都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「博物館に初もうで 2021」 東京国立博物館
東京国立博物館
「博物館に初もうで 2021」
2021/1/2~1/31
2003年から東京国立博物館で開かれている「博物館に初もうで」は、今年で18年目を数えるに至りました。
今年の干支である丑に因み、牛に因んだ作品の特集「ウシにひかれてトーハクまいり」や、新春を飾るのに相応しい吉祥的な作品が公開されていました。
まず「ウシにひかれてトーハクまいり」では、牛をモチーフとした作品を、信仰や暮らし、それに牛車と王朝美などの観点から紹介していました。
森徹山「牛図屏風」 江戸時代・19世紀
森徹山の「牛図屏風」は銀地へ茶と黒の牛を互い違いに描いた作品で、黒牛は伏して彼方を眺める一方で、茶色の牛は黒牛を横目で見やるような仕草をしていました。写実的な表現が充実していて、牛の重量感までもがひしひしと伝わってきました。
「牧童水滴」 江戸時代・17〜18世紀
江戸時代に多く作られた動植物を象った水滴においても、牛は重要なモチーフの1つでした。そのうち「牧童水滴」では牛に乗る子どもの姿を巧みに捉えていて、牛はこちらを見やりながら足を休めていました。こうした柔らかな造形は、鋳造の原型を手捻りで制作することで生み出されたそうです。
「駿牛図断簡」 鎌倉時代・13世紀 重要文化財
牛車を引く牛を描いた絵巻の断簡として残されたのが、鎌倉時代に遡る「駿牛図断簡」でした。墨を重ね、細かな筆で脚などを描いた表現は大変に緻密で、後ろを振り返る一瞬の姿を見事に写していました。小さな画面ながらも、これほど牛が生き生きと感じられる作品も少ないかもしれません。
「片輪車蒔絵螺鈿手箱」 平安時代・12世紀 国宝
この牛車の車輪のみを全面に蒔絵として表したのが、平安時代後期を代表する名品である「片輪車蒔絵螺鈿手箱」でした。水に浸された車輪はあたかも流れに乗って回転するかのようで、雅やかな雰囲気を醸し出していました。
「三彩牛車・馭者」 中国・唐時代・7世紀
中国の唐の「三彩牛車・馭者」も興味深い作品かもしれません。これは墳墓に副葬するための明器として制作されたもので、車輪の形や人物の表現が隋の時代に近いことから、唐三彩としては早い段階の作例として知られてきました。
「袱紗 薄紅繻子地騎牛笛吹童子図」 江戸時代・18〜19世紀
この他では色鮮やかな「袱紗」や鈴木春信の「見立巣父」も魅惑的ではないでしょうか。牛は古くから信仰の対象でもあり、また農耕や輸送の労働力でもあったゆえに人間の生活と深く関わっていて、絵画や工芸でも多様に表現されてきました。
任清、「任清」印「色絵月梅図茶壺」 江戸時代・17世紀 重要文化財
さて本館では「ウシにひかれてトーハクまいり」以外においても、松竹梅や鶴亀、また富士山などの慶事の意匠を象った作品が展示されていて、お正月気分を味わうことができました。
長谷川等伯「松林図屏風」 安土桃山時代・16世紀 国宝
そのうち恒例ともいえるのが国宝室で公開された長谷川等伯の「松林図屏風」でした。同作は昨年秋の「特別展 桃山」でも展示されたばかりでしたが、心なしか国宝室では松林がより深い霧に包まれていて、幽玄な佇まいが強く滲み出しているように感じられました。
伊藤若冲「松梅群鶏図屏風」 江戸時代・18世紀
鶏のを躍動感あるタッチで描いた伊藤若冲の「松梅群鶏図屏風」も見応えがあったのではないでしょうか。鶏は時に大見得を切るように勇ましい立ち姿を披露していて、まさに「鶏の画家」で名高い若冲の真骨頂ともいえるような表現を見せていました。
「もう隠」印「花鳥図屏風」 室町時代・16世紀
「もう隠」なる印が記された「花鳥図屏風」にも魅せられました。中央に水辺の広がる水墨を背景に、孔雀や金鶏、牡丹や紅椿などが実に色彩豊かでかつ極めて緻密に描かれていました。
「もう隠」印「花鳥図屏風」(部分) 室町時代・16世紀
細部の描写や水墨と色彩のコントラストも絶妙で、近くによって目を凝らすほど、画中の世界に引き込まれるような感覚に囚われました。なお「もう隠」とは、狩野元信の弟の之信とする説が有力であるそうです。
伝土佐光信「松図屏風」 室町時代・16世紀 重要文化財
オンラインでの事前予約制が導入されました。但し事前予約の枚数に空きがある場合は、当日窓口でもチケットを予約することが可能です。
新型コロナウイルス感染症対策に伴い、金曜と土曜日の夜間開館は当面休止となりました。また恒例の獅子舞や和太鼓の演舞も取りやめになり、「博物館に初もうで」のカレンダーの配布も実施されませんでしたが、代わりにPDF版を同館のWEBサイトよりダウンロードすることができます。
1月31日まで開催されています。*「松林図屏風」は1月17日までの公開。
「博物館に初もうで 2021」 東京国立博物館(@TNM_PR)
会期:2021年1月2日(土) ~1月31日(日)
時間:9:30~17:00。
*金・土曜の夜間開館は当面休止。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し1月11日(月)は開館し、翌12日(火)は休館。
料金:一般1000円、大学生500円。
*特別展「日本のたてもの」のチケットでも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「博物館に初もうで 2021」
2021/1/2~1/31
2003年から東京国立博物館で開かれている「博物館に初もうで」は、今年で18年目を数えるに至りました。
今年の干支である丑に因み、牛に因んだ作品の特集「ウシにひかれてトーハクまいり」や、新春を飾るのに相応しい吉祥的な作品が公開されていました。
まず「ウシにひかれてトーハクまいり」では、牛をモチーフとした作品を、信仰や暮らし、それに牛車と王朝美などの観点から紹介していました。
森徹山「牛図屏風」 江戸時代・19世紀
森徹山の「牛図屏風」は銀地へ茶と黒の牛を互い違いに描いた作品で、黒牛は伏して彼方を眺める一方で、茶色の牛は黒牛を横目で見やるような仕草をしていました。写実的な表現が充実していて、牛の重量感までもがひしひしと伝わってきました。
「牧童水滴」 江戸時代・17〜18世紀
江戸時代に多く作られた動植物を象った水滴においても、牛は重要なモチーフの1つでした。そのうち「牧童水滴」では牛に乗る子どもの姿を巧みに捉えていて、牛はこちらを見やりながら足を休めていました。こうした柔らかな造形は、鋳造の原型を手捻りで制作することで生み出されたそうです。
「駿牛図断簡」 鎌倉時代・13世紀 重要文化財
牛車を引く牛を描いた絵巻の断簡として残されたのが、鎌倉時代に遡る「駿牛図断簡」でした。墨を重ね、細かな筆で脚などを描いた表現は大変に緻密で、後ろを振り返る一瞬の姿を見事に写していました。小さな画面ながらも、これほど牛が生き生きと感じられる作品も少ないかもしれません。
「片輪車蒔絵螺鈿手箱」 平安時代・12世紀 国宝
この牛車の車輪のみを全面に蒔絵として表したのが、平安時代後期を代表する名品である「片輪車蒔絵螺鈿手箱」でした。水に浸された車輪はあたかも流れに乗って回転するかのようで、雅やかな雰囲気を醸し出していました。
「三彩牛車・馭者」 中国・唐時代・7世紀
中国の唐の「三彩牛車・馭者」も興味深い作品かもしれません。これは墳墓に副葬するための明器として制作されたもので、車輪の形や人物の表現が隋の時代に近いことから、唐三彩としては早い段階の作例として知られてきました。
「袱紗 薄紅繻子地騎牛笛吹童子図」 江戸時代・18〜19世紀
この他では色鮮やかな「袱紗」や鈴木春信の「見立巣父」も魅惑的ではないでしょうか。牛は古くから信仰の対象でもあり、また農耕や輸送の労働力でもあったゆえに人間の生活と深く関わっていて、絵画や工芸でも多様に表現されてきました。
任清、「任清」印「色絵月梅図茶壺」 江戸時代・17世紀 重要文化財
さて本館では「ウシにひかれてトーハクまいり」以外においても、松竹梅や鶴亀、また富士山などの慶事の意匠を象った作品が展示されていて、お正月気分を味わうことができました。
長谷川等伯「松林図屏風」 安土桃山時代・16世紀 国宝
そのうち恒例ともいえるのが国宝室で公開された長谷川等伯の「松林図屏風」でした。同作は昨年秋の「特別展 桃山」でも展示されたばかりでしたが、心なしか国宝室では松林がより深い霧に包まれていて、幽玄な佇まいが強く滲み出しているように感じられました。
伊藤若冲「松梅群鶏図屏風」 江戸時代・18世紀
鶏のを躍動感あるタッチで描いた伊藤若冲の「松梅群鶏図屏風」も見応えがあったのではないでしょうか。鶏は時に大見得を切るように勇ましい立ち姿を披露していて、まさに「鶏の画家」で名高い若冲の真骨頂ともいえるような表現を見せていました。
「もう隠」印「花鳥図屏風」 室町時代・16世紀
「もう隠」なる印が記された「花鳥図屏風」にも魅せられました。中央に水辺の広がる水墨を背景に、孔雀や金鶏、牡丹や紅椿などが実に色彩豊かでかつ極めて緻密に描かれていました。
「もう隠」印「花鳥図屏風」(部分) 室町時代・16世紀
細部の描写や水墨と色彩のコントラストも絶妙で、近くによって目を凝らすほど、画中の世界に引き込まれるような感覚に囚われました。なお「もう隠」とは、狩野元信の弟の之信とする説が有力であるそうです。
伝土佐光信「松図屏風」 室町時代・16世紀 重要文化財
オンラインでの事前予約制が導入されました。但し事前予約の枚数に空きがある場合は、当日窓口でもチケットを予約することが可能です。
新型コロナウイルス感染症対策に伴い、金曜と土曜日の夜間開館は当面休止となりました。また恒例の獅子舞や和太鼓の演舞も取りやめになり、「博物館に初もうで」のカレンダーの配布も実施されませんでしたが、代わりにPDF版を同館のWEBサイトよりダウンロードすることができます。
【新春の名品】本館3室の国宝「古今和歌集(元永本)下帖」は、仮名序(かなじょ)から巻第20までを完存する『古今和歌集』では現存最古のもので、装飾料紙と仮名の共演がすばらしい作品です。展示は1/17まで。#東京国立博物館 #博物館に初もうで pic.twitter.com/MZKWkYfvsW
— トーハク広報室 (@TNM_PR) January 3, 2021
1月31日まで開催されています。*「松林図屏風」は1月17日までの公開。
「博物館に初もうで 2021」 東京国立博物館(@TNM_PR)
会期:2021年1月2日(土) ~1月31日(日)
時間:9:30~17:00。
*金・土曜の夜間開館は当面休止。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し1月11日(月)は開館し、翌12日(火)は休館。
料金:一般1000円、大学生500円。
*特別展「日本のたてもの」のチケットでも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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