想》地球人の観点から見ると、「ニコニコ笑う」(態度)は友好的だ。「棍棒で殴る」(行動)は敵対的だ。一方で「態度」と、他方で「行動」が一致しない。マグ・マグ人の観点からすると、「ニコニコ笑う」(態度)は友好的で、「死なないように棍棒で殴る」(行動)も友好的なので態度と行動が一致する。

(1)-2言葉(「殴らない」)と行動(「殴る」)の矛盾!or「殴る」のは「殴る」ことであって、「殴る」のは「挨拶」でない!
「マグ・マグ人は、殴るのが挨拶なのか」とおれがたずねる。「そんな挨拶があるわけない。殴る痛いよ。」とマグ・マグ人が反論した。
《感想》「挨拶で殴らない」(言葉)と言いながら、マグ・マグ人は「挨拶で殴る」(行動)。言葉と行動が一致しない。これはおれ(地球人)の観点だ。だがマグ・マグ人は「殴る」のは「殴る」ことであって、「殴る」のは「挨拶」でないと当然のことを言っているだけだ。Cf. 「白馬」は「白馬」であって、「白馬」は「馬」でない。(白馬非馬論:公孫龍)

(1)-3 「殺さない」限り何をしようと「友好的」だ!or双方が「友好的」だと言わないと、「友好的」にならない。!
マグ・マグ人は、「死なないように殴った」、「殺さなかった」のだから友好的だと言う。「あなたはわたしに殺されなかったのだから、しあわせではないか」と言う。
《感想1》「殺さない」限り、相手にどんな拷問・苦痛・傷害を加えても、「友好的」だという考え方だ。目をくりぬき、鼻・耳を削ぎ、手足を切断しても「殺さない」なら「友好的」だとマグ・マグ人は言う。やられる相手は「敵対的」だと思う。
《感想2》「友好的」とは一方のみが言うだけでは成立しない。双方が「友好的」だと言わないと、「友好的」にならない。

(2)地球人の行動連関の規則!&マグ・マグ人は自分の見解と他者の見解が同一と考える!
マグ・マグ人が「煙草吸うか」とおれにすすめたので、おれが「一本貰おう」と言うと、彼は煙草を引っ込めた。そして「わたしは吸わない」とマグ・マグ人は言い、煙草をちぎって屑籠に捨てた。
《感想1》マグ・マグ人は「煙草吸うか」と煙草をすすめたのに、煙草をくれない。《「煙草をすすめる」→「煙草をわたす」》という地球人の行動連関の規則に反する。
《感想2》地球人と違って、マグ・マグ人は自分の見解と他者の見解が同一と考える。マグ・マグ人は自分が煙草を「吸わない」と相手も「吸わない」と勝手に決めつけ、相手が「吸いたい」と言っても煙草を捨ててしまう。

(3)マグ・マグ人の不可解な行動一覧
(あ)自分に同意する人は「いい人」!&相手が「いい人」だと自分は「悪い人」!
「常識と常識がぶつかるところに、新しい文明が生れる」とマグ・マグ人が言う。そしてそれを「あなたは認めるか」とたずねる。おれが「認める」と答える。すると「なぜあなたがそれを認める必要があるのか。わたしならともかく。」と言って嬉し泣きする。そして「あなたはとてもいい人だ」と言い、棍棒で自分の後頭部を殴り気を失う。
《感想1》おれが「認める」と答えると、マグ・マグ人は嬉し泣きする。なぜか?おれがどうせ「認めない」と答えるだろうと、マグ・マグ人は予想していたからだ。自分の意見に同意する人は「いい人」だ。
《感想1-2》おれ(地球人)が、マグ・マグ人の見解を「認める」のが、彼には不思議なのだ。おれには「それを認める必要」など何もないはずだ。マグ・マグ人の「わたし」がわたしの見解を認める「ならともかく」!マグ・マグ人は、他者は利益に基づいてのみ行動する存在と思っている。
《感想2》相手が「いい人」だと、自分は「悪い人」とマグ・マグ人は思う。かくて彼は棍棒で自分の後頭部を殴り、自分を罰する。

(い)事実(「聞き洩らしてない」)と言葉(「聞き洩らした」)の矛盾!
料理を上手に作るマグ・マグ人を見て、「あんたの商売はなんだね」とおれがたずねる。「わたしの商売かい。それは聞き洩らした。」と彼が言う。
《感想》彼は「聞き洩らしてない」(事実)のに、「聞き洩らした」と言う(言葉)。

(う)連想の連関:「肉」・「好き」が連想連関の核で、「好き」の連関項が1つ、「肉」の連関項が3つ!
「マグ・マグ人、肉が好きだよ。自分以上に好きだ。なぜかと言うと自分も肉だからだ。」「だから利害関係のある者と一緒に肉食わないね。」「あなたとなら、わたし肉食うという意味だよ。」こうマグ・マグ人が、おれに言った。
《感想1》これら一連の発言が、マグ・マグ人には連関する。連想による連関だ。肉が「好き」。自分以上に「好き」。ここは「好き」を核にする連想の連関だ。
《感想2》「肉が好き」→自分以上に「好き」→なぜかと言うと自分も「肉」だから→だから利害関係のある者と一緒に「肉」食わない→「肉」食う。「肉」と「好き」が連想連関の核で、「好き」の連関項は1つ、「肉」の連関項は3つだ。
《感想3》「肉」と「好き」の各連関項に付随させる言葉は、思いつくものなら何でもよい。

(え)目的連関が、地球人とマグ・マグ人で異なる:「食べてもらう」ため「料理を作る」(地球人)&「毒を入れる」ため「料理を作る」(マグ・マグ人)!
マグ・マグ人が作ってくれた料理をおれが食べようとすると、彼が叫んだ。「食べるな!わたしその料理に毒入れた。」おれが「殺そうとしたな!」といきり立つと「殺す気なんかじゃなかったことはわかるだろう。毒が入っていることを教えたんだから」と彼が言った。
《感想1》地球では「食べてもらう」という目的のために「料理を作る」。ところがマグ・マグ人は「食べてもらう」という目的を前提しないで「料理を作る」。目的連関が、地球人とマグ・マグ人で異なる。
《感想2》「毒を入れる」は地球人の目的連関では「殺す」ことを目的とする。
《感想2-2》ところがマグ・マグ人の場合は「毒を入れる」は「殺す」ことを目的としないことがある。《「殺さない」で「救う親切を示す」》という目的のため「毒を入れる」ことがある。

(え)-2 マグ・マグ人の目的連関と地球人の目的連関:「救う親切を示す」ため「料理に毒を入れる」(マグ・マグ人)&「殺す」ため「料理に毒を入れる」(地球人)!
おれは、マグ・マグ人の目的が何だろうと考え、確認した。「おれに、毒が入っていることを教えるために(マグ・マグ人は)この料理に毒を入れ、毒を入れるために(マグ・マグ人は)この料理を作った。」
《感想3》
目的「毒が入っていることを教える」(「救う親切を示す」)←下位の目的「料理に毒を入れる」←さらに下位の目的「料理を作る」。これはマグ・マグ人の目的連関だ。
《感想3-2》地球人の目的連関。目的「殺す」←下位の目的「料理に毒を入れる」←さらに下位の目的「料理を作る」。
《感想3-3》地球人のもう一つの目的連関。目的「料理を食べてもらう」←下位の目的「料理を作る」。

(お)マグ・マグ人は他者の「苦痛」に関心をもたない!
おれは気が狂いそうになってベッドに横たわり頭を抱え込んだ。マグ・マグ人が「どうかしたのか」とたずねた。「頭が痛い」とおれが言うと、マグ・マグ人が「そうか」とうなずき「でも、わたしは痛くない」と言った。そして鼻歌を歌う。おれはムカムカと腹を立てた。
《感想1》おれ(地球人)が「ベッドに横たわり頭を抱え込む」行動は、マグ・マグ人にとっても異常事態だ。この状況判断は両者で共通だ。だからマグ・マグ人が「どうかしたのか」とおれ(地球人)にたずねた
《感想2》おれが「頭が痛い」のはおれの頭が痛いのであって、マグ・マグ人の頭に関しては「痛くない」。かくて彼は「どうかした」(異常事態が到来した)わけでない。
《感想2-2》地球人が示した異常事態は、マグ・マグ人にとっても異常事態の到来(「どうかした」)かと思われた。ところが地球人の「頭が痛い」だけで、マグ・マグ人の頭は「痛くない」。かくてマグ・マグ人にとって異常事態は到来していない。マグ・マグ人が関心を持つのは、自分の「苦痛」であって他者(おれ)の「苦痛」ではない。

(か)「毒薬」に関する因果連関の規則:地球人《「毒薬」→殺人》&マグ・マグ人《「毒薬」→自殺》!
毒薬で殺されると思って、おれは「さあ。毒薬を渡せ」とマグ・マグ人に言った。すると彼が答えた。「渡せない。地球人は毒を手に入れるなりすぐ服(ノ)んでしまうと聞いている。渡したりしたら大変だ。」
《感想》「毒薬」に関する因果連関の規則が地球人とマグ・マグ人では違う。地球人は《「毒薬」→「毒を入れられ殺される」(殺人)》だが、マグ・マグ人では《「毒薬」→「地球人は自分ですぐ服んでしまう」(自殺)》である。

(き)マグ・マグ人は、他者も自分と同じ感情・欲望・意図を持つと思う!
おれは空腹になって自分で料理を作ろうとするとマグ・マグ人が突然、とび蹴りをかけてきて、おれはぶっ倒れた。ものすごいマグ・マグ人の怒りだ。怒りの理由は(ア)あなたが料理すると「わたしの作った料理が無駄になる。明日の朝まで、食べるのを待たせるため毒を入れた。」(イ)「おれは腹が減ってるんだ」と言うと、マグ・マグ人は「だが、わたしは減ってない」と答える。
《感想》マグ・マグ人は、他者が自分と違う感情・欲望・意図を持つことが理解できない。他者も自分と同じだと思う。(ア) マグマグ人が言う。「明日の朝まで、食べるのを待つ」と自分が決めたからお前もそう思うはずだ。(イ) また「おれは腹が減ってるんだ」と地球人が言っても、マグ・マグ人は「だが、わたしは減ってない」と答え、地球人の発言を信じない。マグ・マグ人が「腹が減っていない」時、他者もまた「腹が減っていない」としかマグ・マグ人は考えることができない。

(く)マグ・マグ人の論理:「A(これ)はB(銃)のように《見える》」。つまりまりAはBの偽物だ。だからAはBで《ある》!
怒ったマグ・マグ人が銃を出した。「あなたにはこれが銃のように見えるだろう。しかし、だまされてはいけない。実はこれは銃だ。」「ふざけるな」おれ(地球人)は吠えた。
《感想1》地球人の論理なら、「あなたにはこれが銃のように《見える》だろう。しかし、だまされてはいけない。」の後は、「これは銃で《ない》。」となる。
《感想1-2》「実はこれは銃で《ある》。」が結論となるためには、前提は「あなたにはこれが銃のように《見えない》だろう。しかし、だまされてはいけない。」となる。
《感想2》地球人の論理:「A(これ)はB(銃)のように《見える》」。つまりAはBの偽物だ。だからAはBで《ない》。
《感想2-2》マグ・マグ人の論理:「A(これ)はB(銃)のように《見える》」。つまりAはBの偽物だ。だからAはBで《ある》。かくて地球人の論理とマグ・マグ人の論理は正反対だ。

(け)マグ・マグ人は、結果(「おれは腹が減っている」)を引き起こした原因が何か推理することを拒否する!
「おれに飯を食わさぬつもりか」とおれ(地球人)が言う。「わたしがどんなつもり(※意図)でいるかはどうでもいいことではないか。問題はあなただ」とマグ・マグ人が反論する。「そうとも問題はおれだ。おれは腹が減っている。」とおれ。すると「わたしは減っていない」とマグ・マグ人。
《感想1》「問題はあなただ」との指摘は正しい。「おれは腹が減っている」。
《感想1-2》おれ(地球人)の推理では、この結果(「おれは腹が減っている」)を引き起こした原因は、マグ・マグ人の意図(「おれに飯を食わさぬ」)だ。
《感想1-2》ところがマグ・マグ人は結果(「おれは腹が減っている」)を引き起こした原因が何か推理することを拒否する。原因は、マグ・マグ人の意図(「おれに飯を食わさぬ」)なのに!

(け)-2 マグ・マグ人は、他者も自分と同じ感情・欲望・意図を持つと思う!(続)(参照(き))
「おれは腹が減っている」とおれ(地球人)が言うと、マグ・マグ人が「わたしは減っていない」と言う。
《感想》マグ・マグ人は、他者が自分と同じ感情・欲望・意図を持つと思う(参照(き))。かくて、マグ・マグ人が「わたしは腹が減っていない」と言えば、おれ(地球人)が「腹が減っている」といくら言っても、マグ・マグ人は、おれ(地球人)が嘘をついているとしか思わない。おれは議論をあきらめた。

(こ)「寝る」か「寝ない」かいずれかしかおれ(地球人)には可能でない。ところがマグ・マグ人は「どちらもするな」と命じる!
何をされるか分からないので、おちおちと寝てもいられない。おれは、マグ・マグ人に「お前が寝たらおれも寝る。寝ないのなら寝ない」と言う。彼は「では、どちらもするな」と言った。
《感想》マグ・マグ人は、「寝る」ことも「寝ない」ことも「どちらもするな」とおれ(地球人)に命じる。しかし、おれ(地球人)は、事実的かつ論理的に「寝る」か「寝ない」かしか可能でない。かくてマグ・マグ人は、おれ(地球人)に《不可能なことをしろ》と無理難題を吹っかけている。憎らしいマグ・マグ人だ。《身体が一つしかないので、ある時点で1カ所にしかい居れない》おれに「同時に2カ所に居ろ」と言っているようなものだ。

(さ)マグ・マグ人の場合、「空腹」「満腹」の区別と、「食べたい」「食べたくない」の区別が、何の対応関係もない!
「わたしは腹が減っていない」と言ったマグ・マグ人が、自分用の料理を食べ始めた。「腹が減ってないのになぜ食べるんだ」とおれ(地球人)が言うと、彼は「空腹時には食べないことにしている」と言った。
《感想》マグ・マグ人は空腹時に食べず、満腹時に食べる。地球人は空腹時に食べ、満腹時に食べない。地球人の場合、「空腹」は「食べたい」事態、「満腹」は「食べたくない」事態と定義される。これに対しマグ・マグ人の場合、「空腹」は「腹が空の事態」、「満腹」は「腹が満の事態」と定義される。そして「空腹」「満腹」の区別と、「食べたい」「食べたくない」の区別は、何の対応関係もない。

(し)因果連関も論理的連関もない2つの命題を「それなら」と連関させるマグ・マグ人の思考回路が地球人に不明だ!
寒いのでおれ(地球人)が「毛布はないか」とたずねると、マグ・マグ人が「寝るための毛布か、起きるための毛布か?」と訊ね返した。おれは「地球の毛布は両方兼用だ」と答えた。「ああ。それなら、どちらもない。」と彼は言った。「ないのなら訊き返すな」とおれは思った。
《感想1》マグ・マグ人は「寝るための毛布」と「起きるための毛布」を区別する。寝るときに「寝るための毛布」を掛け、起きる時にそれを「起きるための毛布」に取り換え、それから起きるのだ。ずいぶん面倒くさい。
《感想2》おれは「地球の毛布は両方(寝る・起きる)兼用だ」と答えると「ああ。それなら、寝るための毛布も起きるための毛布もない。」とマグ・マグ人は言った。
《感想2-2》だが「毛布が両方(寝る・起きる)兼用である」ことと「寝るための毛布も起きるための毛布もない」ことの間に、因果連関も論理的連関もない。両命題を「それなら」と連関させるマグ・マグ人の思考回路が地球人に不明だ。

(し)-2 「お前が欲しいのは、寝るための毛布か、起きるための毛布か?」と「どちらもない」のに訊いた!
《感想3》マグ・マグ人が、「お前が欲しいのは、寝るための毛布か、起きるための毛布か?」と訊ねた。ところが実は「どちらも(持って)ない」のに訊いたのだ。「(持って)ないのなら訊くな」とおれ(地球人)が思ったのは当然だ。このようなことは、地球人の場合、相手をからかう時にする。
《感想3-2》マグ・マグ人はおれ(地球人)をからかったわけでない。自分が毛布の「どちらもない」が、ただおれ(地球人)の欲求の内容を確認したかったのだ。かくて「お前が欲しいのは、寝るための毛布か、起きるための毛布か?」と訊ねた。だが地球人は、それをからかいととらえる。
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