「木島櫻谷展」 泉屋博古館分館

泉屋博古館分館
「木島櫻谷ー京都日本画の俊英」
1/11-2/16



泉屋博古館分館で開催中の「木島櫻谷ー京都日本画の俊英」展を見て来ました。

明治から昭和にかけての京都で日本画を描き続けた木島櫻谷(1877-1938)。例えば上のチラシに掲げられた代表作「寒月」。例えば先だっての「夏目漱石と美術世界展」にも展示がありました。しかしながらそれ以外の作品はどうでしょうか。少なくとも関東ではあまり知名度の高い画家ではないかもしれません。

実のところ私も漱石展の際に「寒月」に惹かれたものの、そもそも他の作品を殆ど見たことがなく、画業を追ったこともない。しかしながら今回の展示に接して感激しました。また一人、かけがえのない日本画家に出会った気がします。

さてまずは名前から。「このしまおうこく」です。市中の三条に生まれ、円山四条派の流れをくむ今尾景年のもとで絵の道へと進む。早くから才能を開化し、30代の頃までは一気呵成の筆さばきで動物や人物を象っていく。その後は色彩美を重視した緻密な作品を展開。晩年には郊外に居を構え、画壇とも距離を置いて、自適に南画風の作品を描いた。

会場では前半で櫻谷の画業を時系列で追い、後半には大正期に住友家のために描いた琳派風の四季の連作を見せる。出品は資料あわせて約40点(展示替えあり)です。泉屋の手狭なスペースではありますが、かなり見応えのある展示となっていました。


「奔馬図」明治時代 展示期間:通期

いきなりの一枚目から惚れこんでしまいます。それが「奔馬図」。櫻谷20代の作。墨の濃淡を用い、巧みに馬の駆ける様を描く。輪郭線を使わない四条派の由来の付立と呼ばれる技法だそうです。

そして「咆哮」です。右隻に吠える虎を配し、左隻にはそれに慌てふためいて逃げ惑う鹿を描く。こちらも櫻谷の若い頃の作品ですが、大きくとった色面に細やかな線を入れて動物の身体を表す様子。見事な筆さばき。さらには鹿の瞳です。ともかく櫻谷の描く動物は瞳が澄んでいる。これが大変に魅惑的なのです。


「寒月」(左隻)大正元年 京都市美術館 展示期間:1/11~19、2/11~16

さらには代表作の「寒月」です。一面の雪に覆われた竹林。半月が浮かび、モノクロームの闇夜に沈んでいる。そして手前から奥へと竹が連なり、また左右に空間が広がる。深淵でかつ静謐な空間。竹の太さを変化させて遠近感を生み出しているのも巧妙。墨の上に仄かに灯るのは青色の顔料です。月明かりを受けて煌めく竹の美しい色彩。そして足跡を残して歩くキツネ。ぽつり。孤独ながらも、眼差しは鋭く、生命感にも満ちている。思いがけないほどに強い。比類がありません。

少し動物に戻りましょう。実際に動物好きだったという櫻谷、時に動物園へと通い写生を重ねていたとか。本展でもそれこそ狐や猪に鹿、また牛に馬に猫など。たくさんの動物が登場します。


「獅子」大正~昭和時代 櫻谷文庫 展示期間:通期

「獅子」はどうでしょうか。少し横を向いて座る堂々たる獅子。得意の細線を多用してたてがみを描く。色味も繊細。肉付きの良い獅子の躯を見事に捉えている。ここでも瞳です。どこか憂いを帯びているようにも見えないでしょうか。


「葡萄栗鼠」大正~昭和時代 展示期間:通期

もっと身近な小動物もお手の物です。「月下老狸」ではひょっこり草むらから顔を出す狸を描いている。少し上目遣い。餌でも欲しがっているかのようです。可愛らしい姿をしていました。


「行路難」(左隻)大正11年 京都国立近代美術館 展示期間:1/11~26

人物画へ進みます。興味深いのは「行路難」です。右隻には一面の柳、そして左隻には旅の一行。家族なのでしょうか。老夫婦と若い少女。老人は肩を落としてくたびれた様子をしている。またふと背後に目を向ける少女の虚ろな目線も気になります。

何でも本作は櫻谷に珍しい風俗画だとか。貧しい人々への眼差し。繁茂する柳はそれと対比するための意味も持ちえているそうです。


「柳桜図」(左隻) 大正6年 泉屋博古館分館 展示期間:通期

さて一転しての第二展示室では眩しいばかりの金色の屏風がずらりと空間を取り囲んでいます。こちらが住友家の邸宅を飾ったという注文作品。咲き誇る桜に降り注ぐ柳の「柳桜図」から琳派の伝統的な主題を落とし込んだ「燕子花図」など。実に雅やかです。

ただし作品は必ずしも琳派的というわけではなく、例えば「雪中梅花」における屈曲する幹の描写などは、山楽を学んだ跡も見られるという指摘もあるそうです。それはともかくも柳桜に燕子花に菊に梅花。金との響宴。動物画や人物画とはまた異なる華麗な世界。多芸な櫻谷の一側面を見る思いがしました。


「寒月」(右隻)大正元年 京都市美術館 展示期間:1/11~19、2/11~16

ところで先にも触れた「寒月」、漱石展でのキャプションを覚えておられるでしょうか。当時、ある意味で自由に批評を展開していた漱石、文展に出品された本作を「不愉快」だと酷評しています。今振り返ってみれば何故にというところではありますが、そこは図録で同館学芸課長の野地耕一郎氏が「漱石先生、そんなに櫻谷の絵はお嫌いですか?」という論文で反論されています。これがまた読み応え十分です。


木島櫻谷展図録

ちなみに本図録、図版、年譜、解説しかり、おそらくは櫻谷の画業を見る上では決定版と言えるのはないでしょうか。1800円です。迷うことなく購入しました。

最後に展示替えの情報です。前後期で途中、掛幅画を中心に10点ほどの作品が入れ替わります。

前期(1・2期):1月11日(土)~1月26日(日)
後期(3・4期):1月28日(火)~2月16日(日)


前後期ともさらに会期が分かれていますが、これは「寒月」と「しぐれ」の出品期間によるものです。「寒月」は第1・4期(1/11~1/19と2/11~2/16)、そして「しぐれ」が第2・3期(1/21~2/9)に展示されます。ご注意下さい。(それ以外は全て前後期での展示替えです。)


「しぐれ」(左隻)明治40年 東京国立近代美術館 展示期間:1/21~2/9

なお前期のチケットを展示替え後に提示すると観覧料が半額になります。要保存です。

2月16日まで開催されています。これはおすすめします。

「木島櫻谷ー京都日本画の俊英」 泉屋博古館分館
会期:1月11日(土)~2月16日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館、翌日休館。
時間:10:00~16:30(入館は16時まで)
料金:一般800(640)円、学生500(400)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。
 *展示替え後、前期の半券を持参すると入場料が半額。
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
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