都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「フェルメールからのラブレター展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
Bunkamura ザ・ミュージアム
「フェルメールからのラブレター展」
2011/12/23-2012/3/14

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「フェルメールからのラブレター展」のプレスプレビューに参加してきました。
このところ日本に作品がやってくることも多いフェルメールですが、1つの展覧会で同時に3点の作品が展示されることはそう滅多にあるわけではありません。
キーワードはタイトルにもあるラブレターです。フェルメールの中でも手紙を書くモチーフをとる作品から3点、「手紙を書く女」と「手紙を書く女と召使い」、そして日本初公開となる「手紙を読む青衣の女」が一同に公開されました。
構成は以下の通りです。
・人々のやり取り - しぐさ、視線、表情
・家族の絆、家族の空間
・手紙を通したコミュニケーション
・職業上の、あるいは学術的コミュニケーション
作品はフェルメールと同時代の17世紀オランダ絵画で占められています。点数は全部で約40点ほどでした。

ともかくフェルメールとあるので、当然ながらそちらばかりに注目が向いてしまいますが、単純なフェルメールの名品展ではないのも今回のポイントかもしれません。
展覧会を貫くテーマが明確です。ずばりそれは『コミュニケーション』です。手紙はもちろん、人の目つきや仕草にはじまり、家族間の結婚の問題、また教師と生徒などの教育、さらには弁護士などのコミュニケーションをモチーフとした作品ばかりが集められています。
そもそも17世紀オランダは識字率が高く、手紙のやり取りも活発だったということですが、こうした絵画を通し、彼の時代のコミュニケーションの有り様を浮き上がらせるような内容だと言えるかもしれません。
今回の展覧会においてフェルメールと並び、見逃すことの出来ない画家と言えば、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・スーテン、そしてヘリット・ダウの3名を挙げられるのではないでしょうか。
まずはホーホです。そもそも彼はフェルメールと全く同じ時期にデルフトに滞在したため、両者の間に交流があったのではないかとも推測されていますが、確かに中庭や室内空間の構図感は、フェルメールとかなり共通する部分があるかもしれません。

右、ピーテル・デ・ホーホ「室内の女と子供」1658年 アムステルダム国立美術館
そのホーホの4枚の作品の中でも印象的なのは「室内の女と子供」(1658年)です。デルフトで多く見られたという赤と黒のタイル、そして開け放たれた扉の向こうへと続く室内空間、そして登場する母子の間に流れる静かでゆったりとした時間は、まさにフェルメールを連想させるのではないでしょうか。
一方、同じく家庭を描きながらも、もっと動きのある人物表現を見せるのがヤン・スーテンです。スーテンは日常における行き過ぎた振る舞いを半ば諌めるような道徳的主題をとる作品を多く残しました。

右、ヤン・スーテン「老人が歌えば若者は笛を吹く」1670-75年頃 フィラデルフィア美術館
中でも面白いのが「老人が歌えば若者は笛を吹く」(1670-75年頃)です。このタイトルは当時のオランダの諺、若者は年長者を手本とするという意味を持っていますが、画題にあえて暴飲暴食する年長者を描くことで、スーテンはそれを皮肉めいた形で諌めています。宴に夢中となり、飲めや歌えと大騒ぎをする人々の声までが伝わってくるかのような一枚でした。

ヘリット・ダウ「執筆を妨げられた学者」(左)1635年頃、「羽根ペンを削る学者」(右)1628-31年頃 ともに個人蔵
また15歳でレンブラントの弟子となったダウの作品からは、それこそフェルメールに匹敵するほどの細部の緻密な描写が目を引くのではないでしょうか。「執筆を妨げられた学者」(1635年頃)では、ペンを片手にこちらをふと見やる学者の姿が表されていますが、その周囲の事物、たとえば地球儀や砂時計、またその中の砂などが極めて注意深く描かれています。
このダウやフェルメールしかり、今回に出品のオランダ風俗画は総じて小品が多めです。細かい部分を確認するために単眼鏡があっても良いかもしれません。

さて主役のフェルメールは展覧会中盤につくられたスペースに三方向、それぞれ一つの壁面に1点ずつ展示されています。

ヨハネス・フェルメール「手紙を読む青衣の女」1663-64年頃 アムステルダム国立美術館
中央が日本初公開の「手紙を読む青衣の女」(1663-64年頃)です。本作はフェルメールの得意とするラピス・ラズリの青色が効果的に用いられていますが、それが今回、修復という手段を経て、さらにより際立ちました。
また壁面の白い壁の光の陰影、部分的に青色を用い、左から右へと進む光を示している箇所も見逃せません。そしてその光はテーブルの上の真珠にもあたり、美しい輝きを放っていました。

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女」1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー
それに「手紙を描く女」(1665年)ではフェルメールならではの卓越した光の描写、例えれば空気をまとった柔らかな光とも言えるような表現を見ることが出来ます。

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女と召使い」1670年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー
「手紙を書く女と召使い」(1670年頃)ではもう少し画面に透明感がありますが、窓から入ってきてカーテンにあたり、ぼんやりと明るくなった光の繊細な移ろいなどは見逃すことが出来ません。
ところでBunkamuraザ・ミュージアムではリニューアルにともないLED照明を一部導入しました。既に京都、また宮城と巡回してきた展覧会ですが、また異なった照明環境で楽しむのも良いのではないでしょうか。
なお会場では「手紙を読む青衣の女」の修復に関する映像のコーナーもあります。図録にも詳細な論文が掲載されていましたが、修復前と修復後の違いについても理解を深めることが出来ました。

それにしても現在、世界に30数点のみしかないフェルメールのうち、一挙に3点が揃う展覧会です。混まないはずがありません。会期早々、この年末年始か、なるべく早めの金曜、土曜の夜間にご覧になられることをおすすめします。なお展覧会会期は元日を除いて無休です。
「もっと知りたいフェルメール/小林頼子/東京美術」
2012年3月14日まで開催されています。
「フェルメールからのラブレター展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2011年12月23日(金・祝)~2012年3月14日(水)
休館:1月1日。それ以外は会期中無休。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
注)会場の写真の撮影は主催者の許可を得ています。
「フェルメールからのラブレター展」
2011/12/23-2012/3/14

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「フェルメールからのラブレター展」のプレスプレビューに参加してきました。
このところ日本に作品がやってくることも多いフェルメールですが、1つの展覧会で同時に3点の作品が展示されることはそう滅多にあるわけではありません。
キーワードはタイトルにもあるラブレターです。フェルメールの中でも手紙を書くモチーフをとる作品から3点、「手紙を書く女」と「手紙を書く女と召使い」、そして日本初公開となる「手紙を読む青衣の女」が一同に公開されました。
構成は以下の通りです。
・人々のやり取り - しぐさ、視線、表情
・家族の絆、家族の空間
・手紙を通したコミュニケーション
・職業上の、あるいは学術的コミュニケーション
作品はフェルメールと同時代の17世紀オランダ絵画で占められています。点数は全部で約40点ほどでした。

ともかくフェルメールとあるので、当然ながらそちらばかりに注目が向いてしまいますが、単純なフェルメールの名品展ではないのも今回のポイントかもしれません。
展覧会を貫くテーマが明確です。ずばりそれは『コミュニケーション』です。手紙はもちろん、人の目つきや仕草にはじまり、家族間の結婚の問題、また教師と生徒などの教育、さらには弁護士などのコミュニケーションをモチーフとした作品ばかりが集められています。
そもそも17世紀オランダは識字率が高く、手紙のやり取りも活発だったということですが、こうした絵画を通し、彼の時代のコミュニケーションの有り様を浮き上がらせるような内容だと言えるかもしれません。
今回の展覧会においてフェルメールと並び、見逃すことの出来ない画家と言えば、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・スーテン、そしてヘリット・ダウの3名を挙げられるのではないでしょうか。
まずはホーホです。そもそも彼はフェルメールと全く同じ時期にデルフトに滞在したため、両者の間に交流があったのではないかとも推測されていますが、確かに中庭や室内空間の構図感は、フェルメールとかなり共通する部分があるかもしれません。

右、ピーテル・デ・ホーホ「室内の女と子供」1658年 アムステルダム国立美術館
そのホーホの4枚の作品の中でも印象的なのは「室内の女と子供」(1658年)です。デルフトで多く見られたという赤と黒のタイル、そして開け放たれた扉の向こうへと続く室内空間、そして登場する母子の間に流れる静かでゆったりとした時間は、まさにフェルメールを連想させるのではないでしょうか。
一方、同じく家庭を描きながらも、もっと動きのある人物表現を見せるのがヤン・スーテンです。スーテンは日常における行き過ぎた振る舞いを半ば諌めるような道徳的主題をとる作品を多く残しました。

右、ヤン・スーテン「老人が歌えば若者は笛を吹く」1670-75年頃 フィラデルフィア美術館
中でも面白いのが「老人が歌えば若者は笛を吹く」(1670-75年頃)です。このタイトルは当時のオランダの諺、若者は年長者を手本とするという意味を持っていますが、画題にあえて暴飲暴食する年長者を描くことで、スーテンはそれを皮肉めいた形で諌めています。宴に夢中となり、飲めや歌えと大騒ぎをする人々の声までが伝わってくるかのような一枚でした。

ヘリット・ダウ「執筆を妨げられた学者」(左)1635年頃、「羽根ペンを削る学者」(右)1628-31年頃 ともに個人蔵
また15歳でレンブラントの弟子となったダウの作品からは、それこそフェルメールに匹敵するほどの細部の緻密な描写が目を引くのではないでしょうか。「執筆を妨げられた学者」(1635年頃)では、ペンを片手にこちらをふと見やる学者の姿が表されていますが、その周囲の事物、たとえば地球儀や砂時計、またその中の砂などが極めて注意深く描かれています。
このダウやフェルメールしかり、今回に出品のオランダ風俗画は総じて小品が多めです。細かい部分を確認するために単眼鏡があっても良いかもしれません。

さて主役のフェルメールは展覧会中盤につくられたスペースに三方向、それぞれ一つの壁面に1点ずつ展示されています。

ヨハネス・フェルメール「手紙を読む青衣の女」1663-64年頃 アムステルダム国立美術館
中央が日本初公開の「手紙を読む青衣の女」(1663-64年頃)です。本作はフェルメールの得意とするラピス・ラズリの青色が効果的に用いられていますが、それが今回、修復という手段を経て、さらにより際立ちました。
また壁面の白い壁の光の陰影、部分的に青色を用い、左から右へと進む光を示している箇所も見逃せません。そしてその光はテーブルの上の真珠にもあたり、美しい輝きを放っていました。

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女」1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー
それに「手紙を描く女」(1665年)ではフェルメールならではの卓越した光の描写、例えれば空気をまとった柔らかな光とも言えるような表現を見ることが出来ます。

ヨハネス・フェルメール「手紙を書く女と召使い」1670年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー
「手紙を書く女と召使い」(1670年頃)ではもう少し画面に透明感がありますが、窓から入ってきてカーテンにあたり、ぼんやりと明るくなった光の繊細な移ろいなどは見逃すことが出来ません。
ところでBunkamuraザ・ミュージアムではリニューアルにともないLED照明を一部導入しました。既に京都、また宮城と巡回してきた展覧会ですが、また異なった照明環境で楽しむのも良いのではないでしょうか。
なお会場では「手紙を読む青衣の女」の修復に関する映像のコーナーもあります。図録にも詳細な論文が掲載されていましたが、修復前と修復後の違いについても理解を深めることが出来ました。

それにしても現在、世界に30数点のみしかないフェルメールのうち、一挙に3点が揃う展覧会です。混まないはずがありません。会期早々、この年末年始か、なるべく早めの金曜、土曜の夜間にご覧になられることをおすすめします。なお展覧会会期は元日を除いて無休です。

2012年3月14日まで開催されています。
「フェルメールからのラブレター展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2011年12月23日(金・祝)~2012年3月14日(水)
休館:1月1日。それ以外は会期中無休。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
注)会場の写真の撮影は主催者の許可を得ています。
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