「大山エンリコイサム展 夜光雲」 神奈川県民ホールギャラリー

神奈川県民ホールギャラリー
「大山エンリコイサム展 夜光雲」
2020/12/14~2021/1/23



神奈川県民ホールギャラリーで開催中の「大山エンリコイサム展 夜光雲」を見てきました。

1983年に東京で生まれ、ニューヨークを拠点にする大山エンリコイサムは、モノクロームによる絵画や立体を制作しながら、自身の影響を受けたストリート文化に関する著作を発表するなどして幅広く活動してきました。

その大山の過去最大級の作品などで構成したのが「夜光雲」と題した個展で、平面から立体、さらにはサウンドインスタレーションが公開されていました。


「レタースケープ」 地下第2展示室

まず冒頭に展示されていたのは「レタースケープ」で、遠目からでは一枚の長い紙に無数の書き込みが見られる作品でした。


「レタースケープ」(部分)

実際には江戸時代に墨と筆で書かれた出納帳と、19世紀末から20世紀後半にかけて世界からニューヨークに送られた手紙をコラージュしたもので、墨の流麗な文字と手紙に記された様々な言語が断片的に連なっていました。

また地の紙もちぎり絵のような複雑なパターンを描いていて、文字をつなぎ合わせつつ、一方で引き裂くように展開していました。紙と文字の揺らぐような関係も面白いのではないでしょうか。

続くのは大山の代表的な制作である「クイックターン・ストラクチャー」による連作、「FFIGURATI」でした。


「FFIGURATI」 地下第3展示室

これはストリートアートの中心的な分野である「エアロゾル・ライティング」の視覚言語から文字の形を取り除き、抽象的な形として再構成した作品で、鋭い牙のような太い描線が踊るように展開していました。なお「エアロゾル・ライティング」とは、エアロゾル塗料をスプレーで壁面に図像などを描くストリートアートを意味します。(神奈川芸術プレス vol.156より)


「FFIGURATI」

白と黒による面は空間を切り刻んでいくようで、それ自体が意思を持って運動しているかのようでした。まるで何らかの概念を象るエンブレムのように見えるかもしれません。


「Cross Section」 地下第4展示室

こうした平面とは一転し、巨木を前にしたかのように重量感に満ちていたのが「Cross Section」と題した立体の作品でした。


「Cross Section」

「Cross Section」はスタイロファームと呼ばれる建築資材を約200枚重ねて、熱線カッターで切り落としたもので、鋭利な刃物で刻み込まれたような断面が見られました。


「Cross Section」

一枚一枚の資材が積み重なっては天井付近にまで達していて、時に斜めへ屈曲するように起立していました。しばらく眺めていると、あたかも展示室へと闖入し、いつしか姿形を歪ませながら変容する未知の有機物のようにも思えました。

さてギャラリーで最大の1300平米のスペースに展開していたのは、過去最大級の作品でもある「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」でした。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」 地下第5展示室

ここでは5枚の巨大な絵画が高さを変えて展示されていて、いずれもが即興的でかつスピーディーな線が重ねられていました。また全ての絵画は枠に貼らず剥き出しの状態に置かれていて、飛び散った墨が床にまで滴り落ちていることもありました。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

そして暗がりの展示室ゆえか、あたかも作品が宇宙に浮かぶ星のようにも輝いていて、全体で1つの壮大なインスタレーションを築いていました。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

この広いスペースに5点の絵画は少なく感じるかもしれませんが、大山はあえて「物量で埋めるのではなく、空間に対する適度な量」(神奈川芸術プレス vol.156より)を意図して作品を制作しました。また日本式庭園や禅の思想を踏まえるべく、鎌倉や京都の禅寺に取材したそうです。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

複雑怪奇な線の動きは変幻自在で、何やら深い情念が憑依しているような雰囲気も感じられなくはありません。モノクロームの世界ながらも渦巻く熱気を浴びるかのようでした。


「エアロミュラル」 1階第1展示室

ラストのサウンドインスタレーションである「エアロミュラル」に魅せられました。絵画や立体作品が一切展示されていないホワイトキューブの床には、ただスピーカーのみがいくつか置かれていて、エアロゾル塗料の噴射音が鳴っていました。


「エアロミュラル」

これは壁にかかれる線を音として空間に表現したもので、いわば「音の壁画」(解説より)を築いていました。当然ながら噴射音は一定ではなく、場所などによって終始変化していて、線や面の動きが示されていました。

線や面の広がりを自由に想像する体験は思いの外に刺激的で、しばし目を閉じては音に聞き入りました。まさに鑑賞者に感性を委ね、想像力を膨らませる作品と言えるかもしれません。


「スノーノイズ」 1階第5展示室バルコニー

大山にとって雲とは、形が定まらず流動的であり、また無名性を持つことから、自らの美術に通じるものがあると考えているそうです。


「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」

それを踏まえて「FFIGURATI(アンストレッチドキャンバス)」を見ると、いつしか地球上で最も高い高度に発生するとされる「夜光雲」の神秘的な姿を眺めているような気分にさせられました。



新型コロナウイルス感染症対策に伴い、マスクの着用と検温のほか、神奈川県「LINEコロナお知らせシステム」への登録か入館カードに連絡先を記入する必要があります。

1月23日まで開催されています。

「大山エンリコイサム展 夜光雲」 神奈川県民ホールギャラリー@kanaken_gallery
会期:2020年12月14日(月)~2021年1月23日(土)
休館:12月17日(木)、24日(木)、28日(月)、1月7日(木)、年末年始(12月30日~1月4日)
時間:10:00~18:00 *入場は閉場の30分前まで。
料金:一般800円、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。
住所:横浜市中区山下町3-1
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約6分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。横浜市営地下鉄関内1番出口より徒歩約15分。
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