Look To The Sky

フルーティスト大久保はるかのブログです

採用されるかなあ・・

2008年09月08日 10時21分04秒 | Weblog
以下日本フルート協会の会報あてに送った原稿です。長いです。まじめくさってます↓

第6回 イギリスフルートコンヴェンションに参加して
大久保はるか (No.5357)

2008年8月21日から24日までの4日間、イギリス マンチェスターにある音楽大学 Royal Northern College of Music (英国・北王立音楽院) 構内にて、イギリスフルート協会主催 Sixth International Convention (第6回 インターナショナルコンヴェンション) が開催されました。今回私は大変光栄なことにアーティストとして公式招待され、演奏および公開レッスンを行いました。私のイギリス留学時代の恩師トレヴァー・ワイ先生は、近年の私の仕事であるボサノヴァの楽譜やCDに大変高い評価をくださっていて、是非一度イギリスのコンヴェンションで生の演奏を、とのオファーを頂いたのです。

大学はロンドンから北へ約300キロに位置し、敷地内にはオペラハウス、リサイタルホール、スタジオ、バー、宿泊施設などすべて整ったとても素晴らしい環境にありました。今年はイギリスフルート協会創立25周年ということで参加者全員に記念の置時計が配られた他、招待アーティスト限定品と称し、立派な趣のある手帳を頂きました。

期間内はリサイタルとマスタークラスの嵐。朝7時から夜11時すぎまで、実にさまざまなイベントが同時間帯にひっきりなしに行われているので、見学者はその選択に困るほどです。ソリストにはウィリアム・ベネット、シャロン・ベザリー、デニス・ブリアコフ、ミシェル・ドゥボスト、ティモシー・ハッチンズ、バルトルド・クイケン、イアン・クラーク、ロバート・ディック各氏などなど。グループでの演奏者を含めるとその数70組以上。マスタークラスは朝のウォームアップクラス、ソリストとのトーククラス、アルトフルート、ピッコロ、バスフルートなどの各シンポジウム、ヨガによるリラクゼーションテクニックなど盛りだくさん。

22日夜、ソリストのみが集まるレセプションがあり、上述の各氏らがお酒を片手に親交を深めていく中、とても流麗な日本語で私に話しかけてくださったのはアメリカ人尺八奏者のエリザベス・ベネット氏 (ウィリアム・ベネット氏と血縁関係はないそうです)。彼女はいわゆるヨーロピアンフルートの経験はなく、幼い頃偶然聞いた尺八の音色に魅せられて、ついにはプロとなったそうです。アメリカ人で尺八を奏する彼女、かたや日本人でありながらヨーロピアンフルートでブラジルポピュラー音楽を演奏する私。どことはなく環境が似ている気がしてとても話がはずみました。

23日夜、校内のバーにてボサノヴァの演奏を行いました。ギター伴奏は私が出版したCD付楽譜集の演奏で大変お世話になっている加々美淳氏。今回バーでの演奏ということなので、いつもより少しアップテンポで爽快なかんじに仕上げました。曲目はイパネマの娘、Wave、おいしい水、ワン・ノート・サンバ、デザフィナード、黒いオルフェ、オルフェのサンバ、コルコヴァードなど。演奏を始めるやいなや、なんとミシェル・ドゥボスト氏が前にいらっしゃり、曲に合わせて楽しそうに踊ってくださっています!するとすかさずBFSスタッフカメラマン達が彼の元に一斉に群がり、踊るドゥボスト氏の映像をカメラにとらえていました。

24日昼すぎより、公開レッスン How to play bossa nova, improvise and play jazz を行いました。アドリブビギナーのために最初のきっかけを与えるような授業をして欲しい、との依頼を受け臨んだ50分授業。受講者は昨晩の私達の演奏を聞いて興味を抱いた様子で、約40人~50人程が集まりました。課題曲として「黒いオルフェ」「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」の2曲を用意し、その場で挑戦者を募ったところ、思いのほかみなさん積極的に手を挙げてくださり、とても充実したレッスンとなりました。世界的にみても、ポピュラー・ジャズ系のフルート教本の類は、まだまだ充実しているとはいえない現状において、「これから勉強したいのだけれども、どのように練習すれば良いのか」「いわゆるモードについて、どう理解すればよいのか」といった質問も出ました。これからポピュラー音楽を極めていきたい、という方に対するアドヴァイスとしては、コードネームを読む練習と、教会旋法 (Church Modes) を含めたジャズ理論を勉強すると良い、と言って、皆様に大きな拍手を頂きつつ大成功のうちに終了しましたことをご報告いたします。

最終日夜、再びバーにて演奏。Bar Jazz with Lulu and Jun Kagami, guitar とタイトルが付いていたこともあって、この日はジャズ系の曲を多く演奏しました (私は向こうでは Lulu という愛称で呼ばれています)。この日のプログラムの中にどうしても入れたかったのは、ジャズ・サックス奏者ベニー・ゴルソンの書いた名曲 I Remember Clifford (クリフォードの思い出)。この曲は彼の友人であるジャズ・トランペッター、クリフォード・ブラウンが亡くなった時に彼を偲んで書かれた曲です。ウィリアム・ベネット氏やトレヴァー・ワイ氏のピアノ伴奏者として、またソリストとして長年ご活躍したクリフォード・ベンソン氏が昨年若くしてお亡くなりになり、彼を追悼する意味を込めてどうしても演奏したかったのです。

この曲を演奏する時だけは周りに静かなシチュエーションを必要としたため、事前にトレヴァー先生に頼んで一言皆の前でコメントしてもらい、静寂な環境を整えて頂きました。演奏が終わるとW・ベネット氏が私のところにいらしゃり、 「君のそのソロ、書いてるの?インプロ(アドリブ)なの?」 と聞かれたので 「インプロです」 とお答えしたら 「Beautiful! クリフォードも (天国で) きっと喜んでいると思うよ」 とおっしゃいました。トレヴァー先生にも強くハグして頂き、後のメールで 「クリフォードの曲ありがとう。泣かされたよ・・・」 とのコメントを頂きました。

今回アーティストとしての参加だったため、他のコンサートを聞きに行く時間があまりなかったのが残念でしたが、日本人フルートアンサンブル Concert Lumiere (コンセール・ルミエール) とW・ベネット氏の共演はスタンディングオベーションが出る位の大盛況でしたし、バルトルド・クイケン氏のトラベルソ・ソロリサイタルにはしみじみと感動、ミシェル・ドゥボスト氏のリサイタル&トークでは彼のちゃめっけのある一面も垣間見ることができて、とても楽しめました。 (いやあ、僕はかれこれ65年もフルートをやっていてね・・まったくひどいもんだよ、などと冗談交じりに語り会場を沸かせていました)

コンヴェンションは数多くのボランティアスタッフに支えられ、運営されているように見受けられました。特に大学正門入り口のレセプションデスクでは、我々外国人アーティストに対するきめの細かいご配慮をして頂き、とても感謝しています。

マンチェスターは今回が初めての訪問となったのですが、市全体がひとつの学園都市のようになっていて、マンチェスター大学をはじめ周囲にあるいくつもの大学がどこかインテリジェンスあふれる雰囲気をかもし出しています。古くて美しい彫刻が施された大きな教会、タウンホール (市役所) を中心とした町並み、中世から存在していたかのようなたたずまいのパブ (バー)、またこの地には多くの外国人も住んでいるようで、近くには中華街やインド人街もあり、中華料理やインドカレーなども堪能しました。また是非訪れたいと感じられるその場所にて演奏できたことに大変な喜びを感じています。

写真:トレヴァー・ワイ氏と筆者