「クインテットー五つ星の作家たち」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館
「クインテットー五つ星の作家たち」 
1/11-2/16



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「クインテットー五つ星の作家たち」を見て来ました。

国内で主に平面に取り組む5名の作家を紹介する展覧会「クインテット」。各作家の表現の響きあう様を五重奏になぞらえて紹介する。つまりは現代美術のグループ展でもあります。

今回は以下の5名の作家が参加。キーワードは風景です。と言っても具象や写実という言葉で捉えられるものでもありません。なかなか興味深い内容となっていました。

[出品作家]
児玉靖枝、川田祐子、金田実生、森川美紀、浅見貴子


会場内、撮影が可能(企画展示室のみ)でした。


児玉靖枝「深韻ー雨三、四、二」 2010年 油彩、キャンバス 神奈川県立近代美術館

冒頭は児玉靖枝です。断片的なストロークによる木立の景色。一転しての緑深き森。「深韻」です。視点は暗がりの下草から霞のかかる上部へと移動する。縦長の構図はコロー画を連想させる面も。雨が降っています。ほぼ緑一色ながらも、グラデーションに細かやな変化の見られる作品です。


児玉靖枝「わたつみ」 2011年 油彩、キャンバス

「わたつみ」はどうでしょうか。葉山の地を訪れて描いたという海のシリーズ。夜景なのかもしれません。穏やかに波打つ水面は藍色にも染まっている。絵具に託した水の重み。そうしたものも感じさせます。


川田祐子「WHERE IS THE MOON」 2003年 アクリルガッシュ、キャンバス

続いては川田祐子です。現在は長野にアトリエを構えるという画家。ともかく印象深いのは斑紋とも言える絵具の粒状の広がり。それが何層にも積み重なっています。


川田祐子「風はみちびく」他 2013年 アクリルガッシュ、キャンバス

そして近作ではより大胆な動きを獲得している。表現の自由度が増したのでしょうか。傷跡のような細かな線描も目を引きます。深い海底なのか雲の靡く大空か。はたまた星の散らばる宇宙なのか。深淵なイメージが広がりました。

それにしてもこの無限に増殖していくようなモチーフ。スクラッチやハッチングの技術を繰り返しています。画家は中国画にも影響を受けたそうです。確かにどこか「気」と呼べるようなものも感じるかもしれません。


金田実生「湿り気に濡れる」 2005年 油彩、紙 文化庁

先へ進みましょう。こちらは金田実生。「アーティスト・ファイル2009」(国立新美術館)にも出品のあった画家です。鮮やかな色の世界。ぼんやりと浮かんでは光る朱やピンクに白。まるで明かりが点滅するかのようです。薄い紙に流し込んだ絵具の瑞々しい質感にも心惹かれます。


森川美紀「クムジュン」 2013年 油彩、綿布

上から下へと大きく流れるストローク。地へ溶け込むような色の美しさ。光のきらめきと風の吹き込み。ステイニングさえ思わせる感触。森川美紀です。


森川美紀 展示風景

また森川で興味深いのは家のモチーフが随所に見られること。これは自らが訪ねた場所の家の姿を記憶から引き出しているとか。家と色との曖昧な関係。心象風景と言っても良いかもしれません。

そしてラストは浅見貴子。一昨年のギャラリーαMの個展でも見事な展示を見せていた。ずばり今回、最も楽しみにしていた画家です。


浅見貴子「双松図」 2012年 墨、胡粉、雲肌麻紙

出品は8点。古いもので2009年の作品。また屏風型の「双松図」もお目見えしています。なおαMではスペースの都合上、中央の面を左右から取り囲むような展示でしたが、今回は本来的な交互に折重なる屏風仕立てです。印象も変わります。


浅見貴子 展示風景

主なモチーフはシンプルな樹木。しかしながら描法は独特です。墨を和紙の裏側からのせて描いています。故に景色は反転する。墨や顔料の滲み。それが点々と広がってリズムを生む。時にドリッピング的なイメージも呼び起こします。


浅見貴子「錦木2013」他 2013年 墨、胡粉、白麻紙

先だっての個展以降に制作された新作も出ていました。中でも美しいのは「錦木2013」。エメラルドグリーンを背景に広がる白い樹木。黒が滴り落ちる。実に魅惑的でした。

画家はいずれも60年代生まれの女性です。展示は年齢順なのでしょうか。またモチーフ云々はもとより、素材や色に対する画家の意識の違いにも目が向きます。


「クインテット」展示風景

「風景」は見る側の心を写す鏡ともなり得る。数年後に改めて各作家の制作に接した際にどうした印象を受けるのか。少し追いたいとも思いました。

2月16日まで開催されています。

「クインテットー五つ星の作家たち」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:2014年1月11日(土)~2月16日(日)
休館:月曜日。但し1/13日は開館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学・高校生300(200)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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