都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「イメージの手ざわり展」 横浜市民ギャラリーあざみ野
横浜市民ギャラリーあざみ野(横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内)
「あざみ野コンテンポラリーvol.1 イメージの手ざわり展」
2/5~2/20
「映像」をテーマに、6組の現代アーティストが多様な展示を繰り広げます。横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「あざみ野コンテンポラリーvol.1 イメージの手ざわり展」へ行ってきました。
本展に出品の作家は以下の通りです。(作家略歴については公式WEBサイトをご参照下さい。)
川戸由紀(かわどゆき)、志村信裕(しむらのぶひろ)、田村友一郎(たむらゆういちろう)、plaplax(ぷらぷらっくす)、松本力(まつもとちから)、横溝静(よこみぞしずか)
単純に「映像」を前にするだけでなく、それこそ「手ざわり」ならぬ触覚までを通して、体感的に楽しめるような作品が展示されていました。
なおこの日は志村信裕、田村友一郎、plaplaxの3組のアーティストトークが開催されました。ここではそのトークの内容を踏まえ、展示の様子をご紹介したいと思います。
plaplax
そのまさに「手ざわり」そのもので楽しめるのは、展示冒頭のplaplaxのインスタレーションです。あえてネタバレは避けますが、何気ない日用品に触れ、そして森をイメージした装置の前で踊ると、あたかも絵本を開いてみるような物語的なイメージがいくつも飛び出してきます。子どもたちにも大人気の様子でした。
plaplax「Tool's Life」2001年
実はこのplaplaxは計4名のアートユニットですが、現在は会社化して、パブリックアートや公共空間の演出の他、映像コンテンツの技術開発などの幅広い活動を繰り広げています。
plaplax「Glimmer Forest」2007年
その一例として2005年の愛知万博での環境省主催の展示や、名古屋ルーセントタワーの地下歩道のデザイン全般、そして近場では豊洲駅前に出来た豊洲フロントの光を用いた屋外常設作品などが挙げられます。
plaplaxのテーマは一に「インタラクティブ」です。タッチセンサーなどで人が作品に関係し、そこからこれまでにはない情報やイメージを引き出し、さらには人の空間認識を変化させていくような装置を展開しているとのことでした。
plaplaxアーティストトーク
また会社としての活動を続けることで、単純にアートだけでなく、もっと開けた世界、つまりはデザインや科学、そして何よりもビジネスへの関わりをも強く志向しています。なお現在、彼らの手がけた「キッズワンダーランド ミッフィーはどこ?」が箱根の彫刻の森美術館で開催中(4月3日まで)です。そちらでもplaplaxならではのインタラクティブな展示が楽しめるかもしれません。
田村友一郎
さて今回の展示で最も「体験」色が強いのは、田村友一郎の大掛かりなインスタレーション、「TAIL LIGHT」です。ともかく展示室に足を踏み入れた途端、驚かれた方も多いのではないでしょうか。三面スクリーンを前にドーンと鎮座するのは何と正真正銘本物のタクシーでした。
田村友一郎「TAIL LIGHT」2011年
この作品、いわゆるアトラクション形式です。実際に車へ乗り込み、あざみ野の地よりスタートするセレクトした世界各地の街角のパノラマ映像を見ながら、しばし周遊旅行という流れになりますが、その映像にも重大なポイントがあります。
風景が何やらカクカクと動くのでしばらく見ていると気がつくかもしれませんが、これは田村が手作業でgoogleのストリートビューから収集した画像を編集したものでした。
田村はあざみ野の地、横浜とその世界の姉妹都市から風景を収集しながらも、決して観光名所ではなくどこにでもあるような郊外の風景を出来るだけ無作為に選択し、作家が述べるには『テンションの低くどこか冷めた風景』のスクリーンショットを繋げて動画化しています。
田村友一郎アーティストトーク
そもそも作品名、「テールライト」の由来の一つに星座のおおくま座があるそうですが、そうした本来ならバラバラにあるような星を結びつけて一つにするイメージを、今回の作品の風景にも当てはめているそうです。言わば単にネットから収集された素材が、あたかも現実に作家が撮ったようになる奇妙な瞬間こそ作品の醍醐味ではないでしょう。それのズレを提示するのも田村の狙いとのことでした。
そしてさらにこの作品にはもうひとつの奇妙な仕掛けがあります。それも風景と同じくあえて『奇妙なほどの居心地の悪さ』を狙ってのことですが、こちらも是非体験してみてください。ヒントは運転手さんです。
志村信裕
さて元々、武蔵野美術大学大学院で映像を学んだ志村信裕は、言わば映像を超えた新たな空間表現に挑戦しています。同ギャラリー最大の吹き抜け空間を用いての2点、「クラウド」と「モザイク」は、そのいずれもが映画の『銀幕』をテーマとした作品でした。
志村信裕アーティストトーク
作品では素材にも要注目です。床一面に広がる銀色のミラーフォルムは、作家が某大手100円ショップで何と1000袋も発注して手に入れたというプレゼント用の梱包素材に他なりません。それをクッション状に敷き詰め、中には四角い板を何枚か置き、あたかも日本庭園のような独特の空間を作り出しています。もちろん板の上にのって散策することも可能でした。
志村信裕「クラウド」2011年
それにしてもこの投影されたゆらゆらと動く白い光が、まさかたばこの煙を映したものとは思いもよりませんでした。身近な素材が未知の美感を引き出す瞬間をここで味わうことが出来ます。
もう一点の「クラウド」はアートサポーターとの共同制作の作品です。実はこの展覧会自体、横浜市民ギャラリーあざみ野のアートサポーターが深く関わっていますが、この作品に用いられたアルミや映像も作家とサポーターが一緒になって集めたものだそうです。志村の「特別な場所ではないものから面白いものを撮る。」というコンセプトは、それこそ特別ではない一般のサポーターの大きな力を借りて実現しました。
松本力「山へ」2001年 他
さてこの日のトークに出席した以外の3名の作家も見逃せません。2階展示室では空間いっぱいにアニメーション映像を投影する松本力の他、森美の六本木クロッシング展でもお馴染みの横溝静、また自らの見た映像の記憶をひたすらに絵に起こすという川戸由紀の三者三様の展示も印象に残りました。
横溝静「Flow」2007年/「Forever」2003年
なおこの展覧会は二本立てです。出品の6組の作家以外にも、アニメーション作家の山村浩二が選出した新鋭の13名の作家の作品上映会が予定されています。
山村浩二セレクション「現代アニメーションの世界」上映会
2011年2月19日(土)・2月26日(土) 各回14:00~(開場13:30)
横浜市民ギャラリーあざみ野 レクチャールーム
入場料:当日200円(高校生以下、障がい者手帳をお持ちの方および同伴者1名は無料)
[出品作家]
一瀬皓コ(いちのせひろこ)、植草航(うえくさわたる)、大川原亮(おおかわらりょう)、奥田昌輝(おくだまさき)、クリハラタカシ、
銀木沙織(しろきさ おり)、新海岳人(しんかいたけと)、中田彩郁(なかたあやか)、早川貴泰(はやかわたかひろ)、
平山志保(ひらやましほ)、横田将士(よこたまさし)、 和田淳(わだあつし)、山村浩二(やまむらこうじ)
2回目の26日については展示が終了しているので注意が必要ですが、こちらを目当てにという方も多いかもしれません。
先にも触れましたが、ともかく今回は同ギャラリーのアートサポーターの方が展示のかなりの部分を作り上げていると言っても過言ではありません。その一人が@butainunana2さんです。ツイッター上において展示のリアルタイムな情報も多くつぶやかれています。公式のアカウント(@artazamino)と一緒に是非ご覧になってみてください。
決して大きな規模の展覧会ではありませんが、体験型など楽しめる要素も盛りだくさんでした。おすすめします。
あざみ野コンテンポラリーvol.1 イメージの手ざわり展
会期中無休にて20日まで開催されています。
*開館日時:無休 10:00~18:00
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。(トークショー写真については主催者より拝借しました。)
「あざみ野コンテンポラリーvol.1 イメージの手ざわり展」
2/5~2/20
「映像」をテーマに、6組の現代アーティストが多様な展示を繰り広げます。横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「あざみ野コンテンポラリーvol.1 イメージの手ざわり展」へ行ってきました。
本展に出品の作家は以下の通りです。(作家略歴については公式WEBサイトをご参照下さい。)
川戸由紀(かわどゆき)、志村信裕(しむらのぶひろ)、田村友一郎(たむらゆういちろう)、plaplax(ぷらぷらっくす)、松本力(まつもとちから)、横溝静(よこみぞしずか)
単純に「映像」を前にするだけでなく、それこそ「手ざわり」ならぬ触覚までを通して、体感的に楽しめるような作品が展示されていました。
なおこの日は志村信裕、田村友一郎、plaplaxの3組のアーティストトークが開催されました。ここではそのトークの内容を踏まえ、展示の様子をご紹介したいと思います。
plaplax
そのまさに「手ざわり」そのもので楽しめるのは、展示冒頭のplaplaxのインスタレーションです。あえてネタバレは避けますが、何気ない日用品に触れ、そして森をイメージした装置の前で踊ると、あたかも絵本を開いてみるような物語的なイメージがいくつも飛び出してきます。子どもたちにも大人気の様子でした。
plaplax「Tool's Life」2001年
実はこのplaplaxは計4名のアートユニットですが、現在は会社化して、パブリックアートや公共空間の演出の他、映像コンテンツの技術開発などの幅広い活動を繰り広げています。
plaplax「Glimmer Forest」2007年
その一例として2005年の愛知万博での環境省主催の展示や、名古屋ルーセントタワーの地下歩道のデザイン全般、そして近場では豊洲駅前に出来た豊洲フロントの光を用いた屋外常設作品などが挙げられます。
plaplaxのテーマは一に「インタラクティブ」です。タッチセンサーなどで人が作品に関係し、そこからこれまでにはない情報やイメージを引き出し、さらには人の空間認識を変化させていくような装置を展開しているとのことでした。
plaplaxアーティストトーク
また会社としての活動を続けることで、単純にアートだけでなく、もっと開けた世界、つまりはデザインや科学、そして何よりもビジネスへの関わりをも強く志向しています。なお現在、彼らの手がけた「キッズワンダーランド ミッフィーはどこ?」が箱根の彫刻の森美術館で開催中(4月3日まで)です。そちらでもplaplaxならではのインタラクティブな展示が楽しめるかもしれません。
田村友一郎
さて今回の展示で最も「体験」色が強いのは、田村友一郎の大掛かりなインスタレーション、「TAIL LIGHT」です。ともかく展示室に足を踏み入れた途端、驚かれた方も多いのではないでしょうか。三面スクリーンを前にドーンと鎮座するのは何と正真正銘本物のタクシーでした。
田村友一郎「TAIL LIGHT」2011年
この作品、いわゆるアトラクション形式です。実際に車へ乗り込み、あざみ野の地よりスタートするセレクトした世界各地の街角のパノラマ映像を見ながら、しばし周遊旅行という流れになりますが、その映像にも重大なポイントがあります。
風景が何やらカクカクと動くのでしばらく見ていると気がつくかもしれませんが、これは田村が手作業でgoogleのストリートビューから収集した画像を編集したものでした。
田村はあざみ野の地、横浜とその世界の姉妹都市から風景を収集しながらも、決して観光名所ではなくどこにでもあるような郊外の風景を出来るだけ無作為に選択し、作家が述べるには『テンションの低くどこか冷めた風景』のスクリーンショットを繋げて動画化しています。
田村友一郎アーティストトーク
そもそも作品名、「テールライト」の由来の一つに星座のおおくま座があるそうですが、そうした本来ならバラバラにあるような星を結びつけて一つにするイメージを、今回の作品の風景にも当てはめているそうです。言わば単にネットから収集された素材が、あたかも現実に作家が撮ったようになる奇妙な瞬間こそ作品の醍醐味ではないでしょう。それのズレを提示するのも田村の狙いとのことでした。
そしてさらにこの作品にはもうひとつの奇妙な仕掛けがあります。それも風景と同じくあえて『奇妙なほどの居心地の悪さ』を狙ってのことですが、こちらも是非体験してみてください。ヒントは運転手さんです。
志村信裕
さて元々、武蔵野美術大学大学院で映像を学んだ志村信裕は、言わば映像を超えた新たな空間表現に挑戦しています。同ギャラリー最大の吹き抜け空間を用いての2点、「クラウド」と「モザイク」は、そのいずれもが映画の『銀幕』をテーマとした作品でした。
志村信裕アーティストトーク
作品では素材にも要注目です。床一面に広がる銀色のミラーフォルムは、作家が某大手100円ショップで何と1000袋も発注して手に入れたというプレゼント用の梱包素材に他なりません。それをクッション状に敷き詰め、中には四角い板を何枚か置き、あたかも日本庭園のような独特の空間を作り出しています。もちろん板の上にのって散策することも可能でした。
志村信裕「クラウド」2011年
それにしてもこの投影されたゆらゆらと動く白い光が、まさかたばこの煙を映したものとは思いもよりませんでした。身近な素材が未知の美感を引き出す瞬間をここで味わうことが出来ます。
もう一点の「クラウド」はアートサポーターとの共同制作の作品です。実はこの展覧会自体、横浜市民ギャラリーあざみ野のアートサポーターが深く関わっていますが、この作品に用いられたアルミや映像も作家とサポーターが一緒になって集めたものだそうです。志村の「特別な場所ではないものから面白いものを撮る。」というコンセプトは、それこそ特別ではない一般のサポーターの大きな力を借りて実現しました。
松本力「山へ」2001年 他
さてこの日のトークに出席した以外の3名の作家も見逃せません。2階展示室では空間いっぱいにアニメーション映像を投影する松本力の他、森美の六本木クロッシング展でもお馴染みの横溝静、また自らの見た映像の記憶をひたすらに絵に起こすという川戸由紀の三者三様の展示も印象に残りました。
横溝静「Flow」2007年/「Forever」2003年
なおこの展覧会は二本立てです。出品の6組の作家以外にも、アニメーション作家の山村浩二が選出した新鋭の13名の作家の作品上映会が予定されています。
山村浩二セレクション「現代アニメーションの世界」上映会
2011年2月19日(土)・2月26日(土) 各回14:00~(開場13:30)
横浜市民ギャラリーあざみ野 レクチャールーム
入場料:当日200円(高校生以下、障がい者手帳をお持ちの方および同伴者1名は無料)
[出品作家]
一瀬皓コ(いちのせひろこ)、植草航(うえくさわたる)、大川原亮(おおかわらりょう)、奥田昌輝(おくだまさき)、クリハラタカシ、
銀木沙織(しろきさ おり)、新海岳人(しんかいたけと)、中田彩郁(なかたあやか)、早川貴泰(はやかわたかひろ)、
平山志保(ひらやましほ)、横田将士(よこたまさし)、 和田淳(わだあつし)、山村浩二(やまむらこうじ)
2回目の26日については展示が終了しているので注意が必要ですが、こちらを目当てにという方も多いかもしれません。
先にも触れましたが、ともかく今回は同ギャラリーのアートサポーターの方が展示のかなりの部分を作り上げていると言っても過言ではありません。その一人が@butainunana2さんです。ツイッター上において展示のリアルタイムな情報も多くつぶやかれています。公式のアカウント(@artazamino)と一緒に是非ご覧になってみてください。
決して大きな規模の展覧会ではありませんが、体験型など楽しめる要素も盛りだくさんでした。おすすめします。
あざみ野コンテンポラリーvol.1 イメージの手ざわり展
会期中無休にて20日まで開催されています。
*開館日時:無休 10:00~18:00
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。(トークショー写真については主催者より拝借しました。)
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