「江戸の人物画 姿の美、力、奇」(前期) 府中市美術館

府中市美術館府中市浅間町1-3
「江戸の人物画 姿の美、力、奇」(前期展示)
3/25~4/17



江戸時代、様々に描かれた人のかたちから「おかしみ」を味わいます。府中市美術館で開催中の「江戸の人物画 姿の美、力、奇」の前期展示へ行ってきました。

地震により開幕が一時延期されていましたが、所定より遅れること一週間、3月25日に無事オープンを迎えました。そして当然ながら、これまでにも動物絵画、山水画展などと、好企画を続けてきた府中市美の江戸絵画シリーズが楽しめないはずがありません。会場には国内の美術館や個人より集められた江戸時代の人物画、約50点強が、一同に展示されていました。(前後期で100点弱。出品リスト


円山応挙「波上白骨座禅図」(大乗寺) 通期

構成は以下の通りです。

「美の百様」:浮世絵と美人画。
「迫真のゆくえ」:西洋絵画の影響。
「聖の絵姿」:絵画における聖人たち。
「ポーズ考」:人のかたち、ポーズに注目した作品。
「海の向こうの不思議とロマン」:仙人たち。道教のモチーフ。
「人という営み」:人々の暮らし。
「かわいい」:可愛らしい人物画。


親しみやすいテーマ設定のもと、江戸絵画の人物表現を俯瞰する内容となっていました。


春叢紹珠「皿回し布袋図」(個人) ~4/10

ともかく一見からして愉しく、それこそおかしみを感じる作品が目白押しですが、まずその一例として挙げられるのが春叢紹珠の「皿回し布袋図」かもしれません。いわゆる禅画ではありますが、その即興的なタッチによる布袋の姿は、どこか稚拙なまでの諧謔味に溢れています。


林ろう苑「妖怪図」(個人) 前期

さらに林ろう苑の「妖怪図」も是非挙げておきたい一枚です。高くのびた鼻や突き出た頭などの誇張的な身体表現をとる妖怪たちが、同じくまた化け物と戯れています。


仙がい義梵「凧あげ図」(福岡市美術館) 前期

おかしみと言えばお馴染みの仙がい和尚です。この「凧あげ図」ではもはや脱力系の笑いをも誘う作品ですが、何物にも囚われない自由な描写には心底共感するものがありました。

その一方で、たとえば当時伝来した西洋画の技法を取り入れた、半ば硬い作品が出ているのも見逃せません。さながら岸田劉生を思わせるような陰影表現で息子描いた大久保一丘の「伝大久保一岳像」の他、中国の伝説の皇帝をオランダ西洋画風スタイルで表した太田洞玉の「神農図」など、西洋と日本とが奇妙な形で混在、また時に融合して新たな表現を生んだ作品も楽しめました。


渡辺崋山「ヒポクラテス像」(九州国立博物館) 前期

そしてこの渡辺崋山の「ヒポクラテス像」こそ、そうした文脈の最高峰に位置づけられる作品ではないでしょうか。華山といえば本作を挙げるまでもなく、たとえば東博所蔵の「鷹見泉石像」など、真に迫った人物描写で名高いところですが、このヒポクラテスもそれに勝るとも劣らない一枚でした。


祇園井特「観桜美人図」(福岡市博物館) 前期

私の追っかけている絵師、井特の美人画が出ていたのも嬉しいポイントです。艶やかな衣装をまとい、桜を愛でる女性を描いた「観桜美人図」は、井特にしては比較的大人しい印象もありましたが、顔の描写などには例のデロリともとれる表現を見ることが出来ました。


曾我蕭白「美人図」(奈良県立美術館) 前期

ビックネームからは蕭白の「美人図」、もしくは応挙の「波上白骨座禅図」を挙げれば十分かもしれません。手紙を噛み砕く狂おしい女性を描いた蕭白の「美人図」の妖しさは何度見てもクラクラしてしまいます。何年か前に奈良で鮮烈な印象を受けた作品ですが、改めて惚れ直しました。


円山応挙「元旦図」(個人) 前期

あえて一推しにしたいのは応挙の「元旦図」です。袴を着た男が茫洋たる無限の空間にてただ一人、初日の出を拝む姿が表されています。そのひとりぼっちの姿はもちろん、背後にのびる影など、何と寂し気な雰囲気を醸し出す作品ではないでしょうか。シンプルな構図をとりながらも、この哀愁漂う光景には強く心を捉えられてなりませんでした。


伊藤若冲「伏見人形七布袋図」(国立歴史民俗博物館) 前期

さて展示替えの情報です。本展は途中、一度の展示替えを挟み、ほぼ全ての作品が入れ替わります。

【前期】3月25日(金)~4月17日(日)
【後期】4月19日(火)~5月8日(日)


会期の延長などはありません。ご注意下さい。

また注意しておきたいのは計画停電の情報です。府中市美術館は東京電力の計画停電エリアの「第2グループD」に入っています。よって同館では停電が実施される場合、その時間帯、およびその前30分、また後40分を一時閉館します。

但し事前に東京電力より停電を回避するとの発表があった時はこの限りではありません。(通常開館します。)詳細は美術館まで直接お問い合わせ下さい。(ハローダイヤル:03-5777-8600)


4月19日からの後期には芦雪の「寒山拾得図」(京博寄託。重文。)や若冲の「付喪神図」(福岡市博蔵)などの注目作も登場します。こちらも伺う予定です。

いつもながらに同館マスコットのぱれたんの工房、またワークシートなど、来場者を楽しませる仕掛けもありました。それに立派な図録も人気となるのではないでしょうか。これまでの府中市美の江戸絵画展では会期途中で図録が完売したこともあります。まずは早めに出かけられた方が良いかもしれません。

府中市美前の桜並木もそろそろ華やぐのではないでしょうか。前期は4月17日までの開催です。ともかくはおすすめします。

開館日時:月休。5月6日(金)は休館。10:00~17:00。(計画停電時は一時休館。)
交通案内:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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