2023年の暮れ、北朝鮮のキム・ジョンウン労働党総書記が、韓国は統一の対象から敵対的な交戦国になった、との認識を公にした。朝鮮戦争で戦った敵同士で、現在は長い休戦ラインをはさんでにらみ合う仲だ。再び砲火を交え、相手を屈服させて統一する以外に見通しが立たない現在、統一の対象と交戦の相手という認識には大きな食い違はない。ただ、北朝鮮にとって韓国は戦争の対象国であるという言い方には、矢継ぎ早にミサイルを打ち上げ、ロシアに兵器を融通している北朝鮮の血気盛んぶりが滲んでいる。あるいは、こういう言い方で国民を緊張させる必要があるほど、民の生活の困窮が切羽詰まっている可能性もある。
中国は、台湾は中国の不可分な一部であり、台湾問題は中国の内政問題であるという。諸外国が台湾問題に口をはさむことに神経質になっている。台湾問題で譲歩の姿勢を見せれば、チベット族やウイグル族を元気づけることになり、それが中国共産党指導部のヒエラルキーを揺るがすことになり、ひいては最高指導者の権力の陰りにつながりかねないと心配している。
現在の中国の富は、一党制による強引な指導と、安い労働力を求めて中国に進出した外国資本・技術の合作である。権威主義政権下で人民を抑え込んで達成した豊かさだった。したがって一足先に豊かになっていた香港に対する仕打ちは、西欧風の政治プロセスになれていた香港市民にとっては、迷惑なことでしかなかった。それをちょっと離れた台湾から見ていた台湾市民は、香港の悪夢が台湾で繰り返されることを恐れた。
イギリス下院の外務委員会が2023年8月に公にした報告書の中で、台湾は独立国としての要件のほぼすべてを持っている、と見解を述べた。報告書は次のように述べていた。①台湾はすでに独立国家である②領土と領民を持ち、政府を持ち、諸外国と外交関係を結ぶ能力を持っている③台湾に欠けるものはより広範な国際的認知だけである。何をいまさら、という感じの認識である。台湾は中国を代表して国連の常任理事国だった。中国が台湾にとって代わって代表権を獲得、常任理事国になったのは1971年の事である。
国共内戦で敗北した蒋介石と国民党軍が台湾に逃げ込んできた。1949年の事である。蒋介石の抑圧に耐え、台湾の人たちは民主的な政治制度を築きあげた。そのような民主化のモデルが権威主義的な中国に飲み込まれるのはもったいない気がする。
中国の指導部は中国と台湾の統一は歴史的必然であるというが、現在の台湾人にとって、歴史的必然よりも、豊かな経済生活と個人の自由を踏みにじらない社会の存続が優先する。
中国に対して距離を置こうとする頼清徳氏の総統選勝利と、立法院選挙での民進党の過半数割れが興味深い。中国とは距離を置き、同時に蔡英文政権下の内政への不満が現れた選挙となった。
(2024.1.15 花崎泰雄)
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