都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「コレクションの誕生、成長、変容 - 藝大美術館所蔵品選 - 」 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8)
「コレクションの誕生、成長、変容 - 藝大美術館所蔵品選 - 」
7/4-8/16

美術館の開館10周年を祝し、館蔵の名品をコレクションの形成史を踏まえて展観します。東京藝術大学大学美術館で開催中の「コレクションの誕生、成長、変容 - 藝大美術館所蔵品選 - 」へ行ってきました。
構成は以下の通りです。コレクション(約140点)を時間軸で区切るとともに、そこに携わった人物と関連させて紹介していました。(出品リスト)
第1章「コレクションの誕生」
前身の東京美術学校による初期収蔵作品。曽我蕭白「群仙図屏風」、狩野芳崖「悲母観音」など。
第2章「正木直彦の校長時代」
明治末期より昭和初期にかけて校長を務めた正木直彦時代の収集品。上村松園「序の舞」他。
第3章「黒田清輝と西洋画コレクション」
黒田清輝と初期西洋画コレクション。新発見の藤田嗣治の「婦人像」など。
第4章「平櫛田中の彫刻コレクション」
平櫛田中によって寄贈された彫刻作品。
単なる名品展とならない、上記のような秩序だった構成にも見るべき点がありましたが、いきなりの第一、二章で登場する江戸絵画、近代日本画、そして仏像だけで、コレクション変遷云々など頭から消えてしまい、その驚くばかりの名品のオンパレードに頭が真っ白になってしまったのは私だけではなかったのではないでしょうか。かの見事な芳崖展でハイライトを飾った「悲母観音」がさり気なく出ていたかと思うと、後ろを振り返れば蕭白の「群仙図屏風」、それに未だ輝きを失わない後漢の「銅筒」に清方の写実に完璧な「一葉」、そして圧巻の松園の「序の舞」まで、まさに目も奪われんとばかりに続く品々には心から感服するものがありました。率直に申せば、この前半部があまりにも印象に強く、後半の記憶がかすれてしまいましたが、何はともあれ、美術館の記念年に相応しい所蔵品展であったのは間違いありません。
前置きが長くなりました。では以下、いつものように印象に残った作品を挙げていきます。
[第1章・第2章]
「飛天像」(北魏時代)
入口すぐのパーティーションの壁面上方に高らかに展示。導入に優雅な飛天像を掲げるセンスにも感心した。
「岩石/狩野芳崖」(明治20年)
岩石だけが描かれているシュールな作品。切り立つ岩に覆われて閉ざされたにはどことない緊張感すら漂う。墨画の前衛。

「悲母観音/狩野芳崖」(明治21年)
一回顧展を飾った名品も出し惜しみなく出品。透明感のある着衣、その線描と絶妙な色味に再度酔いしれた。
「伊香保の沼/松岡映丘」(大正14年)
今回一番気になった惹かれた作品。足を沼に差し入れ、髪を振り乱しながら口を尖らせ、悲しみに打ちひしがれたように佇む女性が描かれている。一体、どのようなシチュエーションなのだろうか。畔の野花もどこかしおれているように見えた。
「鵜飼/川合玉堂」(昭和6年)
荒々しい渓流で水と格闘する鵜飼が描かれている。篝火に反射して煌めく川面には金が散っていた。眩い。

「序の舞/上村松園」(昭和11年)
堂々たる舞を披露する女性。扇子を突き出した様はまるで戦で指揮を執る武士のよう。凛とした様に松園画らしいプライドを感じさせる。
「蜀江錦幡残欠」(飛鳥時代)
赤い残欠には細やかな文様が施されていた。色味が見事。良くこれほどにまで赤が残っているものかと感心した。
「群仙図屏風/曾我蕭白」(江戸時代)
一番の目玉的作品。右に西王母、左に仙人を配して、これぞ蕭白といった奇想の光景が広がる。西王母の扇子越しに透けた口元、また着衣の線に描かれた金泥など、細部の描写にまで神経が行き届いている。これともう一点、同じく蕭白の妖気漂う「柳下鬼女図屏風」だけでも入場料を払う価値はあり。

「鯉図/伊藤若冲」(江戸時代)
若冲にしてはやや大人しい作品。水草の靡く様子は其一画のようでもあった。
「金錯狩猟文銅筒」(後漢時代)
4段の銅筒。表面には金象嵌にて細微な紋様が施されている。ライティングも効果的で美しい。
[第3章・第4章]
「靴屋の親爺/原田直次郎」(明治19年)
こちらを睨みつけるような男の姿。渡欧して西洋画のデッサンを身につけて描いたという画家渾身の一枚。眉間の皺をはじめ、日焼けした肌の質感などにはリアリティーがある。迫力を感じた。
「黄泉比良坂/青木繁」(明治36年)
当時、理想画として注目を浴びたという作品。全体を覆う青みがかったパステルと色鉛筆の色彩が美しい。仄かに浮かび上がる女性の姿はまさに神秘的だった。(展示は7/27まで)
「婦人像/藤田嗣治」(明治42年)
新出の一枚。今回の展示が初公開。(報道)まだ藤田が『師』(キャプションより引用)黒田清輝の影響を受けていた頃の作品とされる。確かに一見では藤田の作品と分からない。あまり印象に残らなかった。

「ティヴォリ、ヴィラ・デステの池/藤島武二」(明治42年)
後半の洋画では一番惹かれた作品。ローマ東の小都市の池を描く。エメラルドブルーの池と上から垂れる枝葉の調和が見事。迷いのないタッチも力強い。
私の拙い感想では伝わらないかもしれませんが、今開催中のぐるっとパスのフリー入場可の展示の中で『最強』の一つであるとしても過言ではありません。
8月16日まで開催されています。もちろんおすすめです。
「コレクションの誕生、成長、変容 - 藝大美術館所蔵品選 - 」
7/4-8/16

美術館の開館10周年を祝し、館蔵の名品をコレクションの形成史を踏まえて展観します。東京藝術大学大学美術館で開催中の「コレクションの誕生、成長、変容 - 藝大美術館所蔵品選 - 」へ行ってきました。
構成は以下の通りです。コレクション(約140点)を時間軸で区切るとともに、そこに携わった人物と関連させて紹介していました。(出品リスト)
第1章「コレクションの誕生」
前身の東京美術学校による初期収蔵作品。曽我蕭白「群仙図屏風」、狩野芳崖「悲母観音」など。
第2章「正木直彦の校長時代」
明治末期より昭和初期にかけて校長を務めた正木直彦時代の収集品。上村松園「序の舞」他。
第3章「黒田清輝と西洋画コレクション」
黒田清輝と初期西洋画コレクション。新発見の藤田嗣治の「婦人像」など。
第4章「平櫛田中の彫刻コレクション」
平櫛田中によって寄贈された彫刻作品。
単なる名品展とならない、上記のような秩序だった構成にも見るべき点がありましたが、いきなりの第一、二章で登場する江戸絵画、近代日本画、そして仏像だけで、コレクション変遷云々など頭から消えてしまい、その驚くばかりの名品のオンパレードに頭が真っ白になってしまったのは私だけではなかったのではないでしょうか。かの見事な芳崖展でハイライトを飾った「悲母観音」がさり気なく出ていたかと思うと、後ろを振り返れば蕭白の「群仙図屏風」、それに未だ輝きを失わない後漢の「銅筒」に清方の写実に完璧な「一葉」、そして圧巻の松園の「序の舞」まで、まさに目も奪われんとばかりに続く品々には心から感服するものがありました。率直に申せば、この前半部があまりにも印象に強く、後半の記憶がかすれてしまいましたが、何はともあれ、美術館の記念年に相応しい所蔵品展であったのは間違いありません。
前置きが長くなりました。では以下、いつものように印象に残った作品を挙げていきます。
[第1章・第2章]
「飛天像」(北魏時代)
入口すぐのパーティーションの壁面上方に高らかに展示。導入に優雅な飛天像を掲げるセンスにも感心した。
「岩石/狩野芳崖」(明治20年)
岩石だけが描かれているシュールな作品。切り立つ岩に覆われて閉ざされたにはどことない緊張感すら漂う。墨画の前衛。

「悲母観音/狩野芳崖」(明治21年)
一回顧展を飾った名品も出し惜しみなく出品。透明感のある着衣、その線描と絶妙な色味に再度酔いしれた。
「伊香保の沼/松岡映丘」(大正14年)
今回一番気になった惹かれた作品。足を沼に差し入れ、髪を振り乱しながら口を尖らせ、悲しみに打ちひしがれたように佇む女性が描かれている。一体、どのようなシチュエーションなのだろうか。畔の野花もどこかしおれているように見えた。
「鵜飼/川合玉堂」(昭和6年)
荒々しい渓流で水と格闘する鵜飼が描かれている。篝火に反射して煌めく川面には金が散っていた。眩い。

「序の舞/上村松園」(昭和11年)
堂々たる舞を披露する女性。扇子を突き出した様はまるで戦で指揮を執る武士のよう。凛とした様に松園画らしいプライドを感じさせる。
「蜀江錦幡残欠」(飛鳥時代)
赤い残欠には細やかな文様が施されていた。色味が見事。良くこれほどにまで赤が残っているものかと感心した。
「群仙図屏風/曾我蕭白」(江戸時代)
一番の目玉的作品。右に西王母、左に仙人を配して、これぞ蕭白といった奇想の光景が広がる。西王母の扇子越しに透けた口元、また着衣の線に描かれた金泥など、細部の描写にまで神経が行き届いている。これともう一点、同じく蕭白の妖気漂う「柳下鬼女図屏風」だけでも入場料を払う価値はあり。

「鯉図/伊藤若冲」(江戸時代)
若冲にしてはやや大人しい作品。水草の靡く様子は其一画のようでもあった。
「金錯狩猟文銅筒」(後漢時代)
4段の銅筒。表面には金象嵌にて細微な紋様が施されている。ライティングも効果的で美しい。
[第3章・第4章]
「靴屋の親爺/原田直次郎」(明治19年)
こちらを睨みつけるような男の姿。渡欧して西洋画のデッサンを身につけて描いたという画家渾身の一枚。眉間の皺をはじめ、日焼けした肌の質感などにはリアリティーがある。迫力を感じた。
「黄泉比良坂/青木繁」(明治36年)
当時、理想画として注目を浴びたという作品。全体を覆う青みがかったパステルと色鉛筆の色彩が美しい。仄かに浮かび上がる女性の姿はまさに神秘的だった。(展示は7/27まで)
「婦人像/藤田嗣治」(明治42年)
新出の一枚。今回の展示が初公開。(報道)まだ藤田が『師』(キャプションより引用)黒田清輝の影響を受けていた頃の作品とされる。確かに一見では藤田の作品と分からない。あまり印象に残らなかった。

「ティヴォリ、ヴィラ・デステの池/藤島武二」(明治42年)
後半の洋画では一番惹かれた作品。ローマ東の小都市の池を描く。エメラルドブルーの池と上から垂れる枝葉の調和が見事。迷いのないタッチも力強い。
私の拙い感想では伝わらないかもしれませんが、今開催中のぐるっとパスのフリー入場可の展示の中で『最強』の一つであるとしても過言ではありません。
8月16日まで開催されています。もちろんおすすめです。
コメント ( 11 ) | Trackback ( 0 )