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東京フィル定期 「プロコフィエフ:組曲シンデレラより」他 渡邊一正

東京フィルハーモニー交響楽団 第774回オーチャード定期演奏会

三善晃 管弦楽のための交響詩「連富士」
モーツァルト ピアノ協奏曲第20番
プロコフィエフ 組曲「シンデレラ」より(コンサートスタイル・バレエ)

シンデレラ 下村由理恵
王子 佐々木大
ダンサー 下村由理恵バレエアンサンブル(奥田花純 金子優 大長亜希子)
指揮・ピアノ 渡邊一正

2009/7/5 Bunkamura オーチャードホール



バレエ音楽にも造詣の深い渡邊一正が、プロコフィエフの「シンデレラ」をコンサートスタイルで演奏します。東フィルオーチャード定期を聴いてきました。

私自身、バレエ音楽を生のステージを見るのが初めてなので、その出来云々については良く分かりませんが、ともかくもオーケストラを舞台中央に配し、その前後で繰り広げられるダンサーの流麗な踊りには終始目を奪われました。それぞれ劇に即した衣装を身を纏い、情景に合わせて演技を変化させるシンデレラ役の下村と王子の佐々木は、その卓越した身体性にも由来してか、スリリングでかつ研ぎすまされた舞台を見事に演出していたのではなかったでしょうか。伸びる指先と足先から役にこめられた心情を汲み取り、また飛び跳ねて動くその所作の全てから劇のダイナミックなストーリー性を感じることは、何かと雄弁で過剰なオペラ観劇(もちろんそれがまたオペラの醍醐味でもあります。)とは全く異なった体験を与えてくれます。ガラスの靴を寄り添い、二人がようやく結ばれるお馴染みの大円団では、思わずぐっと熱いものがこみあげてくるものを感じました。今回の上演はあくまでもコンサートスタイル形式とのことで、曲の短縮、また組み替えなど、通常とは大きく形態が違っていましたが、全50分、バレエ初心者の私も全く飽きないで楽しめたことを付け加えておかなくてはなりません。またあえて音楽の四隅を細かく揃えず、むしろシンデレラの音楽にこめられた幻想的な雰囲気を大切にした渡邊の指揮も見事であったと言うべきでしょう。やや締まりのなかった東フィルから柔らかな響きを引き出すことに成功していました。

さてこうしてメインのシンデレラに感心しておきながら言うのも失礼かもしれませんが、休憩前、つまりは三善の「連富士」と渡邊自身の指揮振りによるモーツァルトのピアノ協奏曲は、演奏の精度はもちろんのこと、そのプログラミングからして、私には全く感じ入るものがありませんでした。そもそも三善のエネルギッシュな連冨士の後に、切々と繊細な情感を歌う第20番を持ってくることからして、一体何を伝えたいのかが良く分かりませんでしたが、指揮振りの20番の渡邊のソロに関しては、演奏終了後の観客の冷たい反応が全てを物語っていたと言えるのではないでしょうか。音色に輝きのないピアノ、まとまりのないレガートを多用した緊張感のない伴奏など、聴いていてこの傑作に一体何をしたいのかと戸惑ってしまうほどでした。

Cinderella: Adagio by Ekaterina Osmolkina & Andrei Merkuriev


これなら抜粋などをせず、むしろ全曲通してバレエ音楽を演奏した方が良かったかもしれません。バレエをダンサー付きのコンサート形式で、しかも定期演奏会で演奏すること自体が極めて稀ですが、渡邊のメッセージ「時間を許す限り、バレエを振ってゆこうと思います。」(解説冊子より)を信じて、またのバレエ公演の開催に期待したいものです。
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