まゆつば通信

良心に従い真実を述べ何事も付け加えない「まゆつば通信」

 後悔

2014-02-08 | Weblog

 

         

            「 後悔って する? 」

            「 しない 」

            「 ふ ~ ~ ん 」

            「 後悔って、だいたい結果論だし、もう一回元に戻したって・・ ひとが変わってなけりゃ

            また同じことする 」

            「 そう・・・・・ か 」

 

 

 

            ひとつだけ “ 後悔 ” と言うのがある。

 

            父方の祖母はわたしが5歳の春、自宅で亡くなった。

            年末に胃癌が判ったが、当時総合病院では 「 70を超えた方は・・・・ご近所の先生に

            診ていただいて下さい 」  と所謂 さじを投げられた そうだ。

            祖母は普段の位置に布団を敷き一日横になっていた。 近所のかかりつけ医が一日一回

            往診にみえ、おそらく鎮痛剤の投与がされていたいたと思う。 それでも祖母は午後に

            なるとお腹を抱えるようにして、低い唸り声をあげていた。

            

            春先の大雪が降ったある日、小康を得た祖母は通りかかったわたしを枕元に呼び

            「 Mちゃんよう、あそこの鶏小屋の屋根の雪、少し茶碗かなにかに取って来てくれないか、

            ちょっと食べてみたいんだ 」

            困ったな ・ ・ ・  と正直思った。 雪を取って来ることは多分できるが、病気の祖母に

            雪なんか食べさせて、祖母の身体が心配というより 「 なにやってんのっ!? 」 あとから

            おとなに怒られるのが怖かった。  「 おばあちゃんがね・・・・・」 わたしは大人に祖母の

            頼みを伝えた ( 伝えてしまった ) 案の定おとな達は 「 え~・・雪なんか・・・ のど渇いた

            んなら ・ ・ ・ そうだねぇ ・ ・ これがいいか 」 蓋の開いたパイナップル缶を持って来て

            シロップを匙で祖母に飲ませた。 『 違う! おばあちゃんはのどが渇いたんじゃ無い、

            雪が、あそこの雪が食べたかったんだ ・ ・ 』 支配的なおとなの中でそうは言えなかった。

            祖母は黙って匙のシロップを飲んでいた。 それを見てわたしはおとなに言ってしまった

            ことを強く後悔した。 祖母は、おとなは聞き入れないだろう依頼を子どものわたしに期待

            したのだ。 それが分かったわたしは自分のおとこ気の無さが悲しかった。

            

 

            それから一ヵ月くらいして祖母は亡くなった。

            翌朝 「 もう、要らないからね 」 と父に言われ、枕元に残った大きな瓶に入った水薬を

            捨てに行かされた。 

            春の陽射しの明るい朝だった。

            台所の先の植え込みの下に水薬を捨てた。

            祖母の枕元で見慣れた茶色の液体がゴボゴボ ・ ・ と音を立てて流れ出し、大きな透明の

            薬瓶だけがわたしの両手の中に残った。 

 

            わたしは、また強く雪の日のことを後悔した。  

 

 

 

                    

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