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「鹿島茂コレクション1 グランヴィル - 19世紀フランス幻想版画展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館練馬区貫井1-36-16
「鹿島茂コレクション1 グランヴィル - 19世紀フランス幻想版画展」
2/23-4/10



19世紀フランスを代表する版画家、グランヴィルの世界を紹介します。練馬区立美術館で開催中の「鹿島茂コレクション1 グランヴィル 19世紀フランス幻想版画」展のプレビューに参加してきました。

意外にも練馬区立美術館では初めてとなるフランス物の展覧会です。フランス文学者で古書蒐集家としても知られる鹿島茂氏は「グランヴィル狂」と自認するほどグランヴィルに傾倒し、膨大なコレクションを形成しました。


展示風景

今回はその作品を回顧展方式で一同に展示しています。

1 1825~1835年 ナンシーからパリへ~カリカチュアの王
2 1836~1847年 挿絵の世界へ~幻想世界の確立
3 グランヴィル死後


38シリーズ、約200点にも及ぶグランヴィルの版画作品が、時代別にズラリと並んでいました。

僅か40数年の短い生涯だからといって、グランヴィルの作風を一括りにするのは乱暴かもしれません。ナンシー生まれのグランヴィルはパリに出た後、細密画の仕事を手掛けつつ、舞台衣装のデザインからキャリアをスタートさせました。


「サロンの巫女」 1827年

流行のタロットカードの絵柄を表した「サロンの巫女」も初期の佳作です。ここでグランヴィルは父の友人の画家、マンシオンに依頼され、カード52枚の表絵を描きあげました。しかしながらまだ実績に乏しい彼は、気の毒なことにも、カードのケースの上に名前を記すことが出来ません。彼は下請け時代、かなり厳しい生活を送っていましたが、そうしたエピソードを知ることの出来る作品でした。

そんなグランヴィルに転機をもたらすのが、結果的に彼の真骨頂となった動物戯画のシリーズです。


「現代版変身譚」-「恋人の退店時間」 1829年

社会風俗を冷ややかな眼差しで見つめ、市民たちを動物に見立て描いた「現代版変身譚」は、売れ行きが好調だっただけでなく、ジャーナリズムからも大いな注目を集めた出世作となりました。

そしてこの動物戯画こそ、グランヴィル版画の大きな魅力に他なりません。


「動物たちの私生活・公生活情景」-「さあ、立ち上がって私についてきなさい」 1842年

「19世紀挿絵絵本の最高傑作」(図録より引用)ともうたわれる晩年の「動物たちの私生活・公生活」ではネズミや猫にウサギ、時には悪魔までを持ち出して社会の様々な様相を風刺しました。彩色は後の時代による部分もあるそうですが、細密極まりない描線はそれこそ単眼鏡必須です。ここは作品に張り付くように見入ってしまいました。

さて話は前後しますが「現代版変身譚」を成功させたグランヴィルは、風刺画家として新聞挿絵の仕事にも取り組みます。


「洋梨の生理学」 1832年

ここで興味深いのは風刺版画家としても有名なドーミエとの違いです。「ドーミエの笑いはユーモアだが、グランヴィルの笑いはブラック・ユーモア」と断じる鹿島氏の言葉を借りても、確かに王ルイ=フィリップの顔を模した「洋梨の生理学」などからは、かなり辛辣な表現を見ることが出来ます。

政治風刺画の取り締まりの強化など、グランヴィルを取り巻く制作環境は必ずしも良かったわけではありませんが、「カリカチュール」や後の「シャリヴァリ」などで政治風刺画を描き続けました。


「ガリヴァー旅行記」 1938年

比較的分かりやすい画風のドーミエに対し、あまりにも「毒」(図録より引用)の強いグランヴィルは人気の点で後塵を拝します。以降、グランヴィルはやや作風を変化させ、「ガリヴァー旅行記」や「ラ・フォンテーヌの寓話」などの挿絵本の制作に積極的に取り組むようになりました。

晩年のグランヴィルにはこれまでの動物戯画、風刺精神と並んで、幻想性というまた一つの大きな要素が加わります。


「もう一つの世界」 1844年

その昇華したのが「もう一つの世界」です。とある博士らが例えばシャンパンが噴出する惑星などへ冒険する物語は、擬人化された動物や植物をとりこんで、まさに奇想天外なワンダーランドを作りあげています。


「週刊絵入新聞 マガザン・ピトレスク」-「犯罪と贖罪」

グランヴィルは死後、言わば忘れられたため、後の美術史に与えた影響は少ないとのことですが、一方でよく指摘される通り、晩年のグランヴィルには後のシュールレアリスムを彷彿させる作品も少なくありません。時にブリューゲルを思わせたグランヴィルの戯画的世界は、こうした新たな展開を見せたところで、43歳の若さによる突然の死により終わりを迎えてしまいました。


展示風景

鹿島氏が「グランヴィルを見たら人生が変わる。」(図録より引用)とまで豪語する展覧会です。奇想天外のグランヴィルの版画世界に浸っていると確かに時間を忘れてしまいました。

「グランヴィル―19世紀フランス幻想版画/鹿島茂/求龍堂」

なお今回の図録は一般書籍として書店でも発売中です。出品作の全ての図版は掲載されていませんが、出版元は質の高さで定評のある求龍堂です。是非お手にとってご覧ください。

実は内覧時に加えて今日(3月6日)、既に2回目を拝見してきましたが、評判も上々なのか、館内は思いの外に賑わっていました。ひょっとすると会期末に向けて混雑してくるかもしれません。


会場入口

4月10日までの開催です。もちろんおすすめします。

*地震の影響により一時休館しましたが、3月23日(水)より通常開館します。また会期が4月10日(日)まで延長されました。

*開館日時:火~日(月休)10:00~18:00(入館は17時30分まで)

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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