日本フルート協会会報No.233が発刊されました。小生、アレクサンダテクニーク受講記録を連載しています。下記に転載します。
かわかみ先生のキビシーイ検品チェック
!!をクリアした原稿です。信憑性は高いと思われます。
自分で言うのもナンだけど、これ見ると、大久保さん、がんばってるなーえらいなーって感じ(笑)
《 フルート演奏における身体コンディション調整とアレクサンダーテクニーク 3 》
大久保はるか (No.5357)
【5月23日 個人レッスン】
先生「先日(5月20日)の本番はいかがでしたか?」
私「お陰さまで本番は無事終了しました。ステージ上で咳の発作は一切出ませんでしたのでホッとしているところです。ただ、その日の打ち上げが盛り上がり過ぎまして(笑)、結局翌日の朝まで飲み歩いて始発電車で朝帰りという、まるで学生みたいなことをやらかしてしまいました。その日の明方頃から喉が痛くなってきて、今は咳喘息の症状がぶり返しています。単に不摂生によるものだと思います(苦笑)。それでですね、実は明後日、別口の本番がありまして、焦っています。」
と申し上げて、予定曲の触りを演奏してみる。
先の本番終了後フルートを吹いていなかったこともあり、自分の調子を探るのに精一杯の演奏しか出来なかった。
先生は「一度楽器を置いて、『イスの背に両手を置く hands-on-the-back-of-the-chair』というワークをやってみましょうか」
とおっしゃり、イスを縦に2つ並べた。私は後方のイスに浅く座り、前方に置いたもうひとつのイスの背もたれを両手で軽くつまむような動きを先生の指導の下に行った。
イスの背もたれに手を置く際、まずは親指以外の4本の指をイスに触れさせ、その後親指を添えて、結果、イスの背もたれを前後からつまむような形になるこのワーク、やってみると、フルートを持つ時の筋肉の感覚に近いので面白い。そこで、長年運指のトレーニングをする際に気になって仕方なく、さりとて誰に相談することも出来なかったことを打ち明けてみた。
私「フルートを吹く際の左手ですが、親指と残り4本の指とでは、指を動かす際使われる筋肉の系統が大きく分かれるような気がしてならないんですが、その考えは正しいのでしょうか?」
先生「ああ、正解ですよ。」
私「やっぱりそうでしたか!それでは、そのチグハグに使われている筋肉を、無理やり一致させよう、というような考えの下で指のトレーニングに臨まなくて良い、ということですね?」
先生「はい。そうです。」
・・・・・長年の疑問から解放され、開眼した瞬間だった。難しい運指のトレーニングは、その出音を均等にすることが目的だが、何も自分の筋肉の感覚まで均等にしよう、などと思う必要は全くない筈なのだ。
イスの背に両手を置く
【6月4日 グループレッスン】
私がグループレッスンを受講している会場は、家から約2時間ほどかかる場所にある。会場に向う電車の中では、ここ最近の自分の暮らしぶりを振り返ったり、今日はどのようなことに視点をおいてフルートの演奏を見ていただこう、などぼんやり考えていることが多い。
思えば5月は、ゴールデンウィーク中に演奏の仕事があり、その後20日、25日と、合計3本の別口の本番があって忙しかった。このスケジュールがはっきりした時、この際5月は25日まで仕事に徹することにして、その後マイ休日を取って遊びに出かけ、そのあたりを自分にとっての遅いゴールデンウィークとしよう、と決めていた。
このマイ休日、気がつけばとんでもなく大型連休になり過ぎてしまい(苦笑)、結局先日の本番以来この日まで丸々10日間楽器に触らず遊び呆けた結果となった。
レッスン会場に着いたら、私とは全員初対面の合計7名の受講者の方々がいらっしゃった。私が演奏する番になったら、皆イスを移動させ、ステージ上のパフォーマーと観客席というような並びになり、こんなことになるのだったらせめて今日の朝にでも少しは音出しをしてくれば良かった、と後悔したが、時すでに遅し。
軽く音出しをした後、2週間後に控えているレコーディング合宿での収録予定曲の触りを吹いてみる・・・・が、例によって非常にまずいサウンド・・・まるで時期はずれの正月ボケのような音(苦笑)に自分でゾッとしてしまった。
よっぽど聴くに耐えられないサウンドだったのか、
演奏途中で先生が「すみません、途中ですが、」と遮断。(註1)
先生「(演奏して)いかがですか?」
私「いやあ、調子悪いです。」
先生「・・・ですよね。一度楽器を離れてこのような動きをやってみましょう」
とおっしゃり、
人と向かい合って立ち、お互いの腕を繋(つな)いで、徐々に膝を曲げて腰を落としてゆき、最後は完全にしゃがみこむ、そしてまたそこからゆっくりと立って行く、というワークをした。(註2)
「立っている状態から、膝を曲げて行きましょう」と言われると、つい、「腰だけでがんばって動いて行こう」、もしくは「腰からがんばって動かそう」とし過ぎてしまう時がある。このような時は傍からの見た目として、出っ尻で腰が引けてしまっている状態でカッコが悪い上、身体のバランスがとりにくい。このような動き方をすると、綱引きで負けたときのような感じで相手方向に引きずられてしまうこととなる。
バランスよく相手に支えられながら、相手を支えつつ、両膝を曲げて行くためには、具体的に引っ張っている、ひっぱられている腕の感覚よりむしろ、自分の背中、胴体全体の長さ、広さ、奥行きを同時に思い出してあげると良い、というようなお話であった。
最初の数回は、出っ尻で腰が引けてしまっている状態には全く気がつけず、すぐにバランスを崩し敗退してしまったのだが、「腰のみをどうこう」と考えず、「腰は胴体の一部で、背中の広さ、長さ、胴体の奥行きのことも考えて」と発想を変えてみたら上手く行き、きれいにバランスを崩さずしゃがむことが出来た。
上手く行ったテイク時には、何故か同時に呼吸が楽になり、肺活量が急に増えたような感覚、肺そのものが少し背中側に膨らんだかのような感覚もあった。
そして再びフルートを演奏。1度目に比べてかなり調子が上がった。
その後、今度は先日個人レッスンで行った、『イスの背に両手を置く hands-on-the-back-of-the-chair』というワークを行った後に三度演奏。
更に調子が上がり、他の生徒さん達から拍手を頂けたことは嬉しかったが、ここで甘んじて明日以降あまり練習をしなくなり、「アレクサンダーテクニークのレッスンさえ受けていれば楽器が上達する」という極論に走ってしまうのは明らかに違うな、ということも同時に確信。
「いかに練習するか」というのはパフォーマーの永遠の課題だと思うが、練習には「無駄な練習」と「効率の良い練習」というものがあり、より効率の良い練習が出来るための身体作りのためにアレクサンダーテクニークを学んでゆこうと思う。
ああ、明日から時期はずれの正月ボケを直そう・・・・
手を繋いだスクワット
【6月6日 個人レッスン】
この日はフルートとピッコロの持ち替え演奏を見ていただいた。私は普段フルート、ピッコロ、アルトフルート、バスフルートの4種の持ち替え演奏をしているのだが、ピッコロへ持ち替える時が一番緊張する。
そもそもリスナーとしても高音域を聴くのはあまり得意ではない。ソプラノ歌手のハイトーンや、バイオリンの高音域、ピアノの高音域の響きも苦手。高音楽器であるフルートを自分の専門として選んでしまったことを今まで何度後悔したことか知れない。
ただ、私が普段演奏を行っているジャズ・ポピュラー系のイベント会場では、フルート1本だけで一晩がんばるよりも、4種並べて使い分けるスタイルの方がお客様にはより楽しんで頂けるらしいということを知ってからここ数年、演奏曲を選びつつも効果的にピッコロ演奏を取り入れるようにしている。
まずはフルートを吹いて、そしてピッコロに持ち替えて演奏。
・・・やはりピッコロはアンブシュアが定まりにくいように感じる。特に高音域に上がっていくフレーズの際、音が出にくくなる。
先生が突然、「急に話が変ってしまいますが、歌を歌ってみたらいかがですか?」
私「へっ?歌ですか?・・・えっ・・イヤなんですけど(笑)・・・」
先生「まあ、そうおっしゃらずに、何でもいいですので。そして歌うときに、低い声から高い声に移る時のご自分の喉の動きに注目してみて下さい」
とおっしゃるので、仕方なくド・レ・ミ・ファ・ソ~と音階を歌ってみる。
高い声は出しにくい。のどに過剰なハリと負荷がかかる感じがしてしまう事が良くない気がして、力を抜いて出そうとするが上手く行かない。
先生「咽頭(いんとう)には甲状軟骨(こうじょうなんこつ)といわれる骨があります。高い声を出すときには、おじぎをするように下に傾きます。つまり動くのです。そしてその動きは、必ず周辺の筋肉の必要な緊張によって引き起こされます。」
・・ということは高い声を出す時、喉がスジ張ってくるような緊張を感じることは、ある程度なら許しても良い、ということなのか・・・のどに緊張を感じることは必ずしもいつもNGというわけではないのか・・・
そして今度は、もう一度ド・レ・ミ・ファ・ソ~を歌いながら先生のアドヴァイスに従い、高音時に甲状軟骨がおじきをして傾く方向を自分の手のひらで指し示しながら歌った。
・・・すると、高音域がとても楽に歌えた。
先生「ピッコロの音は高いですよね。もしかしたら高い声を出す時の状態と似ている所があるのでは?」
の一言にハッとしつつ、ピッコロを持って、先ほどの歌と同じようにゆっくり音階を吹いた所、いつも出にくいと感じる高音域がとてもラクに出せた。
思えば私はピッコロやフルート高音域の練習をする際、「力を抜こう、抜こう」とし過ぎてしまう嫌いがある。必然的に生まれるある程度の筋肉のハリは、ハリとして認めてあげよう、許そう、という気持ちが大切なのかもしれない。
【6月6日 個人レッスン 終了後】
6月6日受講の『歌を歌うときの甲状軟骨の動き』について、その後数週間掘り下げて考えていた。
例えば、歌で「ド~ド」と、1オクターブ上へ跳躍がある音程を歌うとする。高い声を出す際、甲状軟骨の大きな動きを喉の動きとして容易に感じることが出来る。それではフルートで中音域C音から1オクターブ上のC音を出す際はどうであろう。歌を歌う時と全く同じような喉の動きは必要ない筈なのである。
下手をしたら喉の動きとしては『跳躍ナシの同じドの音を2回歌う』位の感覚でも十分高い音は鳴らせる筈なのである。
ところが私の場合、特に下から上へ大きな音の跳躍があるフレーズの際、気がつくと、『歌を歌う時と全く同じように甲状軟骨を動かそう!動くべきだ!』という風につい思ってしまい、結果余計な緊張を喉に与えてしまう嫌いがある、という大発見があった。
面白い。非常に面白い発見である。
過去に受講したフルートレッスンの中で、その時には先生から言われた事を全く理解出来なかったとしても、数日後、数週間後、数ヵ月後、はたまた数年後に、それまで経験した色々なこととつながって理解でき、突如として「わかった!」と思える瞬間がある。気づきの瞬間の面白さという点においては、音楽レッスンとアレクサンダーテクニークのレッスンは相通じるものがあり大変興味深い。
今回新しく芽生えた気づきの芽を大切に育ててゆこうと思う。
【 かわかみひろひこ氏による註釈 】
(註1)この日のグループは人数が多かったため、そしていろいろなワークの後の変化を大久保はるかさんに体験していただきたかったので、時間の制約上、演奏を中断していただいたのです。
(註2)手を繋いだスクワット。アレクサンダーテクニークの基本的な方向、つまり、「首が自由になるのを許してあげて、(どんなふうにかというと)頭が前に上に、(どんなふうにかというと)胴体の奥行きを思い出しつつ背中が長~く広~く、(どんなふうにかというと)両膝が股関節から前にお互いに離れて行く【太ももが長~い長~い】。すべてが同時にそして順番に」、このからだ全体の関係を大事にして、首や背中側(腰部や臀部を含む)、胸、腋の下が広がったまま、股関節も解放したまま行う。
しゃがんでいくときに、あるいはしゃがんだ状態から立っていくときに、仮に膝や太ももに負担が増えるようであれば、失敗である(股関節周辺の筋肉を固めてしまっていることが原因であることが多い)。
そういった場合、しゃがんでいきながら、あるいは立って行きながら、胴体の奥行きを大事にしつつ、太ももを小さく開いたり閉じたりしてみると上手く行くこともある。
しゃがんでいくときに、あるいはしゃがんだ状態から立っていくときに、仮に肩や腕に負担に負担あるいは負荷の増加を感じるようであれば、失敗である。肘はやや曲げておき、肩甲骨や鎖骨を二の腕が向いている方向に突き出さないようにすると、からだの背中側だけではなく、からだの正面側も広がり、肩や腕の負担が軽減できることもある。
いずれにせよこの手順を適切に行うためには、アレクサンダーテクニークの教師の指導を直接受けていただくことをお薦めする。