「大山エンリコイサム展 夜光雲」 神奈川県民ホールギャラリー

神奈川県民ホールギャラリー
「大山エンリコイサム展 夜光雲」
2020/12/14~2021/1/23



神奈川県民ホールギャラリーで開催中の「大山エンリコイサム展 夜光雲」を見てきました。

1983年に東京で生まれ、ニューヨークを拠点にする大山エンリコイサムは、モノクロームによる絵画や立体を制作しながら、自身の影響を受けたストリート文化に関する著作を発表するなどして幅広く活動してきました。

その大山の過去最大級の作品などで構成したのが「夜光雲」と題した個展で、平面から立体、さらにはサウンドインスタレーションが公開されていました。


「レタースケープ」 地下第2展示室

まず冒頭に展示されていたのは「レタースケープ」で、遠目からでは一枚の長い紙に無数の書き込みが見られる作品でした。


「レタースケープ」(部分)

実際には江戸時代に墨と筆で書かれた出納帳と、19世紀末から20世紀後半にかけて世界からニューヨークに送られた手紙をコラージュしたもので、墨の流麗な文字と手紙に記された様々な言語が断片的に連なっていました。

また地の紙もちぎり絵のような複雑なパターンを描いていて、文字をつなぎ合わせつつ、一方で引き裂くように展開していました。紙と文字の揺らぐような関係も面白いのではないでしょうか。

続くのは大山の代表的な制作である「クイックターン・ストラクチャー」による連作、「FFIGURATI」でした。


「FFIGURATI」 地下第3展示室

これはストリートアートの中心的な分野である「エアロゾル・ライティング」の視覚言語から文字の形を取り除き、抽象的な形として再構成した作品で、鋭い牙のような太い描線が踊るように展開していました。なお「エアロゾル・ライティング」とは、エアロゾル塗料をスプレーで壁面に図像などを描くストリートアートを意味します。(神奈川芸術プレス vol.156より)


「FFIGURATI」

白と黒による面は空間を切り刻んでいくようで、それ自体が意思を持って運動しているかのようでした。まるで何らかの概念を象るエンブレムのように見えるかもしれません。


「Cross Section」 地下第4展示室

こうした平面とは一転し、巨木を前にしたかのように重量感に満ちていたのが「Cross Section」と題した立体の作品でした。


「Cross Section」

「Cross Section」はスタイロファームと呼ばれる建築資材を約200枚重ねて、熱線カッターで切り落としたもので、鋭利な刃物で刻み込まれたような断面が見られました。


「Cross Section」

一枚一枚の資材が積み重なっては天井付近にまで達していて、時に斜めへ屈曲するように起立していました。しばらく眺めていると、あたかも展示室へと闖入し、いつしか姿形を歪ませながら変容する未知の有機物のようにも思えました。

さてギャラリーで最大の1300平米のスペースに展開していたのは、過去最大級の作品でもある「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」でした。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」 地下第5展示室

ここでは5枚の巨大な絵画が高さを変えて展示されていて、いずれもが即興的でかつスピーディーな線が重ねられていました。また全ての絵画は枠に貼らず剥き出しの状態に置かれていて、飛び散った墨が床にまで滴り落ちていることもありました。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

そして暗がりの展示室ゆえか、あたかも作品が宇宙に浮かぶ星のようにも輝いていて、全体で1つの壮大なインスタレーションを築いていました。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

この広いスペースに5点の絵画は少なく感じるかもしれませんが、大山はあえて「物量で埋めるのではなく、空間に対する適度な量」(神奈川芸術プレス vol.156より)を意図して作品を制作しました。また日本式庭園や禅の思想を踏まえるべく、鎌倉や京都の禅寺に取材したそうです。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

複雑怪奇な線の動きは変幻自在で、何やら深い情念が憑依しているような雰囲気も感じられなくはありません。モノクロームの世界ながらも渦巻く熱気を浴びるかのようでした。


「エアロミュラル」 1階第1展示室

ラストのサウンドインスタレーションである「エアロミュラル」に魅せられました。絵画や立体作品が一切展示されていないホワイトキューブの床には、ただスピーカーのみがいくつか置かれていて、エアロゾル塗料の噴射音が鳴っていました。


「エアロミュラル」

これは壁にかかれる線を音として空間に表現したもので、いわば「音の壁画」(解説より)を築いていました。当然ながら噴射音は一定ではなく、場所などによって終始変化していて、線や面の動きが示されていました。

線や面の広がりを自由に想像する体験は思いの外に刺激的で、しばし目を閉じては音に聞き入りました。まさに鑑賞者に感性を委ね、想像力を膨らませる作品と言えるかもしれません。


「スノーノイズ」 1階第5展示室バルコニー

大山にとって雲とは、形が定まらず流動的であり、また無名性を持つことから、自らの美術に通じるものがあると考えているそうです。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

それを踏まえて「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」を見ると、いつしか地球上で最も高い高度に発生するとされる「夜光雲」の神秘的な姿を眺めているような気分にさせられました。



新型コロナウイルス感染症対策に伴い、マスクの着用と検温のほか、神奈川県「LINEコロナお知らせシステム」への登録か入館カードに連絡先を記入する必要があります。

1月23日まで開催されています。

「大山エンリコイサム展 夜光雲」 神奈川県民ホールギャラリー@kanaken_gallery
会期:2020年12月14日(月)~2021年1月23日(土)
休館:12月17日(木)、24日(木)、28日(月)、1月7日(木)、年末年始(12月30日~1月4日)
時間:10:00~18:00 *入場は閉場の30分前まで。
料金:一般800円、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。
住所:横浜市中区山下町3-1
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約6分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。横浜市営地下鉄関内1番出口より徒歩約15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「眠り展」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」
2020/11/25~2021/2/23



東京国立近代美術館で開催中の「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」を見てきました。

人間が生きていく上で欠かせない眠りは、古今東西の美術においても多様に表現されてきました。

そうした眠りと美術との関係を紐解くのが「眠り展」で、ゴヤやクールベなどの西洋美術にはじまり、河原温や河口龍夫、塩田千春などの現代美術の作品が展示されていました。


右:ギュスターヴ・クールベ「眠れる裸婦」 1858年 国立西洋美術館

まず冒頭の序章「目を閉じて」では、クールベの「眠れる裸婦」やルーベンスの「眠る二人の子供」などが展示されていて、眠りが西洋絵画においてもよく見られる主題であることが見てとれました。と同時に、現代美術家の河口龍夫が闇の中で鉄製の箱へ闇を閉じたとする「DARK BOX」も並んでいて、眠りが今も美術家にインスピレーションを与えていることが感じられました。


序章「目を閉じて」会場風景

このように西洋の古典と現代の作品とが時にないまぜになっているのが特徴で、時間や場所を行き来しながら、多様に表現された眠りのあり方を目の当たりにできました。

端的に癒しや休息ではなく、夢と現実、生と死、それに目覚めなど、眠りにまつわる多面的な諸相を追っているのも、今回の展覧会の見どころと言えるかもしれません。


楢橋朝子「half awake and half asleep in the water」 2004〜2005年 東京国立近代美術館

「水の中で半ば目覚め、半ば眠っている状態」を意味した楢橋朝子の「half awake and half asleep in the water」シリーズは、作家が日本各地の海や湖に入っては、水面すれすれでシャッターを切って制作した写真で、水面と景色が揺らぐような光景が広がっていました。ここに夢うつつの中で水に沈んでいくような感覚が表れていて、水によって狭まれた視界が微睡んだ時に見える光景のようにも思えました。


ジャオ・チアエン「レム睡眠」 2011年 国立国際美術館

3面のスクリーンのよるジャオ・チアエンの「レム睡眠」は、18名の男女が夢で見たことを語る映像で、多くは外国で介護職で働く女性であることから、故郷の様子などを切々と振り返っていました。一見、腰掛けて眠っているようでありながら、おもむろに目を開けては語る様子も印象的で、眠りと現実を無限に行き来しているかのようでした。


小林孝亘「Pillows」 1997年 国立国際美術館

小林孝亘の「Pillows」は文字通り枕をモチーフとした絵画で、ちょうどベットの上から枕を正面に見下ろすように描いていました。白い枕は弾力を帯びているように膨らんでいて、さも寝心地が良さそうにも見えましたが、無人のベットは死を連想させるものがありました。


河口龍夫「関係ー種子、土、水、空気」 1986〜89年 東京国立近代美術館

麦や梨など30種類の植物の種子を30枚の鉛の板に閉じ込め、壁にかけたのが河口龍夫の「関係ー種子、土、水、空気」でした。河口はチェルノブイリ原発事故に触発され、植物の種子を鉛や蜜蝋で保護する作品を制作していて、同作においては床の真鍮やアルミの管に種子を発芽させるための水や空気などを詰め込みました。それこそ種子を眠りから目覚めへと誘う装置とも呼べるかもしれません。


森村泰昌「烈火の季節/なにものかへのレクイエム (MISHIMA)」 2006年 東京国立近代美術館

森村泰昌の映像「烈火の季節/なにものかへのレクイエム (MISHIMA)」も目立っていたのではないでしょうか。ここでは三島由紀夫に扮した森村がバルコニーに立ち、人々へ「静聴せよ」と勇ましく呼びかけていましたが、聴衆は目覚めているはずにもかかわらず眠っているように反応していませんでした。


「眠り展」会場風景

トラフ建築設計事務所による会場デザインや、平野篤史(AFFORDANCE)のグラフィックデザインも見どころと言えるかもしれません。会場内には寝室のカーテンを思わせる布が吊るされていて、夢うつつを連想させるような文字デザインなどを含め、眠りの世界へと誘うような仕掛けがなされていました。


石井茂雄「戒厳状態」 1956年 東京国立近代美術館

とはいえ、感性を呼び覚ますような刺激的な作品や、眠りと意外な接点を持つ作品も少なくなく、発見の多い展覧会でもありました。


ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「貧しき漁夫」 1887〜1892年 国立西洋美術館

館内整備のため長期休館中の国立西洋美術館からシャヴァンヌの「貧しき漁夫」もやって来ていました。「眠り展」の全ての作品は国内の6つの国立美術館(東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ)で構成されていて、「陰影礼讃」(2010年)、「No Museum,No Life?ーこれからの美術館事典」(2015年)に続く、国立美術館合同展の第3弾として企画されました。


金明淑「ミョボン」 1994年 東京国立近代美術館

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、来館日時を予約する日時指定制が導入されました。但し会場窓口においても当日券が販売されています。


会場内の一部作品を除き撮影も可能です。2月23日まで開催されています。

「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2020年11月25日(木)~2021年2月23日(火・祝)
時間:10:00~17:00。
 *1/15以降の金曜・土曜の夜間開館は当面休止。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し1月11日(月)は開館し、翌12日(火)は休館。
料金:一般1200(1000)円、大学生600(500)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り所蔵作品展「MOMATコレクション」も観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」 東京国立博物館・ 表慶館

東京国立博物館・ 表慶館
「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」
2020/12/24~2021/2/21



東京国立博物館・ 表慶館で開催中の「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」を見てきました。

日本の伝統的な建築物は、近代以降に文化財建造物修理事業の一環として、主に10分の1サイズの模型としても制作されました。

そうした模型を紹介したのが「日本のたてもの」で、会場では古代から中世に至る仏堂、城郭、門、神社、住宅などの模型が約20点ほど展示されていました。


「日本のたてもの」展示風景 

まず冒頭で目を引いたのが、「法隆寺五重塔」や「石山寺多宝塔」などの塔婆建築でした。日本には仏教とともに朝鮮半島から伝わったとされていて、法隆寺の五重塔と法起寺の三重塔を最古とし、以来、ほぼ三重か五重塔として築かれてきました。


「法隆寺五重塔」(内部) 1/10模型 1932年制作 東京国立博物館 原建築:国宝 飛鳥時代 奈良県斑鳩町

そのうちの「法隆寺五重塔」は、戦前から半世紀に及んだ大修理に先立ち、1932年に現状模型として制作されたもので、よく見ると一部の内部空間も細かに再現されていました。


「今西家住宅」 1/10模型 1971年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:重要文化財 1650(慶安3)年 奈良県橿原市

今回の展覧会で特に興味深いのは、建物を二分した模型、つまり分割模型があることでした。例えば17世紀の奈良県橿原市の「今西家住宅」では、ちょうど建物の真ん中の部分が分かれていて、さながら断面図のように内部構造を見ることができました。


「大仙院本堂」 1/10模型 1969年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:国宝 1513(永正10)年 京都府京都市

臨済宗大徳寺の塔頭で16世紀に築かれた「大仙院本堂」も同様に二分されていて、左右に分かれた室内を目の当たりにできました。


「大仙院本堂」(部分) 1/10模型 1969年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:国宝 1513(永正10)年 京都府京都市

さらに同本堂の模型では、内部の障屏画や庭園までもが細かに再現されていて、端的な模型というよりもジオラマを前にしたような臨場感がありました。

このように建物外観だけでなく、内部構造に着目を当てていたのも展覧会の大きな見どころと言えるかもしれません。暗がりの内部を映すような照明にも工夫がありました。


「東福寺山門」 1/10模型 1979年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:国宝 1405(応永12)年 京都府京都市

一連の模型の中で建築物としての迫力を感じたのは、室町時代中期に遡る「東福寺山門」でした。1979年に分割模型として作られたもので、木が組み合わさる構造なども見事に表現されていました。


「松本城天守」 1/20模型 1963年制作 東京国立博物館 原建築:国宝 安土桃山時代 長野県松本市

長野県松本市の「松本城天守」は1963年、解体修理の成果をもとに制作された20分の1の分割模型で、五重六層に連なった堂々たる威容を見ることができました。


「如庵」 1/5模型 1971年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:国宝 1618(元和4)年頃 愛知県犬山市

一方で小さな建物ながら極めて魅力的に感じたのが、17世紀に織田有楽斎が建てた茶室である「如庵」でした。


「如庵」(部分) 1/5模型 1971年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:国宝 1618(元和4)年頃 愛知県犬山市

1972年の移築修理に先立って制作された5分の1の模型で、正面から左右、そして内部まで変化に富んだ意匠を360度の角度から鑑賞できました。

この他では「建築物装飾」や「建具製作」など、歴史的建築物を保存修理するために必要な「選定保存技術」を紹介したパネル展示も充実していたのではないでしょうか。そしてこれらの技術は2020年12月、日本の「伝統建築工匠の技」としてユネスコの無形文化遺産に登録されたそうです。


「首里城正殿」 1/10模型 1953年制作 沖縄県立博物館・美術館 原建築:18世紀前半建築(1945年焼失) 沖縄県那覇市

メイン会場の表慶館とは別に、平成館1階のガイダンスルームでは、18世紀前半に建てられ、沖縄戦で失われた首里城正殿の模型も展示されていました。同正殿は戦後再建され、沖縄のシンボルとして知られてきましたが、2019年に火災により無残にも焼失してしまいました。


「慈照寺東求堂」 1/10模型 1970年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:国宝 1484(文明18)年 京都府京都市

「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」は3会場制です。

・「古代から近世、日本建築の成り立ち」 東京国立博物館・表慶館 2020年12月24日~2021年2月21日
・「近代の日本、様式と技術の多様化」 国立科学博物館・日本館1階(企画展示室) 2020年12月8日~2021年1月11日
・「工匠と近代化―大工技術の継承と展開」 国立近現代建築資料館 2020年12月10日~2021年2月21日

それぞれ「古代から近世、日本建築の成り立ち」、「近代の日本、様式と技術の多様化」、「工匠と近代化―大工技術の継承と展開」とテーマを設定し、東京国立博物館・表慶館、国立科学博物館・日本館1階(企画展示室)、国立近現代建築資料館にて開かれています。


「仁科神明宮」 1/10模型 1973年制作 国立歴史民俗博物館 原建築:国宝 江戸中期 長野県大町市

既に国立科学博物館は会期を終えましたが、開催中の国立近現代建築資料館も都立旧岩崎邸庭園の臨時休園に伴い、2月7日までの土日が臨時休館となりました。お出かけの際はご注意下さい、


「東大寺鐘楼」 1/10模型 1966年制作 東京国立博物館 原建築:国宝 1207〜1211年(承元年間) 奈良県奈良市

オンラインでの事前予約制が導入されました。但し定員に達していない場合は当日受付もできます。


一部を除き撮影が可能です。2月21日まで開催されています。

「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」 東京国立博物館・ 表慶館(@TNM_PR
会期:2020年12月24日(木)~2021年2月21日(日)
時間:9:30~17:00。
 *金・土曜の夜間開館は当面休止。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し1月11日(月)は開館し、翌12日(火)は休館。
料金:一般1500円、大学生1000円、高校生600円。中学生以下無料。
 *当日に限り総合文化展も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品」 千葉市美術館

千葉市美術館
「田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品」
2021/1/5~2/28



千葉市美術館で開催中の「田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品」を見てきました。

1908年に栃木県で生まれ、千葉で20年ほど暮らした田中一村は、50歳にて奄美大島へと移住すると、南国の花鳥や風土を題材にした日本画を制作しました。

それらの作品は生前に表立って公表されることがなく、1977年にほぼ無名のままに没したものの、後にテレビ番組で取り上げられるなどして注目を集め、数多くの展覧会が開かれてきました。

一村の再評価を決定づけたのが、2010年に千葉市美術館や鹿児島市立美術館、また田中一村記念館で開かれた回顧展「田中一村 新たなる全貌」でした。同展では初期から奄美時代までの作品を250点も集め、一村の画業を時代別に丹念に辿っていて、大勢の来館者を記録するなどして反響を得ました。

以来、約10年の間に千葉市美術館には一村の作品が寄託を含め100点を超え、2018年度には千葉で一村を支援した川村家から残りの資料などの寄贈を受けました。


そうした同館の一村のコレクションを初めて一堂に展示したのが「田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品」で、絵画、彫刻、写真の130点に加え、書簡や書籍、合わせて特別出品の絵画などが並んでいました。

さて前回の「田中一村 新たなる全貌」では奄美時代の作品をかなり網羅していましたが、今回の一村展で重点が置かれているのは奄美以前、特に千葉での制作でした。

一村が千葉市に移ったのは1938年のことで、その後20年に渡って農作業をしながら、同地の風景や動植物を描きました。この時期の一村で目立つのは色紙サイズの小さな作品で、千葉寺の近郊の里山などが牧歌的に捉えられていました。

何かと孤高の存在と捉えがちの一村でありながら、千葉では地元の展覧会に出品したり、川端龍子の主催した青龍展で入選するなど、公募展での活動も行っていました。また天井画の依頼を受けたり、旅先で見た風景を色紙に描いたりしていて、戦後の一時期に集中的に取り込んだ軍鶏の作品や写真肖像画の仕事も目を引きました。

「仁戸名蒼天」は千葉の一村の支援者に応じて描いた作品で、広い青空の下の丘に生茂る林を写していました。ここで興味深いのは上辺が緩やかな弧を描いていることで、盛り上がるような岩絵具の質感は油彩と見間違うほどでした。

1958年、50歳になった一村は千葉を去り、奄美大島の名瀬に移り住むと、染色工として働きながら南国特有の動植物を独自の画風で描きました。



ここでハイライトを飾っていたのは、海辺に一本のアダンが茂る光景を描いた「アダンの海辺」でした。アダンの樹木の強調された近景と、彼方へ永遠に続くような海とが対比的な表現をとる作品で、一村の代表作の1つとして知られてきました。アダンの葉や実は植物でありながら、どこか熱気を帯びているようにも見えて、類い稀な生命感に満ちていました。

「アダンの海辺」を取り囲むように並んでいたたのが、色紙に描かれた「奄美風景」などの小品でした。それらは「アダンの海辺」に開けた南国の景色と呼応するように展開していて、あたかも来場者を奄美の場へと誘うかのようでした。

この他では若き一村の描いた「椿図屏風」も目を引くのではないでしょうか。金地に白や紅色の椿を細密に描いていて、花と葉が絡み合うような姿は妖艶にすら感じられました。後の奄美時代の一村画のような濃厚な描写を彷彿させるかもしれません。

ラストの田中一村のアーカイブ展示が充実していました。過去に一村を取り上げた展覧会のポスターやカタログなどが一堂に並んでいて、一村がどのように国内で受容されたのかを一覧することができました。


新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言発出のため、毎週金曜日と土曜日の夜間開館は中止となりました。また事前予約は不要ですが、混雑状況に応じて入場制限を行うそうです。

2月28日まで開催されています。

「千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念/千葉市制100周年記念/川村コレクション受贈記念 田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2021年1月5日(火)~2月28日(日)
休館:1月18日(月)、2月1日(月)。
時間:10:00~18:00。
 *入場受付は閉館の30分前まで
 *金・土曜日の夜間開館は中止。
料金:一般600(480)円、大学生400(320)円、高校生以下無料。
 *( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
 *5階常設展示室「千葉市美術館コレクション名品選2020」も観覧可。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「博物館に初もうで 2021」 東京国立博物館

東京国立博物館
「博物館に初もうで 2021」
2021/1/2~1/31



2003年から東京国立博物館で開かれている「博物館に初もうで」は、今年で18年目を数えるに至りました。

今年の干支である丑に因み、牛に因んだ作品の特集「ウシにひかれてトーハクまいり」や、新春を飾るのに相応しい吉祥的な作品が公開されていました。

まず「ウシにひかれてトーハクまいり」では、牛をモチーフとした作品を、信仰や暮らし、それに牛車と王朝美などの観点から紹介していました。


森徹山「牛図屏風」 江戸時代・19世紀

森徹山の「牛図屏風」は銀地へ茶と黒の牛を互い違いに描いた作品で、黒牛は伏して彼方を眺める一方で、茶色の牛は黒牛を横目で見やるような仕草をしていました。写実的な表現が充実していて、牛の重量感までもがひしひしと伝わってきました。


「牧童水滴」 江戸時代・17〜18世紀

江戸時代に多く作られた動植物を象った水滴においても、牛は重要なモチーフの1つでした。そのうち「牧童水滴」では牛に乗る子どもの姿を巧みに捉えていて、牛はこちらを見やりながら足を休めていました。こうした柔らかな造形は、鋳造の原型を手捻りで制作することで生み出されたそうです。


「駿牛図断簡」 鎌倉時代・13世紀 重要文化財

牛車を引く牛を描いた絵巻の断簡として残されたのが、鎌倉時代に遡る「駿牛図断簡」でした。墨を重ね、細かな筆で脚などを描いた表現は大変に緻密で、後ろを振り返る一瞬の姿を見事に写していました。小さな画面ながらも、これほど牛が生き生きと感じられる作品も少ないかもしれません。


「片輪車蒔絵螺鈿手箱」 平安時代・12世紀 国宝

この牛車の車輪のみを全面に蒔絵として表したのが、平安時代後期を代表する名品である「片輪車蒔絵螺鈿手箱」でした。水に浸された車輪はあたかも流れに乗って回転するかのようで、雅やかな雰囲気を醸し出していました。


「三彩牛車・馭者」 中国・唐時代・7世紀

中国の唐の「三彩牛車・馭者」も興味深い作品かもしれません。これは墳墓に副葬するための明器として制作されたもので、車輪の形や人物の表現が隋の時代に近いことから、唐三彩としては早い段階の作例として知られてきました。


「袱紗 薄紅繻子地騎牛笛吹童子図」 江戸時代・18〜19世紀

この他では色鮮やかな「袱紗」や鈴木春信の「見立巣父」も魅惑的ではないでしょうか。牛は古くから信仰の対象でもあり、また農耕や輸送の労働力でもあったゆえに人間の生活と深く関わっていて、絵画や工芸でも多様に表現されてきました。


任清、「任清」印「色絵月梅図茶壺」 江戸時代・17世紀 重要文化財

さて本館では「ウシにひかれてトーハクまいり」以外においても、松竹梅や鶴亀、また富士山などの慶事の意匠を象った作品が展示されていて、お正月気分を味わうことができました。


長谷川等伯「松林図屏風」 安土桃山時代・16世紀 国宝

そのうち恒例ともいえるのが国宝室で公開された長谷川等伯の「松林図屏風」でした。同作は昨年秋の「特別展 桃山」でも展示されたばかりでしたが、心なしか国宝室では松林がより深い霧に包まれていて、幽玄な佇まいが強く滲み出しているように感じられました。


伊藤若冲「松梅群鶏図屏風」 江戸時代・18世紀

鶏のを躍動感あるタッチで描いた伊藤若冲の「松梅群鶏図屏風」も見応えがあったのではないでしょうか。鶏は時に大見得を切るように勇ましい立ち姿を披露していて、まさに「鶏の画家」で名高い若冲の真骨頂ともいえるような表現を見せていました。


「もう隠」印「花鳥図屏風」 室町時代・16世紀

「もう隠」なる印が記された「花鳥図屏風」にも魅せられました。中央に水辺の広がる水墨を背景に、孔雀や金鶏、牡丹や紅椿などが実に色彩豊かでかつ極めて緻密に描かれていました。


「もう隠」印「花鳥図屏風」(部分) 室町時代・16世紀

細部の描写や水墨と色彩のコントラストも絶妙で、近くによって目を凝らすほど、画中の世界に引き込まれるような感覚に囚われました。なお「もう隠」とは、狩野元信の弟の之信とする説が有力であるそうです。


伝土佐光信「松図屏風」 室町時代・16世紀 重要文化財

オンラインでの事前予約制が導入されました。但し事前予約の枚数に空きがある場合は、当日窓口でもチケットを予約することが可能です。



新型コロナウイルス感染症対策に伴い、金曜と土曜日の夜間開館は当面休止となりました。また恒例の獅子舞や和太鼓の演舞も取りやめになり、「博物館に初もうで」のカレンダーの配布も実施されませんでしたが、代わりにPDF版を同館のWEBサイトよりダウンロードすることができます。


1月31日まで開催されています。*「松林図屏風」は1月17日までの公開。

「博物館に初もうで 2021」 東京国立博物館@TNM_PR
会期:2021年1月2日(土) ~1月31日(日)
時間:9:30~17:00。
 *金・土曜の夜間開館は当面休止。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し1月11日(月)は開館し、翌12日(火)は休館。
料金:一般1000円、大学生500円。
 *特別展「日本のたてもの」のチケットでも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」
2020/10/17~2021/1/12



東京都庭園美術館にて開催中の「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」を見てきました。

今回出展したのは、青木美歌、淺井裕介、加藤泉、康夏奈、小林正人、佐々木愛、 志村信裕、山口啓介の8名のアーティストで、「人間と自然の関係性」をテーマに、絵画や彫刻、インスタレーションなどの多様な作品を公開していました。


淺井裕介「混血ーその島にはまだ言葉がありませんでした」 2019〜2020年

まず本館の大広間で目立っていたのが、土を用いた泥絵などを制作する淺井裕介の「混血ーその島にはまだ言葉がありませんでした」でした。少年や鹿に似た動物、はたまた草花や装飾的なモチーフが壁一面に広がっていて、それこそ森羅万象の生態系が描かれているかのようでした。


淺井裕介「頭上の森」 2020年

土はもちろん、赤ペンキや墨、またアクリル以外に、近年取り組んでいるという鹿の血も絵具として用いていました。また淺井は蝦夷鹿の頭骨や角を使った「頭上の森」などの立体も展示していました。いずれも角の先に動物の装飾が施されていて、未知の生き物として生まれ変わったかのようでした。


山口啓介「香水塔と花箱」 2020年

白磁の香水塔のある次室と大客室に展開した、山口啓介の「香水塔と花箱」も美しいかもしれません。


山口啓介「香水塔と花箱」 2020年

ここではドライフラワーや造花、また種子などを天然樹脂で固めた「カセットプラント」と呼ばれる作品が並んでいて、一部は窓の外から淡く色とりどりの光を室内へと写し込んでいました。


山口啓介「花波ガラス」 2020年

さらに山口は本館と新館をつなぐスペースに「花波ガラス」を展示していて、透明の小箱に入れられた自然の花と造花が美しいグラデーションを描いていました。花の向こうに屋外の庭園の緑が重なって映るのも良かったかもしれません。


加藤泉 展示風景

円形の窓から庭園を望む大食堂に作品を展示していたのは、胎児のような人型の彫刻や絵画で知られた加藤泉でした。


加藤泉 展示風景

ちょうど手足を広げて浮遊するような彫刻や、男女の肖像のような絵画が並んでいて、いずれもシュールでかつコミカルな表情を見せていました。その様子からは、あたかもアール・デコの空間を楽しんでいる住人のようにも思えました。


加藤泉「無題」 2020年

この他にも市松模様の大理石の敷かれたベランダをはじめ、大きな金庫のある小部屋にも隠れるように作品を置いていました。とりわけ後者はまるで金庫から飛び出してきたような仕草をしていて、愛おしくさえ映りました。


加藤泉「無題」 2020年

今回の展覧会の中で最もアール・デコの空間に映えていたのは加藤の作品だったのではないでしょうか。かくれんぼうならぬ作品を探して歩く面白さも感じられるかもしれません。


佐々木愛「鏡の中の庭園」 2020年

漆喰を用いて自然の景色を彫刻として表現した、佐々木愛の作品にも魅せられました。そのうち「鏡の中の庭園」では、丸い円盤状の支持体へ草花や蝶を線描のように刻み込んでいて、カーテン越しの柔らかい光を受けていました。


佐々木愛「鳥たちが見た夢」(部分) 2020年

「鳥たちが見た夢」も同様の漆喰の作品で、草花や鳥の繊細な模様があたかもカーテンのレースのように広がっていました。


小林正人「名もなき馬」 2014年

さらに本館では床置きした絵画を描いた小林正人や、自然のランドスケープを立体に表現したような康夏奈の作品も目を引きました。


「生命の庭」 新館ギャラリー1 展示風景

一方の新館では、広いホワイトキューブを活かして、山口啓介や小林正人が比較的サイズの大きな絵画を展示していました。

また山口は絵画の他に、東日本大震災以降ひたすら原発に関するニュースを記す日記「震災後ノート」も公開していて、まさに現在のコロナ禍などについても事細かに記述していました。


青木美歌 展示風景(本館部分)

さらにギャラリー2では、ミクロのウイルスなどを連想させるガラス彫刻を制作する青木美歌が、それこそ宝石の煌めきを思わせるような美しい展示を繰り広げていました。(ギャラリー2のみ撮影不可)こちらもお見逃しなきようにおすすめします。


志村信裕の「光の曝書(メンデルスゾーンの楽譜)」 2020年

かつて朝香宮が所有していた楽譜と映像を組み合わせた、志村信裕の「光の曝書(メンデルスゾーンの楽譜)」にも魅せられました。ちょうど楽譜の部分に庭園で撮影した緑や光が移ろうように映されていて、景色だけでなく静かに流れる時間までが切り取られているようでした。



12月28日から1月4日は年末年始のためにお休みです。


1月12日まで開催されています。

「生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」 東京都庭園美術館@teienartmuseum
会期:2020年10月17日(土)~2021年1月12日(火)
休館:第2・第4水曜日(10/28、11/11、25、12/9、23) 、年末年始(12/28~1/4)。
時間:10:00~18:00。
 *11/20、11/21、11/27、11/28、12/4、12/5は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大学生800(640)円、中・高校生・65歳以上500(400)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
 *第3水曜日のシルバーデーは当面中止。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」 森美術館

森美術館
「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」
2020/7/31~2021/1/3



日本を代表する6名の現代美術家の活動を紹介する展覧会が、森美術館にて開催されています。

それが「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」で、草間彌生、李禹煥(リ・ウファン)、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司らの作品がそれぞれ個展の形で公開されていました。


村上隆「Ko2ちゃん(プロジェクト Ko2)」 1997年

冒頭はスーパーフラットのシリーズでも世界的に注目を集める村上隆の展示で、比較的早い段階の「ヒロポン」や「マイ・ロンサム・カウボーイ」とともに、今年制作された「チェリーブロッサム フジヤマ JAPAN」や「ポップアップフラワー」などが合わせて並んでいました。


村上隆 展示風景

このように「STARS展」では、各作家が「国際的に認められるようになった時期」(解説より)と最新作とが並置されるのが特徴で、新旧の対比や融合も見どころとなっていました。


李禹煥「対話」 2019年、「対話」 2020年

強烈なエネルギーが迸るような村上の展示とは一転し、白とグレーの小石を敷き詰め、瞑想を誘うような静謐な空間を築き上げたのが、いわゆるもの派の作家として知られた李禹煥でした。


李禹煥「関係項」 1969/2020年

ここではまるで太古の化石のような石の「関係項」を起点に、ステンレスの棒と石を組み合わせた「関係項ー不協和音」、さらには近年の絵画シリーズの「対話」が互いに響き合うように展示されていて、全てが1つのインスタレーションを築いているかのようでした。


李禹煥 展示風景

石の感触を足裏で確かめながら作品の合間を縫って歩いていると、屋内のホワイトキューブであるにも関わらず、いつしか自然の中に設えられた祈りの場にいるような錯覚に囚われました。端的に絵画と彫刻だけでなく、空間全てが李の作品と言って良いのかもしれません。


草間彌生 展示風景

続く草間彌生では、1960年頃の初期作品より1990年台のベネチア・ビエンナーレに出品した「天上よりの啓示」から、最新の絵画である「わが永遠の魂」などが展示されていて、網目や突起などの造形から抽象と具象を行き来しつつ、現在の「生命の讃歌」(解説より)へと至った作風の変遷を辿ることができました。


草間彌生「芽生え」 1992年

1992年の「芽生え」は黒い地のキャンバスに緑色の線が網目模様のように広がった作品で、抽象的ながらも自然の緑の息吹を表しているように見えました。ひたすら反復しして増殖しつつも、震えるような線の揺らぎも興味深いところかもしれません。


奈良美智 展示風景

子どもをモチーフとした肖像画などで人気の奈良美智は、絵画やドローイングだけでなく、家の形をした大型のインスタレーションなどを展示していました。「STARS」展の中で最も密度の濃い内容だったかもしれません。


奈良美智 展示風景

またCDや書籍、こけしに人形などの玩具といった自らのコレクションまでも公開していて、奈良の多様なカルチャーへの関心の在り処とともに、作品のインスピレーションの源泉を伺い知ることができました。


杉本博司「時間の庭のひとりごと」 2020年 (30分2秒)

この他、宮島達男によるLEDを用いたプール状の大型インスタレーション「時の海―東北」プロジェクト(2020 東京)」や、杉本博司が江の浦測候所を舞台に初めて映画作品として制作した「時間の庭のひとりごと」も見どころといえるかもしれません。


杉本博司 展示風景

さて今回の「STARS展」で私が最も見応えがある感じたのは、アーティストの活動歴や海外で開催された日本の現代美術展の歴史を辿ったアーカイブ展示でした。

いずれも展覧会のカタログや写真、批評などを細かに紹介していて、テキストや資料などが想像以上に充実していました。(アーカイブ展示のみ撮影不可)ひょっとすると全ての展示の中でアーカイブを一番時間をかけて見ていたかもしれません。


サムソン・ヤン(楊嘉輝)「音を消した状態#22:音を消したチャイコフスキー交響曲第5番」 2018年 (45分)

「STARS展」に続くMAMコレクションのサムソン・ヤン(楊嘉輝)の映像、「音を消した状態#22:音を消したチャイコフスキー交響曲第5番」も面白い作品ではなかったでしょうか。タイトルのごとくオーケストラが一心不乱にチャイコフスキーの第5交響曲を演奏していましたが、楽器に消音するように仕掛けられていて、一切の楽音が鳴り響きませんでした。ただひたすらにメンバーの息遣いや楽器の擦れるような音のみが聞こえていて、微かにリズムや音楽の骨格が浮き上がるかのようでした。

新型コロナウイルス感染症に伴う情報です。窓口で予約不要の当日券を購入することが可能ですが、「3密」回避の観点より、日時指定制のチケットをオンラインで発売しています。


オンラインチケットには特別料金が設定されていて、一般2000円が1200円に割引されるなど大変にお得です。事前にオンラインからチケットを予約されることをおすすめします。



年明けまでの会期も残り少なくなってきました。2021年1月3日まで開催されています。

「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」 森美術館@mori_art_museum
会期:2020年7月31日(金)~2021年1月3日(日) *会期変更。
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *火曜日は17時で閉館。
 *9月22日(火・祝)、11月3日(火・祝)、12月29日(火)は22時まで開館。
 *12月5日(土)、6日(日)、12日(土)、13日(日)、19日(土)、20日(日)、26日(土)~1月3日(日)は9時から開館。
  *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2000円、学生(高校・大学生)1300円、子供(4歳~中校生)700円、65歳以上1700円。
 *オンラインチケット(日時指定チケット)の特別割引料金あり。一般1200円、学生900円、子供700円、65歳以上1100円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」 横浜美術館

横浜美術館
「横浜美術館コレクション展 ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」 
2020/11/14~2021/2/28



2021年3月より横浜美術館は、大規模改修工事のために約2年に渡って休館します。

その休館前の最後のコレクション展となるのが「ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」で、大正時代より高度経済成長期までの横浜にゆかりのある作品、約150点が公開されていました。


左:有島生馬「背筋の女」 1909 (明治42)年
右:ポール・セザンヌ「縞模様の服を着たセザンヌ夫人」 1883~85年

冒頭は1910年に横浜で生まれた有島生馬の「背筋の女」で、有島が影響を受けたセザンヌの「縞模様の服を着たセザンヌ夫人」と並んで展示されていました。パリでセザンヌの大回顧展を見て衝撃を受けた有島は、文芸誌「白樺」にて画家を紹介していて、それが日本における本格的なセザンヌ受容の切っ掛けとなりました。ちょうど左右に向かい合うような光景も興味深いのではないでしょうか。


椿貞雄「夏蜜柑図」 1939 (昭和14)年

続いては川村信雄の「早春風景」や椿貞雄の「夏蜜柑図」などが展示されていて、後者では陶器に整然と並んだ夏蜜柑を濃厚な筆触で表していました。2人はともに岸田劉生が結成したフュウザン会に属した画家で、川村は後に横浜市商工課が主導した横浜美術協会の発足に携わりました。


木下孝則「樹蔭読書」 1921~23 (大正10~12)年

大正時代には多くの日本人美術家が横浜港からフランスを目指して旅立ちました。そのうちの木下孝則は1921年から2年間渡仏した画家で、エコール・ド・パリに影響を受けて「樹陰読書」などを描きました。白い帽子をかぶっては読書に勤しむ女性には、どこか気品を感じさせる面があるかもしれません。


左上:織田觀潮「横浜桜木町駅 『大正震火災木版画集』より」 1923~1924 (大正12~13)年 ほか

1923年に発生した関東大震災は横浜にも甚大な被害を与え、画家たちも灰塵に期した街の様子を絵に表しました。


片岡球子「緑蔭」 1939 (昭和14)年

一方で復興する横浜では、早くも震災の2年後に横浜美術展が開催され、多くの観客が押し寄せるなどして注目を集めました。ここでは横浜で教鞭を取りつつ、横浜美術展にも出品を重ねた片岡球子の「緑蔭」が目立っていたかもしれません。そして横浜美術展は後の1932年、市主催の横浜美術協会展(横展)として再出発しました。


中央:鏑木清方「いで湯の夕べ(『文芸倶楽部』第18巻 第11号口絵、博文館)」 1912(明治45)年発行

大正から昭和にかけての新版画運動も横浜と接点がありました。新版画を興した版元の渡邊庄三郎は、キャリアの最初期に浮世絵店「蓬枢閣」の横浜支店に勤め、外国人向けに浮世絵を販売していて、海外への復刻の依頼などを契機に錦絵の再興を志しました。


左:石渡江逸「横浜萬国橋」 1931 (昭和6)年
右:石渡江逸「(神楽)子安一の宮神社」 1931 (昭和6)年

ここで魅惑的なのは、東京に生まれ巴水に師事しながら都下や神奈川を描いた石渡江逸でした。いずれも横浜を舞台とした2点の作品が並んでいて、とりわけ水色から紫色に染まる夕景を情緒的に描いた「横浜萬国橋」に強く心を引かれました。


左:川上澄生「横濱(よこはまはわがふるさと)」 1967 (昭和42)年

幼少期に横浜で過ごした川上澄生の作品も見応えがありました。3歳にて東京に移り住むも、生涯横浜を愛したとされていて、「横濱(よこはまはわがふるさと)」などの作品を残しました。


常盤とよ子「路上」 1954 (昭和29)年

戦後間もない時期の横浜を記録した写真も興味深いかもしれません。中でも常盤とよ子は、女性労働者やいわゆる娼婦らを積極的に写していて、占領軍兵士の駐留した街角の光景を捉えた「路上」が目を引きました。


手前:イサム・ノグチ「三位一体」 1948年
中央奥:岡田謙三「黒と象牙色」 1955 (昭和30)年

1つのハイライトとも言えるのが、岡田謙三とイサムノグチの作品を同じ空間に並べた展示でした。1902年に横浜で生まれた岡田は、渡米後にワシントンでノグチとの2人展を行うなどして親交を持っていました。


第7章「ニューヨークでの活躍―岡田謙三とイサム・ノグチ」展示風景

またアメリカ生まれのノグチも3歳で来日し、青春期を山手のセント・ジョセフ・カレッジで過ごしていました。ともにアメリカで活動しながら横浜でも接点のあった作家同士で、それぞれの絵画と彫刻のかたちが響き合うような光景に目を奪われました。


斎藤義重「内部」 1981 (昭和56)年

青森に生まれ、1961年に横浜へ移った斎藤義重による大規模な立体作品、「内部」も目立っていたのではないでしょうか。


斎藤義重「内部」 1981 (昭和56)年

円形の曲線を描く展示室の壁面には、ラッカーや木、それに紐などによる彫刻が連なっていて、抽象的ながらも何らかの機械的な装置のようにも見えました。


第9章「ハマ展の洋画家と彫刻家」 展示風景

長く続いていた横展は戦争で廃止されるも、終戦の翌年にはハマ展として復活し、1950年代以降はグループ展の開催が活発化するなど、様々な画家が横浜で活動しました。


山中春雄「退屈な二人」 1954 (昭和29)年

大阪に生まれ横浜へと移住し、1950年に神奈川アンデパンダン展を開いたのが山中春雄で、「退屈な二人」と題した作品が展示されていました。巨大な手足をもった2人の人物が透明なテーブルを前に裸で腰掛けていて、黒く太い輪郭線からは、画家の影響を受けたビュフェの作風を見て取ることができました。


磯辺行久「Work 62-19 Work 62-19」 1962 (昭和37)年

ラストは横浜市民ギャラリーで開かれ続けてきた現代美術展、「今日の作家展」にて出品された作家の展示でした。


白髪一雄「梁山泊」 1967 (昭和42)年

1964年に開設された同ギャラリーでは、美術評論家の推薦による「今日の作家展」が行われ、その後も形式や会場を変えながら、40年以上も現代美術を取り上げてきました。


吉村益信「大ガラス」 1969 (昭和44)年

ここには1960年代に同展に参加した作品が並んでいて、白髪一雄の「梁山泊」や吉村益信の「大ガラス」などが特に目立っていました。

全10章立てで横浜のアートシーンを追いかける構成も充実していて、同地で多面的に展開した作家の活動を丹念に紹介していました。現在、横浜美術館では企画展「トライアローグ」も行われていますが、質量ともに引けを取らない内容と言えるかもしれません。


コレクション展のため撮影も可能でした。また当日に限って「トライアローグ」展のチケットで観覧することができます。

オンラインによる事前予約制が導入されました。但し事前に完売していない日時に関しては、券売所において観覧券の予約と購入が可能です。

2021年2月28日まで開催されています。おすすめします。

「横浜美術館コレクション展 ヨコハマ・ポリフォニー:1910年代から60年代の横浜と美術」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:2020年11月14日(土)~2021年2月28日(日)
休館:木曜日。但し2月11日を除く。年末年始(12月29日~1月3日)、2月12日(金)。
時間:11:00~18:00
 *カフェ小倉山は10:45~18:00
料金:一般500円、大学・高校生300円、中学生100円、小学生以下無料。
 *オンラインでの日時指定予約制。
 *団体受付は中止
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅3番出口から徒歩3分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より「動く歩道」を利用、徒歩約10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「柵瀨茉莉子展 いのちを縫う」 横浜美術館アートギャラリー1、カフェ小倉山

横浜美術館アートギャラリー1、カフェ小倉山
「柵瀨茉莉子展 いのちを縫う」
2020/11/14~12/13



横浜美術館アートギャラリー1、カフェ小倉山で開催中の「柵瀨茉莉子展 いのちを縫う」を見てきました。

1987年に神奈川県の横須賀で生まれた柵瀨茉莉子(さくらい・まりこ)は、「縫う」ことを表現の手段としては、木片や花びらなどを素材に作品を制作してきました。

その柵瀨の個展が「いのちを縫う」と題した展示で、過去の作品を踏まえつつ、生まれ育った横須賀の佐島を舞台とした新作などが公開されていました。


「葉っぱのかさぶた」 2007〜2008年

まず最初期に制作されたのが「葉っぱのかさぶた」で、作家が学生時代、構内に落ちた椎の葉を布のかばんに縫い付けた作品でした。ここで興味深いのは縫う行為に至ったプロセスで、当時の大学内で自ら命を絶った人がいたと知り、消えた命のために糸で葉を日々縫い込んだとしていました。


「いとの日 2」 2019〜2020年

以来、柵瀨は亡き祖母のトレーナーへ髪の毛を塗った作品や、展示の準備の際に起きた台風の被災者に思いを馳せて針を進めるなど、縫いに鎮魂の祈りを捧げてきました。こうした縫う所作と祈りが結びついているのも、柵瀨の創作の大きな特徴かもしれません。それぞれの作品に作家自らが手書きで思い出を添えているのも印象に残りました。


「木を縫う 11」 2010年

「葉っぱのかさぶた」に続き、木の皮に穴を開けて金糸で縫い取ったのが「木を縫う」のシリーズでした。会場でもいくつかの木片が吊るされていて、遠目では判然としないものの、近づいて見ると確かに金色の糸が縫われていることが分かりました。


「木を縫う 11」(部分) 2010年

それらは木目に沿っていながらも、時には自由に模様を広げていて、必ずしも一様ではありませんでした。中には集めた樹皮を縫いつなぎ、立体として表現した作品もありました。


「貝の試作」 2020年

この他では、貝殻やダチョウの卵に刺繍を施した作品も興味深いのではないでしょうか。また亡くなった祖母が戦時中に使っていたかばんに縫いを入れた作品には、それこそ祖母への祈りとともに、カバンを再生させては新たな命を吹き込もうとする作家の意思が感じられました。


「山の記憶」 2019〜2020年
 
大きな布に花びらや葉、それに実や皮などを塗って山の形を築いた「山の記憶」も魅惑的な作品かもしれません。これほど樹皮や葉っぱが愛おしく感じられたこともなく、細かな糸と木の皮や葉の織りなす小宇宙に心を惹かれました。


「戦時中のかばん」 2018年

会場は横浜美術館のアートギャラリー1で、正面エントランスよりグランドギャラリー右手横の企画展入口の奥のスペースになります。またカフェ小倉山でもミニ展示が行われていました。


入場は無料です。新型コロナウイルス感染防止の観点から、当初会期(3月14日~4月12日)より変更されました。12月13日まで開催されています。

「柵瀨茉莉子展 いのちを縫う」 横浜美術館アートギャラリー1、カフェ小倉山(@yokobi_tweet
会期:2020年11月14日(土)~12月13日(日) *会期変更
休館:木曜日。
時間:11:00~18:00
 *カフェ小倉山は10:45~18:00
料金:無料。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅3番出口から徒歩3分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より「動く歩道」を利用、徒歩約10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「M meets M 村野藤吾展 槇文彦展」 BankART KAIKO、BankART Temporary

BankART KAIKO、BankART Temporary
「M meets M 村野藤吾展 槇文彦展」 
2020/10/30~12/27



1959年に村野藤吾の設計によって建てられた横浜市庁舎は、今年移転のために役目を終え、一方で新たにオープンした新庁舎のデザイン監修を槇文彦が担いました。

そうした新旧の横浜市庁舎を中心に、村野と槇の建築作品を模型や図面、それに資料によって詳らかにするのが「M meets M 村野藤吾展 槇文彦展」で、それぞれ会場は馬車道駅を挟んだBankART KAIKOとBankART Temporaryに分かれていました。



まずBankART KAIKOでは村野の建築が紹介されていて、中でも目を引くのが手描きの横浜市庁舎の図面でした。そこでは1階から6階までの平面図をはじめ、議場天井図や市民広間展開図、はたまた屋上スピーカー取付詳細図などがずらりと並んでいて、さながら建物が解剖される光景を目の当たりにするかのようでした。

これらはいずれも京都工芸繊維大学美術工芸資料館に所蔵された資料で、村野の没後12年経った1996年に同館に寄贈されました。また原寸の階段手摺図などは実に精緻に描かれていて、村野がいかに建物全体ではなく、細部の意匠にまでこだわって設計したのかが良く分かりました。



一連の横浜市庁舎の図面の他には、村野が全国各地で手がけた建築の模型や写真が展示されていて、中には日本生命日比谷ビル(日生劇場)の貝が貼られた天井の試作などの興味深い資料もありました。

この他では村野の手がけた椅子やソファも見逃せない作品かもしれません。椅子では背もたれや肘掛けを体にフィットするように丸みを持たせてたり、脚先を爪先立っているように細くして、床との隙間を開けて浮いているように見せるなど、様々な工夫を凝らしていました。村野は椅子だけでなく、照明や時計も自らデザインしました。


「横浜市役所」 神奈川県横浜市 2020年 1:1000

もう1つの会場であるBankART Temporaryの「槇文彦展」では、これまでに槇が手がけた建築の模型や写真パネルが数多く公開されていました。


「横浜市役所」 神奈川県横浜市 2020年 1:500

1階の展示室では「ヒルサイドテラス」や「横浜新庁舎」などに関する展示が行われていて、市庁舎では500分の1スケールの模型だけでなく、市議会本会議場の床カーペットや市民ラウンジの腰壁の木材のサンプルも並んでいました。それに天井付近より吊り下がる、30分の1スケールの巨大な断面図も目を引くかもしれません。


「東京電機大学 東京千住キャンパス I - II」 東京都足立区 2017、2014年 1:200

もう1つの3階のスペースでは、「幕張メッセ」や「東京電機大学 東京千住キャンパス」から、「4ワールドトレードセンター」に「深圳海上世界文化芸術中心」などの建物が紹介されていました。


「深圳海上世界文化芸術中心」 中国・深圳 2017年 1:500

「マサチューセッツ工科大学 新メディア研究所」などの海外での活動も目立っていたのではないでしょうか。


「4ワールド・トレード・センター」 アメリカ合衆国・ニューヨーク 2013年

それぞれBankART KAIKOは旧帝蚕倉庫、BankART Temporary旧第一銀行をリノベーションした施設でもあります。そうした歴史的建造物とのコラボレーションも見どころと言えるかもしれません。


BankART KAIKOの入居する北仲ブリック

BankART Temporaryのみ模型の撮影が可能でした。(BankART KAIKOの「村野藤吾展」は、入口写真パネル以外、撮影不可。)


アイランドタワー(手前)と横浜市役所

今年6月末に全面供用を開始した横浜新市庁舎は、馬車道駅にも直結し、BankART Temporaryのすぐ隣に位置しています。低層部には全国で初めて市役所内の商業施設である「ラクシス フロント」が入居していていて、ブックカフェや飲食店などが連なっていました。


横浜市役所 1階アトリウム

低層部はオープンスペースとして自由に行き来することも可能で、開放感のあるガラス張りの巨大なアトリウムも目を引きました。


一方で関内の旧庁舎の敷地は高層ビルとして再開発されますが、行政棟は宿泊施設として利用されることが決まりました。「M meets M 村野藤吾展 槇 文彦展」を鑑賞しながら、実際の庁舎を見学するのも良いかもしれません。

12月27日まで開催されています。

「M meets M 村野藤吾展 槇文彦展」 BankART KAIKO、BankART Temporary(@bankart1929
会期:2020年10月30日(金)~12月27日(日)
休館:月曜日。但し1月23日は開館。
時間:11:00~19:00。
料金:一般1600円、大学生・専門学校生1000円、横浜市民1000円、高校生・65歳以上600円。中学生以下無料。
 *村野藤吾展と槇文彦展の共通チケット
 *本人に限り会期中何度でも入場可。
住所:神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2-1F(BankART KAIKO)、神奈川県横浜市中区本町6-50-1(BankART Temporary)
交通:みなとみらい線馬車道駅2a出口直結徒歩1分(BankART KAIKO)、みなとみらい線馬車道駅1b出口直結徒歩1分(BankART Temporary)。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「トランスレーションズ展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」
2020/10/16〜2021/3/7



意思疎通の手段である「翻訳=トランスレーション」を「コミュニケーションのデザイン」と見立てて、様々な取り組みを紹介する展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで開催されています。

それが「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」で、情報学研究者のドミニク・チェンをディレクターに迎え、「ことばの海をおよぐ」、「伝えかたをさぐる」、「異種とむきあう」など7つのテーマの元、研究者やデザイナーによる21のプロジェクトが公開されていました。


グーグル・クリエイティブ・ラボ + スタジオ・ザ・グリーンアイル + ドミニク・チェン「ファウンド・イン・トランスレーション」

まず興味深いのは、Googleの翻訳プログラムを用いた『ファウンド・イン・トランスレーション』で、モニターに発せられた問いの答えをマイクに吹き込むと、一面のモニターへ23カ国語に表示される双方向型のインスタレーションでした。


グーグル・クリエイティブ・ラボ + スタジオ・ザ・グリーンアイル + ドミニク・チェン「ファウンド・イン・トランスレーション」

ここでは「あなたにとっての幸せとはなにか?」や「昨日の夜に食べたものは?」などが問いかけられていて、日本語で答えるとスピーディーに各国語に変換されていきました。しかし中には変換されずにそのまま表示される場合もあり、翻訳の難しさを感じさせるものがありました。


グーグル・クリエイティブ・ラボ + スタジオ・ザ・グリーンアイル + ドミニク・チェン「ファウンド・イン・トランスレーション」

現在、Googleの翻訳は108の言語に対応しているものの、地球上で話されている言語は7000近くにも及んでいるそうです。それに言語同士が互いに繋がり、翻訳のプロセスが可視化されるような仕掛けも興味深く思えました。


和田夏美 + 筧康明「…のイメージ」

和田夏美と筧康明による「…のイメージ」も面白いかもしれません。スクリーンには空とビルのアニメーションが映されていて、手前のタブレットの前で雨や雲、飛行機を手話にて表すと、雨が降ったり、飛行機が飛ぶ姿が映し出されました。

また音の振動を光の強さに変換することで、音が聞こえない人でも音を感じられる本田達也の「オンタナ」など、いわゆる障害のある人々とコミュニケーションを図るための取り組みも目立っていたかもしれません。


長谷川愛「Human×Shark」

いわば奇抜とも言えるアイデアで異種とのコミュニケーションを探るのが、長谷川愛の「Human×Shark」でした。「サメと人が愛し合うことは可能なのか?」と問う長谷川は、サメを引き寄せる匂いに着目し、性的に惹起する化学物質を調合していて、それをダイバーにつけてはサメを引き寄せる光景を見せていました。


シュペラ・ピートリッチ「密やかな言語の研究所:読唇術」

シュペラ・ピートリッチの「密やかな言語の研究所:読唇術」も大胆な試みではないでしょうか。ピートリッチは植物の葉の気孔の開閉を動物の唇に見立てつつ、AIや読唇術によって植物の声を解釈しようとしていて、気孔の動きがまるで人間の口の開閉のように見えるのが面白く感じました。


エラ・フランシス・サンダース「翻訳できない世界のことば」

エラ・フランシス・サンダースの「翻訳できない世界のことば」も魅惑的かもしれません。ここには世界中の翻訳できない表現をイラストとともに紹介していて、世界の言葉の多様性を目の当たりにするかのようでした。


やんツー「観賞から逃れる」

鑑賞者との距離を作品がとろうとするやんツーの「鑑賞から逃れる」も興味深いのではないでしょうか。絵画、彫刻、映像の3つの作品が、タイヤやローラーの動力と組み合わさって配置されていて、近づくとあたかもソーシャルディスタンスを図ろうとするように離れていきました。


長岡造形大学「縄文のある暮らし」

一口に「翻訳」とはいえども、言語に五感や身体によるコミュニケーションだけでなく、デザインやアートなどの幅広い視点も取り込まれていて、意外な発見の少なくない展覧会でした。他者や異文化との共感や理解には、何よりも「わかりあえなさ」を繋ごうとする試みが重要なのかもしれません。


11月18日より事前予約が不要となりました。会場内の撮影も可能です。

2021年3月7日まで開催されています。

「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:2020年10月16日 (金) 〜2021年3月7日 (日)
休館:火曜日。但し11月3日、2月23日は開館。年末年始(12月26日〜1月3日)。
時間:11:00~18:30(平日)、10:00〜18:30(土日祝)
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1200円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
 *15名以上の来場は事前連絡。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「さかざきちはるの本づくり展」 市川市文学ミュージアム

市川市文学ミュージアム
「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」 
2020/11/7~2021/1/31



市川市文学ミュージアムで開催中の「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」を見てきました。

市川市に生まれ、Suicaペンギンやチーバくんの生みの親で知られるイラストレーターのさかざきちはるは、絵本作家としても活動し、多くの絵本を世に送り出してきました。



そのさかざきの本の制作に着目したのが「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」で、展示に合わせて再編した「ぴーちゃんの歌」の制作プロセスを中心に、過去の絵本や自主制作の書籍などが紹介されていました。



まず目を引くのが、あたかも鑑賞者を誘うように連なる黒いアウトラインでした。これはさかざきのイラストの特徴的な黒の輪郭線を壁面から展示室へと三次元的に展開したもので、線を辿りながら絵本の工程を理解できるように工夫されていました。


「ぴーちゃんと私」 著者手稿3、4

全ての「本づくり」の始まりは絵ではなく言葉にありました。冒頭には「ぴーちゃんと私」の直筆原稿が展示されていて、言葉の響き合いなどから絵本のイメージが生み出されている様子を思い浮かべることができました。


「ぴーちゃんと私」 DDCP校正紙

なおさかざきは今回、20年前に刊行された「ぴーちゃんの歌」を「ぴーちゃんと私」として再編し、描き下ろしていて、その際に主人公をかつてのブタからペンギンへと変えました。さかざきにとってもペンギンは特別な存在で、そもそも一番最初に自主制作した本も「ペンギンゴコロ」と題した作品でした。


参考資料「塗る」 黒い部分を塗りつぶす

言葉に続くのは、下絵、トレース、仕上げ、色付けなどの作画のプロセスで、実際に描かれた下絵などが公開されていました。


「ぴーちゃんと私」 下絵

中でも下絵で興味深いのは、絵本と同じ大きさのコピー用紙を用いていることで、絵だけでなく、テキストも同時に記されていました。まず言葉を大切に考えて絵本を描くのもさかざきの制作の特徴なのかもしれません。


参考資料「再校正」 赤字が反映された再校
 
この後の色や素材選び、印刷、そして製本のプロセスでは、色見本帳や試し刷りの表紙、また赤字を入れた初校や再校正などの資料が展示されていて、本づくりに関わる様々な手仕事を知ることができました。


左:参考資料「表紙色校1刷り」 イニシャル限定版 表紙1刷目(校正用)
右:参考資料「表紙色校1刷り」 イニシャル限定版 表紙(工場での試し刷り)

なお今回は本のサイズが小さく、厚みも薄いことから、人の手による手製本が採用されたそうです。


「ぴーちゃんと私とチーバくん」 シルクスクリーン ほか

また展示を記念してシルクスクリーン版も制作していて、完成した作品とともに、製版フィルムやシルクスクリーンの版も公開されていました。


「構造で見る絵本」展示風景

これまでに制作した25冊の絵本を分解した「構造で見る絵本」の展示も充実していました。


「構造で見る絵本」展示風景

ここでは1999年の「ペンギンゴコロ」や「100万匹目の羊」にはじまり、2019年の「なかよし ちびゴジラ」までの絵本が、カバー、表紙、折丁などに分けて並んでいて、まさに本の作りを目の当たりにできました。


「ペンギンのおかいもの」 手描き制作画 ほか

この他では、デジタル以前に制作された「ペンギンのおかいもの」や「ペンギンのゆうえんち」の手描き制作画なども、さかざきの細かな筆遣いが感じられる作品だったかもしれません。


「チーバくん ピーナッツカレンダー」 12カ月レシピ 2019年版

かなり手狭なスペースではありましたが、さかざきファンはもとより、本がどのように作られるのかという造本設計の観点からも興味深い展示だったのではないでしょうか。



さかざきがメインイラストの「ぴーちゃんと私とチーバくん」を制作する光景を捉えた、約10分間の映像も見応えがありました。

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、マスク着用、手指の消毒の他、検温などが行われています。また入場時には、名前や住所、連絡先を来館者カードへ記入する必要がありました。


市川市生涯学習センター(メディアパーク市川)

最後にアクセスについての情報です。市川市文学ミュージアムの主な最寄駅は、JR総武線、及び都営新宿線の本八幡駅です。駅から歩いて15分~20分強ほどのメディアパーク市川(市川市中央図書館)の2階にあります。



駅から少し離れているため、例えば雨の日などはメディアパーク市川の北側に隣接するショッピングモール「ニッケコルトンプラザ」への無料バスも有用かもしれません。同プラザ開館日において、JR本八幡駅北口のロータリーより毎時4~6本ほどシャトルバスが行き来しています。シャトルバスについてはコルトンプラザのWEBサイトをご参照下さい。


市川市中央図書館入口横のパネル

なお1階の中央図書館内でも「本づくり展」に関連した資料の展示も行われていました。あわせて見るのも良さそうです。


中央:「ぴーちゃんの歌」 自主制作本 カバー手刺繍

地元市川でのさかざきちはるの個展としては、2017年の「さかざきちはるのおしごと展」(市川市芳澤ガーデンギャラリー)以来、約3年ぶりのことになります。


会場内の撮影が可能です。(常設展示は不可)2021年1月31日まで開催されています。*最上段の写真は、「ぴーちゃんと私とチーバくん」著者による手描きイラスト。

「さかざきちはるの本づくり展 手のひらサイズの大冒険」 市川市文学ミュージアム@nasi_ryman
会期:2020年11月7日(土)~2021年1月31日(日)
休館:月曜日。但し11月23日、1月11日は開館。11月24日、11月27日、年末年始(12月28日~1月4日)、1月12日、1月29日。
料金:一般500(400)円、65歳以上400(300)円、高校・大学生250(200)円、中学生以下無料。
 *( )内は25名以上の団体料金。
時間:10:00~19:30(平日)、10:00~18:00(土日祝)。
 *入場は閉館の30分前まで。
住所:千葉県市川市鬼高1-1-4 市川市生涯学習センター(メディアパーク市川)2階
交通:JR線・都営新宿線・本八幡駅より徒歩15~20分。京成線鬼越駅より徒歩10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」 千葉県立美術館

千葉県立美術館
「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」 
2020/10/31~2021/1/11



千葉県立美術館で開催中の「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」を見てきました。

幼い頃から千葉市で育ち、20歳を過ぎてから独学で絵を制作したロッカクアヤコは、2006年に村上隆主宰のGEISAIでスカウト賞を受賞してから評価を高め、以降は主に海外を拠点に活動してきました。

そのロッカクの国内の公立美術館としては初の大規模な個展が「魔法の手」で、宇宙戦争をテーマにした連作やフラワーベースなど、約160点の作品が公開されていました。



会場に足を踏み入れた途端、ピンクやブルーなどのネオンカラーの色彩の渦に飲み込まれるような感覚に陥るかもしれません。左右の壁面には「宇宙戦争」や2020年に制作された絵画が並んでいて、中央には「フラワーベース」と題したオブジェが並んでいました。



いずれの作品も花畑のように広がる色彩の中に、大きな瞳を開けた少女が描かれていて、あどけなさを感じつつも、時に口をへの字に閉じながら、どこか強い意志をひめたような姿をしていました。



絵筆を用いず、指先で直接描いた線や色は、あたかも自在に変化するような躍動感があり、少女も花畑も渾然一体となりながら激しいエネルギーを放っていました。



一つ一つの絵画に目を向けると、一見、殴り書きのような色彩の花畑の向こうに、いくつかのスケールの異なったモチーフが組み合わさっていて、複数のイメージがレイヤーのように展開していることが分かりました。



「宇宙戦争」とはロッカクのドローイングに基づき、そのまま形にくり抜かれたキャンバスの作品で、少女たちが宇宙船に乗っては互いに武器を向け合うような光景が描かれていました。



解説に「平等院の飛天を思わせる」とありましたが、確かに武器を楽器に持ち替えれば天女のようで、軽やかに浮遊して舞うように連なっていました。



「フラワーベース」のオブジェでは、木材を轆轤や旋盤で挽き、円形の器を作る挽物の技術が取り込まれていて、江戸末期に箱根の挽物師から技術を継承したという静岡挽物が用いられていました。

ロッカクは2011年に少女を3D化したスカルプチャーを制作して以来、立体に関心を寄せていて、今回は静岡挽物のブランドSeeSeeによるプロダクトと協働しました。



さらに会場の最奥部には「Magic Hand 2020」がそびえ立っていて、一際大きな少女が目を吊り上げつつ両手を上げる様子が描かれていました。

「Magic Hand 2020」はボール紙の上に描かれていましたが、そもそも初期よりロッカクは段ボールを支持体に絵画を制作してきました。2009年の頃から7メートルを超える巨大な作品を取り組むようになったそうです。



この他ではアダチ版画研究所とのコラボレーションによる木版画の作品なども見どころと言えるかもしれません。



実際に使用されたオリジナルの版木とともに摺りの工程も公開されていました。



新型コロナウイルス感染症対策のため、入館時に名前や連絡先などを確認票に記入する必要がありました。確認票は窓口に用意されている他、予め美術館のサイトからもダウンロードすることが可能です。



千葉市美術館で開かれている「宮島達男 クロニクル 1995-2020」(12月13日まで)とあわせて見るのも良いかもしれません。それぞれの最寄駅である葭川公園駅と千葉みなと駅は、千葉都市モノレールで行き来することができます。



現在はポルトガルに拠点を構えているロッカクですが、そもそもこのスケールで作品を見ることからして貴重な機会と言えるかもしれません。想像以上に充実していました。



会場内の撮影が可能でした。(コレクション展は不可。)2021年1月11日まで開催されています。

「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」 千葉県立美術館@chiba_pref_muse
会期:2020年10月31日(土)~2021年1月11日(月・祝)
休館:月曜日。但し月曜が祝日の場合は開館し、翌日休館。年末年始(12月28日〜1月4日)。
時間:9:00~16:30。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300円、高校・大学生150円、中学生以下、65歳以上無料。
 *20名以上は団体料金(2割引)
 *コレクション展と共通チケット
住所:千葉市中央区中央港1-10-1
交通:JR線・千葉都市モノレール千葉みなと駅より徒歩約10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「風景の色 景色の風 / feel to see」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「風景の色 景色の風 / feel to see」 
2020/11/7~12/1



スパイラルガーデンで開催中の「風景の色 景色の風 / feel to see」を見てきました。

1995年にミナ ペルホネンの前身であるミナを設立したデザイナーの皆川明は、衣服をはじめ、家具や器、さらには宿泊施設などの空間ディレクションを手がけ、ファッションのみならず多様に活動してきました。

そのミナ ペルホネンのテキスタイルに注目し、世界観を映像などで表現したのが「風景の色 景色の風 / feel to see」で、主にテキスタイルのデザインを素材としたインスタレーションが展開していました。



まず螺旋空間へ至る通路では「ocean」と題した展示が行われていて、頭上よりミナ ペルホネンの代表的なテキスタイルが吊るされていました。



いずれもが一見、抽象的なイメージに思えつつも、花や樹木などの植物、さらには動物のモチーフが取り込まれていて、自然の様々な景色が表現されているかのようでした。



これらのテキスタイルは単に静止しているわけではなく上下に動いていて、「ocean」が示すように海の波に見立てていました。テキスタイルデザインが社会や時代の暮らしの変化を受け止めつつ、移ろいゆく景色を創ることをイメージしているそうです。



メインのスパイラルホールではテキスタイルを映像に表した「motion」が展示していて、アニメーションによってデザインが動きながら、様々な物語を紡いでいました。



ちょうど壁面を飾る樹木を連想させるデザインと重なりあってか、個々の映像はまるで樹木のように立ち並んでいて、それこそ互いのデザインが響きあう森へと誘われるかのようでした。



そうしたデザインの森を螺旋の通路から見下ろしながら歩き、2階のスパイラルマーケットを抜ける出ると、今度は過去のデザインの作品が並ぶ「0→1」とした展示が行われていました。


the first embroidery “hoshi hana” 1995年

ここでは皆川が初めて手がけたコートや、同じく最初に描いたレース柄の刺繍などが展示されていて、ミナ ペルホネンのデザインのいわば源泉が紹介されていました。


the first coat “happa” 1999〜2000年

一面のガラス張りの空間には、作品とともに樹木のデザインも映り込んでいて、ミナ ペルホネンの世界観を空間全体で表していました。



最後に「0→1」で目を引いた展示がありました。それが「the first atelier」で、使い古された色鉛筆やペンが入れられたイクラの箱でした。


the first atelier 1995年

これはブランドの立ち上げた頃、魚市場で働いていた皆川が、道具を仕分けるのに使っていたもので、まさに原点中の原点と呼べる資料でした。皆川は27歳にして独立を果たすも、当初は資金も乏しかったため、近所の魚市場で3年間マグロを捌きながら、服作りに勤しんだことで知られています。


the first novelty bag 2007〜2008年

また3階でも映像などの展示が行われていた他、show caceでは会期中に皆川が壁画を描いていて、制作プロセスも展覧会の特設サイトにて公開されていました。



peatixによる事前予約制が導入されました。11時から最終の19時50分までの全16回の各回入替制で、予め観覧時間を指定する必要があります。なお空き状況によっては、当日の会場受付でも申し込みが可能とのことでした。


入場は無料です。会期中無休にて12月1日まで開催されています。

「風景の色 景色の風 / feel to see」 スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:2020年11月7日(土)~12月1日(火)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「日本美術の裏の裏」 サントリー美術館

サントリー美術館
「リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏」
2020/9/30~11/29



日本の「生活の中の美」の愉しみ方に焦点を当て、古美術の奥深い魅力を引き出す展覧会が、サントリー美術館にて開催されています。

それが「リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏」で、屏風、絵巻、茶道具などの優品、約70点(展示替えあり)が公開されていました。


円山応挙「青楓瀑布図」 江戸時代 天明7年(1787)

冒頭を飾るのが円山応挙の「青楓瀑布図」で、縦180センチ弱の掛軸には、滝壺に向かって勢いよく落ちる流水が描かれていました。滝の手前には初夏を思わせる青楓が伸びていて、滝壺にはあたかも荒波に耐えるかのような黒い岩の塊が表されていました。滝をモチーフとした江戸絵画は他にも多くありますが、これほど清涼感を得られる作品も少ないかもしれません。


「武蔵野図屏風」 江戸時代 17世紀

秋の薄野を一面に表した「武蔵野図屏風」も味わい深いのではないでしょうか。左右の屏風は横並びではなく、直角に置かれていて、右隻には地上付近にまで降りた満月、そして左隻には天辺にまで高くそびえる富士の頂が対比的に描かれていました。


「松竹梅鶴図屏風」 江戸時代 19世紀

それこそ「裏」にこそ魅力を感じる作品を挙げるとすれば、雛人形用のミニ屏風として作られた「松竹梅鶴図屏風」にあると言えるかもしれません。


「松竹梅鶴図屏風」 江戸時代 19世紀

金地の表面には松竹梅と鶴が雅やかに描かれている一方、裏面は銀地へ秋草が茂っていて、可憐な世界を見せていました。なお江戸時代には「後の雛」と呼び、雛祭りを9月9日にも行う風習があったことから、秋には秋草を表にして飾ったことも考えられるそうです。


「かるかや」 室町時代 16世紀

仏教説話を語りかけるための絵本として知られた、室町時代の「かるかや」が上下冊の全てが公開されていました。いわば稚拙とも受け止められる描写ながらも、筆遣いを通して主人公たちの心情などが伝わるかのようで、各場面に添えられたあらすじとともに物語の流れを追うことができました。


伝土佐光高「洛中洛外図屏風」 江戸時代 17世紀

伝土佐光高の「洛中洛外図屏風」の展示も面白いのではないでしょうか。二条城や東寺などがある左隻と、内裏や清水寺などが描かれた右隻は、ちょうど向かい合うように置かれていて、その合間の床面には京都の見取り図が広がっていました。屏風の中の位置関係を分かりやすく理解するのに有用な試みかもしれません。


「景色をさがす」展示風景

やきものの中に開ける景色に着目した「景色をさがす」も魅惑的な内容でした。ここでは南北朝時代から江戸時代へ至った、丹波や信楽、美濃などのやきものが展示されていて、ほぼ全ての作品を360度の角度から鑑賞することができました。


「信楽 壺 銘 野分」 室町時代 15世紀

そのうち信楽の壺「銘 野分」は、赤茶けた土肌に黒い焦げや自然釉、また一筋に流れるような白い面など極めて多様な表情を見せていて、無骨でかつ荒々しいまでの姿に心を強く引きつけられました。


重要文化財 尾形乾山「白泥染付金彩薄文蓋物」 江戸時代 18世紀

器一面に薄を描きつつ、もはや抽象表現を展開するような尾形乾山の「白泥染付金彩薄文蓋物」にも魅せられました。この他、やきものでは仁阿弥道八の「色絵桜楓文透鉢」や鍋島の「色絵梅流水文大皿」も美しい作品で、それこそ優品揃いに目移りしてしまうほどでした。


池大雅「青緑山水画帖」 室町時代 宝暦13年(1763)

自然の風景をアルバムの形式に表した池大雅の「青緑山水画帖」も見逃せません。それぞれの図には釣りをしたり旅をする人々が点景として細かく描かれていて、人物を探すように鑑賞するのが面白く感じられました。


「日本美術の裏の裏」会場風景

一部に襖を取り込んだ会場の構造も良かったのではないでしょうか。全てがサントリー美術館の所蔵品でしたが、改めて同館の質の高いコレクションに感心させられました。


仁阿弥道八「七種盃」 江戸時代 天保9年(1838)

第1回目のリニューアル展では中止していた夜間開館が復活しました。毎週金曜と土曜日は20時まで開館します。またオンラインでチケットを事前に購入することも可能ですが、基本的には予約も不要です。


「日本美術の裏の裏」会場風景

10月28日から後期展示に入りました。これ以降の入れ替えはありません。

会場内の撮影もできました。11月29日まで開催されています。

「リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2020年9月30日(水)~11月29日(日) *会期変更
休館:火曜日。但し11月3日、24日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *金・土曜は20時まで開館。
 *11月2日(月)、22日(日)は20時まで開館
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ 次ページ »