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news commentary

日米、阿吽の呼吸

2023-06-30 00:51:47 | 政治

日米安保条約は日本という国家にとって、憲法の上位にある約束事だ、という冗談があった。集団的自衛権は日本国憲法の精神にそぐわないと、長らく政府はこれを否定してきたが、安保条約の相手国である米国の意向をくんで、内閣法制局に憲法の考え方に背かない集団的自衛権なら憲法無視にならないと言わせた。米国にせっつかれて集団的自衛権を認めたのか、米国から催促される前に安全保障環境を考えて、自らの判断で認めたのか、はっきりしない。同じよう安全保障環境の急変とは具体的に何を指しているのかもきちんと議論していない。

先ごろバイデン米大統領が、岸田首相を説得して日本に防衛費倍増を実現させた、とカリフォルニアの選挙キャンペーンのレセプションで語った。恒例のバイデン氏はこのところ失言や言い回しのミスが多い。

そこで日本の松野内閣官房長官が、バイデン発言はミスリーディングであって、防衛予算の増額は岸田首相の主体的な判断であると米政府に申し入れた。

すると、バイデン氏が岸田首相に防衛予算の事で話をしようとしたさい、岸田氏の方が先に防衛費増額について話し出した、と前言を修正した。

米国大統領は他国の予算について催促がましいことは言わなかったが、他国の首相が米国大統領の気持ちを忖度した、ということのようである。

岸田日本国首相が米国に催促されるまでもなく、独自の判断から防衛予算の増額を決めたのであるなら、その予算を組むための財源について見通しがついていないのはなぜだろうか。

そうこうしているうちに、サイバー攻撃への対処のために「通信の秘密の保護」を規定する電気通信事業法など複数の法改正を政府が検討していることが分かった、と新聞が報じた。

新聞記事によると、サイバー攻撃に対処するために欧米では「積極的サイバー防衛(Active Cyber Defense)」が行われている。日本もこれにならって、重要インフラや政府機関を狙ったサイバー攻撃を防ぐため、海外のサーバーなどに侵入し、相手のサイバー活動を監視・無害化するため自衛隊法を改正するかどうかも検討する。この対策を「能動的サイバー防衛」と呼称するとのことだ。そうして、監視・収集したデータを米軍などと一定程度共有することも想定している。

日本政府は長らく米軍の核持ち込みを①米軍の重要な装備変更は事前協議の対象となる②これまで米軍から核の日本持ち込みについて協議の申し入れはなかった③よって、米軍の核の日本持ち込みはなかった、と米軍の核持ち込みを素朴な3段論法で外交の闇の中に閉じ込めてきた。日米が阿吽の呼吸で日本国民を欺いてきた。このことは10年ほど前に、日米密約問題の調査をすすめた有識者委員会(北岡伸一座長)が1960年の日米安全保障条約改定時に、核兵器を搭載した米軍艦船の日本への寄港を事実上認める了解があったかどうかについて、「暗黙の合意」があったと指摘、「広義の密約」だったと結論づけた、と当時の新聞が報道した。

(2023.6.30 花崎泰雄)

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極意としての「なりゆき」

2023-06-23 00:23:42 | 政治

「なりゆき」とは日本語辞典によると、自分の意志を持たず、ただただ物事の変化とその結果に身を委ねることをいう。岸田首相の権力維持の要諦はなりゆきまかせにあるようにみえる。

首相秘書官に任命した実の息子の海外出張時のショッピングや、首相公邸での親族を集めて宴会などの醜聞には、どこ吹く風を決め込んでいたが、周辺からの批判が高まると、あっさりと息子を秘書官から解任し、一件落着とケロッとしている。

G7の広島サミット開催で自慢顔だったが、世界政治の進展という面では目を見張る議論は報道されなかった。G7の首脳を広島平和記念資料館に案内し、40分をかけて展示品をみせ、自らが説明役を務めたそうだが、日本政府は彼らがどのような資料を見たかについては口を閉ざした。

6月21日に閉会した通常国会では防衛費の増額に対応するための財源確保法や、改正入管法、改正刑法、LGBT理解増進法を成立させた。いずれも野党に政治的体力があれば、そうとうもめる可能性があった法案だが、非力な野党という状況下で成立した。

2024年の秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに統合することもきめた。マイナンバーカードをめぐる混乱が収まらない中で、岸田首相が通常国会閉会にあたって、混乱については陳謝するが、保険証は予定通り2024年秋に廃止すると断言した。なりゆき主義の波に乗った強気である。

統一教会、細田衆議院議長の問題については雲散霧消した。

少子化対策の現金給付計画や防衛力増強の資金をどこから捻出するかについては年末の議論になる。そのときは、少しは白熱した語論になるだろう。

いや、ならないかもしれない。世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書」によると、日本における平等は世界125位で、前年の116位からさらに後退した。政治も経済活動も市民社会も、なりゆきまかせのぬるま湯の中で昼寝しているような国柄なので、「防衛力増強も少子化対策も待ったなしの課題であり、資金のめどがつかなければ、またまた国債」という呪文で落着するなりゆきになるのであろう。

(2023.6.21 花崎泰雄)

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解散風吹き止む、どんより梅雨空

2023-06-16 00:02:23 | 政治

岸田文雄・日本国首相は6月13日の記者会見で、衆院解散・総選挙について「いつが適切なのか諸般の情勢を総合して判断する」と語っていた。その舌の根もかわかぬ15日には「今国会で解散はしない」と記者団に語った。

少子化対策としての児童手当の拡充など、現金をばらまく岸田政権の姿勢は総選挙は解散・総選挙の準備と受け取られていた。そのバラマキには3.5兆円が必要だが、資金をどうやって工面するかは後回しになっていた。財源捻出で話がこんがらがる前に、児童手当拡充の岸田政権を表看板に総選挙を始めるのが得策だと考える人は岸田首相周辺に少なくなかった。

議会を解散する理由――いわゆる解散の大義――については語らぬまま、「解散の時期は諸般の情勢による」から一転して「解散はしない」と手のひらを返した物言いは、解散の権限は首相が握っているとする永田町の業界慣習の上にたっている者の驕りである。

衆議院の解散については、憲法第69条が「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と定めている。第7条が天皇は内閣の助言と承認により、衆議院を解散するとしている。7条は天皇が国民のためにおこなう国事行為を①憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること②国会を召集すること③衆議院を解散すること④国会議員の総選挙の施行を公示すること⑤国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること⑥大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること⑦栄典を授与すること⑧批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること⑨外国の大使及び公使を接受すること⑩儀式を行うこと、と定めている。

衆議院の解散は憲法69条か7条が法的根拠になっている。最近はもっぱら7条による解散である。天皇の国事行為は内閣の助言と承認必要だ。したがって、解散は内閣の判断であり、閣議で解散に反対する閣僚は首相がそのクビを据えかえればよい。内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる(68条)ので、解散の権限は首相がにぎることになる。

1952年に当時の吉田首相が憲法7条を根拠に衆議院を解散した時、当時議員だった苫米地義三氏が解散を違憲だとして裁判に訴えたことがあった。1960年に最高裁は、高度に政治性のある国家行為は裁判所の審査権の外にあるとして苫米地氏の訴えを退けた。

また、1948年の事だが、当時の吉田首相が憲法第7条を根拠に衆院を解散しようとしたとき、GHQが解散は69条でしかできないはずと指導に乗り出した。

以来、憲法の条文に首相が解散権を持つことが明記されていないにもかかわらず、政治的慣行として7条解散が重ねられてきた。解散が政権党の権力維持の手法として珍重されてきたのである。

議院内閣制を採用している国の中で、首相が解散権を党利党略や自己保持のために自在に使っている国として日本は突出している。イギリスでは政権の恣意的な解散から政治を守るために、議会を解散するためには議員の3分の2以上の賛成が必要であるとする「2011 年議会期固定法」を制定したが、2022年に廃止された。

議院内閣制のモデルであるイギリスでは、首相の専権による解散について一時期とはいえ反省があった。日本では反省がない。政権を握る政党が自己保存のために解散を決めることに、表だった異論は唱えられていない。政治家たちは解散が首相の専権事項であると喧伝し、メディアはそれを鸚鵡返しのように国民に伝える。

解散にあたっては、天皇が署名した解散詔書が紫のふくさに包まれて本会議場に持ち込まれ、7条解散の場合なら議長が「日本国憲法7条により衆議院を解散する」と代読する。すかさず議員たちは「バンザイ」と叫ぶ。己の失職に「バンザイ」と叫ぶのである。

戦前の大日本帝国憲法は「第7条 天皇ハ帝国議会ヲ召集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス」と定めていた。その古びた解散の残像を現行憲法第7条の上にかぶせ、議員たちは「(天皇陛下)バンザイ」と叫ぶ。日本の政治家の政治リテラシーはこんなものである。

(2023.6.16 花崎泰雄)

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