「眠り展」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」
2020/11/25~2021/2/23



東京国立近代美術館で開催中の「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」を見てきました。

人間が生きていく上で欠かせない眠りは、古今東西の美術においても多様に表現されてきました。

そうした眠りと美術との関係を紐解くのが「眠り展」で、ゴヤやクールベなどの西洋美術にはじまり、河原温や河口龍夫、塩田千春などの現代美術の作品が展示されていました。


右:ギュスターヴ・クールベ「眠れる裸婦」 1858年 国立西洋美術館

まず冒頭の序章「目を閉じて」では、クールベの「眠れる裸婦」やルーベンスの「眠る二人の子供」などが展示されていて、眠りが西洋絵画においてもよく見られる主題であることが見てとれました。と同時に、現代美術家の河口龍夫が闇の中で鉄製の箱へ闇を閉じたとする「DARK BOX」も並んでいて、眠りが今も美術家にインスピレーションを与えていることが感じられました。


序章「目を閉じて」会場風景

このように西洋の古典と現代の作品とが時にないまぜになっているのが特徴で、時間や場所を行き来しながら、多様に表現された眠りのあり方を目の当たりにできました。

端的に癒しや休息ではなく、夢と現実、生と死、それに目覚めなど、眠りにまつわる多面的な諸相を追っているのも、今回の展覧会の見どころと言えるかもしれません。


楢橋朝子「half awake and half asleep in the water」 2004〜2005年 東京国立近代美術館

「水の中で半ば目覚め、半ば眠っている状態」を意味した楢橋朝子の「half awake and half asleep in the water」シリーズは、作家が日本各地の海や湖に入っては、水面すれすれでシャッターを切って制作した写真で、水面と景色が揺らぐような光景が広がっていました。ここに夢うつつの中で水に沈んでいくような感覚が表れていて、水によって狭まれた視界が微睡んだ時に見える光景のようにも思えました。


ジャオ・チアエン「レム睡眠」 2011年 国立国際美術館

3面のスクリーンのよるジャオ・チアエンの「レム睡眠」は、18名の男女が夢で見たことを語る映像で、多くは外国で介護職で働く女性であることから、故郷の様子などを切々と振り返っていました。一見、腰掛けて眠っているようでありながら、おもむろに目を開けては語る様子も印象的で、眠りと現実を無限に行き来しているかのようでした。


小林孝亘「Pillows」 1997年 国立国際美術館

小林孝亘の「Pillows」は文字通り枕をモチーフとした絵画で、ちょうどベットの上から枕を正面に見下ろすように描いていました。白い枕は弾力を帯びているように膨らんでいて、さも寝心地が良さそうにも見えましたが、無人のベットは死を連想させるものがありました。


河口龍夫「関係ー種子、土、水、空気」 1986〜89年 東京国立近代美術館

麦や梨など30種類の植物の種子を30枚の鉛の板に閉じ込め、壁にかけたのが河口龍夫の「関係ー種子、土、水、空気」でした。河口はチェルノブイリ原発事故に触発され、植物の種子を鉛や蜜蝋で保護する作品を制作していて、同作においては床の真鍮やアルミの管に種子を発芽させるための水や空気などを詰め込みました。それこそ種子を眠りから目覚めへと誘う装置とも呼べるかもしれません。


森村泰昌「烈火の季節/なにものかへのレクイエム (MISHIMA)」 2006年 東京国立近代美術館

森村泰昌の映像「烈火の季節/なにものかへのレクイエム (MISHIMA)」も目立っていたのではないでしょうか。ここでは三島由紀夫に扮した森村がバルコニーに立ち、人々へ「静聴せよ」と勇ましく呼びかけていましたが、聴衆は目覚めているはずにもかかわらず眠っているように反応していませんでした。


「眠り展」会場風景

トラフ建築設計事務所による会場デザインや、平野篤史(AFFORDANCE)のグラフィックデザインも見どころと言えるかもしれません。会場内には寝室のカーテンを思わせる布が吊るされていて、夢うつつを連想させるような文字デザインなどを含め、眠りの世界へと誘うような仕掛けがなされていました。


石井茂雄「戒厳状態」 1956年 東京国立近代美術館

とはいえ、感性を呼び覚ますような刺激的な作品や、眠りと意外な接点を持つ作品も少なくなく、発見の多い展覧会でもありました。


ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「貧しき漁夫」 1887〜1892年 国立西洋美術館

館内整備のため長期休館中の国立西洋美術館からシャヴァンヌの「貧しき漁夫」もやって来ていました。「眠り展」の全ての作品は国内の6つの国立美術館(東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ)で構成されていて、「陰影礼讃」(2010年)、「No Museum,No Life?ーこれからの美術館事典」(2015年)に続く、国立美術館合同展の第3弾として企画されました。


金明淑「ミョボン」 1994年 東京国立近代美術館

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、来館日時を予約する日時指定制が導入されました。但し会場窓口においても当日券が販売されています。


会場内の一部作品を除き撮影も可能です。2月23日まで開催されています。

「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2020年11月25日(木)~2021年2月23日(火・祝)
時間:10:00~17:00。
 *1/15以降の金曜・土曜の夜間開館は当面休止。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し1月11日(月)は開館し、翌12日(火)は休館。
料金:一般1200(1000)円、大学生600(500)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り所蔵作品展「MOMATコレクション」も観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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