都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
藤田嗣治 「ドルドーニュの家」 ブリヂストン美術館より

常設展示
「藤田嗣治 -ドルドーニュの家- 」(1940年)
ブリヂストン美術館の常設展示の近代日本西洋画の中で、特に印象に残るのは、藤田嗣治(1886-1968)の「ドルドーニュの家」です。
まるで小さな要塞か穴蔵のような部屋の中には、古びた木製のテーブルと、暖炉、そして年代を感じさせる時計や燭台、それに銃などが配されています。右手の窪みは窓へつながっているのか、唯一この閉塞的な部屋に「外」の気配を感じさせますが、逆に左手の階段は、まるで「トマソン」のように置かれていて、外(または上)へつながっているようには見えません。また、藤田ならではとも言える乳白色と、黒を中心とした配色は、画面に瓶などの生活をイーメジさせる道具があるのにも関わらず、この家をがらんとした空洞か、あるいはまるで人気のない使われていない場所のように見せてきます。不思議です。
遠近感が歪んで描かれているのか、しばらく見ていると、平衡感覚が失われてしまうかのような気分に襲われます。あまりにも縦に長過ぎるように見えるテーブル、階段の手すりの歪み、そして天井に無骨に並ぶ梁。それらは全体の構図に不安定さをもたらしているようです。ただ、暖炉の上に並ぶ時計や瓶などだけは、端正にしっかりと置かれて、唯一の安定感を見せています。この、妙なアンバランスさもまた、作品の魅力の一つかもしれません。
この作品の中で、乳白色や黒などでまとめられていない、言わばハッキリとした色を見せているのは、階段上にかかる女性の肖像画(?)だけです。赤い服を身につけて前を凝視する女性。この作品のまさに紅一点として、不思議な存在感を見せつけています。
藤田嗣治の大規模な回顧展は、今後、来年の3月から5月にかけて、東京国立近代美術館での開催が予定されています。(その後、京都国立近代美術館と広島県立美術館へ巡回。)東京国立近代美術館の藤田の作品と言えば、同美術館が多く所蔵する、「大東亜戦争美術展」などに出品されたような巨大な戦争画もイメージさせますが、予定されている回顧展は、藤田の初期から晩年までの作品を概観するものだそうです。
独特の乳白色で占められた画面と、細い線で輪郭をとった、あまり重みを感じさせない事物の気配。東京国立近代美術館の回顧展も楽しみです。
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