宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

富岡多恵子(1935-2023)「動物の葬禮」(1975年):母ヨネと娘サヨ子はかつて「ひとり親と子供から成る世帯」だった!今、ともに金がない母ヨネも、成人した娘サヨ子も生きていくのに必死だ !

2024-02-26 13:58:11 | Weblog
※富岡多恵子(1935-2023)「動物の葬禮」(1975年、40歳)『日本文学100年の名作、第7巻、1974-1983』新潮社、2015年、所収
(1)
指圧師の林田ヨネは55-56歳で一人住まいだ。ヨネの一人娘サヨ子は中学を出るとすぐ、勝手に近くの喫茶店につとめ、化粧品の宣伝ガールをつとめるなどした。その後、ヨネの2間の長屋から出て行って、どこに住んでいるかわからない。今、20歳そこそこのサヨ子は、時たまヨネの家に帰ってくるが、モノをもらうためか、金をせびるためだった。サヨ子は背の高い男「キリン」と暮らしている。「サヨ子は水商売をしているだろう」とヨネは思った。ヨネは指圧を行う先の支店長のおくさんや工場主のおくさんから色々ものを「もらう」のが好きだ。
(2)
ある日、サヨ子が久しぶりにヨネの家に、自動車で帰ってきた。「お母ちゃん、キリンつれてきた」。「蒲団敷いて、蒲団を!」「お母ちゃん、キリンを運ぶから手伝うて」とサヨ子が言った。ところがキリン(サヨ子の夫25歳)はすでに死んでいた。病没(胃がん)で死亡証明書があった。「お通夜と葬式ここでさしてもらうわ」とサヨ子が言った。
(3)
サヨ子は「このひとは、親も兄弟も、親戚もいてへんのよ」と言った。その翌日、サヨ子は「さあ、キリンのカタキ討ちや」と出かけて行った。ヨネは「葬式には金が要る」と心配した。サヨ子が花、葬式屋、仕出し屋、酒などの用意をした。キリンの母親はキリンが小さい頃、キリンを捨てて再婚して金持ちぶってる。サヨ子は知らんぷりするキリンの母親から「香典」と言って金を出させた。またサヨ子はキリンの親分の社長からも「金」をださせた。
(4)
サヨ子が「キリンのカタキ討ち」でえた「金」で「キリンの葬式」つまり「動物の葬礼」は無事、終わった。
(5)
ヨネは再び指圧師の仕事に出た。サヨ子はキリンの関係の「安キャバレー」はやめ、ヨネの家に引っ越してきた。ヨネは支店長の奥さんから、嫁に行くことになった娘の「古い靴3足や古い洋服数着」をもらって来た。ヨネは娘のサヨ子が勝手に越してきたことにいら立った。さらにサヨ子は支店長の娘の「靴・洋服」を勝手に自分のものにしようと風呂敷に包み、ヨネに届かないよう高々と持ち上げた。
(5)-2
サヨ子は母親におどけ、じゃれていたのかもしれなかった。だがヨネはそれに気づかず、サヨ子を引きずり倒した。そのとき、サヨ子は母ヨネに向かって「なにするのん!危ないやないの!欲ボケ!」と叫んだ。「なにが欲ボケや、あんたこそ、ひとのもの黙ってとって、ドロボーやないか!」とヨネは言った。二人は掴み合いになった。

《感想1》ともに金がない母ヨネも、成人した娘サヨ子も生きていくのに必死だ。

《感想2》母ヨネと娘サヨ子は「ひとり親と子供から成る世帯」だった。次いで母ヨネの「単独世帯」と娘サヨ子とキリンの「夫婦のみの世帯」となった。今や「母親と成人である子供から成る世帯」になった。

Cf. 1960年代以降は、国がモデルとする「標準世帯」(夫・会社員、妻・専業主婦、子供2人)が急激に増えた。
Cf. この小説が発表された1975年は、「標準世帯」が最多だった時代に属す。やがて「標準世帯」は減少していき、2010年には最も多い世帯は「単身世帯」となった。
Cf. 2015年「国勢調査」の世帯類型によると、「単独世帯」34.6%、「夫婦のみの世帯」20.1%、「夫婦と子供から成る世帯」26.9%、「ひとり親と子供から成る世帯」8.9%等々である。

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